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学校編

デスゲーム③

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-4分前-校庭~ホール 武藤奈緒


「はーい、皆さん。まだ生きてる人はいますか。おそらくこれが最後の放送になると思います。まだホールに到着していない人は、まだ間に合うかもしれないので、急いでください。
 ちなみに、今到着している人は前の5名に加えて冨永誠先生、星宮有栖先生、1年加藤樹君と3年長門光輝君、2年明石天馬君の10名となってます。
 あーあと、生き残れて願いが叶うのは時間通りに来た人だけだから。言い忘れてたけど頑張ってね」

 緊迫した状況の筈なのに間の抜けた放送で力が抜ける思いがした。だが、聞き捨てならない事を口走っていた。生き残れるのは、時間通りに来た人だけ。
 つまり、このままだと10人しか生き残れないということか。

「もう時間がない。
 私達はこのままホールへ向かうべきだ」

「彼らはどうなる?」
國島は言った。

「信じましょう、私達がゴブリンたちを引き付けた事で、猶予が出来たはず。
 私の決断が間違ってたら、後でいくらでも貶せばいい」

 國島賢悟は優等生ではあるが、柔軟性がなく頑固だ。こういう人は、重大な局面で失敗しがちだ。そして得てして、責任の所在を求めたがるものだ。

 私は逃げ道を作ってやることにした。

「おい、ゴブリン共が窓から出てきてるぞ。
 グラウンドからも来てる。
 話してる時間はねえ。ホールに走るぞ!」
 荒神が言った事で、國島以外の3人は走り出した。

「助けられるかもしれないのに」
と言って、國島も走り出した。




-10分前~20秒前-1-B~ホール 黒沢清華


 10分前の放送で日向がホールに着いたことを知った頃には、私達の教室はゴブリンに占拠されていた。教室の中にいる際は、何の音もせず、気づいた時には囲まれていた。その後、ずっと膠着状態が続いている。相手は弱いとはいえ鋭い爪や牙を持っており、人間の身体を簡単に引き裂いていた。

「日向の奴、裏切ったのね」

 舌打ちをしながら、つくづく生意気で使えない子と思った。どうすればこの状況を切り抜けられるか考える。

「清華、俺が絶対お前を守るよ、安心しろ。
 俺の後ろに付いて来い」
と言って河野が4脚の机を逆さに持ち、叫びながら扉に向かって突進した。ゴブリン共は避けたり、飛ばされたりした。私とクラスメートたちは河野についていき、1-Bの教室を脱出出来た。しかし、西側の渡り廊下では混雑しており、オークやゴブリンに囲まれて、徐々になぶり殺しにされていた。

 死体が積まれている。その時、生徒会長たちが、1-Dへ入り、携帯電話が投げられるのが見えた。かなりの大音量で、何故か世界平和の歌が流れた。皮肉なものだ。

 音によりこっちに化け物共の注意が向く。



「まずい、清華。
 こっちに逃げよう!」
と言って河野は私の手を引いて東側の玄関の方へ駆け出した。

 幸い、教室や渡り廊下前にひきつけられていたため、東側には化け物はいなかった。クラスメートも付いてくるが同時に、ゴブリンたちも付いてきて、音に気づいたのかA組に居た奴らも引き連れてしまった。

 玄関まで辿り着くと、階段の方から降りてくるゴブリンたちに出くわした。私達は、先頭だった為、何とか玄関から、脱出出来たものの、後ろに居た殆どの生徒は囲まれて、絶望し女子生徒は悲鳴を上げている。

 校庭にいたゴブリンたちはほとんどが放送とともに校舎に入っていたようだ。ツイてる。

 放送は逃げている最中、聞こえたが、内容まではあまり聞き取れなかった。ただ、時間がない事は、伝わった。

「河野って頼りになるわね」

「清華、このまま校舎伝いに逃げよう」

 この男中々使える。高校からの付き合いだが、キープしてて良かったと思った。

 その時、1-Dの窓からゴブリンが外に出てきて、目の前に現れた。

「嘘だろ!」

「河野。もう少しよ」

「あ、ああ、そうだな。
 うおぉぉぉぉぉ!」
河野は少しヤケクソ気味に、窓から出てきたゴブリンを数体なぎ倒し、退路を確保した。よし!これでもう、ホールまでは目と鼻の先だ。

「もうすぐね。清華」

 いつもの取り巻きA、田中が言った。よく見れば後ろにはいつもの取り巻きA~Cが付いてきている。

「あんたたち居たのね」

「酷っ」

 私達は20秒前でホールへ、滑り込むようにたどり着いた。ホールの周りには、化け物共の姿は無かった。




-1分前-講堂 北風芽衣

「もうさすがに誰も来ないかなあ。25、24、23、22、21」
とルナがカウントを始めた。その直後、1-Bの黒沢さん達5人が滑り込みで、ホールに入って来た。全員息が上がっており、その場で身体ごと崩れ落ちてしまった。

「おお、ギリギリセーフだね。
 1年黒沢清華さん、田中真理さん、河野貴君、 鈴木梨花さん、斎藤綾香さんゴールです。おめでとう」
と言うと、残りのカウントも終わらせた。

