上 下
7 / 27
学校編

転生

しおりを挟む
 ルナに言われた通り、私達は券売機の前に並んだ。

「到着した順番に並んでください!
 あと、自分の券は確認したら、自然に消滅します」

 到着した順番と言えば、私と勇先輩はどっちだろう。足が竦む。出来れば一番は避けたい。そう思ったのが伝わったのか、勇先輩は自分から名乗り出た。

「私から行こう」

勇先輩が券売機の前に立ち、ボタンを押した。券売機は紙を吐き出し、勇先輩の身体に眩い金色の光りとなって吸収された。

「何ともなさそうだ。北風、お前も行け」

「あ、ありがとうございます、先輩」

私も券売機の前に立った。というか何で券売機?ルナが券売機を見て、関心してたみたいだけど、まさかそれだけの理由で?

 無駄な思考がクルクルと巡る。

 今は、そんな事はどうでもいいと割り切って、私は券売機のボタンを押す。券売機は紙を吐き出した。
 
 そこには、[アーカーシャ:空間の創造・支配・破壊]と書いてあった。

 なにこれ?



 私の頭にルナの声が響いた。

(メイちゃんには、私の最強の能力をあげるね。
 メイちゃんは私の事を恨んでるだろうね。
 だけど、死なないで、どうか生き残ってね)

(え、私死ぬの?え?)

 言葉とは裏腹に、暖かい感覚が私を包んだ。



「おい、北風大丈夫か?
 顔色が悪いぞ」

いつの間にか向井さんが近くにいた。肩に触れられて、自分が立ち竦んでいた事に気づいた。

「ごめん、ちょっとボーッとしてたみたい。
 次は向井さんだね。特に害はないみたいだから、安心して」

 私は列から離れ、列の後方にいた勇先輩の隣に立った。

 1人また1人と、券売機から紙を出し、様々な色の光に包まれた。光は暖かい黄色やオレンジのような色もあれば、黒やセピアなどの色もある。人によって様々だ。

 いよいよ、もう2人だけだ。黒沢さんと河野君だ。

「私から行ってもいい」

「いいよ」

 簡単にやり取りし、黒沢さんは券売機の前に行って、紙を出し、深紫色に包まれた。

「すごいわ、これが私の力なのね。
 まさに私が望んでいた力だわ」
と黒沢さんは喜んだ。

「最後は俺だな…。あれ…。反応しないぞ。こ  れ」
と言って、河野君はポチポチポチとボタンを何度も押している。券売機は反応しない。







「あ、よく数えたら、1人多いわね。
 22人いるわ」
とフレアは言った。

「あ、ホントですね。うっかりです。
 私とお姉様の力を10人ずつに分けて、
 もう1人はゲーム審判役の人の力だから、
 余りがでますね」

「まあ、足りない訳じゃないからいいんじゃない。死んでもらえば数は合うわけだし」

「お姉様はいつもそうです。
 私達の運営能力も天界で評価されるんですから。真面目にやってください」

「あなたに言われたくないわ。
 だいたいあなたがモタモタしてるから…」
 ルナたちは何か手違いがあったのか、内輪揉めを始めた。この姉妹は本当にこういう事が多いなあ。

「ごほん、えーでは、各々能力を得たと思います」

「ちょ、ちょっと待てよ。俺何の能力も得てないんだけど」

「その得た能力を使って、河野君を始末して下さい。始末した人には、特別ボーナスをあげます。さあ、ゲームスタートですぅ!」

 ルナは河野君を無視して、無理矢理進行した。

 でも同じ学校の生徒、いやそれ以前に人間を殺すなんて、この中にそんな事をする人がいるわけがない。

 そう思っていると、黒沢さんが河野君に近づいた。

「あなたじゃ、もう私を守れそうにないから。
 さよなら」

「何言ってんだよ、清華。
 ここまで来るのに守ってやっただろ」

「でもこれからは必要ないから…。
 跪いて」

 黒沢さんは少しの逡巡の後、彼女が言った通りに河野君は跪いた。黒沢さんは次の瞬間河野君の顔面を蹴り飛ばした。グギッと嫌な音が響き、私は目を反らした。

「跪いて」

 再び、黒沢さんは河野君を跪かせた。まるで命令に逆らえないかのように、意志とは関係なく身体が動いている。

「や、やめてくれ」

 何度も何度も繰り返し、最後には河野君は何も言わなくなった。骨が砕けたのか首があらぬ方向に捻れていた。

「これでいいの」

 紫色に輝く瞳をした黒沢さんがルナたちに向けて言った。涙は出ていなかった。誰もが何も言えなかった。

「上出来です。
 ボーナスは次のゲームで与えますね。
 今黒沢さんが、見せてくれたみたいに、1人1つ 私かお姉様の能力を与えてます」

 今聞き捨てならない事をルナは口にした。

「次のゲームって?
 さっきので、終わりじゃなかったんですか?
 家に返してください」

 1年D組の早川律さんは言った。声は震えていた。早川さんは俯いてしまい、星宮先生が彼女をなだめている。

「今までのゲームは、本ゲームへの参加する者を選別しただけです」

「次は何をするんですか?
 楽しみだなあ。僕さっきから、アドレナリンがドバドバ出て、久しぶりにすっごく生きてるって感じがしてるよ」

 鬼灯さんは満面の笑みで言った。楽しみって何を言ってるのだろう。こんなに人が死んでるのに。嫌悪感を顕にして、彼を見ている人も多い。

「おい、恋。不謹慎だろうが。人が死んでるんだぞ。ちょっとは配慮しろ 」
 荒神さんは嗜めるように言った。

「分かってるよ、ごめんって。
 でも遼馬たちには僕に感謝してもらいたいね。
 僕が佐々木さんに話していないと、今生きてないかもしれないんだから」

「何の話だ?」

「実は鬼灯君に言われて、皆が逃げられるよう 階段の所で退路を守ってました。そんな事は言われなくても守りましたが、彼のおかげで心の準備ができたのも事実です」

佐々木さんは答えた。

「私達もあなたのおかげで逃げられました。
 私達が生きてるのはあなたのおかげです。
 あの時は逃げてしまって、ごめんなさい」
と3年生の小松さんは佐々木さんに丁寧にお詫びしていた。

