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革羽織
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市兵衛のでん留での憩いの一刻は、稼ぎが増えた事により三日に一度から二日に一度と頻度が増した。しかし、頼むものは相も変わらず燗酒一合と味噌でんがくで二十文。一合の酒を舐める様にゆっくりと呑んでから、菜二種の見繕いに豆腐汁、漬物が付いた飯を食べる。これが二十文。〆て四十文である。
その晩も、市兵衛は七つ半頃にでん留の引戸を開けた。先客は、いつもの二人、飾り職の長次郎に搗米屋の主、奥州屋伊之助、そして入れ込みの金助親子という常連に、いつもは仲間と一緒にやって来る町火消、九組の源太が珍しく独りで長次郎達と長床几に座り、差し向いで飲んでいた。
他にも、今日は入れ込みに数人、行商人らしい人達が、酒で仕事の疲れを癒していた。
調理場で忙しく立ち働くお春に声を掛け、笊に波線を五枚入れ酒とでんがくを頼み、手を挙げて市兵衛を迎え入れる長次郎に挨拶を返してから奥の刀掛けへゆき、金助とその子らと一言挨拶を交わして長次郎らの向かいの長床几へ戻って来る。これがいつもの手順である。両親にも死に別れ、江戸には友らしい友もいない市兵衛にとっては、大袈裟に云えばこの店の人々との触れ合いだけが人付き合いの全てであった。
「やぁ皆さん、ご機嫌の様ですな。お邪魔しますよ」
市兵衛は源太の隣に腰を下ろすと、いつもは顔に表情を出さない源太が珍しく笑顔で市兵衛に会釈を返して来た。
源太は五尺七寸と長身の市兵衛より更に上背があり、恐らく身の丈六尺を超えている。しかも左の頬に二寸程の刀傷があるので表情を消している時の凄みは生半可なものではないのだが、見た目に反して気の良い男とみえて店の客には自分から腰を折り挨拶をする。
市兵衛ともでん留で何度か会ううちに、打ち解けて来てはいるのだが、いつもは火消仲間と入れ込みで飲んでいるのと、恐ろしく無口ということもあり、会話らしい会話は一度もしたことは無かった。
「市兵衛さん、実はこの源太が道具持に出世したものですからね、その祝いに俺と伊之さんが世話人になって、革羽織を新調しようじゃねぇかって話になりやしてね、まあ、その打ち合わせで」
「お、それは無粋なことを。それがし、他でやるとしましょう」
打ち合わせの邪魔をしてはならないと思い、席を立った市兵衛を、慌てて長次郎が引き留める。
「ちょちょちょっ、打ち合わせってのはコレのことですよ、それに話は粗方付いてるんだ、そんな冷てぇこと仰らずに一緒にやりましょうよ市兵衛さんっ」
コレと云って左手で猪口を空ける振りをしてみせ、席を立とうする市兵衛を引き留めた長次郎。
「はぁ」
丁度その時、お春の声が掛かった。
「三村さぁん、お酒付きましたぁ」
お春から折敷を受け取り、長床几へ戻ると、長次郎と伊之助が源太に手を合わせて何か頼み事をしている。
「頼むよ源太、もう一回、背中見してくれよ、ほら、市兵衛さんも一緒に見して貰ったら良い」
「止してくれよ長さん、自慢してるみてえで恥ずかしいよおいら。こんなとこ組の若ぇもんに見られたら何を言われるやら知れたものじゃ……」
彼らのやり取りが調理場のお春にも聞こえたと見え、お春も
「源太兄ちゃん、あたしにも見せて!」
と、調理場から囃し立てた。
「仕方ねえなぁ」
と、さも億劫そうに立ち上がると、踵を返して背中を見せた。
下ろし立てとみえるその総形袢纏は火熨斗がしっかりと効いていて、襟も触れば指が切れる様にピンと立っている。長袢纏の全身に模様が刷られている袢纏を、俗に総形袢纏と呼ぶ。江戸の町火消の総形は、どの組の所属の人足であるかを火事場で一目で判別するために、それぞれに凝った意匠の模様が入っている。本所深川中組、九組のそれは、纏と同じく、井筒紋が縦に繋がった、『重ね井筒』である。
「市兵衛さん、判りますかい」
「はて……、おお、背中の大紋が他の皆さん方の様に『九』の字じゃありませんな。何と、読むのでしょうか」
