探偵はじめました。

砂糖有機

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ヘビを使った殺人は可能か?

二人目の依頼人

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「ほ、ホントにやるんですか!?」
「あぁやるさ」
英二の問いにあっさりと酒井は答えた。
「で、でもどうやってあのバカっ広い山から探すんですか?」
「英二君、僕が探すなんていつ言った?」
「ついさっき。探しだしてみせましょう!!と、確かに」
「・・・ゴホン!まぁいいさ、簡単な話普通に買ってくれば良いじゃないか、ペットショップから」
「売ってませんよ、ペットショップには。だってアレ、えーと、ほら、ここに書いてある通り売ってませんよ、日本では」
英二の手にはさっき権藤から渡されたメモ用紙が、確かにそう書いてある。
「・・・マジで?どうしよう?」
その時、戦いのゴングが高らかに鳴り響く。
「マジで?じゃないですよどーするんですかッ!」
「ど、どーするったって、やるしかないだろう!これで家賃を滞納している分返せるんだぞ!」
「ためてんのあんたじゃないですか!それに俺ヘビ苦手って何度も言いましたよね!?っていうか平手打ちはヒドくないですか!?あーあ!!痛かったなぁ!!」
「あれは君がしつこくヘビが苦手だー、触りたくないだー、見たくもないー、とか言って権藤さんの気のさわることを言うからだろう!それに一千万だぞ一千万円!」
ただいま酒井探偵事務所では口論、別名口喧嘩が繰り広げられている。
「で、でも様々な毒性があるって言ってたじゃないですか!噛まれて死んだらどーするんですか!金に命は変えられませんよ!」
「ぐッ!こ、このッ!それが弟子が師匠にむかってその物言いはなんだ!」
「はぁ!?俺がいつあなたの弟子になったんですか!?」
いつの間にか弟子にされてた英二。
「とーぜんだッ!探偵事務所に所長と社員、合わせて二人、流れ的にそうなるだろう!」
お互いにどんどんヒートアップしていく。
「なんだとこの自分勝手暴力貧乏探偵ッ!!」
「侮辱したな!!この所得税断固ボイコットッ!!」
・・・もう喧嘩している二人はおいといて話を進めるとしよう。

