異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第321話:移動先

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「――ぐッ、がハッッ」

 影移動で何処かへ飛ばされ、転がりながら出て来ればアークデーモンに喉を刺突で貫かれた箇所が修復されるが咳き込んでしまう。

「クソッッ、やられた!」

 右腕も修復された俺は両膝を地面に着きながらその地面に拳を打ち付ける。
 あのアークデーモン共が強いのは分かっていた。
 だが、決して勝てない相手では無かっただろうが実際は散々だ。

 マジで俺は何やってんだ!?
 完全に日和っちまってたぞ!?

 反省点はいくつもある。だが今はそれどころでは無いと気を取り直す。

 ってか此処は何処だ?

 通常の手順を踏まない、移動先未指定の影移動を使用してしまったのだが、どうやら地上には無事出れた様だ。
 咄嗟の事で本来なら絶対に選択しない未知数な手段であり実際どうなっていたか分からない。
 地上には戻って来れなかったかも知れないし、別次元や別世界へ転移していたかも知れない。
 最悪は一生影の中から抜け出せないと言う事も起こってたかも知れない。

「あんまり離れてないと―――――ぇ」

 ボヤきながら周囲を見渡し、そして固まる。

「旦那、何やってんだ・・・」

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」

「ハル様ッ、一体どうされたのですか!?」

「あ、いや、うん・・・」

 俺の後ろには置いて来た仲間達が何だか驚いたり不安そうな顔で居たのだが、無様な姿を見せてしまった事に恥ずかしさが込み上げてくる。

「突然リリと二人で突っ走ったと思ったら突然戻って来てしかも大怪我してるって・・・」

 イリアは呆れた様に「まぁ、でもアンタなら怪我くらい大丈夫か」と言って溜息を吐き出す。

「そんな詳細に説明口調てわ言われると・・・その・・・」

 非常に恥ずかしい・・・

 勢い良く飛び出した手前、敵に返り討ちにされて帰って来ましたとは言い出せない。

「事態は急を要しますか?」

「そうだった。ちょっと説明してる暇はないから俺は行くぞ!」

 マサムネの助け舟の様な発言に乗じて俺は仲間達にそう言って駆け出そうとする。

「ちょっと待ちなさいよ!?一体何なの、どう言う事よ!?」

「ラルファ様は居たの!?ねぇッ!」

 恥ずかしさを振り払う様にまた単独で駆け出そうする俺をイリアとリルカが止める。
 確かにリルカにとってはラルファの安否は非常にどころか死活問題でもある。

「ガバリス大司教かラルファは分からないが見付けた。けど邪魔されちまって見失った」

「そ、そんな・・・」

 いや、すまん・・・
 完全に俺のせいだから出来たら挽回の機会が欲しい

「邪魔されたってお前死にそうだったじゃねぇか。そんな強い奴らだったって事か?」

「まぁ強い、かな・・・」

「何だよハッキリしねぇな」

 直哉がそんな事を言って訝しむ。
 どうしようかと逡巡し俺は掻い摘んで経緯を話す事にした。

「リルカが言ってた様にアイツらは暗部臭ぇ。けどいきなりアークデーモンが出て来てよ―――」

 どうやら教会暗部が動いている事、誰かしらを運んでいる素振りを見せていた集団を見付けた事、強襲したが散り散りに逃げられた事、その中で大司教かラルファを連れ出した者達を追い詰めたが突然アークデーモンが三匹現れた事等を簡潔に説明する。

「ちょっと待ってよ!?デーモンってここは地上よ!?」

「分かってるよ、だが事実だ。ホルスに居た漆黒の鎧を着てた奴だ」

「そんな、なんで・・・」

 俺の話に衝撃を受けるイリアだがその気持ちは分かる。
 だが―――

「ただ、あの糞悪魔――フェイクスが言ってた。悪魔は限られた時間で命を削るが幻幽体アストラルボディで現世に顕現出来るって言ってた筈だ。だから無理では無いんじゃないか?」

「・・・そのデーモン達は消滅したって言うの?」

「いや、それを確認する前にこっちに飛んで来た・・・」

「ちょっといいか?そのアークデーモンってのはそんなに強いのか?アークって事はレッサーも居るって事だろ?」

「あぁ、だが以前戦ったアークデーモンとは強さが桁違いだった」

 直哉の問いに素直にそう答えるとサリーとイリアが反応する。

「それって・・・」

「えぇ、もしかしたら悪魔を強制的に召喚してるんじゃないかしら?」

 強制召喚・・・?

 あの三人組の奴らがそれをやったのか?と思うがそこまでは確認していない為分からなかった。
 だが、強制的に悪魔を地上に顕現させて使い捨てるなんて技があるとしたらかなり厄介だと思った。
 それにもしそんな事が可能だとしてそれは何を代償に行っているのだろうかと考える。
 悪魔だって召喚されたら死ぬまで戦わされるなんて事は絶対に嫌だろうしそれならば相当な代償が必要なのでは無いだろうか。
 それこそ命を賭ける必要すらあるのではと思ってしまう。

「とりあえずお前はその悪魔にこっ酷くやられたと」

「クソッ、そうだよ!とりあえず早く追わないと見失っちまう!」

 既に見失っているのだが、そこは言わない。
 俺はこれ以上話をしている暇は無いと話を無理矢理区切って言った。

「とりあえず俺はもう行くぞ!方向的にはあっちの方だから後から追って来てくれ!」

 大体の方向を指差し俺は仲間達が何か言うのを無視して駆け出した。

 時間食っちまったッ

 走りながら俺は心の中で悪態を付く。
 リリは残っているが、分散してしまっている敵のそれも大司教かラルファを連れている奴らをピンポイントで探し出す事は出来ていないだろうと思い、先ずは先程アークデーモンと戦った場所へ戻らなくてはと影移動を発動しようとした時、横から声がして驚いて顔を向ける。

「――俺も行くぜッ」

 直哉が俺と並走しながらそう言うのだが、俺はかなりの速度で走っている。
 俺自身は身体強化は使えないが、アリシエーゼに変えられたこの身体は既に大分馴染んで来ており、そこらに居る身体強化を使えるだけの奴らには負ける気がしない。
 だが直哉は平気な顔して着いて来ているので、こいつも魔力があるのだなと思うが、それよりもアリシエーゼの居ない今、出来れば戦力と言う面では直哉は打って付けだと思った。

「・・・着いて来れねぁなら置いてくからな」

「ハンッ、誰に言ってんだ」

 方向はあっちだったなと俺に確認し、頷いたのを見届けるとその瞬間、直哉がする。

 実際にはドンッッと言う凄まじい爆発音が響いたと思ったら、直哉が手足から炎を吹き出してまるでミサイルの様に飛び出して行ったのだが、足の裏からまるでジェット噴射の様に炎を出し、両手からも同じ様に炎が出ているが、どうやら両手は推進する力と言う事では無く、バランスを取る為の用だった。
 あまりの突然の事に俺は目を見開いた。
 立ち止まりはしなかったが言葉が出て来ない。
 既に数百メートル先にまで移動している直哉を見て思うのだった。

 アイ●ン●ンじゃねぇか・・・
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