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第1章「火星へ」
突入
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と。船内に肉声で、音楽的抑揚のあるメゾソプラノが流れた。
「進路誤差ゼロ。まもなくスラスター噴射に入ります」
俺は条件反射で姿勢を正し、シートベルトを確認した。
メゾソプラノが続く。
「60秒前からカウントダウンを始めます」
グリップを握り、ペダルに足を置く。
「スラスター噴射65秒前。60・59・58・57……」
[カージマー18]の船内でカウントダウンが行われるのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。
商社からこの船を買ってディーラーの営業マンと慣熟航海をしたときにもカウントダウンはあったが、そのときは[クワジマ]を名乗っていた。
そのあとは、デジタルメーターは俺が見るし、コンピュータの合成音声は気が散るのでオフにしている。
が、案外いいものかもしれない。こうやって、バカな物思いにふける余裕すらある。
メゾソプラノで奏でられる抑揚ををBGMに、集中力が手足に集まるのが、はっきり意識できた。
「……7・6・5・4、スラスター噴射っ!」
メゾソプラノの指示に併せてペダルを踏み、返事を返した。
「スラスター噴射ヨシ。加速確認!」
俺の返事にメゾソプラノが
「4発確認。1番3番停止。2番4番このまま」
と、間髪入れず返してくる。スポーツ競技でよく見る、トッププレイヤーのラリーの応酬のようだ。
俺は10年も船乗りをやってきて、10年ぶりの高揚を感じていた。忘れていた感覚だ。
センターモニターにジャイロと船体を重ねて投影してやる。
メゾソプラノが響く。
「トレイン回頭。カージマー、12。
トレイン174……171……170……168……」
メゾソプラノから主導権を奪う!
「トレイン弧数値をゼロから表示へ」
が、一瞬で取り戻された。メゾソプラノは
「切り替えヨシ。154……147……144……139……」
と続けた。声に引っ張られるが、それが心地いい。
一匹狼を気取ってみても、根っこにはまだサラリーマン根性が残っているのか。
つい、自分でも数字を声に出して合わそうとしてしまう。
「138・136…………」
「133・132・131・130……」
Gに頬が引っ張られ、ついでに口元がにやける。
それで数字の読み上げが止まってしまった俺を、ごく自然にメゾソプラノの声が追い抜く。
「回頭26。トレイン128。ワイヤーパージ準備」
ようやく俺のターンだ。
「モニターオールグリーン。パージタイミング送レ!」
言いつつ、指先の感覚だけで操作パネルのアクリルカバーを開いて、ボタンに親指を乗せる。
メゾソプラノのカウントダウンが続く。
「トレイン、124……122……パージ!」
それだけでよかった。
俺は何の気負いも迷いもなく、ボタンを押した。
岩塊群を繋いだまま、ワイヤーが船体から離れていく。
さて、ゲームのポイントはどちらが取ったのだろうか?
