異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第322話:飛行魔法

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「ダメだッ、アークデーモンも居ねぇし、何の痕跡も無ぇ」

「まぁ仕方無いだろ。どっち行ったと思う?」

 俺がアークデーモンと戦った場所へと直哉と共に再びやって来たが既に荷物を運んで居た奴らの痕跡へ何も無い。
 アークデーモンも消えたのか移動したのかほ分からないが既に姿は無く、距離が離れているのか嗅覚による追跡も今は不可能だった。

「わからん・・・上から見てみるか」

「上?」

「あぁ、ちょっと待っててくれ」

 俺はそう言ってその場で上空へと影移動を使い飛び上がる。
 雲よりも高くは無いが、大分高い位置まで上がりそこから周囲を見下ろす。
 だごこの辺りは林や小規模な森が所々に存在しており、それに隠れて移動されると上空からでは見付けられそうに無かった。

「ダメだな、とりあえず帝国首都の方に向かってみるしかないか・・・?」

 上空に上がってからそのまま自由落下に任せていた俺は物凄い速度で地上へと落ちていく。
 途中でもう一度影移動を発動して上に上がり直す。
 その時、下から何か聞こえて来た気がして俺は足元を見る。

「ん?なんだ―――」

「ぉぉおおッ、すっげぇ高ぇ!」

 手脚から炎を吹き出してロケットの様に打ち出された直哉が真っ直ぐ此方に向かって来ていた。
 しかも現在も凄まじい速度で上昇して来ており、そして直ぐに俺を追い抜く。

 マジでア●アン●ンなんだが・・・

 直哉は「うひょー」とか言って楽しそうに空を駆け回った。
 何やってるんだかと思いながらちょっとばかり羨ましいと思ったのは内緒だ。
 俺の影移動はそのまま移動なのだ。つまり俺の感覚では歩いたり走ったりするのと何ら変わりは無いのだ。
 なので空に上がってみても自由に空を駆け回ると言う感覚にはなれない。

 そう言えばこの世界に飛行魔法とかってあるか?

 今迄何で考えなかったのか分からないが、魔法が使える様になったらやりたい事ベストスリーに入っているのが空を飛ぶだ。
 だが、そんな魔法があるのか無いのか聞いていないので分からない。
 アリシエーゼなどが全くそんな魔法を使っていないと言う事はこの世界に飛行魔法などは無いのだろうなとは思う。
 だからか余計直哉が無邪気に空を駆け回っているのを見て内心嫉妬してしまいますよ、はい。

「おー、よく見えるなぁ」

 そんな俺の心の内を知ってか知らずか直哉は浮かれながら俺の横にやって来て一緒に自由落下に身を任せながらそんな事を言う。

「・・・・・・」

「なんだよその顔は?」

「・・・別に。とりあえず降りるぞ」

 素っ気なく直哉に返して俺は影移動で地上へと降りる。
 直ぐに直哉も後を追って降りてくるが―――

 ゴォゴォ五月蝿ぇんだよ!!

 手と足から一々、物凄い勢いの炎を出して移動する直哉だが、その音はかなり五月蝿い。
 五月蝿いと言うか、隣で話していても声が聞き取り辛くて仕方が無い。

「兎に角、一旦帝国の首都方向に向かってみようと思うんだが、首都ってどの方向だ?」

「うん?」

 直哉は帝国に転移?してきて今は帝国軍の結構重要な役割を与えられている。
 なので普段首都に居る直哉にとってはこの辺りも庭の様なものだろうと聞いてみるが、どうにも直哉の様子がおかしかった。

「いや、ここからだと首都ってどう行くんだよ?」

「・・・何で俺が知ってると思ってんだよ?」

「いや、逆に何で知らねぇんだよ・・・」

「普段首都から離れたこんな所まで来る訳ねえんだから分からねぇよ!」

「いやいや、お前帝国のしかも首都に住んでんだよな・・・?」

「そうだが?だから何だよ、お前帝国民が散歩でこの辺ぶらついてるとでも思ってんのか?」

「うッ、それはそうだが・・・」

 確かに直哉の言ってる事は正しい。
 車などが無いこの世界では歩きか馬を使うくらいしか移動手段は無い。
 なので首都から今いる場所までとれくらい離れているのかは分からないが、少なくとも数日くらいは離れている所に何も目的無しで来る訳は無いので当然地理的にここがどの辺りとかは何となくでしか分からないだろう。

 地理の勉強でもしてれば別だろうが・・・

「自慢じゃねぇが俺は面倒臭ぇ事は嫌いだ!だから移動なんてのは基本馬車出して貰って俺は馬車の中で寝てるんだぜ」

 本当に自慢になってねぇよ・・・

 よく分からない事を自慢げに話す直哉たが、俺は溜息を吐いて頭を振る。

「――分かったよ。とりあえず大体の方角くらい分からねぇか?」

「えー?たぶんこっちの方なんじゃねぇの?」

 気だるそうにそんな事を言いながら指を差す直哉だが、指差す方向には何だか山脈が見えているのは俺の気のせいだろうか・・・

「え、いや、お前そっちに進んだら山にぶち当たるんじゃ・・・」

「何言ってんだよ、俺達が居たのはあっちだろ?だったらこっち側に進んで行けばいいって事じゃねぇかよ」

「え、あ?マジ・・・?」

「おうよッ、着いて来い!」

 何故か急に自信満々に言う直哉に気圧されて俺は思わずそうなのかと思ってしまうが、先程は此処が何処なのか分からないとか言って無かっただろうか?と悩む。
 だが、その間にも直哉はどんどん一人で歩いて行ってしまうので俺も慌てて追い掛ける。

 暫く歩いてみたが特に変わった事は無い。
 鳥や時折兎が駆ける姿を目にするくらいで至って平和だ。
 斥候や狩人等の経験など無いので当然足跡を探す、辿るなどは出来ない。
 臭いも辿れないし、上空からでも中々探し出す事が難しいとなると、本当に当てずっぽうで進んだ先に偶然敵が居たなどと言う事が無い限り、かなり厳しいのではと思い始めた頃、俺達の進む方向とは少しズレているが先の方で爆発音が聞こえる。

「「ッ!?」」

 俺達は思わず顔を見合わせる。まるで天啓であるかの様に感じたその音はきっとリリが戦闘を開始した事を意味していると思った。

「行くぞッ」

「おう!!」

 二人同時に音のした方へと駆け出す。

 頼むから荷物運んでる奴らでいてくれッ
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