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第九章
透明な剣の力 (3)
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孤児院にいた頃から、エトナは自分を知りたかった。
エトナには人の感覚が分からなかった。
美味しいもの、楽しいもの、それらが分からず、ただただ兄アレフの真似をしていた。
本を読んでも、いまいち理解が出来ず、アレフが同年代の悪い奴に追いかけ回されていても、どのように捉えていいのか分からなかった。
だが、孤児院のみんながエトナに対して、あれこれと気をまわしてくれた時は嬉しいと感じ、この孤児院から離れたくないと思っていた。
このまま、何年もここで暮らして、ここで幸せというものを噛み締めていたかった。
ところが、騎士学院に入学させられる時、エトナは幸せを知ることは、不幸せを知ることになるのだと知った。
エトナはその不幸せが嫌で、アレフを巻き込んだ。アレフさえいてくれれば、きっと助けてくれると。
アレフは両親を知るためと理由を用意し、付いてきてくれた。
だがそれは、エトナを一人にさせないという気遣いだったはずだ。
その優しさに気づいた時には手遅れだった。
エトナは後悔した。
アレフの優しさに付け込んだのだ。
自分を知らない自分を憎んだ。
どうせなら、死んでくれと思うまでに憎んだ。
その優しさを蔑ろにしないために、上っ面な笑顔を振りまいて、アレフに心配させないようにしながら、エトナは学院生活を過ごして来た。
特別な力、危険な力、そういうレッテルに縛られ、周りから浮いた自分をマーガレットたちが支えてくれることは、嬉しくもあり、苦しくもあった。
苦しい部分は見ないふり、嬉しい部分だけを見ていて過ごし、その結果が黒龍に目を付けられるだったのだ。
これが自分の現実だった。
生きるだけで、アレフや学院のみんなを危険に晒している。
自分の不幸は、拒否する能力の無いことだ。
だからいっそのこと、自分の不幸を受け入れ、他人の不幸も受け入れる。
エトナという人間に、出来る限りの不幸を入れ込む。
そうして出来上がった不幸の温床を誰も知らない所で処理する。
処理の仕方は簡単で、エトナという人間がエルトナム学院から離れ、人知れず黒龍に殺されることだ。
そうすれば、エトナのせいで誰かが死ぬことはないのだから。
「大丈夫。死ぬのなんて怖くない」
エトナは震える体を自身の手で包みながら、ロストフォレストの奥にある名無しの石碑の前で座り込んでいた。
来た道からは、あの嫌な風が徐々にエトナの体を押してくる。
「怖くない、怖くない」
今にも消えそうな声は、誰に届くわけでもなく、森のざわめきに掻き消されていった。
先ほどまで上空を覆っていた黒く分厚い雲は嘘のように消えており、月の光はエルトナム学院に影を落としていた。
そんな月明かりにアレフたちも影を落とし、ひっそりとエルトナム学院の裏口へと進んでいた。
エルトナム学院を取り囲む白亜の砦には、無数の苔と傷跡が残っており、これまでに数々の戦いから、学院を守っていたことは容易に読み取れた。
その鉄壁の砦にも、鍵のかかった扉の一つや二つ、一年間もエルトナム学院で過ごしてきたアレフたちは熟知していた。
赤の寮の裏手にある、鎖で何重にも閉ざされてた鉄格子の前に、アレフたちは立っていた。
「ここから出たら、二人も処罰を貰うよ? 下手したら退学だ」
アレフはリィンとマーガレットの顔を見ながら神妙な面持ちで話した。
「そんなこと分かってるわよ。でも、規則や退学よりも友達の方が重要なんだから」
一年前の規則正しい優等生とは打って変わって、マーガレットは迷いもなく言い放った。
「それ、俺が呪いにかけられた時にも言って欲しかったナァ……」
一年前から全くと言っていいほど変わっていないリィンは、マーガレットの言葉に嘆いていた。
「いいのよあなたは。毒を盛ってもケロッとしてる人間なんだし」
マーガレットのリィンに対する評価は散々で、アレフは慰めるようにリィンを褒めた。