「ね、平人足はこの背中の大紋が鏡の朱差しで、中に『九』と組の番号がへえるんですがね、楷子や纏などの道具持はね、ここに道具の名前が入るんですよ。こりゃあ抱え文字って云いましてね、楷の字の下の方に子の文字が抱え込まれて一文字になってるんです」
鏡の朱差し、とは赤地の丸の事である。鏡白といえば、白地の丸の事だ。
「ということは、源太さんは楷子持になられた訳ですか。それは目出度い」
享保の時代に、町奉行大岡越前守様肝入りで結成された町火消であるが、大川の西はご存知のいろは四十八組が、それぞれに一番から十番までの大組に属し、本所深川では一組から十六組までが深川を担当する南組、五本松を始め本所・深川の中間を担当する中組、本所一帯を受け持ちとする北組にそれぞれ所属した。各組はそれぞれ各町々の町抱え、即ち、町入用と云う町の衆が負担する経費で賄われていた。源太の所属する九組は中組に属し、猿江町と隣接の大島町他の町抱えである。
町火消にも階級があり、大組の頭取、各組の組頭の元、下から消火活動には参加しない下人足の土手組、平人足、道具持で構成されている。平人足は鳶口を持つので、又の名を鳶人足と呼ばれる。道具持ちの筆頭は勿論火消しの象徴である纏持で、その次席が楷子持である。
調理場から出て来たお春が、自分の顔より高い位置にある源太の背中の大紋を擦りながら、
「源太兄ちゃん、良く頑張ったわねえ。おじさん、兄ちゃんの革袢纏、でん留も一口載せて頂きますから」
「お、済まねえなあお春ちゃん。宜しく頼むぜ。お春ちゃんと源太は兄弟同然だからなあ」
もう良いでしょう、というや赤い顔をした源太は背を向き直して長床几に座り、酒を呷った。
「あ、お兄ちゃん照れてるの? 柄にもなく」
折敷で口元を押さえながら笑いをこらえ調理場へ戻るお春に、源太は
「ちっ」
と舌打ちを返した。
「仲がお宜しいんですね、お二人は。兄弟の無いそれがしには羨ましい」
二人のやり取りを見ていた市兵衛が眩しそうにつぶやくと、
「俺は、九つの時から三年間、留蔵さんとおいねさんに育てて貰ったんです……」
源太は、土間に目を落としたまま、低い声で喋りだした。滅多に口を利かない男が己の身の内噺を始めた事に、一番驚いたのは目の前に居る二人のおじさん達である。
「恥ずかしい話なんですが、俺は手前の、ちゃんの顔を知らねえんです。お袋が独りで育ててくれていました。兄弟もありやせん。お袋は向島の料理茶屋で中居をしていたんですがね、生まれついての性分なんでしょうかね、男に惚れやすいっていうか……」
市兵衛は、自分の銚釐を上げて源太に酒を注いだ。
「餓鬼の頃から、ふっと二、三日、居なくなる事がありましてね。料理茶屋の客と出来てしまうらしく、すると男と成田山辺りに遊山に行っちまうらしいんですよ。帰ってくると妙に明るくて、お前に新しいちゃんが出来るぞ、なんて言って土産をくれたりしていたもんです」
長次郎は良く知っている話なのだろう、渋い顔をして腕組をしたまま俯いて聴いている。
「新しいちゃんなんて連れて来た事は一度もありませんでしたがね。大抵、暫くすると酔い潰れて帰って来ては男の悪口を言って暴れていましたから」
自嘲気味に微笑みながら酒を呑む源太。
「ある日の午後、手習いから長屋に戻ったら、留蔵おじさんが居るんですよ。今日から暫くでん留で預かるって。どうやらお袋が、一両包んで此処に文を届けたそうなんです。三月の内に、新しい父親と戻るから暫く預かってくれって」
市兵衛は、九歳の子供がたった独りの母親に捨てられた時の気持ちを想像して何ともやるせない気持ちになった。
「あれからもう十と一年かあ、良く頑張ったなあ源太」
長次郎が銚釐を上げる。
「いやぁ、留蔵おじさんとおいねおばさんのお陰ですよ。三年間、実の子の様に可愛がって貰いました」
源太は長次郎の酌を受けながら言う。
「そうだそうだ、あの入れ込みで、お春ちゃんと二人で並んで仲良く飯を喰ってたなあ」
「ええ、その頃から長さんはそこに腰かけて矢大臣でしたね」
「おう、俺の矢大臣は年季がへえってるんだよ」
