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9,令嬢は青年と次会う日を心待ちにする
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「・・・・・・あ、ごめんなさい。少しぼーっとしてました」
「え!? じゃ、じゃあ、今の話──」
「いえ。それはちゃんと聞いておりました。トーマさんのお気持ちははっきりと伝わりました。突然なので、びっくりして」
告白はきちんと伝わったと言われ、トーマは安堵したように胸を撫で下ろす。
「そうですか。それで、あの──返事は?」
不安と期待が入り交じった声音で、トーマはカタリに告白の返事を求めた。
カタリはどう返すのか?
相も変わらず、微笑んでいるカタリの心情は読み取りにくい。この微笑みのまま、受け入れる言葉か拒否する言葉が返ってきても不思議ではなかった。
「──ごめんなさい」
謝罪の言葉に、トーマの顔が悲痛に歪む。
「少し、お返事は待って頂けますか?」
しかし、続いて言われた言葉に、ぱっと顔を上げてカタリを見た。
「こういうことはすぐに判断するべきじゃないと思うんです。それに、今ここでお返事をしても、すぐにトーマさんがお忙しくなってしまうでしょう? ですから、お返事はトーマのお仕事が落ち着いてからさせて頂きたいです」
「それって──! い、いえ、はい! わかりました!」
断るのであれば、この場で先伸ばしにする必要などない。カタリの言い分からしてみれば、暫く会えなくなるなら、そのまま会わなければ自然に距離を置ける。
脈がない相手にする返事ではないだろう。
トーマは頬を赤らめ、カタリの話に納得したとこくこくと頷いた。
その時、どこからか時計の鐘の音が聞こえてきた。辺りは徐々に茜に染まり、影を伸ばしている。
「あら、もうこんな時間。そろそろ帰りましょうか」
カタリが立ち上がる。
ブランコが小さく揺れ、キィと金属が擦れる音がした。
「はい」
「暫く会えなくなりますね」
名残惜しさからの言葉か、夕日が逆光になって、トーマにカタリの表情は見えなかった。
一陣の風がカタリの髪を撫で上げ、それを押さえながら、整った横顔がトーマへ向けられる。
カタリは相変わらず微笑んで言った。
「次に会える日を楽しみにしてますわ」
三回目の次の約束。
それが果たされる時、二人の関係は劇的に変わるだろう。
「俺もです。その時に約束の花を贈らせて下さい」
「ええ」
そう言って二人は笑い合い、互いに背を向け、それぞれ別の出口から公園を後にした。
公園から出たカタリは立ち止まり、振り返る。
前を向いて歩き去るトーマの背中を一瞥してから、空を見上げると、目を向けた方角にどの建物よりも高い王城が見えた。
その姿を見て、カタリはふと呟いた。
「そういえば、ソウ殿下は今日もサキさんと過ごしていらっしゃるのかしら?」
「え!? じゃ、じゃあ、今の話──」
「いえ。それはちゃんと聞いておりました。トーマさんのお気持ちははっきりと伝わりました。突然なので、びっくりして」
告白はきちんと伝わったと言われ、トーマは安堵したように胸を撫で下ろす。
「そうですか。それで、あの──返事は?」
不安と期待が入り交じった声音で、トーマはカタリに告白の返事を求めた。
カタリはどう返すのか?
相も変わらず、微笑んでいるカタリの心情は読み取りにくい。この微笑みのまま、受け入れる言葉か拒否する言葉が返ってきても不思議ではなかった。
「──ごめんなさい」
謝罪の言葉に、トーマの顔が悲痛に歪む。
「少し、お返事は待って頂けますか?」
しかし、続いて言われた言葉に、ぱっと顔を上げてカタリを見た。
「こういうことはすぐに判断するべきじゃないと思うんです。それに、今ここでお返事をしても、すぐにトーマさんがお忙しくなってしまうでしょう? ですから、お返事はトーマのお仕事が落ち着いてからさせて頂きたいです」
「それって──! い、いえ、はい! わかりました!」
断るのであれば、この場で先伸ばしにする必要などない。カタリの言い分からしてみれば、暫く会えなくなるなら、そのまま会わなければ自然に距離を置ける。
脈がない相手にする返事ではないだろう。
トーマは頬を赤らめ、カタリの話に納得したとこくこくと頷いた。
その時、どこからか時計の鐘の音が聞こえてきた。辺りは徐々に茜に染まり、影を伸ばしている。
「あら、もうこんな時間。そろそろ帰りましょうか」
カタリが立ち上がる。
ブランコが小さく揺れ、キィと金属が擦れる音がした。
「はい」
「暫く会えなくなりますね」
名残惜しさからの言葉か、夕日が逆光になって、トーマにカタリの表情は見えなかった。
一陣の風がカタリの髪を撫で上げ、それを押さえながら、整った横顔がトーマへ向けられる。
カタリは相変わらず微笑んで言った。
「次に会える日を楽しみにしてますわ」
三回目の次の約束。
それが果たされる時、二人の関係は劇的に変わるだろう。
「俺もです。その時に約束の花を贈らせて下さい」
「ええ」
そう言って二人は笑い合い、互いに背を向け、それぞれ別の出口から公園を後にした。
公園から出たカタリは立ち止まり、振り返る。
前を向いて歩き去るトーマの背中を一瞥してから、空を見上げると、目を向けた方角にどの建物よりも高い王城が見えた。
その姿を見て、カタリはふと呟いた。
「そういえば、ソウ殿下は今日もサキさんと過ごしていらっしゃるのかしら?」
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