花間の高手

きりしま つかさ

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第0257話 毒菱

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監房の番長として誰もが千回の鍛錬を経て這い上がってきた者たちの中にも、山猪は決して弱気な存在ではなかった。

強硬派の彼は向かいの若造など眼中にさえ入れず、短時間で相手を叩き潰し、群衆前でさらに高い権威を確立するという早とちりな戦略を立てていた。

しかし秋羽との対面ではその計算が完全に崩壊した。

彼の拳が近づくと秋羽は軽やかに体勢を変え、一蹴で山猪の腹部を叩きつけた。

痛楚に「あー」と叫びながら後退する山猪を見て、多くの囚人が驚愕の表情を浮かべる。

328監房の怠け者たちが番長の不利益を見逃さない。

「お前の老大を殴ったやつめ、この野郎を叩き潰せ!」

と叫びながら三十数名が狼のごとく襲いかかる。

秋羽は冷笑を浮かべて旋風のような蹴りを連発し、先頭の三人を一気に地に伏せる。

そのまま山猪へ向かいかけた。

鉄斧(※)は熊のような体格で「おめーらがどうなったっていいんだよ!この野郎め!」

と叫びながら掌を振りかざす。

その掌は犯人の肩を叩き、鈍痛に悲鳴を上げる相手の肩首を隆起させた。

十数名の囚人が鉄斧の後ろから無我身で突進し、328監房と混戦状態となる。

さらに327監房の囚人たちも群衆の中から顔を出す。

両監房の囚人たちは老骨(※)が遠くの壁根に日向ぼっこしている以外全員が戦闘に参加した。

この騒動を見た管理官たちは娯楽を中断し、「一発で終わらせろよ!この馬鹿野郎どもめ」と罵声を浴びせる。

秋羽は「勝負ほぼ決まったぜ、このクソどもめ」と低く笑みながら山猪に近づき、四回のやり取りで顔面と胸を殴りつけた。

その鋭い動きが群衆を震撼させた。

秋羽は山猪が倒れた後も蹴りを止めず、「お前の鼻を踏んでも構わないぜ!このバカ野郎め!」

と罵声を浴びせる。

監獄という場所ゆえに彼は礼儀正しさなど捨て去り、粗野な言葉で快感を得ていた。

かつては気取りの山猪が痛みに悶える姿を見て周囲が慄き震えた。

328監房の囚人たちが老大を助けようと近づこうとしたが、秋羽の一蹴でその動きは止まった。

残りの者たちは怯えて動けなかった。

群殴では人数差が同じなら士気が勝敗を分けた。

山猪という番長が倒れたことで328監房の囚人たちの心は崩壊し、秋羽率いる327監房の猛者が虎のように襲い掛かる。

瞬間で相手の大半が地に伏せ、残りは逃げ惑うばかりだった。



一連の監視官が柵の門を開け、中に入り込み警棒を振り回しながら叫んだ。

「両手を頭に当てろ、全員で屈み伏せろ」

「両手を頭に当てて屈めろ」

「聞こえたか……?」

328番監房の囚人が警棒で叩き倒され苦痛の声を上げる中、多数の囚人は地面に跪いて両手を天高く掲げた。

その光景を見て秋羽も同様に屈み伏せた。

自分は犯人である以上、どんな腕前があっても監視官と対立するのは得策ではないからだ。

千を超える囚人が黒々と地面に並び、唯一座っているのは日向ぼっこをしていた老人だけだった。

彼はまるで何事もなかったかのように晒し物のようになっていたが、328番監房の囚人たちはほとんどが横たわり、27番監房からは二人ほど重傷者がいた。

監視官たちはそれには構わずそれぞれに足蹴りを加え罵声を浴びせた。

「死んだのか?生きているなら起きろ……」

倒れている囚人が痛みを耐えながら這い上がり、再び跪く姿勢を作った。

鼻血が垂れ落ちる山猪もその中に含まれていた。

監視官の中では身長の低い豚顔の杜组长が最も立場が高かった。

彼は憤然と叫んだ。

「混蛋め、暇だから喧嘩をしたのか?誰だ喧嘩をしたやつは!出てこい、見逃すつもりはないぞ」

328番監房の囚人が先頭に立ち、群衆から出てきた。

秋羽も同意し立ち上がった。

327番監房の囚人たちはリーダーが動いたので後に続いた。

杜组长は前を並んだ六七十人の囚人を見渡して罵倒した。

「お前ら屑!本当に大それたことをするものだな、俺の当番中に喧嘩をしたとは。

生きているのか?夕食抜きにしてやるぞ、五打撃ずつ叩いてやるから来い……」

体罰はここでの常識で監視官たちも日常的に囚人を殴っていた。

命令を受けた三名の女性監視官と九名の男性監視官が前へ進み、それぞれ五~六人の囚人を担当する。

三人の女性監視官の中で最も目立つのは宋敏友だった。

彼女は25~6歳の片思い目の曾姓監視官と、21~2歳で比較的美しい曹姓監視官と共に警服を着ていた。

胸が大きく膨らんでいたため男性たちから注目を集めたが、容姿は平凡そのものだった。

最も美人と思われた曹も中級程度の顔立ちだった。

しかし囚人にとっては天使のように見えた。

俗に言う「三年監獄で母豚が貂蝉になる」という言葉通りだ。

ましてや囚人たちには手に入らない女性であるため、彼らはより強く魅力を感じていた。

ある囚人が囁いたように言ったことがある。

「あの監視官と寝られたら生涯の栄誉だ」

宋敏友は同僚の袁姓監視官が秋羽側にいることに気付き歩み寄り、「小袁さん、交換してよ。

私の担当の犯人は体格が大きいから叩きにくいわ。

この痩せた男を私に任せてちょうだい」

「分かりました宋姐さん、こちらは私がいいです」そう言いながら小袁監視官は歩み去った……

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