異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第287話:ストレガンド

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「ストレガンド人がこの戦いに参戦してるだぁ!?」

一際大きなドエインの声に俺が振り向くと、介抱していた筈の帝国傭兵の一人の襟首を持ってブンブンと降っているではないか。

「ほ、ほんッと、だってば!ちょッ、とッ、マジでやめてッ」

その帝国傭兵は脚を怪我しており自力で立つ事が出来ないのか、ドエインに粗無抵抗でされるがままだった。

「ふざけんなよお前ッ、そりゃつまり連合軍側にストレガンド人が付いてるって事じゃねえか!!」

「だ、だからそう言ってるだろ!?」

「連合軍は侵攻ルートから言ってダリス公爵領から来てんのは間違いねぇんだ!そんなの英雄王が許す筈がねぇだろ!?」

「俺に言うんじゃねぇよ!殺り合い始めて気付いたんだからよッ、見ろよこれ!?あっちは高々二百とか三百だぞ!?こっちは千以上居たって言うのに俺の仲間も帝国軍もみんな殺られちまったよ!!」

そう言って堰が切れた様に生き残りの帝国傭兵は叫んだ後泣き出した。
この傭兵は帝国側に付いて帝国軍の防衛の本体である師団から妙な動きをする中隊の追撃、強襲を命じられその任を受けた大隊の一員として参加したらしい。
師団は連合軍の本体と睨み合っており、妙な動きをするその中隊は既に本体と離れてオルフェ方面に向かっていたが、連合軍は地の利を活かし追い付き戦いの火蓋は切られる。
経緯としてはこうなのだが、ドエインの態度が急変したのはその中隊がストレガンド人とやらで構成されていたからなのだが・・・

「ストレガンド人とは一体・・・?」

「凶悪な人種と恐れられとる奴らじゃよ」

俺の独り言を聞いてアリシエーゼが側に寄って来てそう言う。

「うむ、モライアス公国より向こうの山脈を超えた更に先にストレガンド王国と言う国が有ったんじゃが―――」

ストレガンド王国とは、王国と名が付く通り国王を元首とする君主制の国だったらしい。
ただ、世襲制でも選挙制でも無く強い奴がトップでいいだろ的な脳筋国家だった様だ。
周辺の国や部族などに戦争を仕掛け支配下に置いて勢力を拡大させていく、今で言えばハイスタード帝国に近い感じだったらしいのだが、まぁ独裁的で残虐、逆らう者が居ればその家族とかそう言うレベルでは無く国単位で滅ぼすとか平気でしていたらしい。
んで、出る杭は打たれるのはこの世界でも世の常の様でアリシエーゼも詳しくは昔の事過ぎてあまり分からないらしいが内乱だか他の国だかで国自体が滅びたって言うお決まりな国と言う。
正直俺も別にその国の成立ちとか既に存在もしていない国の事などどうでも良かったので話半分で聞いていたのだが、続きを聞いて度肝を抜かれた。

「―――いやいや、生き残った奴らが全員海賊になったって何だよ?」

「何だと言われてものうーーーその時に徹底的にストレガンド人は殺されたらしくての、一時は数百万居たストレガンド人は最終的に一万程となった様じゃ。温情かどうかは分からんがその一万程は国外に追放されたらしいんじゃが、その時より流浪の民となったストレガンド人はモライアス公国方面には行かず西の海へと出てそこで民は漏れなく海賊になったらしいぞ」

「いや、だから意味が分からないって。国無くなっちゃったし次は海賊やろうかで全員が海賊になるってどう言う事だよ?」

「じゃから妾も分からんて・・・」

アリシエーゼは困り顔で俺を見て言うのだがそんなんじゃ納得は出来ない。
誰に聞いたか忘れたが、この世界では船等は存在して航海もされているらしいが、遠洋には進出出来ないと聞いた事がある。
その理由は海の魔物が強過ぎると言う事一点に尽きるらしいが、海にクラーケンみたいのが居ると考えると俺でもハッキリ言って海の上では勝てる気はまるで起きない。
なのでそれを聞いてから航海は絶対にしないと決めていたのだが、このストレガンド人は一万もの人が全会一致で海に出る事を選んだと言う事実を俺は信じる事は出来なかった。

納得は出来ないが話の続きを聞くしか無いので先を促すがアリシエーゼは更に困った表情をして言った。

「その先は良く分かっておらん。海に出た後は暫く歴史から名を消す事になり、再び現れると海に面した国の沿岸の街などを襲い始めたみたいじゃ」

百年単位で歴史から消え去るのだが、再び現れた時はまた悪逆の限りを尽くし、沿岸の街を襲っては何処かに引いて行き、再び別の国に現れては沿岸の街を襲いを繰り返して来たと言う。
その行いは聞いてる限りでは最悪だった。
本当に一人か?と俺ですら思うくらいなのでここでは詳しくは回想しないが、遠洋に進出出来ないのでどの国も海軍にあまり力を入れていなかったと言うのも大きいのだろう。
どの国も有っても沿岸を警備するくらいでしか無くストレガンド人の行いを止める事は出来なかったと言った所か。

