上 下
20 / 27
異世界編

ゲームの始まり

しおりを挟む
 村長フランツはアルゼの村の領地経営を進めた。何でも都市などからたくさん人を呼び込み、村の発展を目指しているみたいだ。村には教会や酒場、雑貨屋、鍛冶屋などの施設はあったが、辺境の村には必要最低限の施設しかなかった。まずは村の周囲の森を切り開き、新たに村の周りの柵は撤去して、居住地や農地、新施設を作るために、土地を開発した。

 村には新たに冒険者ギルドや武器や防具の専門店、宿泊施設などが出来た。アルゼの村は様変わりし、冒険者がたくさん行き交うようになった。村は村長の家と広場を中心に置くようにして、広がっていた。今までは南側の扉以外は柵で囲っていたが、北の扉も出来て出入りがしやすくなった。森へ入る冒険者が増えたためだ。衛兵の数も増えて、村人のハンターを中心にして兼業で衛兵となり、現在ギルを含めて5名である。ギルはその中で衛兵長となった。出世して給金も上がったようだ。

「これでもっとエイダに会いに来れるな」
とギルはエールを飲みながら言った。エイダは、はいはいと聞き流している。

 今日は買い物で村まで来ていた。

「お前はもうちょっと真面目に働けよ。
 エイダを見習ってよ、なあエイダ」
と言いながら、ユーゴもエールを飲んでいた。 村に来た時は、酒場に寄って飲食して泊まるのが習慣になっている。酒場は、村に冒険者が増えた事で賑わっていた。今までは村人だけを相手にしていたが、今では冒険者も毎日訪れるようになっていた。

「猫の手も借りたいくらいよ」
と言って忙しそうにしている。最近は新しく、給仕係を雇ったみたいだ。村の女性が生活の助けになればと働いている。

「それよりあなたこそ。
 冒険者が来て、村の用心棒で居られなくなっ たんじゃない?最近はどうなのよ」
とエイダは聞いた。

「俺は最近はギルドで世話になってるよ。
 ダンジョンや森でしか採れない素材をギルド に納めると、それで金になるからな。
 今までとやってる事は同じだが、
 俺ももう一端の冒険者だぜ」
とユーゴは言った。ユーゴは忙しい時は一日中家を留守にすることもある。夜には必ず帰ってきてくれるが心配だ。冒険者はパーティーを組むものだが、ユーゴは1人で活動している。私は、その間家で、家事や魔術の訓練をしたり、たまに村に買い物に行ったりしている。

「あんまり無茶しないでよ。
 あなたが死んだら、ロゼちゃんも1人になるん だからね。
 それに酒場の常連が消えるのは寂しいしね」
とエイダは言った。エイダさんはアルゼの村冒険隊と勇者の軌跡の面々の事を言っているのだろう。しばらく、酒場の2階を間借りしていたが、今では2チームともここにはいない。

「ああ、分かってるよ。
 安心しろ、俺は強いから」

「何せ俺たちを1人で相手してしまうぐらいだし な」
と言ってデュランが近づいてきた。

「おおデュラン、今日のダンジョン潜りの景気 はどうだい?」
とギルが言った。

「聞いてくれよ、ギル。
 俺たちとうとう地下1階への階段を発見したぞ。
 明日から本格的に攻略できる」

「やったじゃないか。
 儲かったら奢ってくれよな」
とギルは言った。この2人は何故か収穫祭の戦い以降、仲が良くなっていた。あんなにボコボコに殴られた後で、仲良くできるなんて、ギルはすごく器が大きい人だ。

 まあそれよりもダンジョンを発見したのは、デュランたちのパーティーが最初だ。1階の探索だけでもかなり入り組んでいるし、C~D級の魔物がうじゃうじゃいるそうだ。と言っても、私も自分で戦ってないので、想像がつかない。強い魔物がいるところには、希少な魔物の素材や魔石という魔力の籠もった石があり、どちらも高く売れるらしい。