「で、でも、そういう人だからこそ、こういうものを隠し持ってきているわけで……」
アレフは手のひらに、三つの石ころを見せた。
「一度きりだけど、照明と音爆弾と落とし穴のアーティファクト。これだけあれば、ロストフォレストの獣に出くわしても、なんとか逃げ切れるよ」
「だロ~。もっと褒めたっていいんだゼ」
悪い顔して笑うリィンに、マーガレットは「許可のないアーティファクトの持ち込みは禁止でしょ」と、やれやれとかぶりを振った。
「ありがとう、リィン。それじゃあエトナを追いかけよう」
「オウ、さっさとお姫様を連れ戻さないとナ」
アレフは手に持っていたポラロイドカメラに鉄格子を移した。
「三、二、一」
パシャリ、とシャッター音の切れる音。
それと同時に、一瞬にして絡まっていた鎖は消え失せ、鉄格子がゆっくりと独りでに開いた。
扉の先は木々が生い茂っており真っ暗であるが、壁際に歩いて行けば校庭側に辿り着くようになっている。
学院の規則を破って、夜に外を出歩くのはこれで二度目だ。
アレフは次こそ退学間違いなしだなと、頭の中で自分をあざけ笑っていた。
鉄格子の先を抜け、アレフたちは白亜の壁に手を付きながら、校庭側まで歩いて行った。
先頭をリィンが歩き、それに付いて行くようにアレフとマーガレットは進んでいった。
アレフたちが少し歩き、校庭に近づくと、リィンは砦の陰から顔を覗かせながら、校庭の様子を窺っていた。
リィンは手ぶりで、後ろに付いてきているアレフたちに待てと合図をした。
「まだ、リーフ先生たちがいる」
アレフとマーガレットはリィンに場所を代わってもらい、城壁の陰から、校庭の様子を窺った。
校庭にはロストフォレストに向かっていった黒龍たちの姿を見届けながら、スリグリンと会話しているリーフの姿があった。
アレフはリィンに振り返り、「どうしようか」と尋ねた。
「んー、先生たちが居なくなるのを待つしかないかな」
「でもそれだと、追いつけないよ」
リィンは顎に手を乗せて、辺りを見渡した。
その姿にアレフも何かないかと辺りを見渡し始めた。
すると、マーガレットが「先生たちがどっか行くみたいだよ」とアレフたちに声をかけた。
アレフたちもその姿を見ようと、城壁の陰から顔を覗かせる。
リーフとスリグリンが幽霊のキンブレーと話をしていた。
キンブレーは慌てた様子で身振り手振り、リーフたちに伝えようとしていた。
「不味い。俺たちのことがバレたか」
アレフたちは互いに顔を見合わせるも、この場を切り抜ける方法が見当たらず、ただただ行く末を見守る他なかった。
キンブレーが赤の寮の方向に指を差し、何かを伝えようとしているのが遠くで見ているアレフたちにも伝わった。
リーフとスリグリンは困惑するようにすると、案内をし始めるキンブレーの後を追い、校庭から立ち去っていった。
その光景を見て、アレフたちは城壁の陰から出てくると「時間の問題だな」、「もう手遅れよ」と各々言いたいことを言い始めた。
「まぁでも、タイミング的には良いよ。急いでロストフォレストまで走っていこう」
三人は急ぎ足で馬車の発着場を通り過ぎ、雑草の茂った坂道を下っていく。
長い下り坂を降りると、ちょっとした原野が平がっており、アレフたちはさらに奥へと歩いて行った。
ロストフォレストの入り口まで歩くと、目の前には木の看板が立てかけられており、この森入るべからず、と手書きの荒い文字で彫られていた。
「厳重って程ではないのね」
「そもそも、入る馬鹿はいないからナ。な? アレフ」
リィンがアレフを煽りながらポケットに入れていた、剣柄のアーティファクトを取りだした。
自分の剣を眺め出しては、リィンは少し楽し気に話し始めた。
「一年間、木剣を振っているだけだったから、やっとこの言葉を唱えられル。〝グラディウス(剣よ)〟」
リィンの声に合わせて、剣柄は一瞬で刀身を露わにした。
リィンの手には両手で握っても隙間が出来るほどの長い持ち手と、リィンの上半身よりも長い真剣が現れた。
リィンは真剣を持ち上げ、月の光を刀身に反射させながら、満足な顔をしていた。
