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異世界編

冒険者試験

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 小松さんが死亡して、2年が過ぎた。

 あれから、転生者の動きをこまめに気にするようになった。幸い、私の住んでいるアルゼの村近郊には転生者が近づいてきたことはない。ダンジョンがあるとは言え辺鄙な場所だ。他の街から冒険者が来ることばかりだ。だが小松さんは意図して、狙われた可能性は十分にあると思う。ただ魔族だから狙われたのではなく、転生者の人族に転生者の魔族が討伐されたのだ。私が狙われる事もあるだろうから注意するに越したことはない。

 小松さんが亡くなった事で、さらに問題が生じている。彼女のスキルは、相手が勇者かどうか見破れるスキルだったと考えられる。マップで転生者のだいたいの位置は分かる。だけど、敵を特定するのに彼女の能力はかなり重要だったと思う。最悪この先、人族には常に先手を取られ続けることになる。小松さんを襲った人族が転生者だったら、どうしてピンポイントで狙えたのか。相手が同じ転生者でなおかつ、小松さんと似たスキルを持っていると考えると納得がいく。ただの憶測にすぎないけど。まあ、わからない事を考えても仕方ない、やめよう。

 私は、ステータスと言って、画面を開く。今更だが、この画面は私にしか見えないらしい。ユーゴの前で開いても、特に何も言ってこない。

ロゼッタ·アンダーウッド

HP 190/190
MP  280/280
SP 190/190

レベル 10
攻撃力 19
防御力 19
魔法攻撃力 154(140)
魔法防御力 154(140)
敏捷力 57

種族 キメラ
年齢 10歳
陣営 魔族
健康状態 良好
称号 魔王の卵
転生スキル アーカーシャ
スキル [言語理解] [毒耐性lv1] 
    [魔術発動時間短縮lv5]
    [魔法ステータス上昇lv1]
    
魔術 中級水魔術 中級風魔術

 私は、10歳になっていた。年齢とともにlvも上がっている。ただ身体は相変わらず小さくて身長は数cmしか伸びてないし、身体能力もほとんど上がっていない。新しく覚えた、[魔法ステータス上昇lv1]のスキルは、現在の基礎魔法ステータスを向上してくれている。魔術中心で戦う私にはありがたいスキルだ。ただ私のステータスは偏りがありすぎる。もうここまで来たら、いっそ攻撃は全て魔術で行い、相手の攻撃は全て避けるくらいのつもりでいこうと思っている。元陸上部なのだし、少しは逃げ足には自信がある。これからは走り込みも頑張ろうと思う。身長も伸びるかもしれない。

「お父さん、ちょっと森を走ってくる」
そうと決めたら、私は居ても立っても居られなかった。私は小屋を出た。

「ロゼ、急にどうしたんだよ?おい」
と言っているのが聞こえたが、もうそこには私は居ない。娘の奇行に驚いているような声だった。

 あれから魔力のコントロールも毎日訓練した。目立った上達こそないが、魔力を使っている内に、小さく魔術を使うことがいい練習になることに気づいた。中級の魔術で規模の大きい魔術を使用していると、どうしても狙った結果と違い、周囲への被害が出ることがあった。中級風魔術、ウインドクロウで岩を切り裂こうとしたら、隣にあった木を切り倒してしまったことがあった。威力を上げるのは簡単で、魔力を込めれば風の爪の範囲を広げたり、複数出すことができた。いつも1人ならいいけど、誰かとパーティーを組む時は魔術を放つのは慎重になる必要がある。仲間に当たったら大変だ。まあだからこそ魔術教本のように、狙った結果を出せる本がありがたがられるのだろう。

 私は走りながら、初級風魔術、エアブラストを使った。エアブラストは突風を起こす魔術だが、様々な方向から発生させる事ができるため汎用性は高い。実際、デュランと戦った時も、移動の阻害や転倒させたりした。突風を抑えめで発生させながら、凸凹道などは足下から風を、平地では追い風、と使い分ける事で私は普段よりも早く走ることができた。丁度よい風で、私の身体はすごく軽く感じ、久しぶりに気持ちよく走れた。

