婚約破棄された令嬢の慌ただしい一日

夢草 蝶

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セオンの目的

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「ところで、セオン様こそどうしてここに?」

 私は話題を変えるためにセオン様自身に関する質問をしました。

「僕かい? ああ、僕は人探しをしてるんだ」

「人探し、ですか?」

 待ち合わせの相手とはぐれてしまったのでしょうか?

「友人でね。もうずっと音信不通の相手なんだ。王都のどこかにいることは間違いないから、どうしても会いたくってね」

 そう仰るセオン様の横顔は遠くの人を想うように寂しげな表情を浮かべていました。
 王都にお住まいであれば、住所を調べる方法くらいいくらでもあると思うのですけれど。
 どうやら、込み入った事情があるようです。

「そうなのですか。あの、よろしかったらその方の特徴を教えていただけますか? 私ももうしばらくこの辺りをぶらつく予定なので、万が一お見かけしたらお教えしますよ」

「いいのかい? なら、頼もうか。彼はねぇ、黒髪に紅玉も欺く美しい瞳をした青年だよ。歳の頃は僕と同じ。身長は私より少し低かったけれど、もう何年も前だし、手足は僕より大きかったから今は僕より大きいかもしれない。何より、彼には会えばわかる。一度見たら忘れないとっても整った顔立ちをしているから」

 友人の事を語るセオン様はとても優しそうな顔をされていて、その方のことを深く思っているのが伝わってきました。

「大切な方なのですね」

「僕にとっては唯一無二の親友で幼なじみだからね。親同士が仲が良くて、ずっと一緒だったんだ。一緒に遊んだことも、剣を交えたのも数えきれないくらいだよ。もしも彼がこの広い王都で一人孤独に耐えているのなら、僕は友として傍にいたいんだ」

 セオン様のお話だと、もう数年はそのご友人に会っていない様ですけれど、親同士の繋がりなのに、音信不通? それに一人という言葉も気になりますね。
 やはり不思議に思うところはありましたが、事情は人それぞれだと納得しました。
 最後に確認をします。

「黒髪に赤い瞳のセオン様と同い年の男性、ですね。わかりました。もしも街でお見かけすることがあれば真っ先にセオン様にお教えします」

「ああ、ありがとう。本当に全然見つからないから、協力してくれる人が一人でもいるのは頼もしいよ」

 とは言え、広い王都で行き当たりばったりで特定の人物と出会う確率は低いでしょうね。ずっと探しているセオン様も会うどころかすれ違ってもないようですし。
 あ、いけない。
 セオン様のご友人の人物像を頭にしっかりと入れると、人を指す上で最も大切な記号を訊いていないことに気づきました。
 私はそういえばと付け足してセオン様に質問し、その方の名前を訊ねました。

「ご友人のお名前はなんと仰るのですか?」

 思い出を慈しむ優しい声音で、セオン様は友の名を教えてくれました。

「エンジュだよ」
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