花間の高手

きりしま つかさ

文字の大きさ
9 / 262
0000

第0009話 小手調べ

しおりを挟む
BMWのセダン内、林せんさんは腹部に刃物で切り裂かれるような激痛を耐え切れず、手が震えて車のキーが足元に落ちた。

彼女は席にへたり込み、左手で腹部を押さえながら顔を引きつらせていた。

助手席の秋羽は驚いて慌てて尋ねた。

「あなたは……大丈夫ですか?」

言葉が出た瞬間、自分が馬鹿だと悟った。

美しい姉さんがその様子では、どうして無事だろうか。

「わたし……腹が痛いから、あとで出かけましょう……」林せんさんは痛みを耐えながら弱々しく言った。

秋羽は急いで訊ねた。

「診てあげますよ?」

「いいや……そんなの……」林せんさんの歯が震えていた。

自分が子供に何ができるだろうか、大病院の名医たちも治せないのに。

「わたしは医学を知っています。

信じてください」と秋羽は焦りながら言った。

「…………」林せんさんは痛みで話すこともできず、小さく首を横に振った。

秋羽は躊躇うことなく、「見せてあげましょうか」と言い、林せんさんの右手を取り、自分の三本の指を彼女の白い腕に乗せた。

寸・関・尺の位置に置きながら脈診を行っていた。

唐突な行動に林せんさんは嫌悪感を覚えた。

この子は何か分かるはずがない。

装飾品のように見せるだけだ。

腕を引き戻そうとしたが、まるで鉄の手かぎで引っ張られているように動けなかった。

虚脱状態で問い詰めた。

「あなた……何をするつもりですか?」

秋羽はその言葉に答えず、脈拍の微細な変化を感じながら黙々と診断を続けた。

「腎陰虚寒(じんいんきょかん)による月経不調が小腹部痛となっていて、これは痛经(つうけい)……」

林せんさんは驚いた。

この子は医術に長けてるのか? ただ脈診だけで自分の症状を言い当てられるなんて、大病院の名医たちと並ぶ腕前だ。

秋羽が眉をひそめた。

「この症状は長い年月続いているはずです。

少なくとも十年近く痛み続けているでしょう。

最初は鈍痛で、次第に陣痛になり、さらに激しくなって……」

「あら、わたしは神医に会ったのか?」

林せんさんは信じられない思いだった。

十七八歳の少年が症状を正確に言い当てただけでなく、病程の把握も完璧だ。

まるで自分が成長する過程を見守ってきたかのように。

秋羽の口調が厳しいものになった。

「このまま放置すればさらに悪化しますよ。

次回発作時、ベッドから起き上がれないほど痛みが出るでしょう。

なぜ医者に行かないのですか? 病気を隠すのはいけません」

「わたしは……診察を受けたの……」林せんさんはため息まじりに弁解した。

「受けたならどうして改善しないのでしょう?」

秋羽は理解できなかった。

「まず痛み止めから始めましょうか」

「ええ……」林せんさんは相槌を打ったが、その効果に疑問を持っていた。

この頑固な症状は長年続いていたし、最近では鎮痛剤も効かないほどだった。

三本の指が離れた瞬間、秋羽の左手が彼女の冷たい右手を握り、温かい気流が林せんさんの掌から体内に流れ込み、経絡を通って腹部へと到達し、子宮周辺で巡り始めた。



この奇妙な気配が調整されたことで、林雪珊は腹部の痛みが劇的に軽減されていることに気づいた。

まるで奇跡のように回復したため、彼女は驚きを隠せずに少年の横顔を見つめた。

秋羽はその美しい視線を感じ取り、意図的に内息を相手に送りながら冗談めかして言った。

「何見てるんだ? 私の容姿が気に入ったのかな?」

林雪珊はその言葉で笑みがこぼれ、「全然分かりません」と返すと、たちまち心身ともにリラックスした。

腹部の痛みもさらに緩和された。

「目を閉じて、何も考えずに……」

秋羽は彼女の手を優しく握りながら思った。

この若き女性が専門家より遥かに効果的な治療を受けていることに気づいていた。

二師叔への感謝の念が込み上げた。

「二師叔様、本当にありがとうございます。

あなたが教えてくれた通り、中医は博大精深で、上手く学べば金と美女が得られるものだと実感しました」

彼女の長い睫毛が震える様子に秋羽は息を飲んだ。

白皙な肌の額や柳眉、艶やかな唇……全てが完璧だった。

彼はそっと顔を近づけ、その無垢な表情を見つめた。

林雪珊の唇からは甘い香りが漂ってきていた。

三師叔の話を思い出すと、彼女にキスしたくなる衝動を抑えながらも、治療中の医師として自制心を保った。

温かい内息は彼女の全身を包み込み、蒸し風呂とは異なる内部からの暖かさを感じさせた。

秋羽の視線が領口から先へと移る。

淡紫色の花模様の布地に隠された山峰やその上部の汗疹……その光景は彼を呆然とさせるほどだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている

甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。 実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。 偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。 けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。 不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。 真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、 少し切なくて甘い青春ラブコメ。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

堅物御曹司は真面目女子に秘密の恋をしている

花野未季
恋愛
真面目女子が、やはり真面目で堅物な御曹司と知り合う純愛もの。 サラッと読める短編です♪

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...