花間の高手

きりしま つかさ

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第0016話 知遇の恩

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「打ち合いがなければ知り合わないものだ」秋羽と高雄は激しく戦いながらも仲睦まじく。

二人が森から出てきた時、散歩でここに来た林成棟(りんせいどう)と出会った。

彼は悠然と歩いていたが、高雄の顔に残る血痕を見て驚き、「高雄、どうしたんだ? 顔に血があるじゃないか」と声をかけた。

「大丈夫だよ、転んで鼻を擦り切っただけさ」高雄は照れくさそうに答えた。

「あー……」林成棟の視線が隣の秋羽に移る。

「秋羽さん、どうしたの?」

と不思議そうな表情を浮かべた。

秋羽は笑みを浮かべながら説明する、「森で修行していたんです。

高雄さんが見に来てくださった時に、木の根っこに足を引っかけて転んだんですよ」。

彼にとっては嘘が日常茶飯事だ。

目も瞬かずに平然と語る。

「そうだね」と高雄は感謝の眼差しを向けた。

「負けたのは恥ずかしいことだから、主人には知られたくないんだよ」。

「そうか……」林成棟は賢者めいた表情で頷く。

彼は二人の話を信用せず、その場で何となく察したが口に出さない。

やがて、「じゃあ早く帰って洗いなさい。

8時に出発するからね」と指示を出した。

「林さん、僕は先に失礼します」高雄は慌てて去った。

林成棟の視線が彼の背中から消えると、秋羽に向かって言った、「秋羽、高雄は私の側で10年以上働いてきた優秀な奴だ。

誠実だし、いい人間さ。

ただ時々無鉄砲になるだけだから、気にしないように」。

「ええ、高さんなら大丈夫ですよ。

正直者だし、問題ないでしょう」と秋羽は笑った。

「小さいながらも器の大きな子ね。

育成に値する材質だわ」林成棟は内心で感心した。

彼は秋羽を促す、「そう思うなら安心して。

秋羽、一緒に散歩しようか?」

「ええ……」

二人並んで歩きながら、林成棟が尋ねた、「ここでの生活はどうかな?」

「とてもいいですよ。

山里よりずっと快適です」と秋羽は答えた。

「そうならよかった」林成棟は秋羽の服装に目をやり笑った。

「この服も堅牢だし、着心地もいいけど、学校では不似合いだね。

雪さん(せっさん)に頼んで洋服を買ってきてあげよう。

それに靴も幾つか用意しておこう」

「不用です、この服はまだ使えるんです。

林さんには既に賃金をお支払い頂いていますし、食事と宿泊もご厚意で受け取っています。

もうお礼が過ぎます」秋羽は断固として拒んだ。

その言葉を聞いた林成棟の好感度はさらに上昇した。

「あなたが働いた分の賃金だよ。

洋服くらい買ってやるのも構わないさ。

私のちょっとした贈り物と思って受け取ってくれればいいんだ」彼は頼むように言った。

秋羽は噴き出しそうになったが、礼儀正しく頷いた。

「分かりました、ありがとうございます」

「遠慮しないで。

ここを自分の家と思ってほしいんだよ。

何か必要なものがあれば雪さん(せっさん)に言えばいいさ」

「はい……」

ふと二人は西側の庭に出た。

そこには数台の車が並んでいた。

重厚な黒色メルセデス600、昨晩現れた青いBMW、灰色のボルボ、その中でも目を引くのは紫紅色のポルシェスポーツカーで、光沢と輝きが若々しい車の美少女のように見えた。

さらに二台の異なるブランドのSUVと三台のバンが並んでいた。

林成栋は指を向けた。

「この新型ランドローバーは君のために用意したんだ。

これからこれで学校へ通って……」

「えっ、専用車まで付けてくれるんですか?」

秋羽は興奮しながらも、その少年は苦々しい表情で言った。

「でも僕は運転できませんよ……」

林成栋が笑った。

「そうだったね。

山の中で暮らしていたから当たり前だ。

関係ない、この車は置いておく。

夏休みに免許を取ってから乗ればいいんだよ」

秋羽は頷いた。

「はい」彼の視線はそのSUVへ向けられていた。

男らしい力強さと威厳を感じた。

自分がいつかそれらの車を運転できる日が来ると思うだけで胸が高鳴った。

「でも今は学校どうするんだ?自転車乗れるかな?」

林成栄が試すように尋ねた。

自転車は秋羽にとって馴染みだった。

三師叔(※原文の**を補完)のもので、あの老いた小偷に教わった記憶がある。

習得後、彼を誘って裏山から滑り降りさせたが、鼻血まみれになって転んだことも。

相手は大笑いした。

その光景が秋羽の脳裡を駆け巡る。

懐かしい笑顔と共に「自転車なら乗れますよ」と答えた。

「家には数台あるから、趙伯に連れて行って選んでくれ」

「分かりました」

歩きながら会話しながら、秋羽は林さんの温かい気遣いを感じた。

自分が表の娘を守り抜くよう務めねばと心に誓った。

邸宅に戻ると林成栄が上階へ向かった。

秋羽は小蓮(※**補完)から朝食を呼び出された。

その起伏のある女性を見つめるとき、トイレでの出来事が脳裏によぎり顔が赤くなる。

しかし相手はそれを忘れているように笑顔で会話した。

邸宅には二つのダイニングルームがあった。

一階の小さいのはスタッフ用で秋羽、高雄(※**補完)、小蓮、趙伯、運転手老田、白班の女中・桂花嫂がいた。

二階は林成栄父娘と夏蘭らがより高級な食事をする場所だった。

一階のテーブルに集まった人々の中で高雄(※**補完)はまだ顔に傷跡があったが気にせず、殴られたことにより拳法の真髄を悟ったと喜びながら老田と桂花嫂に「この若者こそ表の娘の護衛・秋羽で、僕の良き友だ」と紹介した。

高雄は十数年間林成栄の護衛をしてきた重臣だった。

その言葉には秋羽を保護するよう誰もが近づかないようにという意味があった。

すると皆が秋羽を見直した。

趙伯と小蓮は困惑していた。

高雄が昨晩まで秋羽に不満を持っていたのに、一夜で仲間になった理由が分からない。

彼らの世界では読めないものだった。

老田(※**補完)は黙って料理を運び続けた。

桂花嫂も慣れたようにテーブルを整えた。



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