 私は、10歳になったのだ。

 私は例の件をユーゴに切り出してみた。

「お父さん、私10歳になったから冒険者になりたい」

 この時をずっと待っていた。実践に勝る訓練はない。

「そうか。もう10歳か。大きくなるのはあっという間だな」
とユーゴは言った。
 嫌味ではないのだろうが、私はあまり大きくなってなかった。

「よし、ロゼ。
 今日は冒険者ギルドに行ってみるか」
とユーゴは言った。

 私たちは朝食を摂ると、アルゼの村へ出掛けた。村は拡大を続けているが、その中でも大きな建物は少ない。冒険者ギルド、宿屋、村長の家、酒場などは村の外からでも目立つ。

 冒険者ギルドは村の北側の入り口を入ればすぐにあった。村の施設としては新しい為、村の中心からは離れた場所にあった。その代わり、森やダンジョンには近い位置にある。冒険者ギルドは2階建ての一見酒場のような出で立ちであったが、建物の横には訓練場のようなスペースがある。冒険者同士で戦っている人もいる。早朝からかなり気合が入っている。

「何かすごいね」

 冒険者は熟練者風の者や10代の若者、様々な年齢層の人たちが居た。男性だけでなく女性も意外と多い。

「冒険者ギルドってのは、仕事を紹介するだけ じゃない。ああやって頼めば、ギルド職員や上位の冒険者が戦闘の訓練なんかもやってくれる。
 もちろん金はかかるがな」
と言って、ユーゴは冒険者ギルドの入り口へ向かった。私は、後ろから付いていく。ギルドの中に入ると、受付や大きな掲示板、軽食を食べられるスペース、2階へ上がる大きな階段などがあった。意外と人も多く、賑わっていた。ユーゴがギルドへ入ると、周囲の視線を集めた。ユーゴは気にせずにまっすぐに受付に向かった。私の方が緊張してしまう。置いて行かれそうになり、私は走ってユーゴの所に向かう。

「この娘を冒険者登録したいんだが、頼めるか」
受付の女性に言った。女性は若くて、綺麗だった。女性は私を見て、怪訝な表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻る。

「ええ。冒険者の試験には、金貨1枚かかります」
と言った。お金がかかるんだと疑問に思った。誰でもなれるというには、ちょっと敷居がある。何も言わずに、ユーゴは懐から金貨1枚を出す。

「ではこの羊皮紙に本人の名前と血判をお願い します」
 け、血判って、ヤクザとかがやるアレのこと?私は、もう大分この世界に慣れてきたと思っていたが、まだまだだった。ユーゴはナイフを取り出して、私に手を出すように言った。かなり怖い。

「い、痛くしないでね」
と私はガクガクなりながら言って、手を差し出す。

「安心しろ。たとえ指が切り落とされても、
 魔術があれば治せる」
とユーゴは真顔で言った。私は、目に涙が溢れた。すかさず手を引いた。

「冗談だって。ほら指の先をちょっとだけだ」
と言って、私の手を取りナイフで指先をチクッとする。

「痛ぁーーー!」
私はやや大袈裟に大声で叫んだ。指先の傷口から赤い血の玉が出てくる。

「ほら、ロゼ。
 名前を書きなさい」

 私は、ユーゴをやや恨みがましい目で見ながら、しぶしぶ名前を書き、指先から出る血を名前の横に押し当てた。ユーゴは私に初級光属性魔術ヒーリングをかけてくれる。私の指先からは傷と痛みは消失した。

「確かに承りました。
 ではしばらくお待ち下さい。試験官を呼んで参ります」
と言って受付嬢は立ち上がり、ギルドの外に出ていく。しばらくすると、ギルド職員と思われる青年を連れて戻ってきた。

「試験は外で行う。付いて来い」
と言って、青年に付いていく事になった。随分と横柄な態度だ。外へ出ると、ギルドの横にある訓練場へ向かった。

「今から戦闘試験を開始する。
 お前にはこれから俺と戦ってもらう。3分戦っ て立っていることが出来れば、冒険者に認定してやろう」
と青年は言った。試験と聞いて何となく、筆記試験を想像していたが見事に裏切られた。まだ前世の感覚が残っているみたいだ。

    
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