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学校編

デスゲーム②

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-10分前-4階3-B 荒神遼馬


「はーい。皆さん残り10分になりました。まだ、教室に残ってる人は早く講堂まで来てください。ちなみに、いま講堂に到着しているのは勇哲男君、北風芽衣さん、向井日向さん、草加伊織さん、鬼灯恋君の5名です。生き残ってる皆さんも頑張ってください。
 残り時間も半分になったので、ここでかわいい子ども達を追加しまーす。各階にもう1体のオークとたくさんのゴブリン達を追加するので、頑張ってください。ああ言い忘れてましたけど、学校の外に出よう としたら、雷が降ってくるから、気をつけてね。
 黒焦げになった人はごめんね」

 教室にはゴブリンがうようよいた。オークは廊下を巡回し、いきなり窓や扉を破壊してまわり、ゴブリンは容赦なくクラスメートに集団で絡みつき、最後は首や腹など柔らかい部分に噛み付いていた。辺りは悲鳴と血の臭いでいっぱいになった。

 教室に突入された時、廊下側のクラスメートが5人ほど食われた後、生徒全員は窓側まで押されている。食べる以外にも、ゴブリンは残虐にいたぶる事で、悲鳴を楽しんでいるようだった。最初の奇襲攻撃以降は、ちまちまと囲んで鋭い爪や牙で攻撃してくるようになった。囲まれている生徒は全部で30人程度いるが、ゴブリンの数はそれ以上はいそうだ。どんどん増えている。

 不思議なのは、これだけの数のゴブリンが徘徊していたのに、教室に入ってくるまで何の音もしなかった事だ。

「クソ、一体一体倒しても埒があかねえな。
 つーか、恋の野郎。ちゃっかり、ゴールして んのかよ」

 俺はゴブリンを殴り飛ばしながら言った。肉体的には、身長は120~130cmといったところで、皮と骨が浮き出ており、一体一体は弱かった。恋と一緒に中学の時、不良をやっていた経験から、割と喧嘩慣れしていた。

まさかこんな所であの糞みたいな日々の経験が活きるとは皮肉だ。まあそれはいいとして、こいつらは見た目からして人間じゃない。それにクラスメートを何人も食い殺した相手だ。手加減無しで、目や口、鼻など弱点を的確につき、戦闘意欲を削ぐ。

「ぎゃーーーー、痛い。痛いぃ」

 ゴブリンの数が多く、手傷や打撲を負ったり、集団でまとわりつかれ押し倒される生徒もいる。鋭い牙や爪は人間の肉や骨に容易に達するようだ。

「荒神。このままここにいれば、全員食われる だけだ。奴らどんどん増えている。残った生徒だけでも僕と君で守りながら一か八か、ホールを目指そう」
B組の文武両道の優等生である國島賢悟は言った。

「それしかねえか。國島、お前が先導しろ。
 俺は殿をする」

「分かった。じゃあ教室の前の扉から出るぞ」




-9分前-4階3-B 國島賢悟


「國島早く逃げて」
3-A組で生徒会長の武藤が突然扉を開けて言った。

「武藤さん、どうして?」

「話は後、すぐに西側の階段から降りて、講堂へ向かいましょう。いま男子たちがオークたちを引き付けて東階段から降りてる所だから」

「西階段は手薄という事か。
 皆順番になるべく素早く、西階段から講堂へ向かってくれ!」

 僕がそう言うと、一斉に30人近くの生徒たちが教室の扉へ向かった。押すなよ、蹴らないでなど文句を言いつつ全員が走っていった。ゴブリンたちや死んでいったクラスメートなど目もくれず、助かりたい一心でゴブリンたちをなぎ倒し西階段へ向かった。

 僕と荒神も開いた空間からすぐに、教室から出た。

「急ぎましょ。國島、荒神。すぐに、ゴブリンが追ってくる」
武藤はすぐに、西階段へ走った。

「なあ、他のクラスメートには声をかけなくていいのか?」

「A組への襲撃が最初だったから。あの怪物たち は何故か、東側からだけ来た。オークは窓や扉を壊す事に執着していたから、私がDクラスから逃げるように先導したの、教室に隠れながらね。オークは男子に東階段の方へ誘導して貰ったわ」
走りながら、武藤さんは状況の説明を行った。

「じゃあ男子生徒を助けに行ったほうがいいんじゃないか」

「あのゴブリンたちを突破して、行けるならね。今行っても無駄死にするだけよ。
 それより今は一人でも多く助かる道を考えて」

「そうだな、悪かった」

「急ぎましょう。
 走ることに専念して」

 武藤たち3人は、3階へ走った。

 階下からは女子生徒の怒号が聞こえた。




-7分前-3階-2-D 國島賢悟

「来るならこい、化け物共。私は逃げも隠れもしない。相手になってやる」

 30体程度のゴブリンを相手にほうき一本で、階段を守るように立っている女子が一人居た。まさかほうき一本でゴブリンに対抗する女子がいるなんて。
 すでにゴブリンが数体倒れており、ゴブリンたちも攻めあぐねているようだ。

