大罪を極めし者〜天使の契約者〜

月読真琴

文字の大きさ
26 / 40

第二十五話 あなたを救うために

しおりを挟む
嘆きの森

「ウォォォォォォォォォォォ!」

「アァァァァァァァァァァァ!」

キィンンンン!
キンッ!、キンッ!、キンキンキィン!

森の中に甲高く剣を互いに交錯させた音が響き渡った。

この二人の剣を交錯させる速度は常人の目では追えないほどに加速していた。

二人は均衡を保っていたように見えた、だが、

(やっぱり、強い。しかも暁の方が手数が多い。)

それはそうだろう、ルシファーは細剣、暁は直剣の二刀流、手数が違うのは明らかだった。
(けど、技術は明らかに私が上回っている。)

暁は剣をただ振り回すだけに対してルシファーは細剣と直剣であり膂力も違うが、技術と紫電の蛇剣の効果で雷を纏わせて剣を振るう速度を上げてカバーしていた。

「ウォォォォォォォォォォォ!」

「フッ!」

暁がほんの少しだけ体勢を崩した、ルシファーがその一瞬の隙を突き、キィンと音を響かせて暁の剣を弾いた。

暁は体勢が大幅に崩れる。

ルシファーは勝負を決めに行ったその時、

「ッ!」

暁は体勢を崩されているにもかかわらず反対側の剣を振るってきた。

ルシファーは攻撃をキャンセルして、防御に移ったが、完全に剣の間合いをはじき出されてしまった。

「流石だね、暁。今のは流石に決まったと思ったよ。」

内心ルシファーは焦っていた。

(今ので、決められなかったのは痛かったかな。)

今の隙は絶好のチャンスだったのだ。

暁は今後さっきのような隙を晒さないだろう、つまり

(手詰まり、かな?)

いや、まだルシファーには手があった、けれどもかなり危険な橋を渡らなくてはならなかった。

「ウォォ、る、シフぁー。ウァァァ!」

(暁は、苦しんでいる、戻すにはしかない、なら私も腹をくくる!)

そして、ルシファーは詠唱を始めた。

「我は闇を照らす光、暗き大地に光を呼ぶ者。」

ルシファーが紡ぐのは全ての穢れを祓う神聖な光、だが、その詠唱の完成まで、暁が待つ理由が無い。

暁は本能で何かを感じ、ルシファーに斬りかかった。

だが、ルシファーは暁の攻撃の全てを捌いていた、ルシファーは完全に防御に回ることでを可能としているのだ。

この世界に並行詠唱を出来る人はどのくらい居るだろうか?

ましてや、今のルシファーが紡ぐのは独自詠唱魔法であり、かなり長い時間の詠唱が必要とされている。

「かの迷える者にどうか、道しるべを描いてほしい。」

暁の攻撃は苛烈さを増していた。
ルシファーの身体のところどころに切り傷が刻まれていく。

服に血が滲んでいった。
だが、ルシファーは、

「それでもまだ、迷い、嘆くと言うのなら。」

詠唱を止めなかった。

「私自身があなたの道しるべとなろう。」

詠唱が完成に近付く、

「聞き入れよ私の声を、感じよ私の温もりを。」

だんだんと、ルシファーも暁の攻撃を捌ききれなくなってきた。

「そして今、あなたの心の穢れを祓う時!」

詠唱が完成すると同時に暁に剣を宙に弾かれた、否、ルシファーは暁に剣を、そうして暁に一気に接近して、

穢れ祓う天の光アマテラス

その言葉と共に暁にキスをした。

辺りに光が広がった、なぎ倒された木々はたちまち元の形になり、変色していた草花も元の色を取り戻していた。

そうして、辺りには幻想的な光景が広がった。
「ウォぉぉお、…………る、ルシファー、か?」

暁の瞳に理性が戻っていた。

「うん、そうだよ、私はルシファーだよ!」

詠唱が完成するまで暁の攻撃を捌ききれるかは賭けだったのだ。
その賭けが成功して、暁に理性が戻った。
「おかえり、暁っ!」

「ああ、ただいま。」

二人は抱き締めあった。

「そう言えば、ルシお前怪我しているじゃないか!」

「ん、このくらい平気だよ。」

ルシファーは暁の攻撃を受け続けていたので、身体はボロボロだった。

「すまないな、俺のせいで、こんなに怪我をさせちまって。」

暁は自分自身に嫌悪感を抱いていた。
守ると誓った少女を自分が傷つけてしまったことに。

「ううん、大丈夫だよ。それに暁に憤怒を発動させちゃったのは私のせいだから。」

ルシファーと暁は互いが互い申し訳なくおもっていて、話が全く進まなかった。

「ん、だからこの話はもうやめよ?私は、ルシファーはあなたのことを許します、これで終わりっ。」

暁は数秒間ポカンとしていたが、その言葉を理解したようで。

「分かった、俺も、暁もルシのことを全て許そうと思う。」

はにかんだ笑顔で互いが互いに謝った。

「話が終わったから、治療するね?」

ルシファーが詠唱を始めた。

「望むは治癒、傷を癒す、神秘の光。」

ルシファーは回復魔法の超級を使った。

完全治癒パーフェクトヒール

暁とルシファーの傷が癒された。

「ありがとう、ルシ。」

「ん、どういたしまして。」

ルシファーははにかみながらそう言った。

「じゃあ、戻るか、依頼も完了した事だしな。」

「ん、賛成。」

「っと、その前に。」

暁はゴブリンデミゴッドに近付き胸の中の魔核を取り出した。

「なんだこりゃ、色が全然違うじゃねぇか。」

普通は紫色なのにゴブリンデミゴッドの魔核は黒色だった。

「何が起きているんだか。」

暁は疑問を残しながら、街へ帰っていったのだった。



????side

「おや?実験体が一匹倒されましたか。」

「おい、実験体とはエンペラー種のことか?」

「そうですよぉー、まあ、たった一匹倒されたくらいじゃあ、問題はないでしょう。」

「おい、本当に問題はないんだろうな?俺たちの計画に支障をきたすなら容赦はしないぞ?」

「んっふっふ、問題はありませぇん、エンペラー種はゴブリン一匹だけではありませんので。」

「………まあいい、それよりも続きだ。」

「はい、そうしましょう、全ては我ら戒禁の紡ぎ手、十戒の名のもとに、邪神様への供物を捧げん。」

薄ら笑いを浮かべた十人が、最悪の十人が水面下で静かに動き始めた。

その中には、気味の悪い面を被った者がいた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...