「決闘騎士の練習って言っても、使っていたのは木剣だったし、こういうのは、凄い新鮮!」
目をキラキラさせているリィンを余所に、マーガレットも「〝グラディウス(剣よ)〟」と呟き、剣先を地面に突き差した。
「アレフ。あなたは剣を出さないの?」
マーガレットは剣に寄りかかりながら、アレフが手に持っている柄を見た。
リィンも気になったのか、自身の剣を眺めるのを止めてアレフを見た。
「実は……。この剣、刀身がないんだ。貰い物で」
「刀身がなイ? 冗談だロ? お前が頼りなんだゼ。学院対抗戦で唯一の実践経験のあるお前ガ」
リィンとマーガレットは呆れた様子でアレフを見た。
アレフは申し訳なさそうにすると、「木剣で頑張るよ」と謝りながら、木剣を出現させた。
アレフの言葉にマーガレットは「ふざけないで!」と苛立ちを見せた。
「あのね、これから私たちは危険な魔物がうじゃうじゃいる所に行くの。あっちは死ぬ気で襲いかかってくるし、こっちも死ぬ気で戦わないと死んじゃうの。いい? 私たちは一蓮托生なの、あなたに命を預けているに等しいの。木剣じゃ致命傷にならないから、私たちが殺されそうになった時、あなたは何も出来ないのよ? 分かってる? 授業で習ったでしょ?」
マーガレットはアレフに罵声を浴びせ続けた。
マーガレットが怒っているのは当然で、生半可な考えで準備を怠ったアレフに責任があるのは、アレフ自身よく分かっていた。
一通り罵声を浴びせて落ち着いたのか、マーガレットは一人で森の中へ進んでいった。
怒られたアレフにリィンが「まぁ、当然だヨ」と追撃をした。
リィンは自身の持っている剣をアレフに差し出した。
「俺の貸そうカ?」
リィンから差し出された剣をアレフは押し返した。
「ううん。ごめん。以前来た時は剣なんて使わなかったから。その……、ごめん」
「まぁ、魔物がいたら逃げるつもりだし、気にしなくていいんじゃないかナ」
リィンはアレフの肩を叩くと、マーガレットの後を追った。
アレフは手に持っている木剣を軽く振り回すと「大丈夫……」と呟いて、マーガレットたちの後を追った。
エトナには人の感覚が分からなかった。
美味しいもの、楽しいもの、それらが分からず、ただただ兄アレフの真似をしていた。
本を読んでも、いまいち理解が出来ず、アレフが同年代の悪い奴に追いかけ回されていても、どのように捉えていいのか分からなかった。
だが、孤児院のみんながエトナに対して、あれこれと気をまわしてくれた時は嬉しいと感じ、この孤児院から離れたくないと思っていた。
このまま、何年もここで暮らして、ここで幸せというものを噛み締めていたかった。
ところが、騎士学院に入学させられる時、エトナは幸せを知ることは、不幸せを知ることになるのだと知った。
エトナはその不幸せが嫌で、アレフを巻き込んだ。アレフさえいてくれれば、きっと助けてくれると。
アレフは両親を知るためと理由を用意し、付いてきてくれた。
だがそれは、エトナを一人にさせないという気遣いだったはずだ。
その優しさに気づいた時には手遅れだった。
エトナは後悔した。
アレフの優しさに付け込んだのだ。
自分を知らない自分を憎んだ。
どうせなら、死んでくれと思うまでに憎んだ。
その優しさを蔑ろにしないために、上っ面な笑顔を振りまいて、アレフに心配させないようにしながら、エトナは学院生活を過ごして来た。
特別な力、危険な力、そういうレッテルに縛られ、周りから浮いた自分をマーガレットたちが支えてくれることは、嬉しくもあり、苦しくもあった。
苦しい部分は見ないふり、嬉しい部分だけを見ていて過ごし、その結果が黒龍に目を付けられるだったのだ。
これが自分の現実だった。
生きるだけで、アレフや学院のみんなを危険に晒している。
自分の不幸は、拒否する能力の無いことだ。
だからいっそのこと、自分の不幸を受け入れ、他人の不幸も受け入れる。
エトナという人間に、出来る限りの不幸を入れ込む。
そうして出来上がった不幸の温床を誰も知らない所で処理する。
