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昔話、そして今
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「貴様のような愚図ッ、これ以上共にいるなど堪えられん! 婚約破棄だ!」
公衆の面前で告げられた婚約者からの言葉に、私は震えることしか出来なかった。
「・・・・・・っ」
「はっ! しおらしくすれば俺が情けを掛けるとでも思っているのか? そういう計算高いところも吐き気がする。とっとと俺の前から失せよ!」
周囲からはひそひそとした陰口と、嘲笑の声。
悲しみと羞恥から俯く。今にも涙が溢れ落ちそう。
私はこのまま、婚約者に見捨てられた憐れな女として、泣きながらこの場を去るしか出来ないの──?
そう思いかけた時。
「通行の邪魔」
──ドゴンッ。
平淡な声と共に、何かが勢いよく突き刺さる音がした。
思わず顔を上げると、なんと婚約者が天井に突き刺さっていた。
文字通り、ずっぽりと。
気絶しているのか、手足がぷらぷらしており、ぶらーんとぶら下がった状態だ。
婚約者がいた場所には黒髪の美しい青年が立っている。
確か、大魔法使い様のご子息様──ううん。それより。
「何? アンタも邪魔なんだけど」
眉間に皺を寄せている彼に、私は言った。
「好きです。付き合ってください」
「──は?」
私の告白に彼はきょとんして、何度も瞬きをしていた。
そう、私は彼に一目惚れしてしまったのだ!!!
「おいっ、貴様! 婚約者がいる身で他の男に告白するとはどういう了見だ!!!? こら、聞いているのか!? 何をぽーっとしている!」
「あ、気づいたんですか。どういうもこういうも、貴方が婚約破棄するって言ってきたのでしょう? はい。謹んでお受け致します。さようなら──あのっ! 好きな食べ物は何ですか?」
「んなっ! おい貴様、俺に楯突いて許されるとでも──」
いつの間にか天井から脱出していた元婚約者が何か吠えているけれど、そんなものは耳に入らない。
今はとにかくこの人のことが知りたいの!!!
「何で初対面のアンタにそんなこと教えなきゃいけないの? じゃ」
「ああっ! お待ちくださいませ!」
興味ないと言いたげな表情で去っていく彼を私は追いかけた。
「きさ、貴様貴様貴様! ふざけるな~!!!」
翌日、元婚約者は婚約破棄をしようとして、逆にフラれた憐れな男として校内新聞で笑い者になったらしい。
「それから二年。私は彼にずーっとアプローチし続けて、卒業式の日にようやくお付き合いすることになったのよ。それからそのまま結婚して──そして、貴方たちが生まれたのよ」
「「お母様、趣味変~」」
膝の上の愛しい子供たちに、私たちの馴れ初めを語って聞かせると、思わぬ感想が飛んできた。
「てゆーか、父様って昔っからゆいがどくそんだったんだね」
「どちらかと言うと、ぼーじゃくぶじんじゃない?」
「そーかも!」
「難しい言葉を知っているのねぇ」
頭の良さは父親譲りかしら?
子供たちの成長に思わず笑みを溢すと、部屋の扉が開かれる。
「お父様だ!」
「おかえりなさいー! 父様、お土産は?」
「二言目にそれか。ほら、今日はケーキがある。手を洗って来い」
「「わーい!」」
お父様にケーキの箱を見せられた双子は手を挙げて喜んで、ぱたぱたと洗面所へと駆けていった。
「お帰りなさい、あなた」
「ああ。ただいま」
上着を受け取って、ハンガーに掛ける。
昔話をしていたからだろうか?
こんなちょっとした夫婦らしいやり取りが何だかくすぐったい。
「どうした?」
「ふふっ、いえ。ちょっとあなたと出会った頃のことを思い出して」
「ああ──気弱そうなお嬢様がいるなと思ったら、とんだネバー精神の持ち主で驚いたぞ。というか、あそこのどこに惚れる要素があったのか今でもわからん」
「一目惚れですから」
本当に。
そうとしか言いようがない。
酷いことを言う婚約者を蹴り飛ばしてくれたからとか、あの辛い状況から助けてくれたからとかは些細な理由で。
そんなものなくても、生まれ変わったような衝撃があったのだ。
「そういえば、今日はあいつらと何してたんだ?」
愛しい旦那様の問い掛けに、私は答える。
「子供たちに私たちの昔話をしていました。お父様とお母様はこんな風にであって、そしてあなたたちが生まれたのよって」
公衆の面前で告げられた婚約者からの言葉に、私は震えることしか出来なかった。
「・・・・・・っ」
「はっ! しおらしくすれば俺が情けを掛けるとでも思っているのか? そういう計算高いところも吐き気がする。とっとと俺の前から失せよ!」
周囲からはひそひそとした陰口と、嘲笑の声。
悲しみと羞恥から俯く。今にも涙が溢れ落ちそう。
私はこのまま、婚約者に見捨てられた憐れな女として、泣きながらこの場を去るしか出来ないの──?