「く」の字というか、120度の曲率をもつ弧状になった岩塊群が、管制室の外周パネル越しに船体をかすめて、追い越していくのを見る。
岩塊群は自重も含めた巨大慣性に回頭による若干のベクトルが加わり、わずかに方向を変えて、それでも直進していく。
その様を、俺の阿呆のように眺める顔に気がついているのかいないのか、メゾソプラノの声がかかる。
「カージマー、33! スラスター2番4番停止。1番3番開け!」
ガクン! という衝撃をうけて、俺はほくそ笑んだ。
「やっぱり、座学だけじゃここまでだな」
俺は勝利を確信した。カウンタースラスターのショックだ。
もっとキャリアを積んで、ついでに時間に余裕があれば、どれだけ衝撃を抑えるかが航海士の腕の見せ所だ。
もっとも今回は計算値だけでやっていて、マージンも読めない。
……というか。腕が試される航海士は俺で、キャリアも実際の操作も俺の領分だ。
それを呆けて、何も考えず言われるままに動かしての衝撃だ。
相手を見下すなんてとんでもない。
「バカヤロウ!」
思わず自分を罵った。
ゲームはともかく、セットは俺の負けだ。
次の手順は頭に入っている。
船体が60度横を向いたときに回頭を止め、その姿勢で慣性のまま横向きに滑ってパージした岩塊を追う。
今度はかすかなスラスター制御で、ほとんど衝撃を出さずに船を止めて見せた。もはやメンツの問題だ。
回頭が終わって船が止まり、少し余裕ができたところでモニターから目を離して船長席に目をやった。
船長席に深く座ったガキ、メゾソプラノの声の持ち主は俺の視線にも気づかず、無人の機関士シートというかその後ろのパネルを見ている。
岩塊をパージしたあと本船は横滑りで追っているため、船の正面を映す天井パネルではなく、サイドパネルに岩塊が映っていた。
手元を操作してモニター投写位置を調節し、天井パネルの中央に岩塊と船の進行方向正面が来るようにした。
ガキは無言で俺に向かって右手を伸ばし、親指を立てて笑顔を見せた。
「ふー」
一段落付いたようだ。
カウンタースラスターの衝撃をのぞけば、そのあとは俺の腕もあって振動すらない。
ペダルから足をはなしレバーから手を離して、シートに腰掛けたまま両手を大きく後ろに伸ばした。
……え?
そんなハズはない!
ここは火星から3日、10光秒も離れていない。
船の行き交いも多く、比例してスラスター剤の放出も多い。つまり「雲」も多い。
本来ならドライアイスデブリが無数にあり、横向きに腹を見せて飛ぶなんて無謀この上ない。
しかし、現実に衝撃はない。
俺はガキから目を離し、ガキの視線の先、つまり船の進行方向を映す天井パネルを見た。
「雲」はそれこそ無数にある。
が、先行する岩塊が露払いとなって「雲」を穿ち、その真後ろにいる本船に近づくことを許さない。
まさか、ここまで読んでいた?
「化けやがった……」
「本当に化けやがった」
もう1度、ゆっくり呟いた。
もっとも、化けたのは能力だけではない。
4ヶ月あまりを経て、坊主頭はショートカットほどの長さになった。
この頭なら「ドブネズミ色」ではなく「アッシュグレイ」と呼ばなければ、むしろ俺の色彩感覚が疑われる。
青白かった肌は船内照明に含まれる紫外線を受けて健康的な肌色を手に入れ、体中に無数にあったアザはすべて消えた。
ちゃんと食って寝るという生活で、こけていた頬は丸みを取り戻し、ケツや胸に脂肪を余らせるほどになった。
というか、全体的に丸みというか柔らかさを得ている。ガキの身体ではなくなっていっている。
それで困るのが、このガキも自分の身体の変化に感覚が追いつかず、相変わらずTシャツとトランクスだけで飛びついたりしがみついたりすることだ。
無重力のセンターチューブに浮かんで胡座を組んで飯を食うのはまだ許すとして、サイズの合っていないトランクスの裾が広がり、目をそらさないと見えてしまいそうになる。
はっきり言って、俺の理性の方が危ない。
あえて強くたしなめるため「クソガキ!」と呼んだら、指を開いてスナップをきかせたサイドパンチを頬に返してきた。
どこでこんなパンチを覚えやがったんだ。
バカヤロウがっ!