百年とほ言わないが、数十年ほどそんな事を繰り返していたストレガンド人だが、ある時を境に海賊行為をパッタリと辞めたらしい。
理由は諸説ありと言う事だが、エバンシオ王国とモライアス公国の間に位置する孤島に本拠地を置いて自分達の国を再び立ち上げたからと言うのが最も有力な説の様で、そこからはエバンシオ国を名乗り陸地を利用して他国へちょっかいを出し始める。
まぁ、その侵略行為も相当酷かったらしいがどの国も手を焼きつつ対処したからか、ストレガンド国は突然、「ごめんごめん許して。今日から俺達はどっか特定の国を攻め落とそうとしたりしないからさ。今日からは俺達ストレガンド人を色んな国の諍いや争いに派遣する傭兵家業に専念しまーす」と言い出したのだ。

うーん、なんだかなぁ・・・

突然そんな事言い出されてもどの国も当初は懐に入ってから裏切られるんじゃないかと警戒して誰もそんな傭兵は利用しなかった訳だが、何処かの国が使って目覚しい功績が残ると、次第にストレガンド人の傭兵は重宝される様になったとさ。

これもテンプレって言えばテンプレなのか・・・?

まぁ、エバンシオ王国、モライアス公国あたりはその前にかなり手酷くやられたのもあり、国民感情的な部分でもおいそれとストレガンド人を雇用などする事は出来なかったのだが、今何故か連合軍としてストレガンド人がこの戦争に参戦しているものだからドエインが滅茶苦茶驚いている所だ。

成程、それならドエインの驚き用も頷けるな

ダリス公爵領を通って云々と言うのも、ストレガンド人が王国に侵略して来た際にダリス公爵が若かりし頃に相当活躍して撃退をしていたみたいだし、同時に散々手を焼かされ煮え湯を飲んで来たと言う事も相まってストレガンド人を親の仇の様に思っていると言うのが一般的には知られている為、英雄王とやらがストレガンド人が自領を通る云々以前に王国がストレガンド人と手を組む事自体許す恥ずが無いと言う意味の用だった。

「へぇ、まぁ大体分かったけどその英雄王ってのは?」

「公爵の事じゃぞ」

「いや、それは分かるけど何で英雄王なんて呼ばれてるんだ?ストレガンド人を撃退したからか?」

「それもあるし、その後帝国も退けておるから国民ほ公爵を敬意を持って英雄と呼ぶんじゃ」

「そうなんだな。んで・・・・・・強いの?」

「・・・ヤバいらしいぞ。実際にこの目で見た訳では無いんじゃが、一人で数百、数千の兵を屠るじゃとか言われとる」

なにそれ、マジで一騎当千やん・・・

「ホントかよ・・・まぁ、会う事は無いし別にいいか」

そんな脳筋キングの様な輩には出会いたくは無いなと思いつつそんな事を言うと、アリシエーゼがそれを聞き「あッ!?」と目を丸くする。

「な、なんだよ?」

「それフラグじゃろ・・・」

いやいや、そんな馬鹿な
今迄どれ程フラグ立て様と思って発言して来たと思ってんだよ

そしてどれだけそのフラグがへし折られたかと思い出し堪らず苦い買おをする。

「こんなのフラグの内に入らないし、フラグだったとしてもどうせへし折られるって・・・」

本当かよと訝しむアリシエーゼを他所にドエインは傭兵から話を聞き終えて此方に歩いて来て言った。

「ストレガンド人が絡んでるとか、マジできな臭くなって来たぜ旦那・・・」

「・・・まぁとりあえずそのスカンピンだか何だかってや 奴らは進路変えて何処かに消えたんだろ?」

「何だよスカンピンって・・・そうなんだが彼奴らが戦ったのは中隊規模って言ってた。もし本気で連合軍は帝国落とすつもりでこの戦い挑んでんだとしたら、ストレガンドの傭兵ももっと雇い入れてるだろうぜ・・・」

何て言ったって帝国は軍人だけで二十万程いるしなと真剣な表情で言ってドエインは黙り込んだ。
つまりは二十万いる軍隊を一万、二万程度の人数で攻め落とす事は出来ないから本気ならもっと人数いるだろ、連合軍もストレガンド人もって事をドエインほ言いたいのだろう。
ストレガンド人に対してどう言う思いをドエイン自体が抱いているのかは知らない。
だが、そのストレガンド人の遺体を見つめて同じく押し黙るイリアを遠くの方に見て王国民や公国民にとっては悪感情以外無いのだろうなと思った。

結局俺達は帝国と連合軍の本体が睨み合っている場所を目指して進んでいたが、途中でこの粗全滅の部隊を発見して放っておく事は出来ずに治療等を行っていたのだが、もう既に大体の子とは終わっている。
なのであと半刻もしない内に出発する事になるのだが、このストレガンド人とやらが連合軍にどう絡んでいるのか、その辺りがもしかしたろ肝になるのかも知れないなと辺りに散らばる遺体の山を見ながら思った。

まぁ、出会ったら出会ったでどうとでもなるだろ




ぇ、なるよね・・・?
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