「ユーゴ、地下1階の探索一緒にやらねえか。
 お前も1人で挑むのは、きついんじゃないか」
とデュランは言った。ユーゴに限って大丈夫だとは思うが、一緒に行った方が私は安心して帰りを待てる。

「お父さん、入れてもらった方がいいよ。
 デュランさん達は強いし、助け合えるよ」
ユーゴは考え込んだ。

「ユーゴ、一緒にやってやれよ。
 デュランは意外と良い奴だぞ。
 勇者の軌跡の2人の面倒も見てるしな」
とギルは言った。

「意外とは余計だ」

「それにロゼちゃんも安心できると思うし。
 入れてもらった方がいいんじゃない」
とエイダも言った。

「まあ、たまにならな」
とユーゴは言った。反抗期の子みたいに、頑固だ。よほどユーゴはパーティーを組みたくないのだろうか。

 私たちはやはりその日は酒場に泊まることにした。隣のベッドは空いている。ユーゴはいつものように床で寝ている。寝苦しくないのだろうか。寝入ったあと風邪を引かないように、布団だけかけてあげる。お酒を飲んだあとはぐっすり眠れるようで、朝は私が起こさないと昼まで寝ることもある。







《通知があります。確認にはステータスを開い てください》

突然私の所に、通知があった。最初は誰かに話しかけられたのかと思ったが、耳で聞こえたと言うよりは頭に直接響いた。シエルではない、無機質な機械のような声だった。

ロゼッタ·アンダーウッド

HP 170/170
MP  240/240
SP 170/170

レベル 8
攻撃力 15
防御力 15
魔法攻撃力 100
魔法防御力 100
敏捷力 43

種族 キメラ
年齢 8歳
陣営 魔族
健康状態 良好
称号 魔王の卵
転生スキル アーカーシャ
スキル [言語理解] [毒耐性lv1] [魔術発動時間    短縮lv3]
魔術 中級水魔術 中級風魔術

 私は8歳になっていた。ようやく年齢にlvが追いついた。まあこの世界では、戦わないとlvやステータスアップはしないようで、だいたい村人などは成長が高くてもlv15前後で止まるようだ。私はまだまだ成長期と言うことだ。魔術の発動時間短縮は今のところ、発動時間が短縮されているとは感じない。ただ威力を上げることについては、魔力の燃費が良くなって来ている気がする。今は大体初級魔術を撃つと、MPを平均10程度消費する。威力を上げるのにはさらに上乗せして消費が必要だったが、あまり魔力消費なしで威力を上げられるようになってきている。もちろん限界はあるが。中級魔術が使えるようになっている。今までは教本に載っている中級魔術を撃とうとしたがどれも発動しないか、不完全な状態だった為、初級だけの訓練を行っていたが今度試してみよう。

 通知は右上に出ているマップの横に、新しく通知ボタンが出ている。私は、通知をタップすると、『転生者死亡のお知らせ』とある。それを見た瞬間に息を飲んだ。私の心臓がバクバクと音を立てている気がする。転生者の死亡と言う事は、私以外の誰かが命を落としたということだろう。私は見るのを躊躇いながら、『転生者死亡のお知らせ』をタップしてみた。

小松文

種族 ドライアド
年齢 125歳 
陣営 魔族
転生スキル 看破の魔眼
出会った相手のステータスが分かる。直接会った人物や魔物、武器や防具などあらゆるものの情報を得ることが出来る。
死因 
人族の手により、ドライアドの森にて焼死

 そこには、死亡した小松さんの情報が、簡単に載っていた。小松さんは3年生だし、転生した日に会っただけで、それ以上の関係はなかった。だけど関係がないからと言って、何も感じない訳ではない。いくらゲームに勝てば、元の世界に戻れるとはいえ、本当に同じ境遇の人間を手に掛けるとは思っていなかった。人間同士で殺し合ったり、殺されるかもしれない事が恐ろしかった。

 マップを開くと、人族、魔族、狐とそれぞれカウントが、10、9、1となっていた。魔族陣営は1人減った。
 私はゲームが遂に始まったのだと言う事を実感した。
しおりを挟む

処理中です...