黒沢さんは向井さんに近づき、胸ぐらを掴んだ。

「アンタどういうつもり?!
 見て来いって言ったよね!
 何で戻って来ないの?!」

「何で私がアンタに言わなきゃいけないの?
 ていうか、離せよ」

 向井さんは黒沢さんに絡まれたが、向井さんは彼女の頬を殴って脱出した。私は止めようとしたが、黒沢さんが殴られた事で呆然とした。黒沢さんの取り巻きの女子生徒は黒沢さんの元へ集まり、心配している。

河野君は向井さんに向かってすごい剣幕で押し寄せてきており、流石にこれは止めに入った。

「河野君、今はこんなことしてる場合じゃないでしょ。やめなよ」

「うるせえぞ。お前には関係ないだろ」

「はいはい、タイムアップでーす。
 喧嘩もやめてね。
 まだ校舎で生き残ってる生徒は残念ですが、ゲームオーバーです。えい!」
とルナが手を振り上げたかと思うと、水球に映っている生徒たちは雷のようなものに撃たれて、黒焦げになり動かなくなった。

 ルナはカスっと乾いた音で指パッチンをすると、水球は弾けるように消えた。

「以上でこのゲームは終了です。皆さんお疲れ様でした」

「何故だ!なんでこんな事をした!
 僕達がどうして死ななければならないんだ!」
と國島さんは言った。
 当然私達もその質問をしたが、ルナに全員が揃うまでは答えないと言われた。逆らう人もいたが、その人は雷に撃たれて今は物言わぬ黒い焦げとなっている。

「まだ終わってませんよ」

「何だと?!」

「ここにはまだ44人も居ます。
 せめてこの半分にしたいので、
 もう1つゲームをします。題して…」
とルナは言った。

「もういい加減、本題に入りましょう。
 私達には目的があったはずでしょ。
 かなり残っているので、雑魚は間引きましょう」
フレアがルナの答えを遮って言った。

「むぅ。ではお姉様におまかせします。
 私はなるべく皆にチャンスがある競技にしたかっただけです、だいたいお姉様は…」

「うるさい。気が散ります。
 あなたの雑な魔術とは違うんですよ。
 ………」

 フレアは手を前方にかざし、何かを高速でブツブツ呟いた。日本語ではない。その後、急に顔色が悪くなったり、膝をつく人が出てきた。まるで床に押さえつけられてるみたいだ。

 私や勇先輩以外は皆苦しそうな表情をしている。勇先輩は普段冷静な印象だが、流石にこの状況に青ざめた顔をして、大丈夫か皆!と声を掛けている。

「皆大丈夫!
 フレアさん、あなた何をしたの?」

「あら、まだまだ終わりませんわ」
と言ってまた高速ブツブツを始めた。すると、前方にバタンとかなりの勢いで床へ倒れ込む人が出てきた。倒れ込んだ人は意識を失ったようで、動き出す気配は無かった。フレアがブツブツ呟く度に、倒れ込む人が続出した。

「メイちゃん、あれはね、魔術で圧力をかけてるんだよ。耐性がない人は、意識が飛んだり、血管が破裂したりするんだ。
 てお姉様!ストップです。もうこのくらいで。
 シャラップです。皆死んじゃいます!」

 フレアはそこでブツブツ言うのを止めた。皆尋常ではない汗をかいており、中には床にへたり込んでいる人や動かなくなった人もいる。武藤さんは倒れ込まずに、立ったまま耐えていた。これがルナが言う耐性というものかもしれない。

「ええと、これにてゲームは終了します。生き残った21人の生徒、先生方にはあなた達の願いを叶えてあげましょう。さあ、順番にこの光の中に入ってください」

ルナは大きく指で円を描くと、妖しい光りの輪っかが出来た。ちょうど人が1人通れる大きさで、私を講堂まで移動させた時の力と似ている。

「いい加減にしろ、貴様ら!こんな事は、僕は認めないぞ!」
國島さんはルナに詰め寄った。今にも掴みかかりそうだ。

「な、何ですか、あなたは!ち、近寄らないで下さい!シャドウバインド!」
 ルナは大声にびっくりしたのか、ビクッとなっていた。
 ルナの足元にある影が國島さんの身体を伝い首を締め上げたように見えた。國島さんは影に1m程度宙づりにされ、苦しそうに悶え、足をバタバタさせている。少ししたら降ろされたが、喉を押さえながら咳を繰り返している。顔に赤い斑点が出来ており、内出血しているようだ。

「これ以上人数は減らせないので、今回は特別にこれで許してあげます。次はないですよ。
 では皆さん輪っかの中に一人ずつ入って下さい」

「ちょっと待ってよ、倒れた人たちはどうなるの?」
と黒沢さんの取り巻きの1人の田中さんが言った。他の2人の女子生徒は動かなくなっている。

「見ての通り皆死んでるわ。
 さっさと、入りなさい」

 フレアが言うと、田中さんはその場で泣き始めた。
 友達が死んだのだ。無理もない。

「行きましょう」
と黒沢さんが声を掛け、一緒に歩き始めた。

 私達が光の中に入ると、そこは石畳が全体に敷かれた正方形の広い空間だった。中央には幾何学模様の円形があった。
 マンダラと言うのだったかな。
 周囲には円柱の柱が何本もあり、まるで神殿のような出で立ちであった。

 部屋の奥には何に使うのか分からないが、明らかにこの空間に合わない券売機のような物が置かれていた。

「さて皆さん、この券売機の前に並んでください。券に書いてあるものは、あなた達の願いを叶える力です」
とルナは言った。
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