そう思いかけた時。
「通行の邪魔」
──ドゴンッ。
平淡な声と共に、何かが勢いよく突き刺さる音がした。
思わず顔を上げると、なんと婚約者が天井に突き刺さっていた。
文字通り、ずっぽりと。
気絶しているのか、手足がぷらぷらしており、ぶらーんとぶら下がった状態だ。
婚約者がいた場所には黒髪の美しい青年が立っている。
確か、大魔法使い様のご子息様──ううん。それより。
「何? アンタも邪魔なんだけど」
眉間に皺を寄せている彼に、私は言った。
「好きです。付き合ってください」
「──は?」
私の告白に彼はきょとんして、何度も瞬きをしていた。
そう、私は彼に一目惚れしてしまったのだ!!!
「おいっ、貴様! 婚約者がいる身で他の男に告白するとはどういう了見だ!!!? こら、聞いているのか!? 何をぽーっとしている!」
「あ、気づいたんですか。どういうもこういうも、貴方が婚約破棄するって言ってきたのでしょう? はい。謹んでお受け致します。さようなら──あのっ! 好きな食べ物は何ですか?」
「んなっ! おい貴様、俺に楯突いて許されるとでも──」
いつの間にか天井から脱出していた元婚約者が何か吠えているけれど、そんなものは耳に入らない。
今はとにかくこの人のことが知りたいの!!!
「何で初対面のアンタにそんなこと教えなきゃいけないの? じゃ」
「ああっ! お待ちくださいませ!」
興味ないと言いたげな表情で去っていく彼を私は追いかけた。
「きさ、貴様貴様貴様! ふざけるな~!!!」
翌日、元婚約者は婚約破棄をしようとして、逆にフラれた憐れな男として校内新聞で笑い者になったらしい。
「それから二年。私は彼にずーっとアプローチし続けて、卒業式の日にようやくお付き合いすることになったのよ。それからそのまま結婚して──そして、貴方たちが生まれたのよ」
「「お母様、趣味変~」」
膝の上の愛しい子供たちに、私たちの馴れ初めを語って聞かせると、思わぬ感想が飛んできた。
「てゆーか、父様って昔っからゆいがどくそんだったんだね」
「どちらかと言うと、ぼーじゃくぶじんじゃない?」
「そーかも!」
「難しい言葉を知っているのねぇ」
頭の良さは父親譲りかしら?
子供たちの成長に思わず笑みを溢すと、部屋の扉が開かれる。
「お父様だ!」
「おかえりなさいー! 父様、お土産は?」
「二言目にそれか。ほら、今日はケーキがある。手を洗って来い」
「「わーい!」」
お父様にケーキの箱を見せられた双子は手を挙げて喜んで、ぱたぱたと洗面所へと駆けていった。
「お帰りなさい、あなた」
「ああ。ただいま」
上着を受け取って、ハンガーに掛ける。
昔話をしていたからだろうか?
こんなちょっとした夫婦らしいやり取りが何だかくすぐったい。
「どうした?」
「ふふっ、いえ。ちょっとあなたと出会った頃のことを思い出して」
「ああ──気弱そうなお嬢様がいるなと思ったら、とんだネバー精神の持ち主で驚いたぞ。というか、あそこのどこに惚れる要素があったのか今でもわからん」
「一目惚れですから」
本当に。
そうとしか言いようがない。
酷いことを言う婚約者を蹴り飛ばしてくれたからとか、あの辛い状況から助けてくれたからとかは些細な理由で。
そんなものなくても、生まれ変わったような衝撃があったのだ。
「そういえば、今日はあいつらと何してたんだ?」
愛しい旦那様の問い掛けに、私は答える。
「子供たちに私たちの昔話をしていました。お父様とお母様はこんな風にであって、そしてあなたたちが生まれたのよって」
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