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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編
第303話:離脱
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「ぎゃあああッッ」
「お、お前ッ、どこから――うぐぁッ」
「聖女様をお護りしろッ―――グゥァッ」
護りの内側に突如現れた俺に対しイリアを護る騎士達がいきり立つ。
護ると言えば聞こえは良いが、猿轡をして跪く形で拘束されているイリアは、言ってしまえば連行される容疑者だ。
教会を無断で去った、聖女と言う役目を勝手に放棄した、何らかの形で監視魔法を扱える上位者と呼ばれる者を排除した、歴代聖女が紡いで来た歴史その物の聖書と呼ばれるその原典を何らかの形でこの世から抹消した容疑者なのだ。
聖女聖女煩ぇんだよ
次々に襲い掛かって来る騎士達を俺は一切の容赦無く屠って行く。
腕に装備した篭手に魔力障壁を展開させ、漸く馴染んで来たアリシエーゼから変えられた身体の膂力も乗せて右腕を一突きすると、呆気なく俺に袈裟斬りをしようと両手を振り上げた騎士の胸部を貫く。
「ぁ――ガァ・・・ッ」
何か言いたげなその騎士から右腕を引き抜き前蹴りで蹴飛ばしてその言葉を聞く事無く絶命させる。
蹴り出した左脚を地に付けるとそのまま身体をクルリと半回転させて頭を下げて横から隙を付いて襲い掛かって来る騎士の腹部も、着込んでいる甲冑毎貫く。
「ぃッ、グゥァ――ぉ、おまッ」
あー、ウザい
最後の足掻きか、腹部を貫かれたまま俺に掴み掛かって来るその騎士から腕を引き抜き、今度はハイキックを頭部にぶち当てて破壊した。
兜を被っていた騎士はグシャリとその兜が中身と一緒に潰れ、同時に膝から崩れ落ちる。
「貴様ァッッ」
「聖女様をお護りしろ!!」
「殺して構わんッ、掛かれぇ!!」
本当にウザい
何が聖女様だよ
俺は苛ついていた。イリアを聖女と呼ぶ事に、またイリアに望んでいない人生を歩ませるつもりかと思うとどうしようも無く心が掻き乱される。
自分の仲間だから、何か別の事をそれに投影しているのか自分でも分からなかったが、拘束して無理矢理連れ去ろうとしている癖にイリアを聖女と呼び敬っているフリをするこのゴミカス共をどうしようも無く殺したかった。
だが、周囲には無数に騎士達が居りこんなものを一々相手にしていたらキリが無いのは分かっているのである程度掻き乱してからイリアを救出してしまおうと考える。
その後は暫く成る可く怯ませようと襲い掛かって来る騎士共を無惨に殺す。
騎士の死体が地面に十を超える程積み重なった時に俺の耳に絶叫と呼ぶに相応しい叫びが聞こえて来た。
「―――ギィヤァアアアアッッッ」
周囲の騎士達が全員振り返る。俺に襲い掛かって来ていた奴はその限りでは無かったが、それを一蹴して無様に余所見をしている近くの騎士に飛び上がって頭部を蹴り付けてその頭を潰した際に飛び上がって高くなった視界からその叫びの方をチラリと見る。
三騎士と対峙するデス隊が見えた。
マサムネは短槍の騎士と、コテツは二刀の騎士と、ムネチカはロングソードと大盾を持つ騎士とそれぞれ向かい合っていたが、マサムネと対峙していた短槍の騎士が顔を押さえて呻いているのが分かった。
