花間の高手

きりしま つかさ

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第0013話 楽園

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「小蓮ちゃん、トイレって何ですか?」

秋羽は珍しそうに尋ねた。

山奥で十数年暮らしたため外界の知識が乏しいからだ。

「トイレと言えば田舎の厠……」

「あー」秋羽は目を輝かせて答えた。

「便所のことだよ」

小蓮は軽く叩いた。

「きみは本当に不潔ね。

もっとマナーを守って」

彼女の手が体に触れた感触が心地よかったのか、秋羽は笑った。

「はいはい、もうしないわ」

小蓮が隣の部屋を指した。

「すぐそこの部屋だよ。

何かあったらすぐ呼んで」

「えー、小蓮ちゃんが嫌がりさえしなければ……」

小蓮は優しく言った。

「どうってことないさ。

みんなで生きているんだから苦労があるもの」

接点を重ねるうちに秋羽の心には年上の女性への好感が芽生えた。

彼女はとても温かく、自分を大切にしてくれた。

トイレは二つの部屋の斜め向かいにあった。

秋羽が実際に見た都市人の厠を見た瞬間、彼は驚愕した!広さも自分の住む厠と変わらないのに照明が明るい。

浴槽や便器、洗面台、全自动洗濯機など全てピカピカで金属部品が銀色に輝く。

低い棚には高級シャンプーやボディソープが並び鏡には小蓮と秋羽の顔が映っている。

空気中に嫌な臭いは一切なくむしろ爽やかな香りが漂っていた。

これが金持ちの厠か?あり得ない!

秋羽は頭を抱えた。

山中の厠とは違い巨大な便器に覆われた空間だった。

十数年使ってきた木造の厠と比べて雲泥の差があったのだ。

「秋羽、これは便器よ。

私が使い方を教えるわ」

小蓮が手を離すと彼女は腰を屈めて蓋を開けた。

その曲線に見入る秋羽は目を見張った。

小蓮が振り返ると相手の視線を感じた。

「この悪ガキ、そこばかり見て眼玉が飛び出しそうよ」

「いや、便器の方を見てたんだ……」

「きゃー、嘘つき!でも怒ってないわ。

浴槽に水を張るからね」そう言いながら小蓮はバスタブに水を入れ始めた。

「西側の厠は下人の部屋と隣接しているわ。

元々一人用だったけど君が来たから二人で使うことにしたわ。

遠路はばり来て体も汚れちゃってるでしょう?温かいお湯で洗ってリラックスして」

秋羽は胸を撫でた。

「小蓮ちゃん、本当にありがとう」

水を入れながら小蓮はバスタブに手を入れて温度調節する。

顔を上げると笑みが浮かんだ。

「家は親、外は友達よ。

お互い様だわ」

バスタブの半分ほどまで水が入ったところで湯気があがり始めた。

小蓮はタオルで手を拭き「お風呂の準備ができました。

出て行って」

「うん……」

小蓮が素早く出て行った後、秋羽は裸足で湯船に入った。

温かい水が全身を包み込むと、十年ぶりの熱いお風呂に安堵した。

山での生活では五人の老人と共に湖で冷水浴をしていた。

冬場でも氷が張った湖面に穴を開け、凍え切るような冷水に飛び込んでいた。

「山の中は本当に苦しいわね……ここは天国みたい」

小蓮が熱々のワンタンを持って部屋に入ると、秋羽の姿がなかった。

彼女はため息をついて呟く。

「この子、お風呂に入りすぎてるわよ?」

テーブルに置いたワンタンを置いて出て行った。

「バシャッ……バシャッ」

水しぶきの音が部屋から聞こえると小蓮の注意を引いた。

そっとドアを開けると、秋羽は裸で湯船の中で両手をゆっくり動かしていた。

その動きに合わせて一尺もある波が発生し、大きな音と共に水の中の物を攪拌している。

「えっ……」

小蓮が驚いて声を上げた瞬間、秋羽は動きを止めて振り返った。

「おや?」

彼女は慌てて顔を赤らめた。

秋羽の裸体は思春期の少年とは思えないほど逞しい肉体だった。

特にその胸元はまるで肉包子のようにふくよかに隆起していた。

「小蓮姐、どうしたの?」

「きゃっ!」

彼女が慌てて身を隠すと秋羽は笑いながら言う。

「ごめんなさいね、突然出てきてびっくりさせちゃったわ。

でも……」視線が自然と胸元に向けられていた。

「えっと……その……」

秋羽も顔を赤らめた。

「小蓮姐、お風呂の水は洗濯用のものなの?」

「えっ? あ、そうよ! あの自動洗濯機があるわ。

あれで洗えば洗い物が全部出来上がっちゃうのよ」

秋羽は頬を膨らませた。

「じゃあ……小蓮姐に洗ってもらおうかな」

「まあね、いいわよ。

でもこの子、裸足のまま出てきなさい! それと……」彼女は視線を下げる。

「大きなショーツも脱いで」

秋羽は恥ずかしそうに頬を染めながら言う。

「えっと……その……」

「いいわよ。

お風呂から出たらすぐ来てね。

ワンタンが温かいまま待ってるわ」

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