矢大臣とは、長床几や入れ込みの上がり框に座って酒を飲む時、片足を反対側の膝に乗せる姿勢の事である。長床几で呑むには、どうしても酒や肴を自らの横に置かねばならない。そこで片足を反対側の膝に乗せ、斜めに座る姿勢を自然と取らざるを得ない。神社の随身門の中に居る弓矢を持った坐像の神像を矢大臣というが、これが同じ様に片足を膝の上に乗せているので、居酒屋や、その客の事を符牒で矢大臣とも云った。
皆がどっと笑った所で、市兵衛が恐る恐る訊ねた。
「あの……、その後、御母上とは……」
「今もどこかで元気に生きててくれていりゃあ良いんですがね、それっきり、梨の礫です」
「手前もこの町に来て未だ五年だから知らなかったけれども、源太さん、よくぞ自棄を起こさず頑張りなさったね」
伊兵衛の目も潤んでいる。
「いや、頑張るも何も、十二の時に火事場見物行って火消しになりてぇって言ったら、九組の頭がすっ飛んできて、今から荷物を纏めろ、今日からおめえは九組で預かる、立派な火消しにしてやるから心配すんなって、留おじさんの段取りの早えこと」
長次郎が源太を見つめながらしみじみと言った。
「無口なお前さんがこの話をするとはねえ。一体、どうした風の吹き廻しだえ」
源太は隣で飲んでいる市兵衛に向かって、
「失礼が有ったら御免を蒙りますよ」
と前振りをして話を続けた。
「三村さんの話はね、お春ちゃんから聞くとはなしに伺っています。お春ちゃんを叱らねえでくださえよ。あの子はあなたが心配で堪らねえんだ。でね、話を聞いて、俺も同じだなって思ったんですよ。俺ぁ確かに父親の名前は知らねえし、おっかあは九つの時に消えちまった。けど、でん留のおじさんにおばさんにお春坊、九組の頭に仲間達。そしておじさん達。五本松の人達みんなに育てて貰った。まだ二十歳の若造だってぇのに、こんな重たい袢纏を背負えるのはこの町の人達のお陰だもの。三村さんには、毎日まだまだ辛い事ばっかりかも知れねえけど、この五本松で頑張ってる三村さんを、おじさん達にお春ちゃん、佐治店の大家さんみんなが見守ってるってことをさ、同じ様に町の衆に助けて貰った俺の口から聞いて貰った方が良いと思ったんでさ。そらあ深川の気質だから少々お節介が過ぎるかもしれねえけどね」
涙脆い伊之助は、既に丸い顔を手拭で覆っている。
「九組には良い道具持が出来たねぇこりゃあ。しかし源太、お前がその歳で道具持になれたのは、お前自身、火事場で余所と揉めても一歩も消し口を退かなかった、その頬の傷の賜物だよ。もうちっと、胸を張りな」
そう言いながら空いた銚釐をかたっぱしから取り上げて新しい酒を頼みに立つ長次郎。
市兵衛は黙って源太に頭を下げた。
「止してくださいよ、お武家様にそんな事されたら調子狂っちまう」
「伊之助さん、斯様なその日暮らし故お恥ずかしい額しか出せませぬが、源太さんのお祝いの革羽織、それがしも気持ちだけ入れさせて頂く訳にはまいりませんか」
「何を仰ってるんですか旦那。そら困るっ。三村さんはご自分の事を考えて下さいよっ、俺ぁそんな積りで言ったんじゃねえよっ」
源太が色を成した。
「まぁまぁ源ちゃん。市兵衛さん、九組はこの五本松の町抱えの衆ですから勿論喜んで頂戴いたします。波銭一枚も小判一枚も、その御寄進の価値はお宝の高ではなく、お出し下される方のお気持ちの高で決まります。源ちゃんの羽織にはきっとそのお志が宿りますから、市兵衛さんのお志は有難く頂戴します。しかし、無理はなさらないでくださいましよ」
伊之助が商家の主らしく、凛として答えた。
「さぁさぁ、湿っぽい話はこの位で、皆で熱いのをやろうじゃないか」
長次郎が燗が付いたばかりの銚釐を三本程乗せた折敷を運んできた。ぶつ切りにした秋刀魚を醤油と酒で煮た菜も載せている。
「これは、魚ですな」
「もう九月ですよ、秋刀魚の時期です。今日の飯は秋刀魚の塩焼きですよ。あの竃の脇の大皿に山と積んであるでしょう。昼間に表に長七厘を出して、お春ちゃん、金助のとこのおみっちゃんと二人で煙に往生しながら何十本も焼いてましてね、お向かいの土井様の御屋敷からお叱りが来ねえかと心配になりましたよ。ささ、これも源太の祝いであたしからです。市兵衛さんもやってください」
市兵衛は目を丸くして小皿の上のぶつ切りの秋刀魚を見つめていた。