マサムネに渡したのはサリーの短剣だったな
俺はそう思って同時に口角を上げる。
サリーの短剣には猛毒が仕込まれている。
魔界の魔物にすら耐え難い苦痛を与えて絶命させるその毒はどうやって入手しているのか、何の毒なのかは知らないがもし人間に使ったのならと考えると若干恐ろしくなる。
この三騎士は全身甲冑を着込み肌の露出は粗無い。だが、兜と面頬で覆った顔の目玉の部分は切れ長の隙間が空いている。
顔を押さえてるって事はそう言う事だよな
考えるだけで笑いが込み上げて来るがグッと我慢して着地をしてそのまま影移動を発動する。
瞬時にイリアの横まで移動して、短槍騎士の叫びに何事かとザワついている周りの騎士達を怒りを成る可く抑えつつ一撃の元再起不能に追い込んで行く。
「よッ、お待たせ」
イリアがされていた猿轡を取りつつ軽いノリでそう言うと、何故だか本人は怒り出す。
「ア、アンタッ、何考えてんのよ!?相手はあの聖白護神騎士団の団長よ!?」
「だから何だよ?お前はこのまま教会に拉致られても良かったってのか?」
「そ、そうじゃ無いけど完全に教会を敵に回したって事分かってんの!?」
「別にいいだろそんな事・・・」
「よく無いわよッッ」
イリアは教会がどれ程巨大で強大かをその場で俺に解こうとするが、正直興味は無いし散々そんな事は聞かされて来ているのである程度は想像出来る。
なので 今の状況が把握出来ていないのか?とイリアを強制的に黙らせる。
「お前ちょっと黙ってろって」
「はぁッ!?アンタ本当に―――キャッ」
俺の態度に本気で怒り出すイリアを俺は突然お姫様抱っこをした。
「ちょッ、な、何すんのよ!?」
「煩ぇな、舌噛むぞ」
そう言ってイリアを抱えたまま腰をグッと落とし力を下半身に込める。
「ア、アンタまさか・・・」
「そのまさかだ――よッ」
ホルスの最下層で同じ様にイリアを抱えて跳躍した時と同様に俺はもう一度二人で空を駆ける。
周囲の騎士達を置き去りにして俺とイリアは空高く舞い上がり滞空する。
「――ッ!」
俺のまさかの行動にイリアは抱き着く腕にギュッと力を篭める事で答える。
若干首が締まり苦しかったがその苦しさが何だか少し、そうほんの少しだけ嬉しかったのでそれは言わずにおいた。
短い様な永い様な滞空時間を経て俺とイリアは仲間の元に飛び込む。
「ッと!」
「キャアッ!?」
突然空から降って来た俺達に仲間が揃って驚くが、イリアを直ぐに下ろして状況を確認する。
上からある程度見たが、マサムネが短槍騎士に一撃をお見舞してからそこまで状況は変化してはいなそうだった。
「リリッ!」
「全く、人使いが荒い」
リリへと道を切り開けと、邪魔する者は殺せと命じると不満そうな反応を示すがリリがクルリと向きを変えて走り出す。
俺は短槍騎士を見る。サリーから借りた短剣に仕込まれた毒が騎士を苦しめているのが分かる。
他の二人の騎士がそれを見て激高しているが、既にデス隊は完全に回避に専念する事でその攻撃を難なく躱している。
完全にスタイルが変わってるな
日本刀擬きを使っていた時とは全く違う動きをするデス隊は活き活きしている様に見える。
そんな事を思いつつ他に目をやると三騎士の二刀使いとオーソドックススタイルが叫ぶ。
「何をしている!早く解毒の魔法をかけないか!!」
「彼奴らを逃すな!全員で掛かれ!!」
来たッ!!
