騎士アレフと透明な剣

トウセ

文字の大きさ
30 / 48
第七章

禁書庫に隠された七年前の記憶 (4)

しおりを挟む
アレフはマースとの会話のあと、エトナと別れて男性寮へと戻っていた。

柔らかな大きなベッドに仰向けで倒れると、片手に持っていたポラロイドカメラを持ち上げた。

「これもアーティファクトなのか」

アレフはぼそりと呟いた。

その言葉を聞いたのか、隣のベッドに座ってチョコレートを齧っていたリィンが反応を示した。

「へぇ、アーティファクトなんだそレ。ただのカメラにしか見えないけどナ」

リィンはアレフの持っているポラロイドカメラを興味深そうに見ていた。

「ほら、こっち向いてよ」

アレフはリィンの口の周りについているチョコレートに特に注意もせず、ポラロイドカメラをリィンに向けた。

リィンは右手でピースサインをしながら、細い目をさらに細めながらニコッと笑った。

「三、二、一……」

カシャ、という音とともに、一枚の写真がポラロイドカメラから印刷された。

写真にはチョコレートを片手にピースサインをしたリィンが写っていた。

アレフはそれを見ながら、リィンのだらけた姿に鼻で笑った。

「アレ?」

リィンが頓狂な声を上げると、不思議そうな表情をしながら、ベッドから跳ね上がるように立ち上がった。

「俺のチョコがなイ」

アレフは持っている写真と立ち上がったリィンを見比べた。

写真のリィンは、まだそこそこの量があるチョコレートを手に持っていたが、立ち上がったリィンにはそれがなかった。

ましてや、リィンの口の周りについていたチョコレートは跡形もなく消えていた。

「どういうこと?」

「どういうことも何も、そのアーティファクトのせいだろうヨ」

アレフはリィンに指摘され、手に持っていたポラロイドカメラを見回した。

ポラロイドカメラには特に変わった様子は無く、アレフは首を傾げた。

リィンはアレフの持っている写真を取り上げると、写っている自分の姿を見て眉をひそめた。

「なんか、随分とアホ面だナ」

「その姿を捉えて、リィンはチョコレートを食べちゃいけないって、カメラがチョコを取り上げたんだよ」

アレフは半笑いでリィンに対応した。

アレフはポラロイドカメラで撮ったものが消えるという現象に好奇心をくすぐられ、他の被写体を撮ってみようと考えた。

鉛筆や消しゴム、タンスにベッドと、部屋にあるものを手当たり次第に撮ってみるが、物が消えることはなく、ただ写真が一枚、また一枚と印刷されるだけだった。

「全然物が消えないんだけど」

「そんなことないだロ。だって、俺のチョコレートは消えたゼ。アーティファクトなんだから何かしらの詠唱は必要なんじゃないカ?ほらさっき、三、二、一って言ってただロ。それがアーティファクトを使う言葉じゃないのカ?」

