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第八話 通常業務に戻る その2
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「ヒース殿下、ありがとうございました」
「大したことはしてないよ。ロザリー、大丈夫?」
お礼を言うと、ヒース殿下は気にしないで、と手を振られた。
──また、名前呼び。
王族だから、目下の人間を呼び捨てにするのは変なことではないけれど、ファーストネームで呼ぶのは変な勘繰りをされる可能性があるから止めて欲しい──というのを、失礼のないように伝えるにはどうしたらいいか・・・・・・。
「それより、見逃しちゃって良かったの?」
「まぁ、結果的に時間のロス以外は被害ありませんし、それも調整すれば取り戻せますから」
「ロザリーは優しいねぇ」
そんなことはない。
ただあんなことに係っているのが惜しいだけだ。被害者がいなければ、なかったことにしてもいいと判断しただけのこと。
「あの、私のことをご存知だったんですか?」
「え!? いつも俺のところに手紙や書類を届けてくれてるのに、知らないと思ってたの?」
「いえ。その時はいつも、グリーフ様が対応されてますので、名前まで知られているとは思わず──」
配達で執務室を訪ねることはあるけれど、いつも配達物はグリーフ様が受け取っていて、ヒース殿下は奥でお仕事をされているか、不在かのどちらかだったから、てっきり顔くらいは知っている、くらいに認識されていると思っていたのに。名前を呼ばれたのには驚いた。ファーストネームだったことには別の意味も含めてもっと驚いたけど。
「もちろん、知ってるよ。ダイヤの配達侍女さん。ガーネット侯爵家のロザリー・ガーネット、でしょ」
殿下のおっしゃっていることに間違いはないので、私はコクンと頷いた。
「俺ね、君と話してみたかったんだ」
ヒース殿下の瞳が微笑んで、真っ直ぐに視線を向けられると、何だか気持ちがそわそわとした。
綺麗な人に見つめられると、落ち着かないものね──じゃなくて、話ってことは。
「何か配達のご依頼ですか? 物をお持ちでしたら、今お預かりします。そうでないのでしたら、夕刻に殿下の執務室をお訪ねする予定ですので、間に合うのであればその時でもよろしいでしょうか?」
王族からの配達依頼であれば、優先度は高い。今から執務室へ行かないといけないのなら、ますます時間調整をちゃんとしなくちゃ──。
「ううん。そうじゃなくて、今度──」
「見つけたぁあああああああ!!!!!」
「うわっ!?」
殿下の声は、城壁を越えて街にまで届きそうな大声に掻き消された。
声のする方を見ると、目の座ったグリーフ様が仁王立ちしている。
迫力満点でとっても怖い!
「げ! 見つかっちゃった」
ヒース殿下が悪戯がバレた子供みたいな気まずそうな顔をする。
「ヒース殿下────! これから見合いだっつってんのに、どこ行ってたんですか!? さぁ、観念して──」
「ごめん、ロザリー。話はまた今度で!」
「あっ」
「ああ!」
グリーフ様が迫り来る中、ヒース殿下は渡り廊下から外へ出ると、地面を蹴って跳躍し、元居た渡り廊下の屋根上へ飛び乗った。なんて跳躍力!
「待て────────!」
屋根の上を危なげなく駆けるヒース殿下と、それを下から追いかけるグリーフ様。
主従の追い駆けっこを見送り、私はようやく業務へと戻ることが出来た。
何か色々あったけど、お仕事に感情は持ち込まない! 引き摺らない! よし!
私は頬を二、三度ぺちぺちと叩いて気を引き締め直し、斜め掛けにした鞄の紐をぎゅっと握って図書館へと歩き出した。
「大したことはしてないよ。ロザリー、大丈夫?」
お礼を言うと、ヒース殿下は気にしないで、と手を振られた。
──また、名前呼び。
王族だから、目下の人間を呼び捨てにするのは変なことではないけれど、ファーストネームで呼ぶのは変な勘繰りをされる可能性があるから止めて欲しい──というのを、失礼のないように伝えるにはどうしたらいいか・・・・・・。
「それより、見逃しちゃって良かったの?」
「まぁ、結果的に時間のロス以外は被害ありませんし、それも調整すれば取り戻せますから」
「ロザリーは優しいねぇ」
そんなことはない。
ただあんなことに係っているのが惜しいだけだ。被害者がいなければ、なかったことにしてもいいと判断しただけのこと。
「あの、私のことをご存知だったんですか?」
「え!? いつも俺のところに手紙や書類を届けてくれてるのに、知らないと思ってたの?」
「いえ。その時はいつも、グリーフ様が対応されてますので、名前まで知られているとは思わず──」
配達で執務室を訪ねることはあるけれど、いつも配達物はグリーフ様が受け取っていて、ヒース殿下は奥でお仕事をされているか、不在かのどちらかだったから、てっきり顔くらいは知っている、くらいに認識されていると思っていたのに。名前を呼ばれたのには驚いた。ファーストネームだったことには別の意味も含めてもっと驚いたけど。
「もちろん、知ってるよ。ダイヤの配達侍女さん。ガーネット侯爵家のロザリー・ガーネット、でしょ」
殿下のおっしゃっていることに間違いはないので、私はコクンと頷いた。
「俺ね、君と話してみたかったんだ」
ヒース殿下の瞳が微笑んで、真っ直ぐに視線を向けられると、何だか気持ちがそわそわとした。
綺麗な人に見つめられると、落ち着かないものね──じゃなくて、話ってことは。
「何か配達のご依頼ですか? 物をお持ちでしたら、今お預かりします。そうでないのでしたら、夕刻に殿下の執務室をお訪ねする予定ですので、間に合うのであればその時でもよろしいでしょうか?」
王族からの配達依頼であれば、優先度は高い。今から執務室へ行かないといけないのなら、ますます時間調整をちゃんとしなくちゃ──。
「ううん。そうじゃなくて、今度──」
「見つけたぁあああああああ!!!!!」
「うわっ!?」
殿下の声は、城壁を越えて街にまで届きそうな大声に掻き消された。
声のする方を見ると、目の座ったグリーフ様が仁王立ちしている。
迫力満点でとっても怖い!
「げ! 見つかっちゃった」
ヒース殿下が悪戯がバレた子供みたいな気まずそうな顔をする。
「ヒース殿下────! これから見合いだっつってんのに、どこ行ってたんですか!? さぁ、観念して──」
「ごめん、ロザリー。話はまた今度で!」
「あっ」
「ああ!」
グリーフ様が迫り来る中、ヒース殿下は渡り廊下から外へ出ると、地面を蹴って跳躍し、元居た渡り廊下の屋根上へ飛び乗った。なんて跳躍力!
「待て────────!」
屋根の上を危なげなく駆けるヒース殿下と、それを下から追いかけるグリーフ様。
主従の追い駆けっこを見送り、私はようやく業務へと戻ることが出来た。
何か色々あったけど、お仕事に感情は持ち込まない! 引き摺らない! よし!
私は頬を二、三度ぺちぺちと叩いて気を引き締め直し、斜め掛けにした鞄の紐をぎゅっと握って図書館へと歩き出した。
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