だから。
まもなく火星についてこのガキと別れるのは、寂しくもあるが安堵感の方が大きい。
実質ワンオペのこの船で航海士が色に狂ったら、その先は破滅しかない。
アダムとイヴは、リンゴを食って楽園を追放された。
俺たちは、船から真空中に追放されるか、船もろとも宇宙の彼方に追放されるかだ。
DD51型を含むすべての船に標準工具と同列に聖書が備え付けになっているのは、あるいはこの教えを伝えるためかもしれない。
……バカヤロウ。
岩塊群が集積場の方向に消えていくのを、レーダーで確認した。
集積場とここでは5光秒ほど離れていて、あの勢いで突っ込んでいっても3日前後かかる。
が、慣性で直進するだけだ。計算上は、1km以下の誤差に収まるはず。
ほどなく集積場からあちらのレーダーで岩塊群を確認できたことと、キャッチのルートに乗ったという信号が来た。
あとはこの船の番だ。
横滑りで航行する船体にカウンタースラスターを当てて、船首を火星の方向に向ける。
「しっぽ」がないぶん、動きの制限は少ない。
俺はつい、「船長」の指示を仰ぐかのようにキャプテンシートを見た。
ガキは自分の仕事は終わったとばかり、モニターから目を離して聖書のページを開いていた。
ガキに声をかける。
「おい。仕事が終わったんなら、とりあえず寝ておけ。
起きたら48時間、本当に眠れなくなるぞ!」
「メシは食えるん?」
「寝てる間は食えない。起きていたら食える。いつもと同じだ」
ガキはニヤリと笑みを浮かべた。
「6回食えるんならええか」
「……7回な。入港の時は特別にもう1回メシが食える」
ガキが歓声を上げる。
「したら毎回入港したらええのに!」
「だから毎回入港しようとしてるんだろう!
バカヤロウ!」
それでもガキは、やはり聖書を読んでいる。
もうほとんど辞書は必要なくなったし、コンピュータの補助音声も久しく聞いていない。
ただ、航海士を目指すのなら専門書を読んで欲しいが、聖書を渡したのは俺だ。
「だから寝ろ!」
怒鳴る俺に、面倒くさそうにガキが応えた。
「メシ食って、赤灯になったら寝るわ」
まったく。聖書の何が面白いんだか。
メシが終わると、ガキがセンターチューブに移動した。
聖書は所定の場所に戻していて、読書にふける気はなさそうだ。
ついでに、キャプテンシートに残るつもりも。
……バカヤロウ。
「進路誤差ゼロ。まもなくスラスター噴射に入ります」
俺は条件反射で姿勢を正し、シートベルトを確認した。
メゾソプラノが続く。
「60秒前からカウントダウンを始めます」
グリップを握り、ペダルに足を置く。
「スラスター噴射65秒前。60・59・58・57……」
[カージマー18]の船内でカウントダウンが行われるのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。
商社からこの船を買ってディーラーの営業マンと慣熟航海をしたときにもカウントダウンはあったが、そのときは[クワジマ]を名乗っていた。
そのあとは、デジタルメーターは俺が見るし、コンピュータの合成音声は気が散るのでオフにしている。
が、案外いいものかもしれない。こうやって、バカな物思いにふける余裕すらある。
メゾソプラノで奏でられる抑揚ををBGMに、集中力が手足に集まるのが、はっきり意識できた。
「……7・6・5・4、スラスター噴射っ!」
メゾソプラノの指示に併せてペダルを踏み、返事を返した。
「スラスター噴射ヨシ。加速確認!」
俺の返事にメゾソプラノが
「4発確認。1番3番停止。2番4番このまま」
と、間髪入れず返してくる。スポーツ競技でよく見る、トッププレイヤーのラリーの応酬のようだ。
俺は10年も船乗りをやってきて、10年ぶりの高揚を感じていた。忘れていた感覚だ。
センターモニターにジャイロと船体を重ねて投影してやる。
メゾソプラノが響く。
「トレイン回頭。カージマー、12。
トレイン174……171……170……168……」
メゾソプラノから主導権を奪う!