その瞬間、モニカとユーリーを勢い良く見る。
「分かってますよ・・・」
「・・・イクヨ」
俺と目が合った二人は両極端な反応を示すが、モニカは装備していた大弓に矢を番え、ユーリーが精霊との対話へと入る。
「・・・ウン、イイヨ。ウン、モットイッパイ―――」
トランス状態に入ったのか、自分の背丈より大きな両手持ちの杖に捕まりながら身体をユラユラと揺らし、恐らく精霊とだが対話を始めるユーリー。
一体何を話してるのかは分からないが、恐らく無邪気な精霊に無邪気なユーリーがきっと無邪気で残酷で楽しげな事をお願いでもしているのだろうと思った。
「―――邪を祓い、邪を沈めッ、邪を滅するッ」
俺の耳が魔法詠唱であろう言葉を紡ぐ声を拾う。
直ぐにもう一度モニカに目を向けると当の本人は本当に嫌そうな顔をしながらググッと弦を引き絞りそして番えた矢を解き放つ。
瞬間、俺の真横をビュッと、風を切り裂きながら轟速の矢が通り過ぎた。
「――理の―――ッッ!?」
そして魔法詠唱をしていた騎士だろうか、金属の胸当てを付けていた者の胸をモニカの矢が穿つ。
「何ッ!?」
「しまったッ」
胸に大穴を開けた騎士が魔法詠唱の途中でバタリと後ろに倒れて動かなくなると、それを見て漸く三騎士の内の二人が気付く。
俺はサリーの毒付き短剣を借りた際、それをデス隊に使わせれば必ず一太刀どの騎士かは分からないが入れてくれると確信していた。
そうなったならばサリーの毒がどの程度の物かは実際は分からないが解毒が必要になると読んで、神聖魔法を使ってその毒を解毒する奴が現れるから尽くそれを阻止しろとモニカに命じていた。
「何でッ、私がッ、人間なんかに、貴重な弓をッ、使わないといけないんですかッ」
「だからちゃんと後で補填はするって言ってるだろ!?」
「絶対ッ、ですからねッ!」
文句を垂れながらモニカは弓を放っては番え、放っては番えと次々に見た目からは想像出来ない剛弓でとんでもない威力の矢を放ち、まだ詠唱も開始していない神聖魔法を使いそうな者を屠っていく。
ある者は胸部をある者は腹部を穿たれ、ある者は喉元にその弓が突き刺さると周囲の肉を根こそぎ持っていかれてバツンッと音を立てて首元が吹き飛び頭が地面に落ちる。
それを横目で見て内心、すげぇなとか思いつつユーリーを見ると此方も準備が整った様だった。
「・・・アソンデキテイイヨ」
俺の目には何も映って無いが、ユーリーは宙空を見つめながらそう言うと、どこからとも無く笑い声が聞こえ始める。
クスクス、ウフフとまるで子供が無邪気にはしゃぐ様なその笑い声が段々と大きくなっていく。
「うわッ!?」
「な、何だ!?急に―――熱ッ!?」
「ぎゃああッ!だ、誰か!け、消してくれ!!」
すると直ぐに周囲に居た騎士達から悲鳴が上がる。
見ると、俺達を取り囲む騎士の中で何故か身体の一部が燃えて地面を転がる者が現れ始める。
いやぁ、まさか・・・
身体は燃えずとも、何か見えているのか目の前の空間で手を振り回す者や、何かを避ける仕草をする物が続発し出して俺は冷や汗をかく。
炎か何かの精霊を嗾けてるのか・・・?
遊んで来ていいよと言ったユーリーを思い出し、これが遊びたかと思うが今はそれで良いと思い直して顔を上げる。
リリは?