リィンは長々と喋ると「ほらこれで試せよ」と言って、鼻をかんだティッシュをアレフの目の前に差し出した。

アレフは少し嫌な顔をするが、ポラロイドカメラを構えてゆっくりと「三……、二……、一……」と唱えた。

シャッター音が部屋の中で響いた。

ポラロイドカメラのシャッター音と共に、リィンの手にあったティッシュは跡形もなく消え去り、アレフは目を真ん丸にした。

「やっぱりそうダ。そのカメラのアーティファクトは、三、二、一と唱えてからシャッターを切ると、対象の物を消してくれるんダ。随分と便利なアーティファクトだナ」

リィンは感心するように、口角を上げた。

アレフもリィンの言葉に頷き、二人で目をキラキラとさせた。

二人がポラロイドカメラに関心を示している中、幽霊のキンブレーが音もたてずに(音をたてる身体はないが)、そろりと壁を通り抜け、部屋の中に入ってきた。

「アレフ、リィン。談話室でエトナとマーガレットが呼んでいましたよ。切羽詰まったような顔をしていましたし、すぐに行ってあげてくださいな」

キンブレーの言葉に、アレフとリィンは肩を跳ね上げ、キンブレーの方を見ると「分かった」と二人揃って返事をした。

アレフとリィンが談話室に降りると、エトナとマーガレットがソファーに座り会話をしていた。

マーガレットが「アレフたちなら……」と名前を口にしており、アレフはなんだか嫌なことが起こりそうだなと、直感していた。

アレフたちが談話室の階段に降りていると、それに気づいたのか、マーガレットを見ていたエトナが、顔を上げてアレフたちに注目した。

「アレフ、リィン。ちょっと相談が」

「なんだよ」

アレフは気だるい雰囲気を出し、リィンはきょとんとした顔で、エトナたちに合流をした。

「相談って何さ」

アレフがエトナとマーガレットに声をかけると、マーガレットは立ち上がった。

「透明の剣の文献を探してほしいの」

かしこまった様子でマーガレットは答えた。

「スリグリン先生に話をしたんじゃないのカ?」

リィンが質問をするが、マーガレットはその言葉に頭を横に振った。

「駄目だった。だから、二人にお願いしてるの」

「なに? 今度は俺らがスリグリン先生にお願いしてくればいいの?」

「違くて、その、大変申し訳ないんだけど……」

マーガレットはそわそわしながら言葉を続けた。

「禁書庫に入るの付き合って欲しいの。アレフとリィンにも」

「入るって正気カ? えっ、君は本当にあのマーガレットなのカ?」

リィンが驚きながらマーガレットに尋ねる。

もちろんアレフも驚いていた。

なぜなら、マーガレットは規則に厳しく、授業でも活発に手を上げ、先生からの問題に答える優等生その者だったからだ。

「本当にどうしたんだい?君がそんな行動に走るだなんて」

「やっぱり、どうしても知りたいのよ。知らなくちゃいけない気がするのよ。知ってないととても後悔するような気がして」

マーガレットは少し病的に早口で話すと、アレフとリィンに「お願い」と頼んだ。

マーガレットは続けて「三人には禁書庫に人が近づかないように監視役をして欲しいの。

禁書庫に入って探るのは私だけ」と話した。

「見てるだけでいいなら、俺は手伝おうかナ」

リィンはマーガレットの懇願する姿を見て、何を思ったのか、協力する意思を見せた。

そんなリィンを見てアレフは「見るだけなら」と返事をした。

「具体的にどうやって侵入するの?」

エトナがマーガレットに問いかけた。

「禁書庫の扉は鍵のアーティファクトが何重にも固く閉じられていて、三人が監視してくれている間に、鍵を外して中に入るつもりよ」

「簡単に言うけど、鍵開けなんてできるのか?」

アレフは不安がりながら、マーガレットに問い詰めた。

マーガレットは「大丈夫よ。鍵開け技術の本が図書室にあったもの」と、より不安をそそるような発言をした。

すると、リィンが突然そわそわしだした。

「なんだよ。そわそわして」

「アレフ……、俺たちに鍵開けの技術なんて要らないよナ?」

言葉の真意が読み取れず、アレフの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんだ。

それはエトナたちも同じで、「どういうこと?」と疑問を口にした。

「カメラ型のアーティファクトのことだよ。あれで鍵のアーティファクトを撮るんだよ」

リィンに言われ、アレフは頭の上に浮かんでいたクエスチョンマークを取り除いた。

未だ状況を理解できないエトナとマーガレットにアレフは説明をした。

「今朝貰ったあのカメラのことさ。あのカメラはアーティファクトで、写真を撮ると物が消える仕組みになっているんだ。それを使えば、鍵のアーティファクトを取り除くことができるかもしれないんだ」

「カメラって、さっきエトナが教えてくれたものかしら」

「そう、それだよ」

アレフはマーガレットの言葉に過剰に反応を示した。

エトナが「なら、オズボーンを撮ってしまおう」と恐ろしいことを淡々と述べていたが、アレフは聞き流すことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...