「トレイン弧数値をゼロから表示へ」
が、一瞬で取り戻された。メゾソプラノは
「切り替えヨシ。154……147……144……139……」
と続けた。声に引っ張られるが、それが心地いい。
一匹狼を気取ってみても、根っこにはまだサラリーマン根性が残っているのか。
つい、自分でも数字を声に出して合わそうとしてしまう。
「138・136…………」
「133・132・131・130……」
Gに頬が引っ張られ、ついでに口元がにやける。
それで数字の読み上げが止まってしまった俺を、ごく自然にメゾソプラノの声が追い抜く。
「回頭26。トレイン128。ワイヤーパージ準備」
ようやく俺のターンだ。
「モニターオールグリーン。パージタイミング送レ!」
言いつつ、指先の感覚だけで操作パネルのアクリルカバーを開いて、ボタンに親指を乗せる。
メゾソプラノのカウントダウンが続く。
「トレイン、124……122……パージ!」
それだけでよかった。
俺は何の気負いも迷いもなく、ボタンを押した。
岩塊群を繋いだまま、ワイヤーが船体から離れていく。
さて、ゲームのポイントはどちらが取ったのだろうか?
「く」の字というか、120度の曲率をもつ弧状になった岩塊群が、管制室の外周パネル越しに船体をかすめて、追い越していくのを見る。
岩塊群は自重も含めた巨大慣性に回頭による若干のベクトルが加わり、わずかに方向を変えて、それでも直進していく。
その様を、俺の阿呆のように眺める顔に気がついているのかいないのか、メゾソプラノの声がかかる。
「カージマー、33! スラスター2番4番停止。1番3番開け!」
ガクン! という衝撃をうけて、俺はほくそ笑んだ。
「やっぱり、座学だけじゃここまでだな」
俺は勝利を確信した。カウンタースラスターのショックだ。
もっとキャリアを積んで、ついでに時間に余裕があれば、どれだけ衝撃を抑えるかが航海士の腕の見せ所だ。
もっとも今回は計算値だけでやっていて、マージンも読めない。
……というか。腕が試される航海士は俺で、キャリアも実際の操作も俺の領分だ。
それを呆けて、何も考えず言われるままに動かしての衝撃だ。
相手を見下すなんてとんでもない。
「バカヤロウ!」
思わず自分を罵った。
ゲームはともかく、セットは俺の負けだ。
次の手順は頭に入っている。
船体が60度横を向いたときに回頭を止め、その姿勢で慣性のまま横向きに滑ってパージした岩塊を追う。
今度はかすかなスラスター制御で、ほとんど衝撃を出さずに船を止めて見せた。もはやメンツの問題だ。
回頭が終わって船が止まり、少し余裕ができたところでモニターから目を離して船長席に目をやった。
船長席に深く座ったガキ、メゾソプラノの声の持ち主は俺の視線にも気づかず、無人の機関士シートというかその後ろのパネルを見ている。
岩塊をパージしたあと本船は横滑りで追っているため、船の正面を映す天井パネルではなく、サイドパネルに岩塊が映っていた。
手元を操作してモニター投写位置を調節し、天井パネルの中央に岩塊と船の進行方向正面が来るようにした。
ガキは無言で俺に向かって右手を伸ばし、親指を立てて笑顔を見せた。
「ふー」
一段落付いたようだ。
カウンタースラスターの衝撃をのぞけば、そのあとは俺の腕もあって振動すらない。
ペダルから足をはなしレバーから手を離して、シートに腰掛けたまま両手を大きく後ろに伸ばした。
……え?
そんなハズはない!
ここは火星から3日、10光秒も離れていない。
船の行き交いも多く、比例してスラスター剤の放出も多い。つまり「雲」も多い。
本来ならドライアイスデブリが無数にあり、横向きに腹を見せて飛ぶなんて無謀この上ない。
しかし、現実に衝撃はない。
俺はガキから目を離し、ガキの視線の先、つまり船の進行方向を映す天井パネルを見た。
「雲」はそれこそ無数にある。
が、先行する岩塊が露払いとなって「雲」を穿ち、その真後ろにいる本船に近づくことを許さない。
まさか、ここまで読んでいた?
