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第3章「小惑星パラス」
商売仁義
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グラント軍曹がモールをつけた士官に視線を送ると、士官はゆっくり頷いた。
銃の所持は、人類普遍の権利だ。
ただしパラスでは、法の隙間を縫う形で、総ての銃が銃の指紋とも言うべき旋条痕を登録するよう義務化し、さらにコロニーにダメージを与えかねない威力の高い小銃弾を規制している。
つまり、銃を持つ権利は認めるが、弾丸を持つ権利の方を制限しようと。
とはいえピストル弾は事実上野放しだが、それは銃の「指紋」を登録することによって、不法な使用を制限しようという政策だ。
しかし最近急激に増えてきたのは、登録どころか旋条痕自体のない弾丸の乱射事件だ。
大規模な密造工場が疑われたが、それらしいものは摘発されていなかった。
しかし。
削岩機をベースにして、ごく小規模のユニット交換をすれば……つまり今ガキが見せたとおりの小改造をすれば、削岩機は5分で工具すら使わず「自動小銃型ピストル」になる。
そのために必要な空間は、アパートの一間で足りる。
パラスがメインベルトにある小惑星である以上、削岩機の規制はできない。
消耗品扱いで、倉庫には売るほどストックされている。
威力は小さく連射もできず、排莢と給弾1発ごとにハンドル操作が必要というのは自動拳銃にも劣るが、「指紋」が残ることもなく、暴動で武力行使をするのに、戦力のシンボルとして自動小銃のシルエットは心強い。
十分条件を求めればきりがないが、必要条件は余裕で満たしている。
「削岩機の倉庫、商社を当たらせろ!」
モールの士官が声を上げた。
「ということは……」
俺の問いには、グラント軍曹が答えてくれた。
「ああ。ダンナの場合、発破の方がブラフで、削岩機が本命だったってことだ」
クソヤロウ!
俺を運び屋もどきに利用しようとしやがったな!
削岩機は大量生産品で、部品は規格化され、別のメーカーの物でもパーツの互換性は高い。
俺が運んでいた削岩機には、「LTI」(リンドバーグ=ツール=インダストリアル)の刻印があるが、LTIは工具メーカーとしては太陽系でも最大手だ。偶然だろう。
「ダンナ、荷主と送り先、送り元を教えてもらえるな?」
だが、俺は軍曹に、首を横に振った。
「守秘義務がある。ダメだ」
「俺はダンナに手荒なまねはしたくない。嬢ちゃんにも恨まれるだろうし、拘束しても無意味なのはわかっている」
「ダメなものはダメだ! トレイン乗りにはトレイン乗りの仁義がある!」
今度は軍曹が舌打ちして、距離を取った。
実力行使のための間合いか。その場に居合わせた兵士達の幾人かが、腰ベルトのホルスターへ手を伸ばした。
クソコロニーだが、軍曹達に悪気がないのはわかっている。頃合いか。
俺は斜め上の何もない方向へ顔を向け、誰とも目を合わせないようにして言った。
「ただ、今回は軍の臨検を受けて拿捕され、軍の桟橋に船が入っている。
俺たちが地上に降りている間にコンピュータまで調べたって言うのなら、俺は知らない」
モールの士官が含み笑いを漏らした。
「順番が逆になるが、誤差か。くくく……」
その様子にグラント軍曹はしばらく間を開けてから、笑いを重ねた。
「ふふふ……。ダンナもタヌキだな。なかなか喰えない……」
合点がいったようだ。
「ダンナが親代わりじゃ嬢ちゃんの教育にも良くないし、嬢ちゃんは軍で預かった方がいいな。
身元引受人には自分がなろう」
「バカヤロウ。それこそガキの身が危ないぜ」
そう言って、俺も笑いの輪に加わった。
ひとりガキだけが、何が面白いのかわからず、きょとんとした顔をして俺たちを見ていた。
銃の所持は、人類普遍の権利だ。
ただしパラスでは、法の隙間を縫う形で、総ての銃が銃の指紋とも言うべき旋条痕を登録するよう義務化し、さらにコロニーにダメージを与えかねない威力の高い小銃弾を規制している。
つまり、銃を持つ権利は認めるが、弾丸を持つ権利の方を制限しようと。
とはいえピストル弾は事実上野放しだが、それは銃の「指紋」を登録することによって、不法な使用を制限しようという政策だ。
しかし最近急激に増えてきたのは、登録どころか旋条痕自体のない弾丸の乱射事件だ。
大規模な密造工場が疑われたが、それらしいものは摘発されていなかった。
しかし。
削岩機をベースにして、ごく小規模のユニット交換をすれば……つまり今ガキが見せたとおりの小改造をすれば、削岩機は5分で工具すら使わず「自動小銃型ピストル」になる。
そのために必要な空間は、アパートの一間で足りる。
パラスがメインベルトにある小惑星である以上、削岩機の規制はできない。
消耗品扱いで、倉庫には売るほどストックされている。
威力は小さく連射もできず、排莢と給弾1発ごとにハンドル操作が必要というのは自動拳銃にも劣るが、「指紋」が残ることもなく、暴動で武力行使をするのに、戦力のシンボルとして自動小銃のシルエットは心強い。
十分条件を求めればきりがないが、必要条件は余裕で満たしている。
「削岩機の倉庫、商社を当たらせろ!」
モールの士官が声を上げた。
「ということは……」
俺の問いには、グラント軍曹が答えてくれた。
「ああ。ダンナの場合、発破の方がブラフで、削岩機が本命だったってことだ」
クソヤロウ!
俺を運び屋もどきに利用しようとしやがったな!
削岩機は大量生産品で、部品は規格化され、別のメーカーの物でもパーツの互換性は高い。
俺が運んでいた削岩機には、「LTI」(リンドバーグ=ツール=インダストリアル)の刻印があるが、LTIは工具メーカーとしては太陽系でも最大手だ。偶然だろう。
「ダンナ、荷主と送り先、送り元を教えてもらえるな?」
だが、俺は軍曹に、首を横に振った。
「守秘義務がある。ダメだ」
「俺はダンナに手荒なまねはしたくない。嬢ちゃんにも恨まれるだろうし、拘束しても無意味なのはわかっている」
「ダメなものはダメだ! トレイン乗りにはトレイン乗りの仁義がある!」
今度は軍曹が舌打ちして、距離を取った。
実力行使のための間合いか。その場に居合わせた兵士達の幾人かが、腰ベルトのホルスターへ手を伸ばした。
クソコロニーだが、軍曹達に悪気がないのはわかっている。頃合いか。
俺は斜め上の何もない方向へ顔を向け、誰とも目を合わせないようにして言った。
「ただ、今回は軍の臨検を受けて拿捕され、軍の桟橋に船が入っている。
俺たちが地上に降りている間にコンピュータまで調べたって言うのなら、俺は知らない」
モールの士官が含み笑いを漏らした。
「順番が逆になるが、誤差か。くくく……」
その様子にグラント軍曹はしばらく間を開けてから、笑いを重ねた。
「ふふふ……。ダンナもタヌキだな。なかなか喰えない……」
合点がいったようだ。
「ダンナが親代わりじゃ嬢ちゃんの教育にも良くないし、嬢ちゃんは軍で預かった方がいいな。
身元引受人には自分がなろう」
「バカヤロウ。それこそガキの身が危ないぜ」
そう言って、俺も笑いの輪に加わった。
ひとりガキだけが、何が面白いのかわからず、きょとんとした顔をして俺たちを見ていた。
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