闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
756 / 1,458
0700

第0787話 ランク第三位!

しおりを挟む
胸元を揉んだ手が衣を引き裂く。

蕭炎は魔毒斑の周囲に浮かぶ奇妙な符文を見つめた。

その符文こそが、魔毒斑の拡張を封じ込めていた。

「これはかつて青山鎮の山洞で偶然得た七彩毒経から学んだ封毒術です。

あなたには異火があるため、おそらく二年以内に魔毒斑は発作しないでしょう」小医仙が優しく言った。

「つまり二年以内に斗尊級の強者に解毒してもらわないと、封印が自然に解除されてしまいます。

その時魔毒斑は完全に暴走するのですね」小医仙の表情が険しくなった。

「うん」蕭炎は頷いた。

もし第三の異火を見つければ、魔毒斑を煉化できるかもしれない。

しかし第三の異火を探す苦労も、斗尊級強者を探す難しさと同レベルだ。

「嘆かわしいことに、周辺諸国には斗尊級の存在は皆無です。

西北地域全体で見つけるのも難しいでしょう」

小医仙が眉をひそめた。

斗尊級は大陸の頂点に位置する強者であり、その数は極めて少ない。

彼らは全て超一流勢力に属し、毒宗や炎盟などは些末な存在だ。

加マ帝国と出雲帝国は大陸の端っこの小さな一角に過ぎない。

「まあゆっくり探せばいいでしょう。

まだ二年もあるんだから」

蕭炎がため息をついた。

その時突然、ある名前が脳裏をかすめた。

薬老とガナ学院内院の蘇千大長老が口にした強者——風備者!尊者!

斗尊級のみが呼ばれる称号だ。

明らかに薬老の生死の友は真の斗尊級だった。

その地位は極めて高く、見つけても解毒してもらうのは難しい。

そのためには互いに信頼関係が必要だが、強者の立場では相手に何か特別な価値を見出さない限り交情を築くことはできない。

特殊な関係以外の多くは実力で成り立つが、これは現実的でありながらも事実なのだ。



「もし本当に探すなら、その風の尊者という人物が頼りになるかもしれない。



蘇千大長老はそう語った。

彼女によれば、この風の尊者は薬老との仲睦まじい関係を築いてきた人物だ。

何十年も経過してもなお、彼は大陸中を探し歩き続けているという。

その情熱は人間離れしたものだった。

「しかし……」

蕭炎が眉根を寄せた。

この広大な斗気大陸で風の尊者を探すのは容易ではない。

自分が薬老の弟子であることを公表すれば、逆に魔殿やかつての敵勢力まで呼び寄せるリスクがある。

「これは相当危険だ」

彼はため息をついた。

どうしようもない状況だった。

小医仙を見ると、彼女は石林の外へと歩き出すよう誘うように微笑んでいた。

「彩鱗たちは外にいますよ」

小医仙が蓮部で軽やかに移動する様子は美しかった。

毒気が封じられたとはいえ、ここに長く留まることは有害だと彼女も理解していたのだろう。

蕭炎は頷いた。

毒気は通常なら琉璃蓮心火で消滅させるが、長期滞在は体に負担をかける。

二人が石林を出ると、美杜莎と紫研が迎えた。

彼女たちの目は安堵の色を帯びていた。

「終わったのか?」

美杜莎の鋭い視線が蕭炎に向けられた。

その表情には心配の念が滲んでいた。

「多分小医仙さんの封印術のおかげだよ」

萧炎は笑みを浮かべた。

事実、彼は三分の二の斗気を消費して魔毒斑の一端を処理したのだ。

もし完全に爆発したら、抵抗する余地などなかった。

「封印がどれだけ効果を持続するのか?」

美杜莎は鋭い質問を投げかけた。

彼女は常に核心を見抜く能力があった。

「二年間だ」

小医仙がためらいながら答えた。

その声には苦渋の色が混じっていた。

「つまり、二年以内に斗尊級の強者が解毒してくれないと……」

「そうだ」

「それ以降も封印を再施術できるのか?」

「それはできない。

一度しか効果がないからね」

小医仙は苦々しい表情で答えた。



眉を逆立てるように見つめるその姿勢は、メデューサがまた冷たい言葉を投げかける気配だ。

一歩前に出た蕭炎はため息混じりに告げる。

「今すぐ解決するわけにはいかない。

まずはどうやって斗尊級の強者を見つけるか話し合った方がいいだろう。

小医仙さん、まず宿泊場所を手配してくれないかな?彩鱗と紫研はあの激戦で疲れているからね」

その要求に対して小医仙は断る理由もなかった。

短く会話した後、彼女は静かに去っていった。

その背中を見つめながら蕭炎は苦々しく言った。

「ここまでお世話になったのに、もう少しでも迷惑をかけないようにしてほしいよ」

メデューサの反応は読めない。

目線を上げて尋ねる。

「今後の計画はどうするつもり?ただ待機しているわけにはいかないだろうに」

「様子を見てみよう」彼は肩をすくめた。

「一泊して、明日この男から魂殿の情報を聞き出すことにしよう。

**」指先で納戒を撫でながら漆黒の瞳孔が鋭い光を宿す。

出雲帝国へ来た目的は、魂殿や薬老に関わる情報を持つ一人の男を捕まえることだった。

その言葉にメデューサも一瞬迷ったが、ため息と共に頷いた。

「広々とした部屋には淡い香りが漂い、柔らかな光が空間を包み込む。

床に横たわる蕭炎は目を閉じて修練の印結を作成し、周囲から流れる天地エネルギーを取り込んでいる。

白い霧のような気息が鼻先で蛇のように蠢き、彼の呼吸と共に体内へと吸収される。

その過程で雄々しい斗気がさらに強化されていく。

約一時間後、鼻先にまとわりついていた薄い霧は消え、閉じられていた目を開けた。

胸を押し下げて浊気を吐き出すと、ようやく身体が緩み始めた。

その手が衣の端を持ち上げると、魔毒斑を見つめる視線が鋭くなった。

「斗尊級の強者……」彼は小さく呟いた。

「期待するよりは第三の異火の方が現実的だよ。

自分でこの毒を解き、吸収できるなら得られるものはそれ以上のものだろう」

「異火……」膝を叩く指先が突然止まり、納戒に触れた瞬間、古びた地図が掌に乗った。

その地図は質感が古く、角の破れ部分には黒い蓮の紋様があった。

蓮の表面には薄い炎が覆われていて、異様なまでの妖しさを放っている。

蕭炎はその黒蓮の模様に視線を釘付けになり、心臓が激しく跳ねた。

彼はかつての無知な少年ではないからこそ、この恐ろしい存在の正体を悟っていた。

「浄蓮の炎……ランキング第三位だ」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...