処理の仕方は簡単で、エトナという人間がエルトナム学院から離れ、人知れず黒龍に殺されることだ。
そうすれば、エトナのせいで誰かが死ぬことはないのだから。
「大丈夫。死ぬのなんて怖くない」
エトナは震える体を自身の手で包みながら、ロストフォレストの奥にある名無しの石碑の前で座り込んでいた。
来た道からは、あの嫌な風が徐々にエトナの体を押してくる。
「怖くない、怖くない」
今にも消えそうな声は、誰に届くわけでもなく、森のざわめきに掻き消されていった。
先ほどまで上空を覆っていた黒く分厚い雲は嘘のように消えており、月の光はエルトナム学院に影を落としていた。
そんな月明かりにアレフたちも影を落とし、ひっそりとエルトナム学院の裏口へと進んでいた。
エルトナム学院を取り囲む白亜の砦には、無数の苔と傷跡が残っており、これまでに数々の戦いから、学院を守っていたことは容易に読み取れた。
その鉄壁の砦にも、鍵のかかった扉の一つや二つ、一年間もエルトナム学院で過ごしてきたアレフたちは熟知していた。
赤の寮の裏手にある、鎖で何重にも閉ざされてた鉄格子の前に、アレフたちは立っていた。
「ここから出たら、二人も処罰を貰うよ? 下手したら退学だ」
アレフはリィンとマーガレットの顔を見ながら神妙な面持ちで話した。
「そんなこと分かってるわよ。でも、規則や退学よりも友達の方が重要なんだから」
一年前の規則正しい優等生とは打って変わって、マーガレットは迷いもなく言い放った。
「それ、俺が呪いにかけられた時にも言って欲しかったナァ……」
一年前から全くと言っていいほど変わっていないリィンは、マーガレットの言葉に嘆いていた。
「いいのよあなたは。毒を盛ってもケロッとしてる人間なんだし」
マーガレットのリィンに対する評価は散々で、アレフは慰めるようにリィンを褒めた。
「で、でも、そういう人だからこそ、こういうものを隠し持ってきているわけで……」
アレフは手のひらに、三つの石ころを見せた。
「一度きりだけど、照明と音爆弾と落とし穴のアーティファクト。これだけあれば、ロストフォレストの獣に出くわしても、なんとか逃げ切れるよ」
「だロ~。もっと褒めたっていいんだゼ」
悪い顔して笑うリィンに、マーガレットは「許可のないアーティファクトの持ち込みは禁止でしょ」と、やれやれとかぶりを振った。
「ありがとう、リィン。それじゃあエトナを追いかけよう」
「オウ、さっさとお姫様を連れ戻さないとナ」
アレフは手に持っていたポラロイドカメラに鉄格子を移した。
「三、二、一」
パシャリ、とシャッター音の切れる音。
それと同時に、一瞬にして絡まっていた鎖は消え失せ、鉄格子がゆっくりと独りでに開いた。
扉の先は木々が生い茂っており真っ暗であるが、壁際に歩いて行けば校庭側に辿り着くようになっている。
学院の規則を破って、夜に外を出歩くのはこれで二度目だ。
アレフは次こそ退学間違いなしだなと、頭の中で自分をあざけ笑っていた。
鉄格子の先を抜け、アレフたちは白亜の壁に手を付きながら、校庭側まで歩いて行った。
先頭をリィンが歩き、それに付いて行くようにアレフとマーガレットは進んでいった。
アレフたちが少し歩き、校庭に近づくと、リィンは砦の陰から顔を覗かせながら、校庭の様子を窺っていた。
リィンは手ぶりで、後ろに付いてきているアレフたちに待てと合図をした。
「まだ、リーフ先生たちがいる」
アレフとマーガレットはリィンに場所を代わってもらい、城壁の陰から、校庭の様子を窺った。
校庭にはロストフォレストに向かっていった黒龍たちの姿を見届けながら、スリグリンと会話しているリーフの姿があった。
アレフはリィンに振り返り、「どうしようか」と尋ねた。
「んー、先生たちが居なくなるのを待つしかないかな」
「でもそれだと、追いつけないよ」
リィンは顎に手を乗せて、辺りを見渡した。
その姿にアレフも何かないかと辺りを見渡し始めた。
すると、マーガレットが「先生たちがどっか行くみたいだよ」とアレフたちに声をかけた。
アレフたちもその姿を見ようと、城壁の陰から顔を覗かせる。
