探偵はじめました。

砂糖有機

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暇な探偵には事件を

大掃除

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 「イテッ!ちょっと警部、暴れないで下さいよ!」
「お前もじっとしてろよ!不安定だろうが!・・・ウワッ」
「おおっとぉッッ!あっぶねぇー・・・なんで僕が下なんですか、警部の方が重いんですから警部が下でしょ普通!」
「貴様は上司を足蹴にするつもりかッ!」
只今、小嶋邸のキッチンでは、駒木刑事が岡橋警部を肩車をしている。駒木刑事よりも岡橋警部の方がいくらか大柄なので、倒れそうで倒れないジェンガのようにグラグラして、不安定に見える。
「クソッ、警部の足が・・・」
「クソッ、ホコリが・・・」
「「ああッ、まえが見えづらい!」」

 2時間程前、大掃除が始められた。酒井と英二はリビング、駒木刑事と岡橋警部はキッチン、和宏は風呂場とトイレといった具合だ。因みにチエ子さんは、リビングで司令塔をやっている。リビング・キッチンでは、『イテッ』とか『じっとしてろー』とか『まえが見えづらい』とか聞こえてくる。酒井・英二、岡橋・駒木ペアは余り上手くいっていないようだ。和宏の方はというと、トイレの鍵を締めて中でスマホのソシャゲをやっていて、時折チエ子が外から注意している。
 大掃除は朝九時から夕方五時、八時間かかってしまった。当然の結果である。
 その後、助太刀した御一行はお礼にチエ子特製の肉団子をいただく。酒井達は『旨いッ!』『ご飯に合いそう』など各々口にしていた。下品にも大きくゲップをした酒井は一息つきながらチエ子をねぎらった。
「いやぁ、お疲れさまです。旨い肉団子までご馳走になってしまって、ごちそうさまです・・・なんだか悪いなぁ、ハハハ」
「いえいえ、お粗末様でした。じゃあ、今回の報酬は肉団子ってことでよろしいかしら?」
「よろしくないです。勘弁してください」
「冗談よ、冗談」
そんなことを話していたら、『じゃあ、俺は帰るッスワ』と和宏が帰っていった。腰のチェーンがチャラチャラと音をたて、次第に音は小さくなっていく。
「そういえば、お孫さん、相当チエ子さんに迷惑をかけている気がするんですけど」
「おいコラ貴様図々しいと思わんか!」
酒井の図々しい物言いに岡橋警部が声をあげた。
「いいんですよ岡橋さん。まぁ、頭もあまり良くないけど、たった一人の孫だし、色々やってあげたくなるじゃない?それに、あんな性格になったのもちょっと訳があるのよ」
「訳って、どんな・・・?」
「あの子がまだ小さい時に両親が亡くなったのよ。それで、しばらくは私達が養っていたんだけど、あまり構ってあげられなくてねぇ。それが原因かもしれないわ」
「なるほど・・・彼にそんな過去が」
「けれどあの子ったら、三ヶ月前くらいからよく家に来るようになって、色々手伝ってくれているのよ!」
「え、そうなんですか?」
「皿洗いから、洗濯、庭の手入れ、それから掃除をね。あの子が手伝ってくれるから大助かりなのよねぇ」
「なるほど、じゃあ庭に実ってるナスなんかもお孫さんが?」
「ええ!今は和弘が育てているわ。けれど、私と泰彦さんはアレルギーがあって食べられないから観賞用ね」
「へぇ・・・今お孫さんはどこで暮らしているんですか?」
「確か、北上団地に住んでるらしいわ。ここから車で四十分くらいのところから来てくれているんだもの、うれしいわ!」
「うーん、しかし三ヶ月前からか・・・なんか急だなぁ」
「何か言った、酒井さん?」
「いえ、滅相もございません」
・・・『なんか急だ』と言うとチエ子さんかなり怖い顔してたな。あんな孫でも可愛いのだろう。
 もう9月だというのに、自己主張の激しい太陽が酒井と英二を照らす。皮肉なほど綺麗な夕焼けだ。酒井と英二は事あるごとに『あっちぃ』と呟いている。
「酒井さんの図々しさはホント天下一品ですよねー・・・あっちぃ」
「そうかな・・・あっちぃ?」
「『あっちぃ』に疑問符をつけないで下さい・・・あっちぃ」
「英二君聞いていたのかい?チエ子さんと僕が話しているのを・・・あっちぃ」
「いきなり、『お孫さん迷惑かけてるでしょ?』って相当図々しいと思いますよ俺は・・・ところで、なんで日向ばかりの道で帰るんですかぁ?・・・あっちぃ」
「こっちの方が近道だからだよ・・・あっちぃ」
「帰ったらエアコンつけて下さい絶対・・・あっちぃ」
「・・・あっちぃ」
「『あっちぃ』で返事しないで下さいよぉ・・・あっちぃ」
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