「お前達がそんなに苦労してたのに済まない」
と冨永先生は最敬礼で謝罪した。

「助けてあげられなくて、ごめんなさい」
と星宮先生も続いた。




「ゴホン、そろそろ次のゲームを始めますよー。先程皆さんの中から、家に帰りたいと言ってる人が居たと思います。このゲームに勝てば、あなた達は家に帰ることもできます。一回しか説明しないので、よく聞いてくださいね」

 早川さんは少し持ち直したみたいで、顔を上げて聞いていた。このゲームが終われば家に帰れると誰もが期待した。

「次のゲームが実質最後です。あなた達にはこれから異世界に転生してもらい、そこで2チームに分かれて殺し合ってもらいます。一つは人族のチーム、一つは魔族のチームです。
 各チームには、皆さんの中から2人の王を選ぶので、他の人たちはこの王を守りながら相手チームの王を倒してください。王を倒したチームは見事勝利、願いを叶えます」

「チーム分けはどうするの?
 王はどうやって決めるの?」

 今まで黙っていた痩せっぽちで、少し不健康そうな2年の王子さんが積極的に質問していた。確か、ゲームとかが好きって言ってたから、このゲームを知っているのかもしれない。

「フッフッフ、実はもうチーム分けはしています。あなた達の能力は私とお姉様が与えたものです。つまり、私の魔族側チームとお姉様の人族チームに分かれてもらいます。
 そして王、通称勇者と魔王は転生後に、本人に分かる形でお伝えします。決め方は正直私達の好みです」

 もうチーム分けは終わっているみたいだ。じゃあ、この中の半分の人間と戦うことになる。もしかしたら、伊織や向井さんとも。

「質問だが、いいか?
 ここには21人いるが、
 チーム分けには1人余る。
 余った人はどちらのチームに入るんだ」

 軽く手を挙げて、武藤さんが質問した。

「あ、やばい忘れてた。あなたそれ良いところに気づきました。
 ええとですね。余った1人は1人チームです。この人を倒したら、ゲームは強制終了です。
 ただこの人は嘘つきの狐さんです。
 この人は人族と魔族を選択出来ます。
 転生後に決めてください。
 他の人たちはこの人をを特定して倒してしまえば、家に帰ることもできます。
 でもあんまり特定しようとすれば、仲間割れするかもしれないから気をつけてね。
 狐さんは当然勝利条件も他の皆とは違います」

慌ててルナは説明した。

「他に質問ある方いますかー?
 まあここで質問しなくても、転生後はステータス画面を開けるので、困った時はステータスって言ってね。
 あとは…」

「もういいんじゃない。後は、天使に任せて。あなた変な所で真面目ね」

フレアは面倒くさそうに答えた。

「そうですね、私らしくないですね。
 じゃあ皆さん、この円形に入って下さい」
とルナは言った。

 伊織が手を繋いできた。私もギュッと伊織の手を握る。

 私達はマンダラの中に入った。21人が入っても余裕がある。

「最後に1ついいか?
 何故私たちなんだ?」
勇先輩は國島さんの言った質問を再度行った。

「あなた達が選ばれたのは、神の気まぐれです。
 女神の私達でも計り知れない方々のね」
ルナは答えた。
 ルナたちにも分からないということが分かった。そして、分かっていたことだが、彼女たちは人間ではないらしい。

「異世界、惑星アトラスに行ったら、あなた達は別の身体に転生します。ある人はお姫様、ある人は世界を救う正義の味方、ある人は極悪人、青春の続きを楽しんでいいですし、人生をやり直してもいいです。とにかく生き方は様々です。
 ですが、願いを叶えたいなら、積極的なゲームへの参加をオススメします。
 それでは、勇哲男君、北風芽衣さん、向井日向さん、日下伊織さん、鬼灯恋君、冨永誠先生、星宮有栖先生、加藤樹君、長門光輝君、明石天馬君、早川律さん、榎本凪君、王子君彦君、小松文さん、赤土達哉君、武藤奈緒さん、佐々木巴さん、荒神遼馬君、國島賢悟君、黒沢清華さん、田中真理さん以上21名を異世界に転生させます。
 楽しい楽しい異世界生活を満喫して下さい」

1人ずつ光となって消えていった。手を握っていた伊織も光となり、消滅した。

「じゃあね、メイちゃん。短い間だったけど、楽しかったよ。
 ごめんね巻き込んで」
と言ってルナが私を抱きしめた。

 私もルナを抱きしめたが、徐々に身体が半透明になっていった。

 現世に少しだけ後悔が残った。結局父親との関係が修復出来なかった。

 もしかしたら、これはずっと足踏みしていた私への罰なのかもしれない。
しおりを挟む

処理中です...