「化けやがった……」
「本当に化けやがった」
もう1度、ゆっくり呟いた。
もっとも、化けたのは能力だけではない。
4ヶ月あまりを経て、坊主頭はショートカットほどの長さになった。
この頭なら「ドブネズミ色」ではなく「アッシュグレイ」と呼ばなければ、むしろ俺の色彩感覚が疑われる。
青白かった肌は船内照明に含まれる紫外線を受けて健康的な肌色を手に入れ、体中に無数にあったアザはすべて消えた。
ちゃんと食って寝るという生活で、こけていた頬は丸みを取り戻し、ケツや胸に脂肪を余らせるほどになった。
というか、全体的に丸みというか柔らかさを得ている。ガキの身体ではなくなっていっている。
それで困るのが、このガキも自分の身体の変化に感覚が追いつかず、相変わらずTシャツとトランクスだけで飛びついたりしがみついたりすることだ。
無重力のセンターチューブに浮かんで胡座を組んで飯を食うのはまだ許すとして、サイズの合っていないトランクスの裾が広がり、目をそらさないと見えてしまいそうになる。
はっきり言って、俺の理性の方が危ない。
あえて強くたしなめるため「クソガキ!」と呼んだら、指を開いてスナップをきかせたサイドパンチを頬に返してきた。
どこでこんなパンチを覚えやがったんだ。
バカヤロウがっ!
だから。
まもなく火星についてこのガキと別れるのは、寂しくもあるが安堵感の方が大きい。
実質ワンオペのこの船で航海士が色に狂ったら、その先は破滅しかない。
アダムとイヴは、リンゴを食って楽園を追放された。
俺たちは、船から真空中に追放されるか、船もろとも宇宙の彼方に追放されるかだ。
DD51型を含むすべての船に標準工具と同列に聖書が備え付けになっているのは、あるいはこの教えを伝えるためかもしれない。
……バカヤロウ。
岩塊群が集積場の方向に消えていくのを、レーダーで確認した。
集積場とここでは5光秒ほど離れていて、あの勢いで突っ込んでいっても3日前後かかる。
が、慣性で直進するだけだ。計算上は、1km以下の誤差に収まるはず。
ほどなく集積場からあちらのレーダーで岩塊群を確認できたことと、キャッチのルートに乗ったという信号が来た。
あとはこの船の番だ。
横滑りで航行する船体にカウンタースラスターを当てて、船首を火星の方向に向ける。
「しっぽ」がないぶん、動きの制限は少ない。
俺はつい、「船長」の指示を仰ぐかのようにキャプテンシートを見た。
ガキは自分の仕事は終わったとばかり、モニターから目を離して聖書のページを開いていた。
ガキに声をかける。
「おい。仕事が終わったんなら、とりあえず寝ておけ。
起きたら48時間、本当に眠れなくなるぞ!」
「メシは食えるん?」
「寝てる間は食えない。起きていたら食える。いつもと同じだ」
ガキはニヤリと笑みを浮かべた。
「6回食えるんならええか」
「……7回な。入港の時は特別にもう1回メシが食える」
ガキが歓声を上げる。
「したら毎回入港したらええのに!」
「だから毎回入港しようとしてるんだろう!
バカヤロウ!」
それでもガキは、やはり聖書を読んでいる。
もうほとんど辞書は必要なくなったし、コンピュータの補助音声も久しく聞いていない。
ただ、航海士を目指すのなら専門書を読んで欲しいが、聖書を渡したのは俺だ。
「だから寝ろ!」
怒鳴る俺に、面倒くさそうにガキが応えた。
「メシ食って、赤灯になったら寝るわ」
まったく。聖書の何が面白いんだか。
メシが終わると、ガキがセンターチューブに移動した。
聖書は所定の場所に戻していて、読書にふける気はなさそうだ。
ついでに、キャプテンシートに残るつもりも。
……バカヤロウ。
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