走り出したリリが丁度、周囲を取り囲んでいた騎士を数人薙ぎ倒していたのでここしか無いと俺は叫んだ。
「走れッ!!」
その号令にドエインがすぐ様反応して駆け出す。
それを皮切りに仲間達が戦線から離脱し頃合を見て俺はデス隊に合流して藻掻き苦しむ短槍騎士を抜かした二騎士にちょっかいを出した。
辺りは大混乱である。短槍騎士を治療する神聖魔法の遣い手がモニカに殺られ、ユーリーの精霊魔法?で俺達を取り囲むどころでは無くなった騎士達の統制を取れなくなった為、デス隊も難無くその場を離れる事に成功した。
そして俺も去り際にまだ元気に動く二騎士へ向かって捨て台詞を残して影移動を使い離脱した。
「ざまぁみろ、バァァァカッッ」
「お、お前ッ、どこから――うぐぁッ」
「聖女様をお護りしろッ―――グゥァッ」
護りの内側に突如現れた俺に対しイリアを護る騎士達がいきり立つ。
護ると言えば聞こえは良いが、猿轡をして跪く形で拘束されているイリアは、言ってしまえば連行される容疑者だ。
教会を無断で去った、聖女と言う役目を勝手に放棄した、何らかの形で監視魔法を扱える上位者と呼ばれる者を排除した、歴代聖女が紡いで来た歴史その物の聖書と呼ばれるその原典を何らかの形でこの世から抹消した容疑者なのだ。
聖女聖女煩ぇんだよ
次々に襲い掛かって来る騎士達を俺は一切の容赦無く屠って行く。
腕に装備した篭手に魔力障壁を展開させ、漸く馴染んで来たアリシエーゼから変えられた身体の膂力も乗せて右腕を一突きすると、呆気なく俺に袈裟斬りをしようと両手を振り上げた騎士の胸部を貫く。
「ぁ――ガァ・・・ッ」
何か言いたげなその騎士から右腕を引き抜き前蹴りで蹴飛ばしてその言葉を聞く事無く絶命させる。
蹴り出した左脚を地に付けるとそのまま身体をクルリと半回転させて頭を下げて横から隙を付いて襲い掛かって来る騎士の腹部も、着込んでいる甲冑毎貫く。
「ぃッ、グゥァ――ぉ、おまッ」
あー、ウザい
最後の足掻きか、腹部を貫かれたまま俺に掴み掛かって来るその騎士から腕を引き抜き、今度はハイキックを頭部にぶち当てて破壊した。
兜を被っていた騎士はグシャリとその兜が中身と一緒に潰れ、同時に膝から崩れ落ちる。
「貴様ァッッ」
「聖女様をお護りしろ!!」
「殺して構わんッ、掛かれぇ!!」
本当にウザい
何が聖女様だよ
俺は苛ついていた。イリアを聖女と呼ぶ事に、またイリアに望んでいない人生を歩ませるつもりかと思うとどうしようも無く心が掻き乱される。
自分の仲間だから、何か別の事をそれに投影しているのか自分でも分からなかったが、拘束して無理矢理連れ去ろうとしている癖にイリアを聖女と呼び敬っているフリをするこのゴミカス共をどうしようも無く殺したかった。
だが、周囲には無数に騎士達が居りこんなものを一々相手にしていたらキリが無いのは分かっているのである程度掻き乱してからイリアを救出してしまおうと考える。
その後は暫く成る可く怯ませようと襲い掛かって来る騎士共を無惨に殺す。
騎士の死体が地面に十を超える程積み重なった時に俺の耳に絶叫と呼ぶに相応しい叫びが聞こえて来た。
「―――ギィヤァアアアアッッッ」
周囲の騎士達が全員振り返る。俺に襲い掛かって来ていた奴はその限りでは無かったが、それを一蹴して無様に余所見をしている近くの騎士に飛び上がって頭部を蹴り付けてその頭を潰した際に飛び上がって高くなった視界からその叫びの方をチラリと見る。
三騎士と対峙するデス隊が見えた。