リーフとスリグリンが幽霊のキンブレーと話をしていた。
キンブレーは慌てた様子で身振り手振り、リーフたちに伝えようとしていた。
「不味い。俺たちのことがバレたか」
アレフたちは互いに顔を見合わせるも、この場を切り抜ける方法が見当たらず、ただただ行く末を見守る他なかった。
キンブレーが赤の寮の方向に指を差し、何かを伝えようとしているのが遠くで見ているアレフたちにも伝わった。
リーフとスリグリンは困惑するようにすると、案内をし始めるキンブレーの後を追い、校庭から立ち去っていった。
その光景を見て、アレフたちは城壁の陰から出てくると「時間の問題だな」、「もう手遅れよ」と各々言いたいことを言い始めた。
「まぁでも、タイミング的には良いよ。急いでロストフォレストまで走っていこう」
三人は急ぎ足で馬車の発着場を通り過ぎ、雑草の茂った坂道を下っていく。
長い下り坂を降りると、ちょっとした原野が平がっており、アレフたちはさらに奥へと歩いて行った。
ロストフォレストの入り口まで歩くと、目の前には木の看板が立てかけられており、この森入るべからず、と手書きの荒い文字で彫られていた。
「厳重って程ではないのね」
「そもそも、入る馬鹿はいないからナ。な? アレフ」
リィンがアレフを煽りながらポケットに入れていた、剣柄のアーティファクトを取りだした。
自分の剣を眺め出しては、リィンは少し楽し気に話し始めた。
「一年間、木剣を振っているだけだったから、やっとこの言葉を唱えられル。〝グラディウス(剣よ)〟」
リィンの声に合わせて、剣柄は一瞬で刀身を露わにした。
リィンの手には両手で握っても隙間が出来るほどの長い持ち手と、リィンの上半身よりも長い真剣が現れた。
リィンは真剣を持ち上げ、月の光を刀身に反射させながら、満足な顔をしていた。
「決闘騎士の練習って言っても、使っていたのは木剣だったし、こういうのは、凄い新鮮!」
目をキラキラさせているリィンを余所に、マーガレットも「〝グラディウス(剣よ)〟」と呟き、剣先を地面に突き差した。
「アレフ。あなたは剣を出さないの?」
マーガレットは剣に寄りかかりながら、アレフが手に持っている柄を見た。
リィンも気になったのか、自身の剣を眺めるのを止めてアレフを見た。
「実は……。この剣、刀身がないんだ。貰い物で」
「刀身がなイ? 冗談だロ? お前が頼りなんだゼ。学院対抗戦で唯一の実践経験のあるお前ガ」
リィンとマーガレットは呆れた様子でアレフを見た。
アレフは申し訳なさそうにすると、「木剣で頑張るよ」と謝りながら、木剣を出現させた。
アレフの言葉にマーガレットは「ふざけないで!」と苛立ちを見せた。
「あのね、これから私たちは危険な魔物がうじゃうじゃいる所に行くの。あっちは死ぬ気で襲いかかってくるし、こっちも死ぬ気で戦わないと死んじゃうの。いい? 私たちは一蓮托生なの、あなたに命を預けているに等しいの。木剣じゃ致命傷にならないから、私たちが殺されそうになった時、あなたは何も出来ないのよ? 分かってる? 授業で習ったでしょ?」
マーガレットはアレフに罵声を浴びせ続けた。
マーガレットが怒っているのは当然で、生半可な考えで準備を怠ったアレフに責任があるのは、アレフ自身よく分かっていた。
一通り罵声を浴びせて落ち着いたのか、マーガレットは一人で森の中へ進んでいった。
怒られたアレフにリィンが「まぁ、当然だヨ」と追撃をした。
リィンは自身の持っている剣をアレフに差し出した。
「俺の貸そうカ?」
リィンから差し出された剣をアレフは押し返した。
「ううん。ごめん。以前来た時は剣なんて使わなかったから。その……、ごめん」
「まぁ、魔物がいたら逃げるつもりだし、気にしなくていいんじゃないかナ」
リィンはアレフの肩を叩くと、マーガレットの後を追った。
アレフは手に持っている木剣を軽く振り回すと「大丈夫……」と呟いて、マーガレットたちの後を追った。
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