「おい、君何で早く逃げないんだ」

「先輩方。ご無事ですか。今しがた、4階から避難してくる方々が居られたので、私はこの場で進路を確保していました。早く逃げてください!」

「馬鹿。お前も逃げろ!
 武藤さん、その娘を引っ張って連れて行ってくれ。
 荒神、僕と君で逃げながら殿するぞ」

「さあ来て。佐々木さん」

「ちょ、何をするんですか。
 い、意外と力強い、痛たたたあ、痛いです。自分で走れます。やめてください」

 武藤さんは容赦なく、佐々木さんの腕を引っ張って連れて行った。

「ちっ、仕方ねえなあ」
 先に2人を逃し、僕は荒神と後ろを警戒しつつ2階に逃げた。




-6分前-2階~1階 武藤奈緒


「な、何ですかこれは?」
と、佐々木が言った。

 2階の西側は会議室や放送室は特に異変は見られない。だが職員室や保健室の方では、血の飛び散った跡や人間やゴブリンなどの死体と思われるものが散在していた。

 人間は顔は潰され、四肢はもぎ取られ、腹は割かれ、臓物を撒き散らしていた。まるで残酷に殺すことだけが目的のようだ。血の気が引く光景だ。

「止まらないで、後ろにゴブリンたちが来てる」

「は、はい」

 1階まで一気に駆け下りる。ゴブリンたちは小回りは聞くが翼が邪魔のようで、走るのは遅く距離が稼げた。踊り場にたどり着くと、渡り廊下への小さな扉の前に大勢の生徒がごった返していた。狭い廊下に、生徒たちが渋滞を起こしていた。早く行けと後ろから押す生徒もいることで、身体が引っかかり扉から中々出られずにいた。後ろにいる生徒は既に数え切れない程のゴブリンと2体のオークに囲まれていた。

「まさかこんな事になるなんて」
と佐々木が言った。

「これは駄目ね。
 道を代えましょう」

「え、生徒会長何言ってるんですか?」

「後ろにはゴブリンが何十体もいるから、どっち道賭けにはなるけど、隙間を縫って1-Dの窓から校庭に出ましょう。幸い奴らはこっちに気づいてない」

「あの人たちはどうなる、すぐに上からゴブリンたちも来て挟み撃ちにされるぞ」
國島は言った。

「上手くすれば私達がオークやゴブリンたちを 引き付けて、あの人たちは扉から出られる。
 それとも、皆ここで死ぬ」

「やるしかねえだろ、國島。
 皆で生き残ろうぜ」
荒神は言った。

「くっ、分かった。」
 國島は苦虫を噛み潰したような顔で渋々同意した。

「じゃあ荒神と國島が前、私と佐々木さんは後 ろから一気に駆け下りて、1-Dへ突入します。2人は道を開くことにだけ集中して。私達は、なるべくやつらの気を引きます。あんまり意味はないかも知れないけど、携帯で大音量で動画を流して、それを投げ捨てるから。
 さあ、行きましょう!」

「よし、行くぞ國島!」

「ああ!」

 私は無謀とも思える賭けに出た。仮に屋外にも化け物がいた場合、挟み撃ちにされる。

 本当なら彼ら、生徒を餌に逃げ切るつもりだったのに、まだまだ詰めが甘かったと後悔した。




-5分前-1階~ホール 佐々木巴


 生徒会長の合図とともに私達は、一気に階段の踊り場から駆け下りた。まさに四面楚歌の状況から、何とか作戦を考えた会長は凄いと思う。

 私が一人で犠牲になれば皆が助かると思ってたが、全然そんな事無かった、下手したら私が助けたと思ってた人は皆死んでいた。
 でももしかしたら、生徒会長のおかげで皆が助かるかもしれないと思え、私は希望が持てた。頑張らないと。

 私達は結果的にオークやゴブリンたちの合間を縫うことができた。オークは、力は強いが動きは鈍い。私達に気づいて拳を振り上げた頃には、私達はそこにはいない。オークを倒すことは無理だが、逃げるだけなら難しくなさそうだ。

 ゴブリンは反応してきたが、私が木刀で頭をかち割った。絶対に失敗できないので、一撃で始末してやった。

 生徒会長は動画を再生し、大音量の人の声が出ている携帯電話を東側の廊下へ投げ捨てた。有名な世界の平和を歌った曲だった。音に反応して、向かう化け物も何体かいた。

 荒神先輩たちが最初に1-Dに入った。校庭側の窓は開いている。誰かが出たのかもしれない。ここからであれば、講堂までは多少迂回するがすぐにたどり着ける。

 窓の外には、見たところゴブリンが2匹いる。
 私なら、仕留められる。
 私は、荒神先輩たちを抜いて窓枠から飛び出す。

「お、おいお前」

「きぇええええぇい!」
私はジャンプした勢いを利用して、箒を力いっぱい打ち込み、中央のゴブリンの頭を打ち砕いた。途中で箒が中折れしたが、折れた箒の先端をもう1体のゴブリンの喉に突き刺した。
 ゴブリンの血が流れ、私の手に付いた。

 会長たちが、窓枠から降りてくる。

「何とか脱出できましたね。会長」

「え、ええ。あなたすごいわね。
 まあ、とにかくホールへ向かいましょう。
 あなたが叫んだから、奴らが来るかもしれない し」

「す、すみませんでした!つい…」
迂闊だった。いつもの癖が出てしまった。

「待て、ここはもう安全だろう。それより
 彼らはどうする。ここへ皆を誘導すべきだろう」

 私達が1-Dから外に出たことで、ゴブリンたちは1-Dに入ってきている。
 私だって本当なら助けてあげたいが、無謀に思えた。

 それに校庭にもまだゴブリンがおり、見つかって囲まれたら、殺される。現に、食われたであろう死体、弄ばれた死体、上階から飛び降りたであろう死体が数え切れないほどあった。

 その時、再び校舎全体に放送が鳴った。
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