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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編
第304話:不吉雲
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「追って来てる?」
「来てるに決まってんだろッ、マジで何考えてんだよ!?」
必死に走る仲間に対して後ろを振り向く事無く言った言葉にドエインがキレ気味で返して来るが、教会に喧嘩売るとか正気の沙汰とは思えないと言っているのだが、そんなの仕方無いだろと思わなくは無い・・・
「何を考えてるって・・・い、色々考えてるよ」
「色々って何だよ!?絶対何も考えてないだろッ」
「か、考えてるわッ」
何時になくドエインが絡んで来るが、そんな俺達のやり取りを聞いてイリアが深いため息を吐き出した。
「はぁぁ・・・アンタ本当に分かってるの?聖白護神騎士団に喧嘩を売ったって事は教皇に、教会に喧嘩を売ったって事よ?」
「だから何だよ?」
「はぁ?何って何よ!?教会が本気で私達を潰しに掛かったら私達なんて一瞬でプチッと潰されるわよ!?」
「・・・じゃあお前はあのまま教会に連れ戻されてまた聖女やらされても良かったのかよ?」
「そ、それは―――」
「んなの俺が認めねぇよ」
ムカつくのだ。この世の理不尽さが、人のエゴが。何よりイリア自身が自分の人生を諦め掛けている事が。
「ま、まぁ、助けてくれたのは感謝してるわ・・・」
そう言って真っ赤にした顔を背けるイリアを見て思わず笑ってしまう。
「な、何よ!?」
「いや、何でもねぇよ。とりあえずどうにかなるだろ」
「はぁぁ」
なんの根拠も無い俺の発言にイリアは再び溜息を吐きながら首を振った。
だが、実際どうにかなると楽観視出来ないかもなとと思っていた。
あの三騎士の近くーー連合軍の本陣近くは俺の能力が使えなかった。
リリは元々人間では無いし、脳の構造が似ている様で根本的に違うから俺の能力を行使出来そうで出来なかった。
こらは俺がまだ自分の能力を十全に扱えていない事にも起因しているが、とりあえずそんな感じだ。
光は―――恐らく彼奴は例外と言うか抜け道みたいな何かしらの穴を付く方法を取っているのではと思うので比較のしようが無い。
だが、連合軍の本陣に近付いた時はそれらとは全く異なる感覚だった。
それはなんと言うか、あの辺り一帯が除外されている。そんな感覚だった。
それが何か超常の者に護られているのか、魔法的な何かなのかそう言った事は全く分からないが印象としては俺の能力を対象とした結界の様な物なのかもと思えた。
なので、当初は俺の能力を使えばこの世界もイージーだと思えていたが、現在は一筋縄ではいかないかもと少し評価を修正している。
今も後ろから怒声が聞こえて来るが、あの場に居た騎士達が追い掛けて来る。
それから逃げる様に、連合軍が最前線へと歩を進める中を縫う様に俺達も必死に逃げているのだが、後ろから偉い人達が血相を変えて走ってくる。
するとそれよりも前の方に居て俺達が暴れた事を知らない一般の騎士や兵士達が何事かと思い始める。
そんな兵士達に説明をしながら追い掛けてくる偉い騎士達に釣られて状況がよく分かっていない者達も俺達を追う様になる。
そんな公式にすっぽりとハマっているのか、見る見ると大きくなっていく追跡者の群れをチラリと見てから俺も溜息を吐く。
どうするかな・・・
このまま森の迂回路に出てゴリアテを避難させた場所まで行くのは得策では無い。
なので今は連合軍の本隊に混ざって最前線へ向けて進んでいるが途中で森の中に逃げ込むかどうするか悩む。
「マスター、森へ逃げようと考えているなら止めておけ」
「え?な、何で分か―――」
「火でも放たれたらどうしようも無くなるぞ」
「そりゃそうだが・・・いや、だからそれより何で俺の考えてる事が―――」
俺が脳内で色々考えていると言ってもいないのにリリが勝手に助言をして来てビビる。
本当に俺は考えている事が顔に出てしまうのだろうかと心配になり自分の顔を両手で押さえる。
「ちょっとどうすんのよ!?」
「このままじゃ全員相手にする事になるぞッ」
「ハル様、殺っちゃいましょう」
「マスター、殺るぞ」
走りながらだか俺達は盛大に言い合う。
若干二名程血の気の多い発言をしているがそれは敢えて気にしない。
だが、この状況をどうするかなど、ましてや直ぐにどうにか出来る作戦など思い浮かぶ筈も無く・・・
いや、待てよ?
