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第二部
歪な救出
代わりに聞こえてきたのは、肺の奥まで凍りつかせるような、硬質で冷徹な声だった。
「お前、その男に何をしようとした?……その汚い拳を二度と使えないようにしてやろうか?」
聞き覚えのある威圧的な声に恐る恐る目を開けると、僕のすぐ目の前で、男の太い手首が誰かに掴まれていた。
鋭い目には怒りがこもり、ものすごい形相で男たちを見下ろしている。
「だ、誰だよ!お前には、かっ、関係ないだろ?」
焦ったように一人の男が口を開く。
その口を横の男が青ざめた顔で塞いだ。
「知らないのか?この方は公爵家の子息リヴァルト様だ。騎士団の副団長だぞ。」
「り、リヴァルト……っ!?」
男が悲鳴に近い声を上げた。
リヴァルトは男の手首を、まるで見せしめのようにゆっくりと、しかし逃げ場を許さない力で握りつぶしていく。
彼は男たちを悪党として見てすらいなかった。
道端に落ちている不快な害虫を、ただ冷ややかに見下ろすような瞳。
その視線がわずかに動き、男たちの側にいた僕を捉えた。
その瞬間、ズキッと手首が痛んだ。
リヴァルトの目はとても人を助けようとしている目ではない。
先程まで興味も無さそうに男たちを見ていた目が、今は熱く、熱を帯びている。
「こいつらに、何かされたのか?」
射抜くような視線を向けたまま、リヴァルトが問うた。
僕は震えながら、首を横に振るのが精一杯だった。
再び、リヴァルトの視線が男たちを捉える。
「俺に捕まって一晩牢屋で過ごしたくないのなら、今すぐこの場から去れ。」
「はっ、はい!」
「申し訳ありませんでした!。」
男たちはリヴァルトを恐れ、一目散に逃げていく。
しかし、その内の一人が去り際、僕に鋭い視線を向けた。
それは苛立ちか……
逆恨みか……
僕には判断できなかった。
男たちが去ると、店内は静寂に包まれた。
席にいる客たちも、緊迫した空気に戸惑っている様子だ。
「あの、ありがとうございました。」
僕は、未だにこちらを凝視しているリヴァルトに小さく礼を言うと、客の方へと頭を下げた。
「お騒がせして申し訳ございません。ごゆっくりお食べください。」
トラブルが解決したことで、客も安堵したのか、再び食事を始める。
少し経つと、店内にはいつもと変わらない雰囲気が戻っていた。
ノアは大丈夫だろうか……
ふと、そんな思いが胸をよぎる。
男たちに言い寄られ、震えていたノアはまだ顔を出さない。
心配になって、店の奥へと歩き出した。
「おい、どこへ行く?」
後ろから、リヴァルトの低い声が飛んできた。
「ノアが男たちに襲われそうになったので、心配で……」
「……。」
僕の言葉にリヴァルトからの返事はない。
だから、彼が何を思っているのか僕には見当もつかなかった。
店の奥には、俯いて拳を握るノアの姿があった。
よく見ると肩が小さく震えていて、痛々しい。
何と声を掛ければいいのか迷っているとーー
「すみません。対応を代わってもらって……」
ノアは鼻声でそう言った。
泣いていたのかもしれない。
「もう少ししたら戻りますから、大丈夫です。」
きっと、すごく怖かっただろう。
複数の男に囲まれて、体を触られて。
大丈夫なわけがない。
「ノア、無理しなくていいよ。今日はもう上がって。後は僕に任せてくれていいから。」
僕がそう言うと、ノアは少し不安そうな顔をした。
いつまでも客を放っておくわけにもいかず、僕は店内に戻る。
去り際、
「落ち着くまでここで休んでていいからね。」
と、ノアに声を掛けた。
僕の言葉に、ノアは小さく頷いた。
いつもは毒舌で明るい彼のそんな姿に、心がチクリと痛んだ。
店に戻ると、リヴァルトは何事もなかったかのように席についていた。
相変わらず、視線はこちらに向いている。
その時、さっきのノアの不安そうな顔を思い出した。
きっとこんな日に、夜道を一人で歩いて帰るのは不安だろう。
どうしよう……。
リヴァルトは騎士だ。
ノアを送ってもらうのに、これほど心強い人もいない。
でも、怖い……
散々悩んだ末、僕はとうとう彼に声を掛けた。
「あ、あの……リヴァルト様……」
僕から声を掛けると、リヴァルトは一瞬驚いた顔をした。
すぐに元の表情に戻ったが、なぜかその目はいつもより穏やかに見えた。
これなら、お願いできるかもしれない……
僕はチャンスだと思い、口を開いた。
「あの、もしよろしければ、ノアを家まで送ってくださいませんか?」
しかし、僕がそう言った途端、リヴァルトは不機嫌そうに眉を寄せた。
どうして……
急な変化に戸惑ったが、今さら言葉を引っ込めることもできない。
「ノア、すごく怖がっていて……早く家に帰してあげたいんですけど……ぼ、僕もまだお客様がいるし、一緒にいてあげられないから……」
リヴァルトの視線が怖くて、言葉が詰まる。
「……。」
リヴァルトは何も言わず、こちらを見ていた。
しかし、しばらくすると、
「……分かった。」
短い返事が返ってきた。
僕は勢いよく頭を下げると、ノアの元へ急いだ。
リヴァルトのことを説明すると、ノアは一瞬、複雑そうな顔をした。
それでも、やはり怖さの方が勝ったのか、最後には首を縦に振る。
そしてそれから間もなく、二人は連れ立って店を出て行った。
