乙女ゲームの世界でサポートキャラに恋をしたので、イケメン全員落としてみせます。

あみえ

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59 かなわない

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 ミツドナ城の医務室で、少しだけ擦りむいた傷の手当をしてくれた後、キトワさんは私に謝罪した。


「由羅嬢、本当に申し訳なかった。」


 頭を下げるキトワさんの頬は少し腫れている。ツジノカさんの蹴りのせいだろう…
 思えば会うたびに、誰かしらの制裁を受けてキトワさんのイケメンフェイスは腫れてる気がする…


「もういいですよキトワさん。それほどキトワさんにとって、ツジノカさんという存在が大切なんだって充分に伝わりましたから」
「…。」
「それに、知りたかったキトワさんの心に触れさせてもらえて、嬉しかったです。ありがとうございました」


 やり方はまずかったとは思うけども、キトワさんがツジノカさんを大切に思う気持ちは痛いほど伝わったし、それをとやかくいうつもりもない。
 ミツドナへの道中ツジノカさんから説教を受けていたキトワさんは随分と反省させられていたしね、と笑顔を見せれば
 キトワさんはわずかに目を丸くした後、困ったように眉を下げた


「君は、なんというか…ツジノカに似ているね」
「え?」

「嘘や感情を見抜くことができる僕は、相手の本質がよくわかるんだよ。君の言葉には、まったく濁った感情がなくて、僕には少々眩しすぎるほどだ…」
「濁った感情…?」
「人間なら誰しもあるんだよ。善と悪とでも言うのかな。それらは水と油のように反発し、僕の目にはとても濁って見えるのだけど…。君は、ただ綺麗で清廉なだけではなく、汚い物や歪なものすらも、反発せずにきちんと受け入れてしまっている…。だからこそ君は濁っていないんだ…。」

「……褒めても何もでませんよ」


 怒涛の誉め言葉に照れくさくなり、そっと視線をそらしたのに、私の頬に優しく添えられたキトワさんの手で、その視線を戻される


「浄も不浄もどちらも等しく受け入れてしまう器の深さと…愚かさと紙一重のような優しさが、君達にはあるんだ…。僕はそれにとても弱く、敵わないと思うのに壊したくもなる…だけど同時に、どうしようもなく大切で、狂おしいほどに、惹かれてしまう…」


 真剣に話すその瞳の中に、キトワさんの言葉と至近距離にある顔面の美麗さに耐えられず、じわりと赤くなった自分の顔が見える

 キラキラとしたオーラを纏い視線で射抜いてくるこの人が、王族や貴族のような気品溢れる美男子なのだと、改めて痛感した時だった…。



「君になら、僕の子を産んでもらってもいいかもしれないね」


「……はい?」



 耳を疑うキトワさんの言葉に私の顔はさっと色味を消し、変わりに眉間に皺を刻んだ…


「僕の生涯を捧げるべきはツジノカに決まっているけれど、僕の遺伝子を残すべきは君との子がいいかもしれない!」
「……何を言ってるのかわかりません。」
「由羅嬢!さぁいざベッドへ!善は急げというからね!!安心したまえ!子が生まれた暁には僕とツジノカそして君と子で仲良く共に暮らそうではないか!案ずるなかれ皆平等に愛するさ!僕の愛は無尽蔵だからね!!」


 アッハッハ!と高らかに笑うキトワさんに、ガバリと横抱きにされたかと思えば、あっという間に医務室のベッドに押し倒された。
 
 目を白黒とさせる私をニコニコとご機嫌なキトワさんが見下ろしている……
 一体なにがどうしてこうなった…!
 おかしいな、いつから会話が成立してなかったのだろうか…。ちょっと誰か通訳呼んできてもらえますか?