「いやお恥ずかしい話、国元では、魚は大概干物でして。生の秋刀魚ははじめてです。なんだか、身が膨らんでおりますなあ」
遠慮なく、といい、秋刀魚に齧り付くと、
「これは旨い。生姜が効いているからか、生臭さもまるで無いですな、身はほくほくとして骨まで柔らかい」
夢中で食べ始めた。
「仰向いて 搗き屋秋刀魚を ぷつりくい」
「伊之さん、何だいそりゃあ」
呟いた伊之助に長次郎が訊ねた。
「搗き米屋は体力仕事だからね、昼飯に精の付く秋刀魚ばかり食べているっていう川柳ですよ。実際、この九月に入り秋刀魚が出回り始めてからは、うちの山の神は職人の昼餉の菜に、秋刀魚ばっかり焼いていますよ」
伊之助が真ん丸の顔で笑いながら応えた。
入れ込みのお客の為に飯の支度をしていたお春へ向かって、源太が長床几に腰かけたまま声を掛ける。
「お春坊、これはおっかさんの味じゃないか、おいねおばさんの味と丸で同じだよ。大したもんだなあ」
「ありがとう源太兄ちゃん、これ、兄ちゃんの好物だったわよね」
「おお、覚えててくれたかい、嬉しいねえ」
しかし、今日の源太は良く喋る。長次郎は改めてそう驚いた。その時、食器を洗い場に下げに来たおみちが口を挟んだ。
「その秋刀魚を切ったのあたいだよ。お姉ちゃんと一緒に秋刀魚も沢山焼いたんだ」
「おお、偉ぇなあおみつ坊。坊も大きくなったらお春ちゃんみたいになるのかい」
「うん、ここで働くの」
「そいつぁ楽しみだなあ」
長次郎が目を細めて相槌を打っている。
暫くして、金助が眠ってしまった下の子の金太をおぶさって入れ込みから調理場へやって来た。
「お春ちゃんご馳走様、又明日の朝、宜しく頼むよ」
「はい、朝はいつも晩の残りでごめんね金助さん。それにおみっちゃん、小さいけど良く働いてくれて助かるわ」
「本当かい、邪魔なだけじゃねえかね。おいおみつ、帰るぞ。
そこへ、金助の背中で寝ていた筈の金太が寝言を言った。
「ちゃん。こんな夜なのに又出かけるのかい……」
金助はよしよしと背中を揺すり
「どこにも行かねえよ、帰って寝よう」
おみつは既に、お春から渡された提灯を持って引戸の外で待ってい、金助は子らと長屋へ戻っていった。
「お春ちゃん、ちょっと」
長次郎が厳しい顔でお春を手招きした。前掛けで手を拭きながら、
「おじさん、なぁに」
とお春は笑顔で、矢大臣の長次郎の元にやってきた。
「金の字、又悪い癖が出てるんじゃねえのか」
「そういえば、おみつちゃん、最近夜中に、ちゃんがどっかに行って明け方まで帰って来ない時があるって言ってたっけ」
「又悪い虫が出たか。女房が死んで未だ一年も経たねえってのに」
長次郎は煙草入れから煙管を出し、刻みを詰め始めた。煙を吐き出しながら、長次郎は源太に向かって
「源太、お前、何か聞いてないか」
源太も長次郎同様に腰の提げ物を帯から外し、煙管を出して刻みを詰めながら言った。
「猿江裏町の御旗本、平山様の御下屋敷の中間部屋でうちの若い人足が見掛けたって言ってました」
「ちっ、やっぱりだ」
市兵衛は聞こえない振りをして酒を飲んでいた。
「金助さんも恋女房に逝かれちまった上に小さい子供を二人も抱えて、手慰みでもして気を紛らわさなければやってられないんでしょうなあ」
伊之助が呟くと、
「伊之さんは知らねえ話なんだけど、あいつ昔、丁半に狂った事があってね、賭場に十両のお足(借金)を作った事があったのさ……」
「じ、十両っ」
伊之助が目を丸くした。
「博徒が鉄火場で回す駒は、利が雪だるまみてぇに膨らんでいく。借りたのが二、三両でもあっという間に十両さね。痺れを切らした付け馬が長屋へ乗り込んで来て、払えねえなら女房を質に貰って女郎屋へ売り飛ばすぞって脅かしたものだから、死んだ女房がまだ乳飲み子だったおみちをおぶさってでん留に泣きながら駆け込んで来て、事が露見したって訳さ」
市兵衛は何かを言いたそうに話の続きを待っていると、
「留蔵が九組の頭んとこに相談したら、金の字が足をこさえた六軒堀の貸元の親分筋と組頭は、若い時分からの飲み分けの兄弟分だって事で中に入ってくれてね、金の字は二度と六軒堀の賭場には立ち入らないって約束で、利を負けて貰って五両で話を付けて貰ったんだよ。勿論その五両を建て替えたのも留の野郎だ」
