スペーストレイン[カージマー18]

瀬戸 生駒

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第4章 「木星」

艦長尋問

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 音はない。
 濃いグリーンの、かなりスリムなハードスーツを着た一団が入ってきて、アサルトライフルの銃口をこちらに向けた。
 銃身の下には、グレネードランチャーの代わりに強力な投光器がついていて、照明を消しているわけでもないのに船内を舐めるように照らし、光を走らせる。
 いくつかの投光器がこちらを向いた。
 ヘルメットのガラス面はスモーク処理しているが、その処理出来る限界を超える光量に、俺は視界を失った。
 もし裸眼で見ていたら、一瞬で失明してしまっていただろう。
 むんずと腕を捕まれて、後ろ手に引っ張られた。
 右手は肩の上から背中に。左手は腰の後ろに。
 そして、両方の親指どうしを、グローブの上から金具らしい何かで固定された。
 さすがに軍人と言うべきか、無駄も人道性もなく、それでいて確実に自由を奪う術を心得ていやがる。

 だが、それだけでは終わらなかった。
 頭から袋のような物をかぶせられた。
 ライトスーツの薄い生地だからわかるが、それは固定された両腕もろとも胴を越え、足へと至る。
 膝から先はブーツのためわからないが、おそらく袋の口を閉じたのだろう。
 身体が浮き上がるような感覚に思わず目を開けたが、投光器の光どころか、一切の明かりがなかった。
 船乗り風に言うなら、宇宙の闇よりも深い闇といったところか。
 袋とライトスーツ越しに、腹に誰かの肩が当たるのを感じる。
 担がれている?
 ゆっさゆっさと揺れて……嫌がらせの拷問でもあるまいし、それが何分も続いた。
 胃の中身をリバースしそうになる。

 かろうじて耐えて袋が剥がされたとき、そこは全く知らない部屋だった。
 ライトグレイ一色で、部屋の形状は直径4mほどの球状をしている。
 窓の1つもないが、よく見るとかすかに直径1.5mほどの丸い形をしたドアの線が見える。
 カージマーの中にこんな部屋はないから、俺たちは軍艦に運び込まれたんだな。
 軍艦の中にあるこんな形状の部屋と言えば……爆発物処理設備か。
 ということは、俺たちはまだテロリストの嫌疑が晴れていない。
 救いと言えるかどうか、ガキと一緒だから、無駄な心配はしなくてすむのと、例の「指枷」は勝手に外れた。
 自爆するのは勝手だが、手を合わせて指を組む程度の権利は与えてくれたってか。
 バカヤロウ!

 壁に偽装してスピーカーやマイク、おそらくはリベットのいくつかがカメラになっているのだろう。
 声が聞こえた。
『歓迎する。ロック=クワジマ航海士と、ケイ……リンドバーグ? 船長……ですね?』
 例のテノールだ。
「ああ、何でも聞いてくれ。ウソ偽りなく答えると神に誓うぜ」
『……では、ケイ=リンドバーグ船長。
 …………本名ですか?』
「偽名!」
 間髪を置かず、ガキがバカ正直に応えやがった。
 会ったこともない大工の息子に義理立てすることもないだろうに、駆け引きのやりようがあるだろう。

 少し間を置いて、声が響いた。
『小窓を開けますから、そこにヘルメットを入れてください』
 そう言い終わると同時に、直径60cmほどの穴が空いた。
 少し逡巡したが、逆らっても仕方ない。
 ヘルメットを脱いでその穴に入れた。
 直後、その穴が閉じた。

『これでお互いの顔を見ながら話ができます』
「こっちは相変わらず何も見えないけどな」
 毒づく俺に、大きな溜息に乗せて、声が応えた。
『これでこの部屋の与圧を抜いたらどうなるか、わからないわけではないでしょう?
 それをハッキリさせた上で……元々立場に違いがあるのに無自覚のようでしたから、それを促しただけです』
「ああ。このガキ以外はわかっている。元々な。何が聞きたい?」
『それが……クワジマ航海士、あなたのことはあっさり調査が終わっていて、実は知りたいことはないんです。
 もっと時間があれば、火星で会社員をしていた時代の勤務評定もわかりますが、知ったところでこちらに意味があるとは思えませんし』
 バカヤロウ! プライバシーも何も無視か。
『が、お嬢さんについては、全くといっていいほど資料がありません。
 2級航海士と2級通信技師の資格所持とだけ。
 あなた……誰ですか?』
「ひみつー」
 ガキが笑って応える。
 バカヤロウ! 相手の気分一つで本当に与圧を抜かれたらそれまでだ。
 とぼけるにしても、もっと勿体をつけろ!
 カージマーの中だったら、ここは殴る場面だ。

『……「秘密」ですか。ヒントはいただけませんか?』
 うん?
 俺は違和感を覚えた。
 時間を稼ごうとしているのは、俺たちよりむしろ相手側だ。
 何を待っている?

 それから少し時間をおいて、テノールが話しかけてきた。
『失礼しました。私はこの巡洋艦[キャンベラ]の艦長で、フェアバンクスです』
「艦長御自ら尋問とは、恐縮だな」
『このくらいの艦となると、一番暇なポストが艦長なので』
 自嘲とも苦笑ともとれる声が聞こえた。
『それで……』
 質問の途中で、マイクが繋がったまま、先方のざわめきが聞こえた。
『間違いありません! DNAが……。あっ!』

 ぶつっ……。

 マイクを切られたか。
 DNA?
 そんな物を提供した覚えはないし……そうか!
 さっきのヘルメットだ。
 ヘルメットには髪の毛や唾液が付着している。
 それを調べる時間が欲しかったんだ。
 とはいえ、俺のDNAを調べたところで、火星でのキャリアまで知っている相手にとって意味はない。
 となるとガキのDNAだが、鉱山労働者までデータベース化してやがるのか?

 唐突に音声が戻ってきた。
『お嬢さん。DNAの一致が52.8%と出ましたが……まさか『偽名』なのは……」
 ガキがケラケラ笑いながら応えた。
「うん。『ケイ』のほう。イニシャルやねん」
『ケイ』じゃなくて『K』か…。

 え?
 ということは……。
「オマエ、ホンモノか!」
「やから初めて会うたときから、そう言うてたやんか」
 バカヤロウ! 本物の姫様なら姫様らしく振る舞いやがれ!
 このまま木星について、不敬罪で処刑なんて冗談じゃないぞ!
 ガキがまた、手を伸ばしてきた。
「何のマネだ?」
「跪いて手の甲にキスしたら、今までの無礼は不問にしてあげる」
「バッ、バカヤロウ! 俺の首を刎ねたあとで、その首に自分で手を押しつけやがれ!」
 プライドなんて犬の餌にもならないが、今はそれくらいでもないと、正気が保てるかあやしい。

 それはともかく、有象無象の庶民ならともかく、リンドバーグ家の当主のDNAパターンは、木星にある政府なら必ず押さえる。
 髪の毛一本、パーティのワイングラスについた唾液の1滴からでも入手をはかる。
 もちろん個人データとして、それもトップレベルのセキュリティをかけるだろうが、他でもない軍と政府ならアクセスできる。
 ……国家レベル!

『正直に言わせてもらえるなら、一介の巡洋艦艦長には手に余る判断です。
 ただ、確実に言えることがあるとすれば……』
「勿体つけずに、確実に言えるんなら言え!」
 かろうじて「バカヤロウ!」は飲み込んだ。
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