カランと音をたてて入り口に現れたのは中肉中背の若い男性だった。
「あ、あのー・・・こんにちは・・・酒井探偵事務所ってここで合ってますか?」
若い男性は遠慮がちに尋ねると
「「ええ!!そーです、ここが酒井探偵事務所です!」」
この二人、まだ喧嘩していたようだ。
客人に当たるのは、きっとこの二人の頭は昼休みの男子中学生レベルだからだろう。
「い、一体なにがあったかは分かりませんが落ち着いて下さい!」
そう言われるとやっとこの『自分勝手暴力貧乏探偵』(つまり自己中)と『所得税断固ボイコット』(つまりニート)は恥ずかしくなり、落ち着きを取り戻した。
「ふぅ・・・で、ご用件はなんでしょう」
調子を取り戻し、話し始めた酒井。
「あ、その前に。私は高原厚志と申します。コレ、名刺です」
名刺をさっきとはうって変わって丁寧に受け取り
「僕は酒井浩一と申します。以後お見知り置きを」
酒井も名刺を差し出した。
「用件はなんでしょう?」
「じ、実はその、探してほしいなー・・・と思いまして・・・」
高原は一枚の写真を差し出した。
写真には長い黒髪で顔は整っている、まるでモデルのようだと感じてしまうような女性が写っていた。手にヘビを抱いていなければなぁ・・・・
「こ、こちらは?」
酒井は尋ねると
「彼女はマチコといいます」
「へぇ~美人ですねぇ」
英二は思ったまんまのことを言っただけのつもりが、高原を熱くしてしまったようだ。
「そうでしょうそうでしょう!美人ですよね!」
しかし、少し引きぎみに写真を再び見た。
「でも、この長い不気味なブツが・・・」
「あぁ、彼女は動物がとても好きで他の動物ともふれあうことが多いんですよ!」
「へ、へぇー悪趣m・・・いででででで!!」
英二はふと横を見るとニコニコしながら自分の太ももを強くつねる酒井の姿が。
「ご、ごめんなさいごめんなさい!!も、もう黙ってますからッ!」
「はい、よろしい。さて、話を戻して、用件はなんでございましょう?確か、探してほしいと聞こえたのですが・・・」
「は、はぁ・・・」
少し頷き語り始めた。どうやらクールダウンしたようだ。
「いなくなってしまったんです。彼女が、マチコがいなくなってしまったんです」
「この娘が!?ど、どうしていなくなってしまったと思うんですか?」
高原はうつむきながら語りだす。
「実は、最近知り合いから聞いたんです。狙われているって・・・彼女が・・・・」
「か、彼女って、このマチコさんのことですか!?」
コクリ、と頷く。
「それにここ一週間帰ってこないんです・・・」
同棲か・・・
独身男性二名が、額に冷たい汗が流れる。
「わ、私たち結婚する予定なんです。だから心配で心配で・・・」
「け、結婚!?」
「追っ手から綾根山に逃げ込んだらしくて・・・」
「ご自分で探されては?愛しい愛しい彼女があなたをお待ちですよぉ?」
酒井はイライラしてつい挑発する話し方になってしまった。
よし、俺もひっぱたこうと英二は手をスリスリとこすり始めた。
「探しましたよ、探しました!しかし僕一人じゃ難しいんです!!ダメですか!!」
しかし、いきなり勢いつくものだから英二はつい手を引っ込めてしまった。
「す、すいません、落ち着いて下さい」
酒井がドウドウとして落ち着かせた後、深くため息をつくとゆっくり口をひらいた。
「ところで、どうして彼女は狙われているのですか?」
「さぁ・・・分かりません・・・」
「そうですか・・・まぁ彼女は危ない状況にあるのですね?」
「はい・・・どうか、この依頼受けてくれませんか?」
その後にやる気がみなぎる一言が。
「もちろん、報酬は思いのままです」
酒井は一息つくと返事を返した。
「分かりました。我々も探します。引き受けましょう」
高原は立ち上がり喜んだ。
「ホントですか!ありがとうございます!あ、見つかったら電話下さい!では、失礼します!」
カララン、ドンッ!
出入口のドアが大きな音をたてた。
そのまま風のように山の方へ走り抜けてく高原。
その姿をただ見送っていた二人だった。


そのあと、クルリと英二の方に顔を向けると酒井が指示をだした。
「英二君!初仕事だ、君はヘビを探すんだ!」
「ええッ!!俺はヘビ無理ですよ!」
「僕は所長だ!君に拒否権はない!」
「そんなぁ・・・ひどいです!あ!そうだ!同じ綾根山を探すんですから一緒にやりましょうよ!」
「ダメだ、僕は綾根山付近の人に聞き込みをしなければならないからね。ヘビは山の中だ。頑張りたまえ」
「はぁぁ・・・仮病を使いたい・・・」
英二は暗くなり、ため息を吐いた。しかし、酒井は容赦しない。
「何か言ったかい?さぁ、準備して出発するのだ!」
「はいはい、分かりました!分かりましたよ!」
・・・あ、そういや今日バイトの日だったなー、どうしよ?
英二の頭にはバイトのことがよぎったが、間もなく、まぁいいや休もうという結果になった。
ここでバイトをしてはまた何か言われるだろうと予測したからだ。そんなことでバイトを休んで良いのだろうか・・・
英二は一通り準備を済ませると出発した。
・・・さて、僕も出発するかな。酒井は準備をしながら少し考え事をした。
先ほどきたぽっちゃりはなぜわざわざ探偵である僕らに一千万円払ってまで雇ったのだろう?
他のシュワちゃん二人に頼めばいいのに・・・
それに高原もそうだ、人が狙われていて山に遭難したのなら警察でちゃんと保護してもらえる上に大勢で探せるし、タダだ。
報酬は喜ばしいが、この二つの依頼、僕らの知らされなかった何かがあるのかもしれないな。
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