闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
108 / 1,458
0100

第0108話 0008極崩の暗勁

しおりを挟む
深い闇に浮かぶ細い月が、冷たい光を地面に落とす。

小さな森の中では、微かな炎の揺らぎが静けさを包み込み、ほんの少しだけ温もりを生んでいた。

篝火の側で少年は木片を弄びながら、無気力な声を出す。

「先生、私たちが行く先はどこですか?」

「魔物の山脈だ」、指輪から老人の声が響く。

「ウタン城の近辺でも魔物の山脈に入るのに、なぜここまで走っているのですか?」

「ここは魔物の山脈の東部だ。

これを横断すればタゴル大砂漠に到達し、最終的な目標地となる」、薬老が笑みを浮かべる。

「魔物の山脈を横断する? 今の私の実力では一級魔獣も倒せないのに……」

「危険な場所だからこそ成長できるんだ。

私はあなたに斗師になることを目指すつもりだ」、薬老は淡々と語る。

「修行期間は一年で、残り半年はタゴル大砂漠で修業する予定だ」。

「タゴル大砂漠……」、少年はため息をつく。

「先生が近くにいれば危険はないでしょう。

あなたが無防備になるわけないからね」。

掌で頬を撫でながら、少年は笑みを浮かべる。

「先生…地階の武技について……」

「毎日同じ質問をするのか? 小子め」、薬老は目を合わせずに返す。

「魔物の山脈に入ったら教えてくれないのか?」

「周りに人が多いから見られたら大変だ。

そのうち教えるさ」と老人は首を横に振る。

「また延期か……」、少年はため息をつく。

「お前は情けないぞ。

『吸掌』と『吹火掌』は上手く使えるが、八極崩はまだ皮毛の部分しか習得していないんだから」、薬老は厳しい口調でう。

「皮毛? あのガレオを倒した時も八極崩を使ったじゃないか! その時は彼の腕を断ち切ったぞ!」

「確かに腕は断たれたが、足も麻痺していたんだ。

あれは互いに討ち死にの結果だ」

薬老は鼻息を荒くして言った。

「八極崩の攻撃力は地階級の斗技と同等だが、修練が十分ならば、実力で自分より二三段上の人間も倒せる。

しかし貴方の場合、単に平等な相手でも互いに消耗させるだけだ」

蕭炎は驚いて目を丸くした。

すぐに眉を寄めて考え始めると、薬老が八極崩の修練方法を伝えた日のことを思い出した。

「八極崩:玄階級上位の斗技。

近距離攻撃型で強力な攻撃力を誇る。

大成すれば八重の気力が重ねられ、地階級下位の斗技と同等の威力を発揮する」

「八重の気力は修練過程で蓄積されるものだ。

貴方は現在何重まで達しているか? 明確な気力以外に暗黙の気力を秘めているか? おそらく明示的な部分だけしか習得していないだろう。

もしも暗黙の気力を一つでも持てば、加列オとの戦闘で相手を混乱させられていた」

蕭炎は顔を引き締めて考え始めた。

これまで八極崩を使いながら暗黙の気力について一度も意識したことがなかったからだ。

「貴方が今まで使っていたのは一気に全力を発揮するだけの単純な技だった。

私が以前触れていない理由は、まず貴方自身の実力が弱く、二つ目には貴方がそれを見出せなかったからだ」

蕭炎は恥ずかしさを感じて頭を搔いた。

確かに暗黙の気力を意識したこともないし、八極崩の威力に満足していたのだ。

「目を閉じ、心を静めよ」薬老が声をかけたので、蕭炎は即座に瞑想の姿勢を取った。

篝火のそばで少年は目を閉じ、周囲は再び静寂となった。

木炭の爆裂音と虫の鳴き声だけが響く。

しばらく経ってから、目を開けた蕭炎は眉を顰めながら薬老との心のやり取りを回想した。

しばらく考え込んでいたが、やがて眉根が緩み、彼は小さく頷いた。

拳に淡黄色の斗気を纏わせると、暫くして低く叫び声と共に巨大な樹幹に重い一撃を叩き込んだ。

「八極崩!」

「ドン!」

という衝撃音と共に、その場所は焦げた茶色の裂け目が広がり始めた。

さらに数秒後、内部からより低く重たい爆発音が響いた。

「カタッ」暗黙の気力で樹幹の内部を破壊した瞬間、巨大な木の根元まで揺らぐほどの衝撃だった。

「凄い…凄まじい暗黙の気力だ」

その驚異的な破壊力を目の当たりにした蕭炎は目を見開いた。

この一撃で彼の体内の三分の一の斗気が消費されたが、その効果はそれに見合ったものだった。

「暗黙の気力を秘めた八極崩こそ、地階級と並ぶ実力を持つという評価に値するのだ」蕭炎は拳を収めながら感嘆した。



「なかなかいいものだね、初めてで暗勁を使えたのはいいけど、明らかに未熟だ。

暗勁の爆発が長すぎるし、その間に相手が感応してそれを解消する可能性がある」

藥老はまず賞賛したが、やがて少しだけ不満げに続けた。

「へへ、大丈夫さ、これが初めてだからいいんだ。

もっと練習すれば、暗勁の爆発タイミングを自由自在にコントロールできるようになるはずだ」

虎虎生風のように勢いよく数パンチを繰り出すと、今夜の暗勁突破で蕭炎の戦闘力が急激に上昇した。

同時に、彼は自信満々で胸躍る気持ちになった。

頷いた後、藥老は少し迷ったように続けた。

「この『焚決』は進化効果が凄いけど、基礎段階の強度が低すぎる。

今の気脈管に貯まっている斗気は、暗勁を使う回数も限られる。

だから今後の戦闘では必ず一撃必殺だ。

八極崩は本来そういうものなんだ」

「うん」蕭炎は真剣に頷いた。

自分の弱点である持久力不足を十分に理解していた。

「どうやら、斗気の修練速度を上げる必要があるようだ。

魔獸山脈へ行ってからは、私が薬草探しの手伝いをする。

ただし、現在は天賦以外にも丹薬が必要になる」

藥老が沈黙した時、巨大な黒物が古朴な戒導から飛び出し地面に激突して埃を撒いた。

「えっ…?」

蕭炎はその高さ自分の身長の2倍もある漆黒の物体を見つめ呆れて唾液を飲み込んだ。

「これって何ですか?」

藥老は笑いながら補足した。

「これは焰陨玄鐵で作られたものだ。

大陸に類似品は存在せず、極めて硬く重いだけでなく、斗気を圧制する効果もある。

それを体得すれば、戦闘時に外す瞬間に実力を発揮できる」

さらに続けた。

「あと私が教える地階級の術もこの物に関係している」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...