マサムネは短槍の騎士と、コテツは二刀の騎士と、ムネチカはロングソードと大盾を持つ騎士とそれぞれ向かい合っていたが、マサムネと対峙していた短槍の騎士が顔を押さえて呻いているのが分かった。
マサムネに渡したのはサリーの短剣だったな
俺はそう思って同時に口角を上げる。
サリーの短剣には猛毒が仕込まれている。
魔界の魔物にすら耐え難い苦痛を与えて絶命させるその毒はどうやって入手しているのか、何の毒なのかは知らないがもし人間に使ったのならと考えると若干恐ろしくなる。
この三騎士は全身甲冑を着込み肌の露出は粗無い。だが、兜と面頬で覆った顔の目玉の部分は切れ長の隙間が空いている。
顔を押さえてるって事はそう言う事だよな
考えるだけで笑いが込み上げて来るがグッと我慢して着地をしてそのまま影移動を発動する。
瞬時にイリアの横まで移動して、短槍騎士の叫びに何事かとザワついている周りの騎士達を怒りを成る可く抑えつつ一撃の元再起不能に追い込んで行く。
「よッ、お待たせ」
イリアがされていた猿轡を取りつつ軽いノリでそう言うと、何故だか本人は怒り出す。
「ア、アンタッ、何考えてんのよ!?相手はあの聖白護神騎士団の団長よ!?」
「だから何だよ?お前はこのまま教会に拉致られても良かったってのか?」
「そ、そうじゃ無いけど完全に教会を敵に回したって事分かってんの!?」
「別にいいだろそんな事・・・」
「よく無いわよッッ」
イリアは教会がどれ程巨大で強大かをその場で俺に解こうとするが、正直興味は無いし散々そんな事は聞かされて来ているのである程度は想像出来る。
なので 今の状況が把握出来ていないのか?とイリアを強制的に黙らせる。
「お前ちょっと黙ってろって」
「はぁッ!?アンタ本当に―――キャッ」
俺の態度に本気で怒り出すイリアを俺は突然お姫様抱っこをした。
「ちょッ、な、何すんのよ!?」
「煩ぇな、舌噛むぞ」
そう言ってイリアを抱えたまま腰をグッと落とし力を下半身に込める。
「ア、アンタまさか・・・」
「そのまさかだ――よッ」
ホルスの最下層で同じ様にイリアを抱えて跳躍した時と同様に俺はもう一度二人で空を駆ける。
周囲の騎士達を置き去りにして俺とイリアは空高く舞い上がり滞空する。
「――ッ!」
俺のまさかの行動にイリアは抱き着く腕にギュッと力を篭める事で答える。
若干首が締まり苦しかったがその苦しさが何だか少し、そうほんの少しだけ嬉しかったのでそれは言わずにおいた。
短い様な永い様な滞空時間を経て俺とイリアは仲間の元に飛び込む。
「ッと!」
「キャアッ!?」
突然空から降って来た俺達に仲間が揃って驚くが、イリアを直ぐに下ろして状況を確認する。
上からある程度見たが、マサムネが短槍騎士に一撃をお見舞してからそこまで状況は変化してはいなそうだった。
「リリッ!」
「全く、人使いが荒い」
リリへと道を切り開けと、邪魔する者は殺せと命じると不満そうな反応を示すがリリがクルリと向きを変えて走り出す。
俺は短槍騎士を見る。サリーから借りた短剣に仕込まれた毒が騎士を苦しめているのが分かる。
他の二人の騎士がそれを見て激高しているが、既にデス隊は完全に回避に専念する事でその攻撃を難なく躱している。
完全にスタイルが変わってるな
日本刀擬きを使っていた時とは全く違う動きをするデス隊は活き活きしている様に見える。
そんな事を思いつつ他に目をやると三騎士の二刀使いとオーソドックススタイルが叫ぶ。
「何をしている!早く解毒の魔法をかけないか!!」
「彼奴らを逃すな!全員で掛かれ!!」
来たッ!!