俺の能力が使えないのは恐らく本陣近くだけの筈だ。
それなら―――
「オラッ、行け!」
俺は騎士や兵士、そして傭兵の間をすり抜けざまに数人の人間と即座に繋がり命令を下す。
「止まれお前らッ―――――うわッ!?」
「何をしている貴様らッ!?ぐぁッ」
俺達を追い掛けていた騎士達は突然仲間の騎士や兵士に襲われ足を止めざるを得なかった。
当然コレは俺の能力でそう仕向けたのだが、どうやら読み通りこの場では俺の能力は使える様だった。
なのですれ違う者をどんどんと変えていき、追跡してくる者へとぶつける。
だが、本陣近くに居た騎士達はやはり一般兵や騎士と違いエリートと呼ぶに相応しい強さを持ち合わせている。
一騎当千までとはいかないまでも、俺がけしかけた者は一蹴されてしまいほんの少しの時間稼ぎにしかならない。
それでもやらないよりはマシか・・・
悪態を付きそうになりながらも俺は能力を使い続けた。
「時間は俺が少しだが稼ぐッ、とりあえずそのまま進め!」
そしてアリシエーゼと合流して混乱に乗じて離脱しろと伝える。
ついでに帝国軍が見えて来たら腕章は外せよとも伝え少しだけペースを落として殿を引き受け様とした時、イリアの素っ頓狂な声が聞こえる。
「ぇ、何あれ・・・?」
直ぐにイリアが見る方へと顔を向けると、そこにはポッと咲いた様な光の花の様な物が見えた。
距離にしたら丁度アリシエーゼが居た辺りだろうか。
なのでここからではまだ距離があるのだが、そう考えるとその光の花は巨大である事が分かる。
何だアレ・・・?
と思った瞬間、前方から凄まじい突風と衝撃波の様な物が身体にぶつかる。
ぶつかると言う表現は生優しかったかも知れない。
その衝撃波は突然俺達に襲い掛かって来た。
あまりにも突然だった為、モニカが抱えていたユーリーを腕から離してしまい、それをマサムネが瞬時にフォローしていたり、イリアは自分の身体が吹き飛びそうになるのをダグラスが横から支えたりと、一瞬で嵐の中に飛び込んでしまったかの様な錯覚さえ覚える程だった。
「グッ、クソッ、何なんだ一体―――」
下半身を踏ん張り何とかその突風と衝撃波を耐えていると次にドンッと腹の底にまで響き渡る轟音が耳を貫く。
そして直ぐに凄まじい地鳴りが聞こえて来て地面を揺らす。
周囲を見ると、連合軍の騎士や兵士も突然の事に驚いているし、中には吹き飛ばされてしまった者がいて地面を転がっていて起き上がりながら目を白黒させていたりと状況が飲み込めないのは此方と同じ様だった。
何だったんだ今のは・・・
何らかの攻撃だったとしても威力が常軌を逸している様に思えた。
ヒカリが見えた所からここまで一体どれ程の距離があると言うのだろうか。
そんな言葉を考えているとまたしてもイリアの叫びが聞こえる。
「キャッ!?な、何よあれ!?」
今度は何だと若干辟易しながらも顔を向けて俺は絶句した。
「・・・な、なんだよあの雲は」
俺の目に映ったソレはキノコ雲だった。
大きな大きなキノコ雲で、其れは何処かで見覚えがあった。
何かの映像で、何かの資料で見た其れに酷似したそのキノコ雲は見ただけで底知れぬ恐怖が湧き上がって来る様だった。
「これじゃあまるで・・・」
そこから先は言葉に出来なかった。
今目の前で何が起こっているのか、情報は何も無く周りに聞こうにも敵も味方も皆、同じ状況であるから意味は無い。
一体どれ程の時間惚けていただろうか。
遠くだがとても巨大に見えるキノコ雲を見つめていた俺達に喝を入れる様にリリの声が飛ぶ。
「マスターッ、しっかりしろ!」
「ッ!?」
リリの声にハッとして辺りを見回す。
連合軍の者達は未だに惚けていたり、見えている物について隣合う者達とヒソヒソと何か話をしていたりとまだ覚醒前と言えた。
仲間達はと見ると戸惑いはすれどリリの声に同じ様に我に返っていた様なので一先ず今の内に移動しようと提案しようとしたその瞬間、俺は弾かれる様に顔を上げて叫んでいた。
「アリシエーゼッ!?」
「来てるに決まってんだろッ、マジで何考えてんだよ!?」