町火消は元々仕事師という鳶職の集団を町奉行所の管理監督の元再編成したという背景がある。鳶人足も本来は日雇取で、博徒を本業とする者も多かったから、彼らを纏める頭にも博徒出身者や博徒と二足の草鞋という者も多かった。町の顔役という意味での差は余り無かったのである。
「源太、何か聞こえたらすぐに知らせてくれよ。おみちと金太を路頭に迷わせる訳にはいかねえ」
黙って頷く源太であった。
「あの、少々気になる事がありまして。聞いて頂きたい事があるのですが……」
と、市兵衛は話し始めた。博奕と聞いて、市兵衛は気になる事を思い出していたのだ。
その晩も、市兵衛は七つ半頃にでん留の引戸を開けた。先客は、いつもの二人、飾り職の長次郎に搗米屋の主、奥州屋伊之助、そして入れ込みの金助親子という常連に、いつもは仲間と一緒にやって来る町火消、九組の源太が珍しく独りで長次郎達と長床几に座り、差し向いで飲んでいた。
他にも、今日は入れ込みに数人、行商人らしい人達が、酒で仕事の疲れを癒していた。
調理場で忙しく立ち働くお春に声を掛け、笊に波線を五枚入れ酒とでんがくを頼み、手を挙げて市兵衛を迎え入れる長次郎に挨拶を返してから奥の刀掛けへゆき、金助とその子らと一言挨拶を交わして長次郎らの向かいの長床几へ戻って来る。これがいつもの手順である。両親にも死に別れ、江戸には友らしい友もいない市兵衛にとっては、大袈裟に云えばこの店の人々との触れ合いだけが人付き合いの全てであった。
「やぁ皆さん、ご機嫌の様ですな。お邪魔しますよ」
市兵衛は源太の隣に腰を下ろすと、いつもは顔に表情を出さない源太が珍しく笑顔で市兵衛に会釈を返して来た。
源太は五尺七寸と長身の市兵衛より更に上背があり、恐らく身の丈六尺を超えている。しかも左の頬に二寸程の刀傷があるので表情を消している時の凄みは生半可なものではないのだが、見た目に反して気の良い男とみえて店の客には自分から腰を折り挨拶をする。
市兵衛ともでん留で何度か会ううちに、打ち解けて来てはいるのだが、いつもは火消仲間と入れ込みで飲んでいるのと、恐ろしく無口ということもあり、会話らしい会話は一度もしたことは無かった。
「市兵衛さん、実はこの源太が道具持に出世したものですからね、その祝いに俺と伊之さんが世話人になって、革羽織を新調しようじゃねぇかって話になりやしてね、まあ、その打ち合わせで」
「お、それは無粋なことを。それがし、他でやるとしましょう」
打ち合わせの邪魔をしてはならないと思い、席を立った市兵衛を、慌てて長次郎が引き留める。
「ちょちょちょっ、打ち合わせってのはコレのことですよ、それに話は粗方付いてるんだ、そんな冷てぇこと仰らずに一緒にやりましょうよ市兵衛さんっ」
コレと云って左手で猪口を空ける振りをしてみせ、席を立とうする市兵衛を引き留めた長次郎。
「はぁ」
丁度その時、お春の声が掛かった。
「三村さぁん、お酒付きましたぁ」
お春から折敷を受け取り、長床几へ戻ると、長次郎と伊之助が源太に手を合わせて何か頼み事をしている。
「頼むよ源太、もう一回、背中見してくれよ、ほら、市兵衛さんも一緒に見して貰ったら良い」
「止してくれよ長さん、自慢してるみてえで恥ずかしいよおいら。こんなとこ組の若ぇもんに見られたら何を言われるやら知れたものじゃ……」
彼らのやり取りが調理場のお春にも聞こえたと見え、お春も
「源太兄ちゃん、あたしにも見せて!」
と、調理場から囃し立てた。
「仕方ねえなぁ」
と、さも億劫そうに立ち上がると、踵を返して背中を見せた。
下ろし立てとみえるその総形袢纏は火熨斗がしっかりと効いていて、襟も触れば指が切れる様にピンと立っている。長袢纏の全身に模様が刷られている袢纏を、俗に総形袢纏と呼ぶ。江戸の町火消の総形は、どの組の所属の人足であるかを火事場で一目で判別するために、それぞれに凝った意匠の模様が入っている。本所深川中組、九組のそれは、纏と同じく、井筒紋が縦に繋がった、『重ね井筒』である。
「市兵衛さん、判りますかい」
「はて……、おお、背中の大紋が他の皆さん方の様に『九』の字じゃありませんな。何と、読むのでしょうか」
