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閑話 原初と終焉の過去
しおりを挟む原初の神剣オリジンと終焉の神剣ラグナロクは同時期に同じ鍛冶師によって作られた。
その鍛冶師の名はヘパイストス、青い髪に碧眼の美しい女神であり、名高き鍛冶神の一柱である。
オリジンとラグナロクは自分たちを作り出したヘパイストスのことを母親みたいな存在だと思っており、尊敬していた。
「お母さん!お母さん!何しているの?」
「オリジン、駄目ですよ?母様は今は鍛冶のお仕事をしているのですから、邪魔をしてはいけません。」
対してヘパイストスは、
「ちょっと待っていてね、もうすぐ出来上がるからね。」
ヘパイストスは口を動かしながらも槌を振るう速度を緩めなかった。
腕の良い鍛冶師ほど槌を振るった時の音がよく響くという。
ヘパイストスは神の一柱であり、鍛冶の腕は地上の人間とは比べ物にはならないほど明確な差が存在するのだ。
「うん、よく出来た。」
「お母さん、何ができたの?」
「母様、私も気になります。」
「うん、この子の名前はね、」
ヘパイストスが手に持っていたのは、派手過ぎず、だけど目を離せないほど美しい、刀だった。
「神刀朧、この子名前よ。」
「ふーん、朧か、うんっ!いい名前!」
「その子が私たちの新しい兄弟ですか。」
「うん、そうだよ仲良くしてね?でも、実体化出来るかは分からないからね?」
むしろ、ヘパイストスの作品の中で、実体化出来たオリジンとラグナロクの方が希少なのだ。
ヘパイストスが作る武器には魂が込められているが、ここまで感情がハッキリしていて、実体化まで出来るオリジンとラグナロクはとても珍しく、ヘパイストスも家族が出来たみたいで嬉しかったのだ。
「お母さん!終わったなら遊ぼう?」
「オリジン!母様の手を煩わせてはいけませんよ?」
「別にいいわよ、遊びましょうか!」
オリジンとラグナロクとヘパイストスは傍から見たらもう、仲のいい家族にしか見えなかった。
そうやって時は流れていったが、
「神刀朧がない?」
大事件だった。
ヘパイストスの作品はどれもが一流の作品であり、ヘパイストス自身管理はしっかりしてきていたのだ。
神が作ったものは使い方を誤ると等しく全てが危険なのだ。
「速く、探さないと!」
ヘパイストスは急いで探した、だが見つかったのは神界ではなく、下界だった。
「こ、これは。」
ヘパイストスは言葉も出なかった。
下界の神刀朧を持っていた人物は大量虐殺をおこなっていたのだ。
神剣、神刀、神槍、神弓、神盾などの神の手が入った物は何かと意思を宿しており、自身の認めた者しか使用することは出来ないのだ。
しかし、例外がある。
それは、神が直接渡した場合だ。
だが、その行為は神界ではタブーとされている。
何故なら、直接神から与えられて使えるようになっても武器自身が認めず、尚且つ使用者があまりにも弱かった場合、武器自身に乗っ取られてしまうのだ。
最悪なことに、朧はまだ作られてから日が浅いので訳が分からずに暴走してしまっているのだ。
このままでは、朧の使用者の命尽きるまで虐殺が続くだろう。
ヘパイストスは神として、自分の子が本意ではないとはいえ大量虐殺を行っているのを黙って見ていることは出来なかった。
よって、ヘパイストスは苦肉の策を取った。
「ごめんね、朧。武器破壊」
それは、自分の手で、自分の作った子を壊すことだった。
自分の子供を自分で殺すというのは、気分の良いものじゃなかった。
むしろ、最悪だった。
(絶対に、神が何人か関わっている。)
ヘパイストスは確信していた、厳重に管理していたはずの神刀朧を盗まれ、さらに下界の者に与えるなど生半可な神では出来ないのだ。
(おそらく、私は罰せられるでしょう。)
ヘパイストスは管理責任と下界での大量虐殺の罪に問われるであろうことを確信していた。
ヘパイストスは自分の作品たちを見ながら。
(この子たちも、没収されるでしょうね。)
ヘパイストスは項垂れていると。
「お母さん、どうしたの?」
「母様、大丈夫ですか?」
唯一実体化という、魂の具現化をすることが出来た、オリジンとラグナロクは今以上に厳重に管理されてしまうだろう。
いや、もしかしたら危険だから、という理由で破壊される可能性もある。
(それだけは、阻止しないと、私はもう自分の子供が死ぬのを見たくない!)
ヘパイストスは考えた。
そうして、
「聞いて、オリジン、ラグナロク。」
「なぁに、お母さん?」
「どうしましたか、母様?」
ヘパイストスは微笑みながらこう言った。
「あなた達はもう立派になったわ、だからあなた達を下界に行かせようと思うの。」
「お、母さん?」
「母様?」
「あなた達をとある所に封印しておきます、大丈夫よ、あなた達に相応しい使い手が現れたら、自動で封印が解けるようにしておくからね。」
未だにオリジンとラグナロクは混乱していた。
「その時は、あなた達自身で使い手の人を捕まえるのよ?」
ヘパイストスは涙ぐみながら、
「愛しているわ、私の子供たち。」
そうして、オリジンとラグナロクの意識は途絶えていった。
(ここ、は?)
(さあ、何処なんでしょうか?)
オリジンとラグナロクはなんでここにいるのか分からなかった。
記憶が無くなっていたのだ。
(うーん、考えても仕方ないっか!)
(いや、そこはもっと考えましょうよ。)
記憶が無くても、いつも通りの二人だった。
数百年後
(ねぇねぇ、ラグナロクー暇だよー。)
(暇なら寝ていればいいでしょう。)
オリジンとラグナロクはここに何年いたかもう既に分からなくなっていた。
(はあ、オリジンにあんなことを言いましたが、確かに暇ですね。)
その時だった。
パリィン!
((ッ!))
一際大きな音が響いた。
(封印が、解かれたの?)
(そのようですね。)
封印が解かれると同時にオリジンとラグナロクは感じていた、自分たちを振るうに相応しい存在を。
(こっちに来て、こっちに来て。)
そうして、ずっと呼び方続けた。
(こっちだよ、こっちに来て、待っているから。)
そうすると、一人の青年が来た、黒髪にボロボロの衣服を纏いながら。
そうして、台座の前まで近づいて来た、
(抜いて、抜いて、あなたをずっと待っていたんだよ。)
青年に二振りとも同時に抜かれた。
(ありがと、ご主人。)
(ありがとうございます、ご主人様。)
二人の止まっていた時間が再び流れ始めた。
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