必死に走る仲間に対して後ろを振り向く事無く言った言葉にドエインがキレ気味で返して来るが、教会に喧嘩売るとか正気の沙汰とは思えないと言っているのだが、そんなの仕方無いだろと思わなくは無い・・・
「何を考えてるって・・・い、色々考えてるよ」
「色々って何だよ!?絶対何も考えてないだろッ」
「か、考えてるわッ」
何時になくドエインが絡んで来るが、そんな俺達のやり取りを聞いてイリアが深いため息を吐き出した。
「はぁぁ・・・アンタ本当に分かってるの?聖白護神騎士団に喧嘩を売ったって事は教皇に、教会に喧嘩を売ったって事よ?」
「だから何だよ?」
「はぁ?何って何よ!?教会が本気で私達を潰しに掛かったら私達なんて一瞬でプチッと潰されるわよ!?」
「・・・じゃあお前はあのまま教会に連れ戻されてまた聖女やらされても良かったのかよ?」
「そ、それは―――」
「んなの俺が認めねぇよ」
ムカつくのだ。この世の理不尽さが、人のエゴが。何よりイリア自身が自分の人生を諦め掛けている事が。
「ま、まぁ、助けてくれたのは感謝してるわ・・・」
そう言って真っ赤にした顔を背けるイリアを見て思わず笑ってしまう。
「な、何よ!?」
「いや、何でもねぇよ。とりあえずどうにかなるだろ」
「はぁぁ」
なんの根拠も無い俺の発言にイリアは再び溜息を吐きながら首を振った。
だが、実際どうにかなると楽観視出来ないかもなとと思っていた。
あの三騎士の近くーー連合軍の本陣近くは俺の能力が使えなかった。
リリは元々人間では無いし、脳の構造が似ている様で根本的に違うから俺の能力を行使出来そうで出来なかった。
こらは俺がまだ自分の能力を十全に扱えていない事にも起因しているが、とりあえずそんな感じだ。
光は―――恐らく彼奴は例外と言うか抜け道みたいな何かしらの穴を付く方法を取っているのではと思うので比較のしようが無い。
だが、連合軍の本陣に近付いた時はそれらとは全く異なる感覚だった。
それはなんと言うか、あの辺り一帯が除外されている。そんな感覚だった。
それが何か超常の者に護られているのか、魔法的な何かなのかそう言った事は全く分からないが印象としては俺の能力を対象とした結界の様な物なのかもと思えた。
なので、当初は俺の能力を使えばこの世界もイージーだと思えていたが、現在は一筋縄ではいかないかもと少し評価を修正している。
今も後ろから怒声が聞こえて来るが、あの場に居た騎士達が追い掛けて来る。
それから逃げる様に、連合軍が最前線へと歩を進める中を縫う様に俺達も必死に逃げているのだが、後ろから偉い人達が血相を変えて走ってくる。
するとそれよりも前の方に居て俺達が暴れた事を知らない一般の騎士や兵士達が何事かと思い始める。
そんな兵士達に説明をしながら追い掛けてくる偉い騎士達に釣られて状況がよく分かっていない者達も俺達を追う様になる。
そんな公式にすっぽりとハマっているのか、見る見ると大きくなっていく追跡者の群れをチラリと見てから俺も溜息を吐く。
どうするかな・・・
このまま森の迂回路に出てゴリアテを避難させた場所まで行くのは得策では無い。
なので今は連合軍の本隊に混ざって最前線へ向けて進んでいるが途中で森の中に逃げ込むかどうするか悩む。
「マスター、森へ逃げようと考えているなら止めておけ」
「え?な、何で分か―――」
「火でも放たれたらどうしようも無くなるぞ」
「そりゃそうだが・・・いや、だからそれより何で俺の考えてる事が―――」
俺が脳内で色々考えていると言ってもいないのにリリが勝手に助言をして来てビビる。
本当に俺は考えている事が顔に出てしまうのだろうかと心配になり自分の顔を両手で押さえる。
「ちょっとどうすんのよ!?」
「このままじゃ全員相手にする事になるぞッ」
「ハル様、殺っちゃいましょう」
「マスター、殺るぞ」
走りながらだか俺達は盛大に言い合う。
若干二名程血の気の多い発言をしているがそれは敢えて気にしない。
だが、この状況をどうするかなど、ましてや直ぐにどうにか出来る作戦など思い浮かぶ筈も無く・・・
いや、待てよ?