「ね、平人足はこの背中の大紋が鏡の朱差しで、中に『九』と組の番号がへえるんですがね、楷子や纏などの道具持はね、ここに道具の名前が入るんですよ。こりゃあ抱え文字って云いましてね、楷の字の下の方に子の文字が抱え込まれて一文字になってるんです」
鏡の朱差し、とは赤地の丸の事である。鏡白といえば、白地の丸の事だ。
「ということは、源太さんは楷子持になられた訳ですか。それは目出度い」
享保の時代に、町奉行大岡越前守様肝入りで結成された町火消であるが、大川の西はご存知のいろは四十八組が、それぞれに一番から十番までの大組に属し、本所深川では一組から十六組までが深川を担当する南組、五本松を始め本所・深川の中間を担当する中組、本所一帯を受け持ちとする北組にそれぞれ所属した。各組はそれぞれ各町々の町抱え、即ち、町入用と云う町の衆が負担する経費で賄われていた。源太の所属する九組は中組に属し、猿江町と隣接の大島町他の町抱えである。
町火消にも階級があり、大組の頭取、各組の組頭の元、下から消火活動には参加しない下人足の土手組、平人足、道具持で構成されている。平人足は鳶口を持つので、又の名を鳶人足と呼ばれる。道具持ちの筆頭は勿論火消しの象徴である纏持で、その次席が楷子持である。
調理場から出て来たお春が、自分の顔より高い位置にある源太の背中の大紋を擦りながら、
「源太兄ちゃん、良く頑張ったわねえ。おじさん、兄ちゃんの革袢纏、でん留も一口載せて頂きますから」
「お、済まねえなあお春ちゃん。宜しく頼むぜ。お春ちゃんと源太は兄弟同然だからなあ」
もう良いでしょう、というや赤い顔をした源太は背を向き直して長床几に座り、酒を呷った。
「あ、お兄ちゃん照れてるの? 柄にもなく」
折敷で口元を押さえながら笑いをこらえ調理場へ戻るお春に、源太は
「ちっ」
と舌打ちを返した。
「仲がお宜しいんですね、お二人は。兄弟の無いそれがしには羨ましい」
二人のやり取りを見ていた市兵衛が眩しそうにつぶやくと、
「俺は、九つの時から三年間、留蔵さんとおいねさんに育てて貰ったんです……」
源太は、土間に目を落としたまま、低い声で喋りだした。滅多に口を利かない男が己の身の内噺を始めた事に、一番驚いたのは目の前に居る二人のおじさん達である。
「恥ずかしい話なんですが、俺は手前の、ちゃんの顔を知らねえんです。お袋が独りで育ててくれていました。兄弟もありやせん。お袋は向島の料理茶屋で中居をしていたんですがね、生まれついての性分なんでしょうかね、男に惚れやすいっていうか……」
市兵衛は、自分の銚釐を上げて源太に酒を注いだ。
「餓鬼の頃から、ふっと二、三日、居なくなる事がありましてね。料理茶屋の客と出来てしまうらしく、すると男と成田山辺りに遊山に行っちまうらしいんですよ。帰ってくると妙に明るくて、お前に新しいちゃんが出来るぞ、なんて言って土産をくれたりしていたもんです」
長次郎は良く知っている話なのだろう、渋い顔をして腕組をしたまま俯いて聴いている。
「新しいちゃんなんて連れて来た事は一度もありませんでしたがね。大抵、暫くすると酔い潰れて帰って来ては男の悪口を言って暴れていましたから」
自嘲気味に微笑みながら酒を呑む源太。
「ある日の午後、手習いから長屋に戻ったら、留蔵おじさんが居るんですよ。今日から暫くでん留で預かるって。どうやらお袋が、一両包んで此処に文を届けたそうなんです。三月の内に、新しい父親と戻るから暫く預かってくれって」
市兵衛は、九歳の子供がたった独りの母親に捨てられた時の気持ちを想像して何ともやるせない気持ちになった。
「あれからもう十と一年かあ、良く頑張ったなあ源太」
長次郎が銚釐を上げる。
「いやぁ、留蔵おじさんとおいねおばさんのお陰ですよ。三年間、実の子の様に可愛がって貰いました」
源太は長次郎の酌を受けながら言う。
「そうだそうだ、あの入れ込みで、お春ちゃんと二人で並んで仲良く飯を喰ってたなあ」
「ええ、その頃から長さんはそこに腰かけて矢大臣でしたね」
「おう、俺の矢大臣は年季がへえってるんだよ」
