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一番の被害者
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「えーと・・・・・・殿下? 弟君の十五歳の誕生祭は実におめでたい事ですものね。浮かれてしまうのも分かります。ですが、その冗談は少々場に似つかわしくないかと」
無理があると自分でも分かっておりましたが、とりあえず先程のルゼット殿下の『婚約破棄宣言』をなかったことにするために冗談という事で済ませようと試みました。
「私は本気だ」
う~ん、あえなく失敗・・・・・・。
周囲の視線もどんどん集まって来ますし、ルゼット殿下はずっと睨んでこられますし、どうしましょう。
「ルゼット! 貴方は一体何をしているの!?」
困っているところに、一筋の光が差し込みました。
騒ぎを聞きつけられたルゼット殿下たちの御生母様──王妃陛下のおなりです。
「母上!」
ルゼット殿下が王妃陛下をお呼びしますが、陛下の怖いお顔に気づいてらっしゃらないのでしょうか? ルゼット殿下のお顔には畏怖や不安は見られません。ご令嬢の方は陛下のピリピリとしたオーラが怖かったのか、ルゼット殿下の後ろに隠れてしまいました。ですが、陛下の目にはバッチリ見えております。ほんの僅か。至近距離でないと気づかないくらい小さく、陛下は片方の眉をピクリと動かされました。
「レナトス嬢、うちの愚息から場に不似合いな言葉が聞こえましたけれど、一体何があったのかしら?」
ルゼット殿下ではなく、まず私にお訊きになるのですね。
息子からではまともな説明がされるか分からないと早々に判断されたのか、それとも変な気を回されたのかは不明ですけれど。
とまれ、訊かれたからには答えなくては。
・・・・・・ですが、私の方としましても説明出来る程現状を把握している訳ではないんですよねぇ。
「ルゼット殿下にお声掛けしたところ、そちらのご令嬢が突然泣き出されてしまい、慰めてらしたルゼット殿下から突然婚約を破棄すると宣言されました」
仕方がないので、あったことそのままに陛下にお伝えすると、陛下は額を押さえ、天井を仰がれてしまいました。まぁ、お気持ちは察します。
「ルゼット・・・・・・冗談にも笑って済まされるものとそうでないものがあるのよ? まだ未熟とはいえ、それくらいの分別はつくようになさい。ほら、レナトス嬢とお客人たちに謝罪なさい。それと、後でちゃんとアルベルトにも謝っておくのよ」
「母上! 私は冗談などで言っている訳ではありません! レナが私の妃に相応しくないと分かったから、婚約を破棄することを決意したのです」
「はぁ?」
冗談だと断じた陛下──時と場所的にこれ以上、この話題を広げる訳にも参りませんものね──の言葉は、ルゼット殿下の反論にばっさりと切り捨てられ、無意味になってしまいました。
──というよりも、私がルゼット殿下の妃に相応しくないとは?
これでも妃教育(王太子はまだ決まっておりませんので、王子の婚約者は皆、王子妃教育だけでなく、王妃教育も受けます。)はしっかり受けてきましたし、殿下の婚約者として恥ずかしくない立ち居振る舞いを心掛けてきたつもりです。
はて? 一体私の何がルゼット殿下に妃に相応しくないと判断させたのでしょうか?
疑問に思って訊ねたくなりましたが、止めました。
だって、あまりのことに忘れそうになってしまいますけれど、今はアルベルト殿下の誕生祭の最中ですもの。これ以上主役よりも視線を浴びて水を差す訳にはいきません。
ここは穏便に済ませるために、ひとまずルゼット殿下を宥め、中座していただこうと陛下に目配せを送りました。
陛下からも了承の視線が返って来ましたので、そうなるよう気づかれないように誘導する言葉を選んで口を開こうとし、
「レナはここにいるセイラに陰湿かつ非道な嫌がらせを行っていたのです! そのようなことをする令嬢に王子の婚約者、そして妃が務まる筈がありません!
改めて私、ルオルカ王国第一王子、ルゼット・ケイン・ルオルカはエトランゼル公爵令嬢、レナトスとの婚約破棄を宣言します!」
「改めて」のところからは会場全体に轟く程の大声でした。
更に多くの視線がこちらにダバダバと押し寄せて来ます。あぅ、視線の波で溺死しそう・・・・・・。
ここまでされるともう──どうしましょう?
・・・・・・って、ん!!? 嫌がらせ!?
今、私がルゼット殿下のお隣にいらっしゃるご令嬢──お名前なんて言いましたっけ? セラ様? あまりの衝撃に記憶が・・・・・・そうではなくて! 何ですかその話! 初耳ですよ! というか、嫌がらせなんてしてませんけどっ!!?
一体全体、何がどうなってこうなったのでしょうか?
ああ、陛下に至っては気絶するのと、ルゼット殿下をぶん殴るのを堪えるお顔をなさっています。
ここで表情を崩さないその姿勢! まさに淑女の鑑ですね。尊敬します!
──なんて、現実逃避している場合ではありませんね。お互いに。
とはいえ、本当にどうしましょう?