俺の能力が使えないのは恐らく本陣近くだけの筈だ。
それなら―――
「オラッ、行け!」
俺は騎士や兵士、そして傭兵の間をすり抜けざまに数人の人間と即座に繋がり命令を下す。
「止まれお前らッ―――――うわッ!?」
「何をしている貴様らッ!?ぐぁッ」
俺達を追い掛けていた騎士達は突然仲間の騎士や兵士に襲われ足を止めざるを得なかった。
当然コレは俺の能力でそう仕向けたのだが、どうやら読み通りこの場では俺の能力は使える様だった。
なのですれ違う者をどんどんと変えていき、追跡してくる者へとぶつける。
だが、本陣近くに居た騎士達はやはり一般兵や騎士と違いエリートと呼ぶに相応しい強さを持ち合わせている。
一騎当千までとはいかないまでも、俺がけしかけた者は一蹴されてしまいほんの少しの時間稼ぎにしかならない。
それでもやらないよりはマシか・・・
悪態を付きそうになりながらも俺は能力を使い続けた。
「時間は俺が少しだが稼ぐッ、とりあえずそのまま進め!」
そしてアリシエーゼと合流して混乱に乗じて離脱しろと伝える。
ついでに帝国軍が見えて来たら腕章は外せよとも伝え少しだけペースを落として殿を引き受け様とした時、イリアの素っ頓狂な声が聞こえる。
「ぇ、何あれ・・・?」
直ぐにイリアが見る方へと顔を向けると、そこにはポッと咲いた様な光の花の様な物が見えた。
距離にしたら丁度アリシエーゼが居た辺りだろうか。
なのでここからではまだ距離があるのだが、そう考えるとその光の花は巨大である事が分かる。
何だアレ・・・?
と思った瞬間、前方から凄まじい突風と衝撃波の様な物が身体にぶつかる。
ぶつかると言う表現は生優しかったかも知れない。
その衝撃波は突然俺達に襲い掛かって来た。
あまりにも突然だった為、モニカが抱えていたユーリーを腕から離してしまい、それをマサムネが瞬時にフォローしていたり、イリアは自分の身体が吹き飛びそうになるのをダグラスが横から支えたりと、一瞬で嵐の中に飛び込んでしまったかの様な錯覚さえ覚える程だった。
「グッ、クソッ、何なんだ一体―――」
下半身を踏ん張り何とかその突風と衝撃波を耐えていると次にドンッと腹の底にまで響き渡る轟音が耳を貫く。
そして直ぐに凄まじい地鳴りが聞こえて来て地面を揺らす。
周囲を見ると、連合軍の騎士や兵士も突然の事に驚いているし、中には吹き飛ばされてしまった者がいて地面を転がっていて起き上がりながら目を白黒させていたりと状況が飲み込めないのは此方と同じ様だった。
何だったんだ今のは・・・
何らかの攻撃だったとしても威力が常軌を逸している様に思えた。
ヒカリが見えた所からここまで一体どれ程の距離があると言うのだろうか。
そんな言葉を考えているとまたしてもイリアの叫びが聞こえる。
「キャッ!?な、何よあれ!?」
今度は何だと若干辟易しながらも顔を向けて俺は絶句した。
「・・・な、なんだよあの雲は」
俺の目に映ったソレはキノコ雲だった。
大きな大きなキノコ雲で、其れは何処かで見覚えがあった。
何かの映像で、何かの資料で見た其れに酷似したそのキノコ雲は見ただけで底知れぬ恐怖が湧き上がって来る様だった。
「これじゃあまるで・・・」
そこから先は言葉に出来なかった。
今目の前で何が起こっているのか、情報は何も無く周りに聞こうにも敵も味方も皆、同じ状況であるから意味は無い。
一体どれ程の時間惚けていただろうか。
遠くだがとても巨大に見えるキノコ雲を見つめていた俺達に喝を入れる様にリリの声が飛ぶ。
「マスターッ、しっかりしろ!」
「ッ!?」
リリの声にハッとして辺りを見回す。
連合軍の者達は未だに惚けていたり、見えている物について隣合う者達とヒソヒソと何か話をしていたりとまだ覚醒前と言えた。
仲間達はと見ると戸惑いはすれどリリの声に同じ様に我に返っていた様なので一先ず今の内に移動しようと提案しようとしたその瞬間、俺は弾かれる様に顔を上げて叫んでいた。
「アリシエーゼッ!?」
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