矢大臣とは、長床几や入れ込みの上がり框に座って酒を飲む時、片足を反対側の膝に乗せる姿勢の事である。長床几で呑むには、どうしても酒や肴を自らの横に置かねばならない。そこで片足を反対側の膝に乗せ、斜めに座る姿勢を自然と取らざるを得ない。神社の随身門の中に居る弓矢を持った坐像の神像を矢大臣というが、これが同じ様に片足を膝の上に乗せているので、居酒屋や、その客の事を符牒で矢大臣とも云った。
皆がどっと笑った所で、市兵衛が恐る恐る訊ねた。
「あの……、その後、御母上とは……」
「今もどこかで元気に生きててくれていりゃあ良いんですがね、それっきり、梨の礫です」
「手前もこの町に来て未だ五年だから知らなかったけれども、源太さん、よくぞ自棄を起こさず頑張りなさったね」
伊兵衛の目も潤んでいる。
「いや、頑張るも何も、十二の時に火事場見物行って火消しになりてぇって言ったら、九組の頭がすっ飛んできて、今から荷物を纏めろ、今日からおめえは九組で預かる、立派な火消しにしてやるから心配すんなって、留おじさんの段取りの早えこと」
長次郎が源太を見つめながらしみじみと言った。
「無口なお前さんがこの話をするとはねえ。一体、どうした風の吹き廻しだえ」
源太は隣で飲んでいる市兵衛に向かって、
「失礼が有ったら御免を蒙りますよ」
と前振りをして話を続けた。
「三村さんの話はね、お春ちゃんから聞くとはなしに伺っています。お春ちゃんを叱らねえでくださえよ。あの子はあなたが心配で堪らねえんだ。でね、話を聞いて、俺も同じだなって思ったんですよ。俺ぁ確かに父親の名前は知らねえし、おっかあは九つの時に消えちまった。けど、でん留のおじさんにおばさんにお春坊、九組の頭に仲間達。そしておじさん達。五本松の人達みんなに育てて貰った。まだ二十歳の若造だってぇのに、こんな重たい袢纏を背負えるのはこの町の人達のお陰だもの。三村さんには、毎日まだまだ辛い事ばっかりかも知れねえけど、この五本松で頑張ってる三村さんを、おじさん達にお春ちゃん、佐治店の大家さんみんなが見守ってるってことをさ、同じ様に町の衆に助けて貰った俺の口から聞いて貰った方が良いと思ったんでさ。そらあ深川の気質だから少々お節介が過ぎるかもしれねえけどね」
涙脆い伊之助は、既に丸い顔を手拭で覆っている。
「九組には良い道具持が出来たねぇこりゃあ。しかし源太、お前がその歳で道具持になれたのは、お前自身、火事場で余所と揉めても一歩も消し口を退かなかった、その頬の傷の賜物だよ。もうちっと、胸を張りな」
そう言いながら空いた銚釐をかたっぱしから取り上げて新しい酒を頼みに立つ長次郎。
市兵衛は黙って源太に頭を下げた。
「止してくださいよ、お武家様にそんな事されたら調子狂っちまう」
「伊之助さん、斯様なその日暮らし故お恥ずかしい額しか出せませぬが、源太さんのお祝いの革羽織、それがしも気持ちだけ入れさせて頂く訳にはまいりませんか」
「何を仰ってるんですか旦那。そら困るっ。三村さんはご自分の事を考えて下さいよっ、俺ぁそんな積りで言ったんじゃねえよっ」
源太が色を成した。
「まぁまぁ源ちゃん。市兵衛さん、九組はこの五本松の町抱えの衆ですから勿論喜んで頂戴いたします。波銭一枚も小判一枚も、その御寄進の価値はお宝の高ではなく、お出し下される方のお気持ちの高で決まります。源ちゃんの羽織にはきっとそのお志が宿りますから、市兵衛さんのお志は有難く頂戴します。しかし、無理はなさらないでくださいましよ」
伊之助が商家の主らしく、凛として答えた。
「さぁさぁ、湿っぽい話はこの位で、皆で熱いのをやろうじゃないか」
長次郎が燗が付いたばかりの銚釐を三本程乗せた折敷を運んできた。ぶつ切りにした秋刀魚を醤油と酒で煮た菜も載せている。
「これは、魚ですな」
「もう九月ですよ、秋刀魚の時期です。今日の飯は秋刀魚の塩焼きですよ。あの竃の脇の大皿に山と積んであるでしょう。昼間に表に長七厘を出して、お春ちゃん、金助のとこのおみっちゃんと二人で煙に往生しながら何十本も焼いてましてね、お向かいの土井様の御屋敷からお叱りが来ねえかと心配になりましたよ。ささ、これも源太の祝いであたしからです。市兵衛さんもやってください」