開けたドアから夜風がスーッと入り込んでくる。
生温いはずの風なのに、なぜか背筋がゾクっとした。
「お前、その男に何をしようとした?……その汚い拳を二度と使えないようにしてやろうか?」
聞き覚えのある威圧的な声に恐る恐る目を開けると、僕のすぐ目の前で、男の太い手首が誰かに掴まれていた。
鋭い目には怒りがこもり、ものすごい形相で男たちを見下ろしている。
「だ、誰だよ!お前には、かっ、関係ないだろ?」
焦ったように一人の男が口を開く。
その口を横の男が青ざめた顔で塞いだ。
「知らないのか?この方は公爵家の子息リヴァルト様だ。騎士団の副団長だぞ。」
「り、リヴァルト……っ!?」
男が悲鳴に近い声を上げた。
リヴァルトは男の手首を、まるで見せしめのようにゆっくりと、しかし逃げ場を許さない力で握りつぶしていく。
彼は男たちを悪党として見てすらいなかった。
道端に落ちている不快な害虫を、ただ冷ややかに見下ろすような瞳。
その視線がわずかに動き、男たちの側にいた僕を捉えた。
その瞬間、ズキッと手首が痛んだ。
リヴァルトの目はとても人を助けようとしている目ではない。
先程まで興味も無さそうに男たちを見ていた目が、今は熱く、熱を帯びている。
「こいつらに、何かされたのか?」
射抜くような視線を向けたまま、リヴァルトが問うた。
僕は震えながら、首を横に振るのが精一杯だった。
再び、リヴァルトの視線が男たちを捉える。
「俺に捕まって一晩牢屋で過ごしたくないのなら、今すぐこの場から去れ。」
「はっ、はい!」
「申し訳ありませんでした!。」
男たちはリヴァルトを恐れ、一目散に逃げていく。
しかし、その内の一人が去り際、僕に鋭い視線を向けた。
それは苛立ちか……
逆恨みか……
僕には判断できなかった。
男たちが去ると、店内は静寂に包まれた。
席にいる客たちも、緊迫した空気に戸惑っている様子だ。
「あの、ありがとうございました。」
僕は、未だにこちらを凝視しているリヴァルトに小さく礼を言うと、客の方へと頭を下げた。
「お騒がせして申し訳ございません。ごゆっくりお食べください。」
トラブルが解決したことで、客も安堵したのか、再び食事を始める。
少し経つと、店内にはいつもと変わらない雰囲気が戻っていた。
ノアは大丈夫だろうか……
ふと、そんな思いが胸をよぎる。
男たちに言い寄られ、震えていたノアはまだ顔を出さない。
心配になって、店の奥へと歩き出した。
「おい、どこへ行く?」
後ろから、リヴァルトの低い声が飛んできた。
「ノアが男たちに襲われそうになったので、心配で……」
「……。」
僕の言葉にリヴァルトからの返事はない。
だから、彼が何を思っているのか僕には見当もつかなかった。
店の奥には、俯いて拳を握るノアの姿があった。
よく見ると肩が小さく震えていて、痛々しい。
何と声を掛ければいいのか迷っているとーー
「すみません。対応を代わってもらって……」
ノアは鼻声でそう言った。
泣いていたのかもしれない。
「もう少ししたら戻りますから、大丈夫です。」
きっと、すごく怖かっただろう。
複数の男に囲まれて、体を触られて。
大丈夫なわけがない。
「ノア、無理しなくていいよ。今日はもう上がって。後は僕に任せてくれていいから。」
僕がそう言うと、ノアは少し不安そうな顔をした。
いつまでも客を放っておくわけにもいかず、僕は店内に戻る。
去り際、
「落ち着くまでここで休んでていいからね。」
と、ノアに声を掛けた。
僕の言葉に、ノアは小さく頷いた。
いつもは毒舌で明るい彼のそんな姿に、心がチクリと痛んだ。
店に戻ると、リヴァルトは何事もなかったかのように席についていた。
相変わらず、視線はこちらに向いている。
その時、さっきのノアの不安そうな顔を思い出した。
きっとこんな日に、夜道を一人で歩いて帰るのは不安だろう。
どうしよう……。
リヴァルトは騎士だ。
ノアを送ってもらうのに、これほど心強い人もいない。
でも、怖い……
散々悩んだ末、僕はとうとう彼に声を掛けた。
「あ、あの……リヴァルト様……」
僕から声を掛けると、リヴァルトは一瞬驚いた顔をした。
すぐに元の表情に戻ったが、なぜかその目はいつもより穏やかに見えた。
これなら、お願いできるかもしれない……
僕はチャンスだと思い、口を開いた。
「あの、もしよろしければ、ノアを家まで送ってくださいませんか?」
しかし、僕がそう言った途端、リヴァルトは不機嫌そうに眉を寄せた。
どうして……
急な変化に戸惑ったが、今さら言葉を引っ込めることもできない。
「ノア、すごく怖がっていて……早く家に帰してあげたいんですけど……ぼ、僕もまだお客様がいるし、一緒にいてあげられないから……」
リヴァルトの視線が怖くて、言葉が詰まる。
「……。」
リヴァルトは何も言わず、こちらを見ていた。
しかし、しばらくすると、
「……分かった。」
短い返事が返ってきた。
僕は勢いよく頭を下げると、ノアの元へ急いだ。
リヴァルトのことを説明すると、ノアは一瞬、複雑そうな顔をした。
それでも、やはり怖さの方が勝ったのか、最後には首を縦に振る。
そしてそれから間もなく、二人は連れ立って店を出て行った。
開けたドアから夜風がスーッと入り込んでくる。
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