花間の高手

きりしま つかさ

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第0240話 取って代わる野望

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  アーシャンリエがプロフェッショナルな女性であることは明らかだ。

秋羽が偽造資格で診療所を開く計画を聞いた途端、彼女は急いで諫め、患者の命を軽視するようなことをしないよう懸念した。

秋羽は淡々と答えた。

「私は医師免許を持っていないが、十年近く医療に携わってきた経験がある。

安心してほしい。

あなたが私を信用してくれれば、一生懸命働いてくれるだろう。

それに、私が金のために患者の死活を顧みないような人物か?」

  アーシャンリエは秋羽を信頼していたからこそ、躊躇なく同行したのだ。

内心で不安を感じつつも、少なくとも相手が自分に優しく接している限り、患者への責任を果たせば問題ないと判断し、診療所での仕事を続けることにした。

  次に秋羽は給与について話し出した。

「一時的にあなたに1500円(当時の金額)を設定する。

少々少ないかもしれないが、診療所の収益が上がれば後に上げよう。

どうかな?」

  アーシャンリエは満面の笑みで答えた。

「大変満足です。

この給与は十分高いです。

秋先生、ありがとうございます。



  秋羽は笑って言った。

「いやいや、冗談だよ。

外では『秋先生』と呼んでくれていい。

プライベートでは『お兄ちゃん』と呼びなさい。



  アーシャンリエは微笑みながら頷いた。

「分かりました。



  「じゃあ行こう。

布団を買いに行こう……」

  車がなかったため、二人は歩いて向かった。

看板屋の前に到着すると、秋羽は診療所に看板が必要だと気付き、アーシャンリエと共に店内に入った。

  店の主人は客が来たと気づき、熱心に迎えた。

「どのような看板を?」

  「えっと……」秋羽は頭をかいた。

「ちょっと相談してくるから待っててくれ。



  主人はこっそり視線を向けた。

彼女(アーシャンリエ)の美しさを見て羨ましそうに、自分は太っていて黄褐色の斑点だらけの妻と比べてため息をついた。

  「小艾(アーシャンリエ)、診療所の名前はどうする? そうだ、『青楼行』なんてどう?」

秋羽が突然提案した。

  主人と主婦は驚いて固まった。

「診療所ですか? 浴室ですか? 青楼まで出てきたのか……」

  その言葉を聞いた瞬間、アーシャンリエの頬が赤くなり、「そんなことは考えないでよ! 青楼より『怡紅院』の方がいいわ。

」と抗議した。

  秋羽は喜んで返事した。

「いい名前だ! 文雅で独創的だ。

これに決める!」

  「定めなさいとは……馬鹿ね!」

アーシャンリエは不満げに唇を尖らせた。

「診療所がそんな名前になるなんて、古代の女学院みたいじゃない? あんまり冗談ばかししないで、もっと真面目な名前にしようよ。



  「じゃあどうする?」

  二人はしばらく相談した末、「『陽光中西医診所』」と決めた。

これは患者が診療所に入ると暗闇から光を見たような意味だった。

実際にはアーシャンリエの命名だったのだ。

秋羽は「全必治」「一針即効」といった奇妙な名前をいくつか考えていたが、最後に「羽化診所」なんて提案したところ、美少女の助手から白眼視され、「患者が診療所に来るのにそんな名前はおかしいわ! あんたは冗談ばかししないで!」

とられたのである。

  主人は看板のデザインを提案しながら「これでよろしいですか?」

と尋ねた。

秋羽は頷き、アーシャンリエも笑顔で同意した。



シュウバはアイショウリョウの目をちらりと見て、急に思いついたように言った。

「お前は看護師だろ。

あとで写真撮って、いいやつを選んでポスターにしておこうよ」。

オーナーが慌てて言う。

「それは結構です。

貴方の秘書は容姿も性格も超一流ですからね。

もし彼女の写真をポスターにしたら、うちのクリニックは間違いなく繁盛するでしょう」

シュウバは笑った。

「私もそう思うわ」

「いやいや……」アイショウリョウは頬が大玉みたいに赤くなり、「そんなのイヤだもん。

恥ずかしいじゃないですか」

「ダメよ」シュウバは上官のような態度で真剣に言った。

「アイちゃん、これは任務だから絶対に従わなきゃ。

看板こそがクリニックの第一印象なんだもの。

未来の運命にも関わってるんだから、必ずやっとこ」

アイショウリョウは黙り込んだ。

上官の言葉を聞くと、もし彼女が写真を掲げないならクリニックが潰れたら全て自分の責任になるという重圧に耐えられない。

仕方なく頷いて「分かりました、貴方のご機嫌見せましょう」

「それじゃあすぐフォトスタジオへ行こうよ」

近所にスタジオがあったので服も揃っていたし看護師服もありシュウバはアイショウリョウの写真を一式撮らせた。

その中から気に入ったものを選び店に持って行って……。

午後は忙しく過ぎて夜にはアイショウリョウが住む部屋が一新されていた。

シュウバは新しい布団も買ってきて、色鮮やかな布製のタンスも買ったので家らしさと温かみが出た。

装飾業者へのお礼とレッドパウンド・ジェネレーションのリョウヒオウとリュウハイポウへの感謝を込めてアイショウリョウを迎え入れるため、中級レストランで二卓分の宴席を予約した。

特に姉に「あの娘たち全員来て」と伝えていた。

現代は全てが人脈次第だ。

シュウバがクリニックを開くなら全力尽くす必要がある。

なぜならリュウハイポウが三十万円投入してくれたからだ。

その金は今彼の手にある。

姉の好意を裏切るわけにはいかない。

でも使うべきお金もある。

例えばレッドパウンド・ジェネレーションの娘たち。

社会通念に精通した女達で、宣伝や患者紹介などクリニックへの大きな助けになるはずだ。

装飾業者たちが緊張しないように二卓は別室に設けた。

六時過ぎに一組が先に食事を始めたのでシュウバとアイショウリョウは隣の部屋で待機していた。

「神医の小僧がご馳走するんだよ」という噂を聞いたレッドパウンド・ジェネレーションの娘達は珠光宝気、色っぽくそれぞれ車で駆けつけた。

オーナー室に入るとリュウヒオウとリョウヒオウたちには無視してシュウバに抱きついてきた。

「小僧、私は君を想いながら死んでいたわ」

「小僧、昨日の夢にも出てきたわね。

まさか今日中にご馳走してくれるなんて」

「小僧、お前も私のことを想っていたのかしら?」

彪悍な娘達が交代で抱きついてくるとシュウバは頬を赤くして断るわけにはいかず「うん」としか答えられなかった。

姉妹たちは彼の恥じらいを見てますます攻めてきて半球を彼の上に擦り付けたりするなど犯罪を誘発しそうな仕業だった……

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