市兵衛は目を丸くして小皿の上のぶつ切りの秋刀魚を見つめていた。
「いやお恥ずかしい話、国元では、魚は大概干物でして。生の秋刀魚ははじめてです。なんだか、身が膨らんでおりますなあ」
遠慮なく、といい、秋刀魚に齧り付くと、
「これは旨い。生姜が効いているからか、生臭さもまるで無いですな、身はほくほくとして骨まで柔らかい」
夢中で食べ始めた。
「仰向いて 搗き屋秋刀魚を ぷつりくい」
「伊之さん、何だいそりゃあ」
呟いた伊之助に長次郎が訊ねた。
「搗き米屋は体力仕事だからね、昼飯に精の付く秋刀魚ばかり食べているっていう川柳ですよ。実際、この九月に入り秋刀魚が出回り始めてからは、うちの山の神は職人の昼餉の菜に、秋刀魚ばっかり焼いていますよ」
伊之助が真ん丸の顔で笑いながら応えた。
入れ込みのお客の為に飯の支度をしていたお春へ向かって、源太が長床几に腰かけたまま声を掛ける。
「お春坊、これはおっかさんの味じゃないか、おいねおばさんの味と丸で同じだよ。大したもんだなあ」
「ありがとう源太兄ちゃん、これ、兄ちゃんの好物だったわよね」
「おお、覚えててくれたかい、嬉しいねえ」
しかし、今日の源太は良く喋る。長次郎は改めてそう驚いた。その時、食器を洗い場に下げに来たおみちが口を挟んだ。
「その秋刀魚を切ったのあたいだよ。お姉ちゃんと一緒に秋刀魚も沢山焼いたんだ」
「おお、偉ぇなあおみつ坊。坊も大きくなったらお春ちゃんみたいになるのかい」
「うん、ここで働くの」
「そいつぁ楽しみだなあ」
長次郎が目を細めて相槌を打っている。
暫くして、金助が眠ってしまった下の子の金太をおぶさって入れ込みから調理場へやって来た。
「お春ちゃんご馳走様、又明日の朝、宜しく頼むよ」
「はい、朝はいつも晩の残りでごめんね金助さん。それにおみっちゃん、小さいけど良く働いてくれて助かるわ」
「本当かい、邪魔なだけじゃねえかね。おいおみつ、帰るぞ。
そこへ、金助の背中で寝ていた筈の金太が寝言を言った。
「ちゃん。こんな夜なのに又出かけるのかい……」
金助はよしよしと背中を揺すり
「どこにも行かねえよ、帰って寝よう」
おみつは既に、お春から渡された提灯を持って引戸の外で待ってい、金助は子らと長屋へ戻っていった。
「お春ちゃん、ちょっと」
長次郎が厳しい顔でお春を手招きした。前掛けで手を拭きながら、
「おじさん、なぁに」
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「源太、お前、何か聞いてないか」
源太も長次郎同様に腰の提げ物を帯から外し、煙管を出して刻みを詰めながら言った。
「猿江裏町の御旗本、平山様の御下屋敷の中間部屋でうちの若い人足が見掛けたって言ってました」
「ちっ、やっぱりだ」
市兵衛は聞こえない振りをして酒を飲んでいた。
「金助さんも恋女房に逝かれちまった上に小さい子供を二人も抱えて、手慰みでもして気を紛らわさなければやってられないんでしょうなあ」
伊之助が呟くと、
「伊之さんは知らねえ話なんだけど、あいつ昔、丁半に狂った事があってね、賭場に十両のお足(借金)を作った事があったのさ……」
「じ、十両っ」
伊之助が目を丸くした。
「博徒が鉄火場で回す駒は、利が雪だるまみてぇに膨らんでいく。借りたのが二、三両でもあっという間に十両さね。痺れを切らした付け馬が長屋へ乗り込んで来て、払えねえなら女房を質に貰って女郎屋へ売り飛ばすぞって脅かしたものだから、死んだ女房がまだ乳飲み子だったおみちをおぶさってでん留に泣きながら駆け込んで来て、事が露見したって訳さ」
市兵衛は何かを言いたそうに話の続きを待っていると、
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「源太、何か聞こえたらすぐに知らせてくれよ。おみちと金太を路頭に迷わせる訳にはいかねえ」
黙って頷く源太であった。
「あの、少々気になる事がありまして。聞いて頂きたい事があるのですが……」
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