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暇な探偵には事件を
後日談
しおりを挟む後日、酒井探偵事務所に小嶋和弘が逮捕されたとの連絡が駒木刑事から届いた。どうやら和弘は詰めが甘かったらしく、調べたらホイホイと証拠が出てきたそうだ。
ちょっと珈琲淹れてくる、と酒井がソファーを立った隙に英二がすかさずに座る。英二は戻ってきた酒井に軽く『コノヤロ』と言われたが、やはり席を立つ気にはならずそのまま座っている。
「ところで、酒井さんはどうして殺人を犯したのが和弘だと思ったんですか?この間話していた他にもあるんでしょ?」
「あぁ、僕が見た『危険な植物大集合』。あれを和弘も見たんじゃないかなって思ってさ。ほら、チエ子さん達に媚びを売り始めた時期とテレビでこの番組が放送されたのが同時期だったから」
「なるほど。テレビであのアサガオについて知って、『このアサガオを使って・・・ヒッヒッヒ』ということですね。でも確率低くないですか?」
「そうだね。実際どうなのか僕には分からないし、想像の域を出ないから、あくまで、想像だよ。だから刑事さん達には言わなかったのさ」
「そうなんですか・・・」
事務所の天上でぐるぐる回っているファンを目で追いながら英二はふと思い出した。
「・・・うーむ」
「ん、どうしたんだい英二君。また顔をしかめたりなんかして」
「少し気になったんですけど、どうしてわざわざ小嶋邸の庭で毒ナスを育てたんでしょうか?自分の家でやったほうがリスクも低いでしょうに・・・」
「和弘の家は団地だろ?だから育てるのが難しかったんだよ」
「あのナスはどうやって食べさせたんでしょうか?」
「あぁそれはね、ハンバーグに大量に混ぜて、それを『今夜にでも食べてね』と言って、食べるように仕向けたんだって」
「でもそれじゃあ、本当に食べるかどうか分からないじゃないですか」
「それが分かるんだよ。チエ子さんは孫のためなら色々やってあげたくなるって言ってたろ?そんな孫が料理を作ってくれて、是非食べてなんて言ってくれたらチエ子さん達なら早かれ遅かれ食べるだろうね。孫の和弘はそれが分かっていたんだ。ちなみに、この前ニュースでやってた『北上団地周辺でイヌ・ネコの死体が増加してる』ってのも、和弘が犯人だったらしい。本当に殺せるかどうか、実験台にしてたそうだよ」
「ええッ!そうなんですか・・・イヌ・ネコを実験台にするなんて・・・和弘の動機は一体なんだったんでしょうか?あんなにチエ子さん達に可愛がられていたのに・・・」
「・・・動機は保険金目当てだったらしいよ。手に入れたお金でパチンコ三昧したかった。と、同時に老夫婦の存在が面倒だったためでもあると吐いたと聞いたよ」
「あんのクズヤローッ!今度会ったらぶん殴ってやるッ!」
「それなら安心していいよ、岡橋警部が力いっぱい胸ぐらつかんで五発くらいぶん殴ったらしいから」
「え、それ警部さん大丈夫なんですか?」
「一ヶ月の謹慎処分をくらったらしい」
「ですよね」
当然、酒井と英二は殴られた和弘の心配はしなかった。
奥山市。
それは日本のどこかに存在する町だ。名前の通りド田舎で、山と海に囲まれている。山と海の自然の香りに包まれて、というと聞こえはいいが、要するに生臭い変な匂い。特に雨上がりは最悪だ。
こんな街で起こった数ある事件の内の一つに、しがない商店街の一角にひそかに生息している探偵が関わっていたことを知っている人は非常に少ない。
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はじめまして。
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指摘してくださり、ありがとうございます!
訂正しておきます。
できればこれからも、何かあれば指摘してくださるとありがたいです。よろしくお願いします!
ありがとうございます
質問です
続きはいつになりそうですか?
最近忙しいため未定です