その瞬間、モニカとユーリーを勢い良く見る。
「分かってますよ・・・」
「・・・イクヨ」
俺と目が合った二人は両極端な反応を示すが、モニカは装備していた大弓に矢を番え、ユーリーが精霊との対話へと入る。
「・・・ウン、イイヨ。ウン、モットイッパイ―――」
トランス状態に入ったのか、自分の背丈より大きな両手持ちの杖に捕まりながら身体をユラユラと揺らし、恐らく精霊とだが対話を始めるユーリー。
一体何を話してるのかは分からないが、恐らく無邪気な精霊に無邪気なユーリーがきっと無邪気で残酷で楽しげな事をお願いでもしているのだろうと思った。
「―――邪を祓い、邪を沈めッ、邪を滅するッ」
俺の耳が魔法詠唱であろう言葉を紡ぐ声を拾う。
直ぐにもう一度モニカに目を向けると当の本人は本当に嫌そうな顔をしながらググッと弦を引き絞りそして番えた矢を解き放つ。
瞬間、俺の真横をビュッと、風を切り裂きながら轟速の矢が通り過ぎた。
「――理の―――ッッ!?」
そして魔法詠唱をしていた騎士だろうか、金属の胸当てを付けていた者の胸をモニカの矢が穿つ。
「何ッ!?」
「しまったッ」
胸に大穴を開けた騎士が魔法詠唱の途中でバタリと後ろに倒れて動かなくなると、それを見て漸く三騎士の内の二人が気付く。
俺はサリーの毒付き短剣を借りた際、それをデス隊に使わせれば必ず一太刀どの騎士かは分からないが入れてくれると確信していた。
そうなったならばサリーの毒がどの程度の物かは実際は分からないが解毒が必要になると読んで、神聖魔法を使ってその毒を解毒する奴が現れるから尽くそれを阻止しろとモニカに命じていた。
「何でッ、私がッ、人間なんかに、貴重な弓をッ、使わないといけないんですかッ」
「だからちゃんと後で補填はするって言ってるだろ!?」
「絶対ッ、ですからねッ!」
文句を垂れながらモニカは弓を放っては番え、放っては番えと次々に見た目からは想像出来ない剛弓でとんでもない威力の矢を放ち、まだ詠唱も開始していない神聖魔法を使いそうな者を屠っていく。
ある者は胸部をある者は腹部を穿たれ、ある者は喉元にその弓が突き刺さると周囲の肉を根こそぎ持っていかれてバツンッと音を立てて首元が吹き飛び頭が地面に落ちる。
それを横目で見て内心、すげぇなとか思いつつユーリーを見ると此方も準備が整った様だった。
「・・・アソンデキテイイヨ」
俺の目には何も映って無いが、ユーリーは宙空を見つめながらそう言うと、どこからとも無く笑い声が聞こえ始める。
クスクス、ウフフとまるで子供が無邪気にはしゃぐ様なその笑い声が段々と大きくなっていく。
「うわッ!?」
「な、何だ!?急に―――熱ッ!?」
「ぎゃああッ!だ、誰か!け、消してくれ!!」
すると直ぐに周囲に居た騎士達から悲鳴が上がる。
見ると、俺達を取り囲む騎士の中で何故か身体の一部が燃えて地面を転がる者が現れ始める。
いやぁ、まさか・・・
身体は燃えずとも、何か見えているのか目の前の空間で手を振り回す者や、何かを避ける仕草をする物が続発し出して俺は冷や汗をかく。
炎か何かの精霊を嗾けてるのか・・・?
遊んで来ていいよと言ったユーリーを思い出し、これが遊びたかと思うが今はそれで良いと思い直して顔を上げる。
リリは?
走り出したリリが丁度、周囲を取り囲んでいた騎士を数人薙ぎ倒していたのでここしか無いと俺は叫んだ。
「走れッ!!」
その号令にドエインがすぐ様反応して駆け出す。
それを皮切りに仲間達が戦線から離脱し頃合を見て俺はデス隊に合流して藻掻き苦しむ短槍騎士を抜かした二騎士にちょっかいを出した。
辺りは大混乱である。短槍騎士を治療する神聖魔法の遣い手がモニカに殺られ、ユーリーの精霊魔法?で俺達を取り囲むどころでは無くなった騎士達の統制を取れなくなった為、デス隊も難無くその場を離れる事に成功した。
そして俺も去り際にまだ元気に動く二騎士へ向かって捨て台詞を残して影移動を使い離脱した。
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