機械仕掛けの異世界転生〜勇者をクビにされたオッさんですが異世界でヒーローやってます〜

ふるっかわ

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2章 少女の覚醒

022 勇者の資質

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男が巨大な斧を片手で軽々と構える、先程とは男の纏う空気が違う。

「勇者?やはりゼファール帝国の手の者だったか」

「俺の名はローチ、お察しの通り勇者だよ、この意味がわかるか?」

「あぁ、ゼファール帝国はお前の様な下衆を勇者って認める様な腐った国だと言う意味だろ?」

「ハハッ、言ってくれるじゃねぇか、確かにあの国は腐っているけどそう云う意味じゃねぇ…お前はここで死ぬって意味だよ!!」

ローチが床を蹴り上げ斧で切り掛かってくる、先程より速度が上がっている、俺は先程のアークスの忠告を思い出し男の攻撃を避けた。

『マスター、あの斧による攻撃でクロスの装甲に損害が出る可能性が有ります、警戒して下さい』

『わかった、確かに威力は中々の様だな』

先程避けた攻撃の余波で空き家の壁が吹き飛んだ、男は床に食い込んだ斧を抜き取り俺を睨みつけている。

「やるじゃねぇか、俺は攻撃力だけなら序列持ちに匹敵するって言われてるのによ、勇者とまともに渡り合える戦闘力…お前何者だ?」

「クロス、お前の様な下衆から皆を守るのが俺の使命だ」

「はっ!反吐がでるぜ、強者が弱者から奪って何が悪い?権力、財力、暴力、力を持ってる人間が正義なんだよ」

この男の言っている事は確かにある意味正論だ、弱肉強食、強い者が弱い者を喰う、それが当然、当たり前の事なのだ。

「そうだな…確かにお前の言う通りだよ」

「なんだ?物分かりがいいじゃねぇか?お前は腕が立つ、俺と組むつもりはないか?俺とお前が手を組めばきっと欲しい物はなんでも手に入るぜ、名誉に金、女だって犯し放題だ」

転生前の世界でもそうだった、金持ちはより金持ちに、貧乏人はより貧乏人に、なんの力もない俺はそんな弱肉強食の世界に嫌気がさしながら大人しく社畜を続けるしか無かった、しかし今の俺には力が有る、それは弱者から搾取する為の力では無い、理不尽な力から人を守る為の力だ。

「昔の知り合いにお前の様なヤツがいた、自分が力を持っているからってやりたい放題、結局俺は長い間理不尽な要求を聞き続けるしか無かった」

「お前奴隷の出身か?それなら分かるだろ、今度はお前が奪う方に回れるんだ、贅沢が出来るぜ」

「だがな…俺はお前の様になるつもりは無い!お前が暴力と云う力で弱者を喰いものにするならそれよりも強い力でその人達を守ってみせる!」

「ケッ!話がわかるヤツだと思ったのによ、まぁいい、お前さえ殺せば俺は逃げられる、往生しろや!剛腕斧っ!!」

再びローチが俺へ襲いかかる、先程の攻撃よりも疾いが直接的な攻撃だ、これならば軌道を読む事も簡単だ。

「なっ!?俺の攻撃を片手で!?ありえねぇ!?」

「お前が自分の攻撃力に絶対自身を持っているなら真っ向からその力を否定してやる!力ってのは…誰かを傷つける為に使う物じゃないんだよ!!」

ローチの斧による攻撃を片手で掴み取る、モニターに腕部の損傷をしらせる警告が流れるが微々たる損傷だ、攻撃を防がれたローチの表情が驚きに変わる。

『左腕部の損傷率3%、活動に支障はありません、この斧に宿るエネルギー…マスター試してみたい事があるのですが許可を頂けますか?』

『許可?いったい何の事だ?』

『この斧は純粋な魔力の塊です、直接触れている今ならば変換、吸収しクロスのスペックをアップグレードする事ができます』

ローチがこれ程自分勝手な理論を振り回して他者を傷つけるのは自分の力に絶対の自信を持っているからだ、その自信の根源であるこの斧が無くなればもう他者を傷つける様な事は出来なくなるのではないだろうか。

『わかった、やってくれ、こいつのプライドをへし折ってやろう』

『了解しました、対象の分解を開始…40%、98%…100%、対象の持つエネルギーの変換、吸収を完了、クロスの基本スペックが強化されました、他にも今後A.C.Sの開発に掛かる時間の短縮が期待できます』

片手で受け止めていたローチの斧が光になりクロスの装甲へと吸収された、自らの獲物に異変を感じたローチが後ろへ飛び退く、何が起こったか理解出来ていない様だ。

「何をしやがった!?俺の勇具が…クソっ!出ろ!出てこい!!」

「お前の力は俺が奪った、力を持つ者は弱者から奪っても良いってのがお前の持論だったな?文句はないだろう」

「うるせぇ!俺の勇具を返しやがれ!ぶっ殺してやる」

「お前はもう終わりだ、騎士団に突き出してやるから牢屋の中で今までの悪事を反省するんだ」

ジリジリと俺との距離を離し逃げようとするローチ、本能で敵わない相手と理解したのだろう、しかしここで逃すつもりはない、俺はスタンウェーブと同質の電流を拳に纏わせる。

「心配するな痛みを感じる事は無い、気を失うだけだ」

「へ…へへっ、何にも分かってない様だな、これでも俺は勇者、特権階級なんだよ、騎士団に捕まった所でお咎めなしだ、俺を捕まえたらゼファール帝国が黙っちゃないぜ?どうせすぐに解放される」

とことん見下げ果てたヤツめ、暴力の次は権力か、もしコイツの言う通り本当に不逮捕特権の様な者をローチが持っているとすれば一体どうすれば…

「そこまでだ!勇者…いや犯罪者ローチ!この街の領主としてお前が持つ勇者の特権を剥奪、逮捕する!」


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