異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第299話:三騎士

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「我等に逆らうは」

「教会に逆らうと同義」

「ならば其れは神に逆らう如し」

「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」

「今一度問おう」

「汝らは我等に歯向かい」

「聖女様を我等から奪うつもりか」

 何でこうなった・・・

 俺はその場で頭を抱えて悶えたくなるのを必死に抑え込みながら、目の前で寸劇の様な事を展開する三人の騎士と対峙している。

「・・・・・・奪うも何もさっきからアイツは聖女なんかじゃねぇって言ってんだろ」

 どうにかこうにかそんの言葉を絞り出すが、相手の三騎士は表情を変えず―――と言うか表情は面頬の様なバイザー付きの兜で見えないが―――淡々と告げる。

「それはもう聞き飽きた」

「聖女様は一度神との繋がりを得れば」

「その繋がりは一生消える事は無い」

 先程から何故かこの三騎士は一つの会話を三人で分割して喋る。
 それが奇妙なのだが、それにも増してこの騎士達の出で立ちが異様だった。
 騎士に相応しくフルプレートメイルを装備しているのだが、この甲冑が何とも禍々しい。
 色は漆黒で甲冑は全体的にシャープな印象だが、丸みは無く所々尖った印象を受けるが兜は面頬を下ろせば目元だけくり抜かれた様な作りで眼球だけが見えている。

 これで聖の名の付く騎士団とか意味不明だろ・・・

「はんッ、何だよ神との絆って」

 三騎士の言葉に恐らくイリアが掛けられていたあの監視魔法の事だろうと思いつつ鼻を鳴らして目の前の騎士達を挑発する。
 そんな事を行うがその間に辺りを探る。
 ここに辿り着いてからと言うもの、俺の固有能力が一切役に立たない事に疑問を感じつつ眼球だけを動かして情報を得ようとする。

「神との繋がりを創りし魔法は」

「教会でも一部の上位者にしか扱えない」

「だが―――」

 三騎士の最後の一人の言葉が終わる間際、三騎士の雰囲気が一変する。
 周囲の様子を探っていた俺はその余波をもろに受けて一瞬身体がビクリと震える。

「最近教会内で異変が起こっている」

「上位者が謎の死を遂げたり」

「聖女に関する記録が紛失したり、と」

 この時には三騎士からは剣呑な雰囲気は霧散していた。どうにもこの騎士達は俺達がイリアの監視魔法を解除しただとか、記録が破棄された事だとか、その監視魔法を使える者の死や失踪に関係していると思っている様だった。

 まぁ、正解なんだが・・・

 監視を開始出来る魔法があると言う事は停止する魔法もあると思うのは当然だろう。
 ホルスの魔界で間接的にではあるがイリアに掛けられた魔法を解除し、その監視魔法を使える者を消し去る様に教会関係者―――聖女の監視を常時行っている部隊だか何だかの奴に命じ、聖女に関する書物、教会内では聖書と呼ばれているものの破棄を命じた事で教会はもう基本的には聖女を作り出すシステムを崩壊までとはいかないが、大きな打撃を与えたと思っていた。
 監視魔法を扱える者が複数人居ると言うのは分かっていたがその全てをこの世から消し去る事はなかなか難しいとは思っていたのだが―――

「よく分からねぇが、その繋がりを創る上位者?ってのが居ないならもう何も出来ないんじゃないか?」

「お前は馬鹿か」

「馬鹿だな」

「馬鹿なのだろう」

「・・・・・・」

 こ、この野郎・・・

 俺の発言に馬鹿、馬鹿と連呼する三騎士に怒りを覚えるが何とか我慢する。

「上位者はまだ存在している」

「ならば再び神と聖女を繋げる事は可能」

「過去の記録は惜しいがな」

 やはりまだ監視魔法を使える者は存在しているのだと確信する。
 それにしても何故、監視魔法を使える者をと呼ぶのだろうかと思う。
 普通は司教だとか大司教だとかと言う呼び方になるのではと思ったりするが俺の能力で記憶が読めない以上、直接口頭で聞き出さないと成らないのだが、そこまでする価値は無いと判断してこの疑問は頭の隅へと追いやった。

「神と繋がった奴はその絆を断ち切る事は出来ないってのはどう言う事だよ?」

「そのままの意味だ」

「それくらい分かれ」

「愚図が」

「・・・・・・」

 マジでこの野郎・・・

 兎に角、この三騎士の発言から一度監視魔法に掛かった者はもしかしたらその監視魔法を停止させたとしても何かしらパスの様な物が残っている可能性がある。
 どうするかと逡巡するが、二度とイリアを監視させない様にするには魔法の構造など理解出来ない俺では、その上位者とやらをこの世から全て排除するしか方法は無いかと思う。
 だが、それよりも先ずはイリアを取り戻す方が先だと三騎士の後ろで他の騎士達に捕らえられているイリアをチラリと見て考え、それにはやはり此奴らを排除するしか無いかと溜息を吐く。

