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2,令嬢は薔薇園で見知らぬ青年と出会う
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「こんにちは」
「こんにちは」
貴族御用達の薔薇園で、見知らぬ青年に挨拶されたカタリは、同じように微笑んで挨拶を返した。
「初めてお会いする方ですね」
「はい。私は隣国のしがない準貴族で、今は友人宅に滞在してるんです。今日はその友人に誘われて、ここに」
「まぁ、そうだったのですね!」
この国の東隣にある国の名前を口にした青年に、カタリは微笑んで応対する。
その後、二人は何となく薔薇の植木に沿って、話しながら並んで歩いた。
「では、こちらにはお仕事で?」
「はい。ある企画に携わらせていただけることになって。今から楽しみで堪りません」
「ふふ、少し羨ましい」
「羨ましい?」
青年が不思議そうに呟くと、カタリは憂いを帯びた顔でそっと一輪の薔薇に触れながら言った。
「ええ。最近、嫌なことがあって──楽しいことなんて、ちっとも考えられないものだから、未来に楽しいことが待ってることが羨ましくて──もし、不愉快にさせてしまったらごめんなさい」
「いえ、そんな! あの、よければ何かあったか窺っても?」
カタリは少し、困った顔を浮かべたが、青年に先日の件を話した。
「実は──私、婚約を破棄されてしまったんです」
「婚約破棄!? 貴女のような方との婚約を破棄するような男がいるのですか!? 信じられないな・・・・・・」
瞠目する青年の顔が面白かったのか、カタリは小さく吹き出した。
「ふふっ、凄い驚かれるのですね。本当のことですよ」
「それは──その男は見る目がなかったのですね」
「ふ、ふふっ、あははははは!」
その男が王子であるなど、露程も思っていないのだろう。
それがおかしかったのか、今度はカタリは大笑いしてしまった。
すると、青年はびっくりした顔をした。
その顔を見て、カタリは薔薇の花弁から白い指先を滑らせ、細い枝を撫で上げると、その薔薇からそっと手を放し、青年の方を向く。
「あはっ、私ったら、笑いすぎですわね。ごめんなさい。そうそう、まだ名乗っていませんでしたね。私はカタリ・ダマシュと申します」
「いえ。俺はトーマ・スケルトンと言います」
「あの、よければまた会えませんか?」
薔薇園の出入り口へ差し掛かった時、トーマにそう言われた。
「そう、ですわね。またここでお会い出来たら嬉しいです」
そう答えると、トーマはとても嬉しそうな顔をした。
「そうですか! では、今度は三日後に」
「ええ。ああ」
微笑んで頷いたカタリは、何かに気づいたようにアーチの脇にある薔薇の販売所へ足を向けると、そこで一本の薔薇を求めた。
「よければ、今日の記念にどうぞ」
そう言って、美しく満開に咲き誇る一本の青薔薇を差し出す。
「くださるんですか? ありがとうございます! では、お礼に俺も──」
同じように販売所で薔薇を買おうとしたトーマをカタリは首を婦って止める。
「それはまたの機会に。迎えが来ましたので、今日は失礼しますね」
丁度よく、薔薇園の手前にダマシュ公爵家の馬車が停まる。
「そうですか。次にお会い出来る日を楽しみにしています」
「ええ。では、また」
トーマに向かって、にっこりと笑ってお辞儀をしたカタリは、馬車に乗り込んだ。
発車させるための鞭の音が響き、馬車が動き出す。
後ろについた窓から見ると、トーマが手を振っていた。
その姿が小さくなって消えるまで、トーマは手を振り続けていた。
「こんにちは」
貴族御用達の薔薇園で、見知らぬ青年に挨拶されたカタリは、同じように微笑んで挨拶を返した。
「初めてお会いする方ですね」
「はい。私は隣国のしがない準貴族で、今は友人宅に滞在してるんです。今日はその友人に誘われて、ここに」
「まぁ、そうだったのですね!」
この国の東隣にある国の名前を口にした青年に、カタリは微笑んで応対する。
その後、二人は何となく薔薇の植木に沿って、話しながら並んで歩いた。
「では、こちらにはお仕事で?」
「はい。ある企画に携わらせていただけることになって。今から楽しみで堪りません」
「ふふ、少し羨ましい」
「羨ましい?」
青年が不思議そうに呟くと、カタリは憂いを帯びた顔でそっと一輪の薔薇に触れながら言った。
「ええ。最近、嫌なことがあって──楽しいことなんて、ちっとも考えられないものだから、未来に楽しいことが待ってることが羨ましくて──もし、不愉快にさせてしまったらごめんなさい」
「いえ、そんな! あの、よければ何かあったか窺っても?」
カタリは少し、困った顔を浮かべたが、青年に先日の件を話した。
「実は──私、婚約を破棄されてしまったんです」
「婚約破棄!? 貴女のような方との婚約を破棄するような男がいるのですか!? 信じられないな・・・・・・」
瞠目する青年の顔が面白かったのか、カタリは小さく吹き出した。
「ふふっ、凄い驚かれるのですね。本当のことですよ」
「それは──その男は見る目がなかったのですね」
「ふ、ふふっ、あははははは!」
その男が王子であるなど、露程も思っていないのだろう。
それがおかしかったのか、今度はカタリは大笑いしてしまった。
すると、青年はびっくりした顔をした。
その顔を見て、カタリは薔薇の花弁から白い指先を滑らせ、細い枝を撫で上げると、その薔薇からそっと手を放し、青年の方を向く。
「あはっ、私ったら、笑いすぎですわね。ごめんなさい。そうそう、まだ名乗っていませんでしたね。私はカタリ・ダマシュと申します」
「いえ。俺はトーマ・スケルトンと言います」
「あの、よければまた会えませんか?」
薔薇園の出入り口へ差し掛かった時、トーマにそう言われた。
「そう、ですわね。またここでお会い出来たら嬉しいです」
そう答えると、トーマはとても嬉しそうな顔をした。
「そうですか! では、今度は三日後に」
「ええ。ああ」
微笑んで頷いたカタリは、何かに気づいたようにアーチの脇にある薔薇の販売所へ足を向けると、そこで一本の薔薇を求めた。
「よければ、今日の記念にどうぞ」
そう言って、美しく満開に咲き誇る一本の青薔薇を差し出す。
「くださるんですか? ありがとうございます! では、お礼に俺も──」
同じように販売所で薔薇を買おうとしたトーマをカタリは首を婦って止める。
「それはまたの機会に。迎えが来ましたので、今日は失礼しますね」
丁度よく、薔薇園の手前にダマシュ公爵家の馬車が停まる。
「そうですか。次にお会い出来る日を楽しみにしています」
「ええ。では、また」
トーマに向かって、にっこりと笑ってお辞儀をしたカタリは、馬車に乗り込んだ。
発車させるための鞭の音が響き、馬車が動き出す。
後ろについた窓から見ると、トーマが手を振っていた。
その姿が小さくなって消えるまで、トーマは手を振り続けていた。
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