ルゼット殿下の婚約破棄宣言と私の冤罪容疑という二つの爆弾がこの場に落とされてしまいました。この場にいる全員、漏れなく被爆しておりますわ。
これ、ひょっとしなくても私、収拾係の一人ですね? どのみち自らの冤罪は晴らさなくてはなりませんし。
ああ・・・・・・どうしてこんな事に・・・・・・。
悲嘆しても意味はないと分かっておりますけれど、心の中なら少しくらいはいいですよね。
というより、これ一番の被害者って私じゃなくてアルベルト殿下ですよね。本当に申し訳ありません。
心の中で謝りながら、私はアルベルト殿下の方を見ました。
あ、アルベルト殿下、死んだ目でケーキを爆食いしている。
無理があると自分でも分かっておりましたが、とりあえず先程のルゼット殿下の『婚約破棄宣言』をなかったことにするために冗談という事で済ませようと試みました。
「私は本気だ」
う~ん、あえなく失敗・・・・・・。
周囲の視線もどんどん集まって来ますし、ルゼット殿下はずっと睨んでこられますし、どうしましょう。
「ルゼット! 貴方は一体何をしているの!?」
困っているところに、一筋の光が差し込みました。
騒ぎを聞きつけられたルゼット殿下たちの御生母様──王妃陛下のおなりです。
「母上!」
ルゼット殿下が王妃陛下をお呼びしますが、陛下の怖いお顔に気づいてらっしゃらないのでしょうか? ルゼット殿下のお顔には畏怖や不安は見られません。ご令嬢の方は陛下のピリピリとしたオーラが怖かったのか、ルゼット殿下の後ろに隠れてしまいました。ですが、陛下の目にはバッチリ見えております。ほんの僅か。至近距離でないと気づかないくらい小さく、陛下は片方の眉をピクリと動かされました。
「レナトス嬢、うちの愚息から場に不似合いな言葉が聞こえましたけれど、一体何があったのかしら?」
ルゼット殿下ではなく、まず私にお訊きになるのですね。
息子からではまともな説明がされるか分からないと早々に判断されたのか、それとも変な気を回されたのかは不明ですけれど。
とまれ、訊かれたからには答えなくては。
・・・・・・ですが、私の方としましても説明出来る程現状を把握している訳ではないんですよねぇ。
「ルゼット殿下にお声掛けしたところ、そちらのご令嬢が突然泣き出されてしまい、慰めてらしたルゼット殿下から突然婚約を破棄すると宣言されました」
仕方がないので、あったことそのままに陛下にお伝えすると、陛下は額を押さえ、天井を仰がれてしまいました。まぁ、お気持ちは察します。
「ルゼット・・・・・・冗談にも笑って済まされるものとそうでないものがあるのよ? まだ未熟とはいえ、それくらいの分別はつくようになさい。ほら、レナトス嬢とお客人たちに謝罪なさい。それと、後でちゃんとアルベルトにも謝っておくのよ」
「母上! 私は冗談などで言っている訳ではありません! レナが私の妃に相応しくないと分かったから、婚約を破棄することを決意したのです」
「はぁ?」
冗談だと断じた陛下──時と場所的にこれ以上、この話題を広げる訳にも参りませんものね──の言葉は、ルゼット殿下の反論にばっさりと切り捨てられ、無意味になってしまいました。
──というよりも、私がルゼット殿下の妃に相応しくないとは?
これでも妃教育(王太子はまだ決まっておりませんので、王子の婚約者は皆、王子妃教育だけでなく、王妃教育も受けます。)はしっかり受けてきましたし、殿下の婚約者として恥ずかしくない立ち居振る舞いを心掛けてきたつもりです。
はて? 一体私の何がルゼット殿下に妃に相応しくないと判断させたのでしょうか?
疑問に思って訊ねたくなりましたが、止めました。
だって、あまりのことに忘れそうになってしまいますけれど、今はアルベルト殿下の誕生祭の最中ですもの。これ以上主役よりも視線を浴びて水を差す訳にはいきません。
ここは穏便に済ませるために、ひとまずルゼット殿下を宥め、中座していただこうと陛下に目配せを送りました。
陛下からも了承の視線が返って来ましたので、そうなるよう気づかれないように誘導する言葉を選んで口を開こうとし、
「レナはここにいるセイラに陰湿かつ非道な嫌がらせを行っていたのです! そのようなことをする令嬢に王子の婚約者、そして妃が務まる筈がありません!
改めて私、ルオルカ王国第一王子、ルゼット・ケイン・ルオルカはエトランゼル公爵令嬢、レナトスとの婚約破棄を宣言します!」
「改めて」のところからは会場全体に轟く程の大声でした。
更に多くの視線がこちらにダバダバと押し寄せて来ます。あぅ、視線の波で溺死しそう・・・・・・。
ここまでされるともう──どうしましょう?
・・・・・・って、ん!!? 嫌がらせ!?
今、私がルゼット殿下のお隣にいらっしゃるご令嬢──お名前なんて言いましたっけ? セラ様? あまりの衝撃に記憶が・・・・・・そうではなくて! 何ですかその話! 初耳ですよ! というか、嫌がらせなんてしてませんけどっ!!?
一体全体、何がどうなってこうなったのでしょうか?
ああ、陛下に至っては気絶するのと、ルゼット殿下をぶん殴るのを堪えるお顔をなさっています。
ここで表情を崩さないその姿勢! まさに淑女の鑑ですね。尊敬します!
──なんて、現実逃避している場合ではありませんね。お互いに。
とはいえ、本当にどうしましょう?
ルゼット殿下の婚約破棄宣言と私の冤罪容疑という二つの爆弾がこの場に落とされてしまいました。この場にいる全員、漏れなく被爆しておりますわ。
これ、ひょっとしなくても私、収拾係の一人ですね? どのみち自らの冤罪は晴らさなくてはなりませんし。
ああ・・・・・・どうしてこんな事に・・・・・・。
悲嘆しても意味はないと分かっておりますけれど、心の中なら少しくらいはいいですよね。
というより、これ一番の被害者って私じゃなくてアルベルト殿下ですよね。本当に申し訳ありません。
心の中で謝りながら、私はアルベルト殿下の方を見ました。
あ、アルベルト殿下、死んだ目でケーキを爆食いしている。
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