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プロローグ
しおりを挟む"この瞳を得られて、私の人生は大きく変わった。それは、良いほうでも悪いほうでもある。あのまま騙されていたら、私はどうなっていただろうか。……確実に、無知のまま私は殺されていた。けれど、彼らが死ぬことはなかったのではないか。"
―――朝方の九時ごろ、いきなり玄関の両開き扉の開く重い音が、部屋に響いた。客人を応接室に待たせて、玄関に向かうと、そこにいたのは、私の夫アダンだった。
「悪いけど今月も、ビアンカ様の護衛をすることになったんだ。まだ当分は帰れないと思う」
ようやく帰ってきたのね、おかえりなさい、とそう声をかける前に、彼は羽織っていた汚れた上着を私に押し付け、玄関で急いで靴を彼のお気に入りのものに履き替え始める。上着はこんなにも汚れているのに、靴は綺麗なままだ。それなのにどうして履き替える必要があるのか。
「そう、なの。でもあなた最近働きすぎじゃない?いくら公爵令嬢とはいえ、彼女の護衛は、公爵様の個人的な依頼なんでしょう、貴方が断りずらかったら、私が言ってあげるわよ」
「……いやだめだ。公爵様は相当の愛娘家だし、ビアンカ様も俺以外に護衛されたくないと言っていたみたいだし、とりあえずあの二人はわがままなんだ。断ったりなんかしたら隊位を下げられるかもしれない」
私は思わず目を見開く。もしも……彼の話が本当なら、アダンはこの半年のほとんどは彼女の護衛や辺境に出張を行っていることになる。そもそも王国騎士が王都を離れて人の護衛を行うのは、あまり褒められた行為ではない。それにジル公爵は個人依頼で部下にそんなことをする人ではないだろう。
「まさか。そんなことはしないわよ」
「とりあえず、行ってくるから。寂しい思いをさせるかもしれないけど、留守番よろしくな」
「あ……まって」
次はいつ帰ってこられるの、そう言おうとしたが彼はすでに出てしまっていた。明日は三年目の結婚記念日だった。その話題が少しでもでるかもと、期待したのに。
でも、これでいいのよ。
「――ところでジル公爵、ビアンカ様。彼は一体何処へでかけたのでしょうか」
応接室にいた彼らが、扉を開け、深刻な顔をしてゆっくりとこちらに向かってくる。私も振り向き、そう問う。
全くいい、タイミングだった。まさか二人がアダンのことで訪れていたこの時間に、彼が帰ってくるなんて。こんなチャンス逃すわけにはいかないと、扉を半分開けていてよかった。最も玄関に近いこの部屋にいる彼らは確実に私たちの会話を、アダンの嘘を聞いていただろう。
「貴方の話は信じれないと思っていたが……彼がこんなにも表情を崩さずに嘘をすらすら吐く男だったとは」
二人は、呆れた、と言わんばかりの表情で扉を見つめる。公爵は怒りすらだいているように見える。当たり前よね、夫はビアンカ様をわがままだと侮辱したんだもの。
「屈辱だわ。わがままですって?彼に護衛を頼んだことなんて一度もないのに。
……ねえ、ディーナ。今も、貴方にはアレが映っていたの?」
アレ。
「……ええ。ずっとずっと、見えていました」
彼と会話するたびに見えていた、あの、赤黒い炎が。
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