 ここに辿り着く間にも色々な事があった。
 主に戦闘イベントだったのだが、アリシエーゼ以外の仲間と合流して本陣付近に連行されたであろうイリアを探した。
 直ぐに本陣の場所は特定出来たので急いで向かったが、そこである違和感を覚える。
 もう出し惜しみは無しだと俺の能力を駆使しながら向かっている最中、本陣近くに辿り着いた時急にその能力が使用出来なくなったのだ。
 使用出来ないと言うのは適切では無いのだが、急に俺の能力が封じられた領域に脚を踏み込んでしまったかの様に周囲の人間に繋がる事が出来なくなったのだ。

 リリが特殊な磁場の様な物が形成されていると言っていたから恐らく結界の様な物だと思うが・・・

 その結界内に入ると、セキュリティが厳しくなったのか、俺達の正体を怪しんだ者達から声を掛けられる事が多くなる。
 最初は何とか取り繕ってやり過ごしていたがそれも最初だけで、直ぐに不審者と判断されて―――

 何であんな漫画みたいな、此処を通りたければ俺達を倒して行け!みたいな展開が何回も続く訳!?

 そう、まるで漫画やアニメの様な関門の数々が俺達を待ち受けており、結局力技で推し通って来たのだ。
 俺の能力が使えないと言う事以外は俺達が弱体化したと言う事は無い――と思うのだが、予想外だったのは俺達の行く手を阻む、本陣付近の兵士や騎士がもの凄く強かった。
 だが、脚を止めて戦っていては直ぐに膨大な数の兵士や騎士に殺到されて終わってしまうので、全力で駆け抜けてイリアを見つけて奪取して直ぐに離脱と言う作戦を仲間達と示し合わせて行動したが、今目の前に居る三騎士に阻まれる事になる。

 本陣の中核自体はまだ先なのだが、襲いかかってくる者達を退けつつ進んでいると、少し開けた場所に出たのだがそこに辿り着いた瞬間、三騎士が突然飛び掛って来てそれを辛うじて俺とリリが押し返す。
 それが以外だったのか、何故か三騎士は名乗りを上げて俺達と会話を望んで来たのだ。

 此奴らがあのクソダセェ、聖白護神騎士団の団長だとは思わなかったが・・・

 目の前に居る三騎士は聖白護神騎士団の団長を名乗った。
 三人で一つの役職の団長を名乗っていて混乱したが、まぁそう言うものなのかと割り切る事にした。
 後ろで捕らえられているイリアは猿轡をされて話す事が出来なかったが、俺達を見て何かを叫んでいた。
 助けが来たと歓喜している様子では無く、何かを必死に訴えようとするその様は、この三騎士なのか、騎士団なのかが危険であると告げているかの様だった。

「では、もう一度だけ問う」

「お前達は聖女様を狙う賊か」

「答えろ」

 三騎士と問答をしているが、周囲はとうに他の騎士や兵士に固められている。
 俺の能力が使えない以上、イリアを助けてここから離脱するにはもうやるしか無いのだ。

「はぁ・・・・・・」

 俺は今一度大きな溜息を吐きながら後ろに控える仲間達に顔を向けて肩を竦める。

「・・・いいぜ、やるんだろ?」

「イリア様を取り返すッ」

「仕方無いわねぇ」

「・・・・・・」

「もうッ、絶対こうなると思ってましたよ!」

 俺が何も言わないでも仲間達はやる気だ。
 それはイリアが仲間であり家族である何よりの証拠だろうと思い口元を緩める。
 最後にデス隊に目を向けるとマサムネが大層真面目な表情で言った。

「我等は常にハル様と共に」

 その言葉にムネチカとコテツも力強く頷く。

「だ、そうだ」

 仲間達の反応を聞きそう言って三騎士に再び顔を向ける。

「・・・そうか」

「たった今貴様らは神の怒りに触れた」

「神に仇なす者には死を」

 三騎士はそう言って静かに自分の獲物に手を掛けて戦闘態勢を取った。
 その佇まいを見れば恐らく素人でも玄人でも分かるだろう。

 強い・・・

 そうは思いはしたが、同時に自分の口角が釣り上がるのが分かった。

 だからどうしたッ
 神?んなの知ったこっちゃねぇんだよ!!
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