 数時間前と同じ体制になってしまったけど、大きく違うのはキトワさんが殺気ではなく色欲の目をしていることだ。
 まるで逃げ場を塞ぐように髪の毛に差し入れられるキトワさんの綺麗な手が私の頭を撫で、とても甘い声と瞳が私を襲う


「プリンセス。僕のものになる覚悟はできたかな?さぁ、今こそ誓いの口づけを…」

「い゛っ、ちょ…!!」


 ゆっくりと近づいてきたキトワさんにキスされそうになったその時ーー
 「何をしてるんだお前は」と医務室に現れたツジノカさんに私はまたも大量の涙を流し、本日二度目ましての救世主に助けを求めた


「メシア!じゃなかったツジノカさん!助けてください」

「やぁツジノカ!僕は今しがた輝かしい未来設計図に向けての準備を始めるところでね!その一歩として由羅嬢との子を授かろうとしている訳なのさ!」

「はぁ…。とりあえず、由羅君を離してやれキトワ。」


 ツジノカさんの言葉にあまりにもすんなりと体を退かしたキトワさんからすぐさま離れ、私はツジノカさんの背に隠れる


「キトワ、そういうことは合意もなしにするな。少しは相手の気持ちも尊重しろ。」
「なるほど分かったよ!TPOというやつだね!」


 それ以前の問題です。そもそもこちらはなにも了承してません!!
 そう叫ぼうとしたけど、この自信満々なサイコパスにどんな説明や説得をしても無意味な気がしてならない…。時成さんとはまた違う話の通じなさを感じる。


「それにもうすぐ健診の時間だろう」
「健診?」
「ミツドナにきた目的でもある、アネモネの定期健診だ」
「あ、ナズナさんのお姉さん…。」


 そっか、この町にいるのか…。とまだ見ぬその人を思い浮かべる。確か、城の近くに大きな病院が見えたから、そこに入院しているのだろうか


「おやもうそんな時間かい?すっかり由羅嬢に夢中になってしまっていたようだ」
「すまんな由羅君。健診には俺も立ち会う決まりなんだ」
「いえ気になさらずに!」


 申し訳なさそうにするツジノカさんに頭を下げて見送り、キトワさんにもと向けた視線の先で
 戸に手をかけながら「では“また夜に”ね由羅嬢!」と出る間際にウインクと共に告げられた宣告に私はピシリと固まった

 これはまずい…。キトワさんなら躊躇なく来そうだし、また助けてもらえる保証もない…
 貞操の危機に怯えていれば、二人と入れ違いにシオ君が医務室にやってきて私は半泣きで駆け寄る


「シオ君!大丈夫なの?」
「はい、私は眠らされただけですので、今回の件色々と申し訳ありませんでした」
「いやいやこちらこそだから!それであのっひとつお願いがあって」
「なんでしょう」
「今日は城じゃなくて、町の宿にでも泊まらせてくれない?あと、キトワさんには絶対に私の居場所を教えないで!」


 懇願する私に、なんとなく状況が分かったらしいシオ君は、小さく苦笑しながら頷いてくれた


「…承知致しました。」





ーーー





「ツジノカ」

「なんだ」

「もう怒ってないのかい?」

「制裁なら与えた。由羅君もシオも、お前を許してる。もう怒る理由がない」

「でも、そんなに簡単に済む話ではないだろう。僕のした事と、やろうした事は…」

「…お前が目的のために、例え、母上の血液なり細胞なりを保管してようが…。事が終わった今から、無駄に足掻くほど愚かではない、と知っているからな。俺の見立てにそぐわないお前ではないだろう」

「…ふふ、本当に、君達はとても眩しすぎて…。僕の中の歪な感情はどうやら燃え尽きてなくなってしまったようだよ。……ねぇツジノカ。人はどうして、自分にはとてもなれないものや、自分にはないものを求めるのだろうね」

「…。“今あるものを守るのに必死になるより、
 ないものをあるものにするため生きる方が楽しいから”じゃないか?」

「…!…っ、ははは!あぁもう、本当に」


かなわないなぁ…

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