花間の高手

きりしま つかさ

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第0256話 名刀千葉

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北の剛直な男ウゴウは、相手を敬えば自分も報いるという信念を持っていた。

普段からエキチセイの高慢な態度が気に入らなかったが、リョウヒャオポウの頼みで彼を許すつもりはない。

貴様がどうにかなるもんならと挑発するように言い放った。

するとエキチセイは牙を剥き、「じゃあいつから取り調べできる?」

と強硬に要求した。

「犯人の病状が安定したら連絡するわ、待ってて」ウゴウは無表情に答えた。

エキチセイは不満顔で腕組みし、部下たちを連れて去りながら、「おめぇが秋羽を庇ってるのは分かってるぞ。

この件を局長に報告してやる。

お前のような所長もあと一歩だ」などと陰険な笑みを浮かべた。

ウゴウの尽力でシュウユウは安全だった。

午後の放風時間、千人近い囚人が東側の空地に集まっていた。

広大な敷地が木製柵で囲まれ、羊小屋のような雰囲気。

周辺には雑草が生え、囚たちは日向ぼっこしたり談笑したりしていた。

十数人の警官が二十メートル先の樹陰に集まり、ポーカーや将棋を楽しんでいた。

男女混在で楽しそうな声が響く。

監房のリーダーたち約三十人が群れを作り、それぞれ十人ほどの強面手下を従えていた。

シュウユウも例外ではなく、タイフクら手下に囲まれて周囲の視線を集めていた。

ある囚人が「あの子は誰だ?タイフクまで従ってるのか?」

と尋ねた。

相手は畏敬の表情で答えた。

「我々の新リーダー、秋爺様です」。

一般犯人から獄霸への呼び名は「爷」だった。

質問者は驚き、「草、こんな若いのに爺になっちまったんだよ?」

と目を丸くした。

回答者は低い声で続けた。

「年齢だけじゃなく、昨日入監したばかりだぜ」と付け足すと、周囲の囚人たちが呆気に取られていた。

「まさか一晩で爷になったのか?」

「珍事は毎年あるけど今年特に多いね。

俺も初めて聞いたわ」

新犯人を「孫」と呼ぶのは、彼らが凌辱される存在だからだ。

327監房のリーダー交代話が広まるにつれ、囚たちは疑問に思った。

タイフクは実力で上位五に入る猛者だが、なぜ十七八歳の若造をリーダーにするのか?

ある囚人は陰謀説を唱えた。

「もしかしてタイフクが狂ってるか、何か演出してるんじゃないか?」

タイフクらに囲まれてシュウユウは無心に歩き回り、どこへ行っても指差されながら「リーダーとしての資質がない」と評価されていた。

身長や体格、顔立ち、目つきなど全てが不適格だったのだ。



遠くに一群の囚人が威嚇的に歩いてくる。

約30人、328号室の囚人たちだ。

昼食時に泥鳅たちに嫌がらせされたという恨みを抱き、集団で挑発に来ていた。

先頭の男は体格が頑丈で顔中に肉瘤があり「山猪」というニックネームを持つ。

この男こそグループのリーダーだ。

囚人たちが秋羽たちの前に立ち塞がると、対面の表情から不穏さを感じ取った鉄斧が眉をひそめて重々しく言った。

「山猪、お前は何を企んでいるんだ?」

三角目の男は軽蔑の色を浮かべ、鼻孔を鳴らしながら皮肉な口調で返す。

「鉄斧、今はもう監房のリーダーじゃないだろう。

俺が新しい監房長姓秋と話す資格はないってことだよ」

「お……」鉄斧は激昂し、充血した目をギラつかせながら歯を食いしばっていた。

山猪の卵子を蹴りつける衝動に駆られるが、前に監房長がいるため秋羽の命令がない限り手が出せない。

この騒ぎを見た囚人たちが集まってくると、双方を取り囲む形になった。

彼らは暇さえあれば喧嘩を観戦する好物たちだ。

秋羽は首を傾けて興味深げに相手を見つめている。

マジックショーの客のように。

礼儀正しく振る舞う必要などない。

彼は嘲讽的に言った。

「山猪って奴か、確かに似てるとも思わないけど……」

327号室の若き獄卒がそのような態度を取ることに驚き、周囲の囚人たちが哄笑する。

柵越しの騒動は樹陰の下まで伝わる。

だが誰も止めようとはせず、「まあ普通だ」と考える。

ここでは喧嘩や殴り合いが日常茶飯事だから。

「**」とある部分は原文に依存した表現を維持しつつ、監房長同士の対立関係を明確にするため「監房長姓秋」と訳出する。

「お前ら一連の混蛋め!」

と教官が罵声を浴びせる。

「暇を持て余してやがる」

別の教官は返す。

「構わん、将棋でも続けろ。

喧嘩が始まったら見物に来よう」

十数人の教官たちは無視し、将棋を続ける。

彼らはここに収監されている囚人が服役期間終了間近の者たちであることを知っているため、真剣な衝突は起こらないと判断している。

山猪は秋羽が侮辱したことに激怒し、「お前がもしもう一度言うなら……」と脅す。

秋羽は臆せず反撃する。

「お前の野郎、俺が言ったらどうなんだ?」

両監房長の態度が周囲に感染し、328号室の囚人たちも昼間の一件を思い出し憤りを爆発させる。

「畜生!まだ借りがあるんだぜ。

俺たちの肉を食わせてやったくせに……」

「また喧嘩するぞ」

逆らう327号室の囚たちは罵声で応戦する。

「ふざけんな、この野郎!お前が来いよ!尻穴から糞出させろ」

「ははは、俺は肉を食わせてやったんだぜ。

お前の連中は死に物狂いで羨ましいくらいだ」

双方の罵声合戦が進行する中、山猪は秋羽に直接挑発する。

「お前も監房長として名を立てるなら、俺と一対一で決着をつけろ!」

秋羽は笑みを浮かべながら応じる。

「構わんよ。

だがその前に……」と言葉尻を切ったまま、鉄斧の制止を無視して監房長室へ向かう。

鉄斧が追いかけるが、既に秋羽は柵越しに呼びかける。

「山猪!お前も来いよ!俺たちの決闘を観戦しろ」

囚人たちの喧嘩熱狂は頂点に達していた。

監房長同士の一騎討ちが行われるという異例の事態に、全員が興奮で声を上げた。

鉄斧は秋羽の背中に叫ぶ。

「危険だ!絶対にやめろ!」

だが秋羽は既に監房長室のドアを開け放ち、山猪に向かって笑いながら言う。

「待っていてくれよ。

俺たちの決闘を観戦するだけじゃなくて……」と意味深な言葉を残す。

鉄斧が「何を考えてるんだ!この馬鹿!」

と叫ぶ声は監房長室のドアに吸い込まれた。



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