闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,042 / 1,458
1000

第1076話 激突

しおりを挟む
美しい五色の炎が天を覆い尽くし、恐ろしい高温が空間を歪ませる。

視界はぼやけていた。

その壮絶な炎に対し、葉城の人々は皆顔を失った。

火幕越しでも感じられる狂暴な力に、誰もが震えた。

天蛇たちの立場ならどうなるか想像するだけで吐き気がした。

答えは体験しないと分からないが、愚者は知っている。

その恐怖は決して快いものではなかった。

光陣の中の天蛇三人組みは顔色を変えていた。

美しい炎の中に潜む破壊力は暗闇に隠された毒矢のように彼らの心臓を刺していた。

「蛇老、どうする?」

氷玄が唾を飲み込み、顔を引き攣らせた。

「この五色の火海はあまりにも恐ろしい。

我々三人がその中に入れば、天蛇でさえも危ないかもしれない。

我々は氷寒の気を修練しているのに、恰好その炎に制圧されている。

手を出さなければ、火に触れた瞬間に命を失う」

「慌てるな!」

天蛇が顔を引き締め、厳しく責した。

「彼には陣があるか? 我々の氷河谷は陣なしでは成り立たない。

俺たちで『氷河鏡』を作れ! この若者の爆発力は確かに凄まじいが、決して長く続かないはずだ。

天火三玄変の時間制限が切れるまでにこの大陣も崩壊するだろう。

その時こそ捕縛をかけるのだ」

天蛇はやはり丹域で名高い強者だった。

その状況下でも動揺せず、彼の言葉は直ちに弱点を見出した。

「どうした? 氷玄と氷華! 早く動きろ!」

二人が頬を赤くして頷き、陣形に入ると、彼らの体から凍えるような寒気が連続的に湧いてきた。

天蛇が険しい顔で遠方の蕭炎を見つめ、蛇杖を虚空に強く打ちつけた。

彼の体からは膨大な冷気があふれ出し、他の二人と融合して一塊の白い氷鏡を形成した。

三人を守るその鏡は驚異的な防御力を誇り、おそらく最強級の戦士でも攻撃できないほどのものだった。

五色の炎がその白い鏡に迫った瞬間、爆発音と共に無数の白い霧が噴き出し、炎を拒み続けた。

「チリチリ」

氷鏡から水滴が滲み出て、炎の中に消えていった。



光の巨大な結晶の中で、鮮やかな炎の海が広がり、その中心には白銀の氷の鏡が浮かんでいた。

その鏡面に三つのぼんやりとした影が映っている。

蕭炎は冷たい目で次々と水滴を落とす鏡を見つめながら、唇の端に冷笑を浮かべた。

五色の炎の融合体はその圧倒的な力に彼自身さえ驚かせていた。

確かに天蛇との間に大きな隔たりはあるものの、天火三玄変と今の五輪離火法によってその差は極めて小さくなっていた。

しかし今やその五色の炎を正面から受け止めようとするなど、明らかに無謀な挑戦だった。

五色の炎の海が猛々しく燃え盛り、異常な熱量で光結晶内の空間を極限まで歪ませていた。

その歪みは次第に黒い空間の痕跡さえ生み出すほどだった。

氷河谷三大長老が乗る白銀の鏡は炎の中をゆっくりと溶かされていく。

その厚い氷層が溶ける速度は、三人の顔色まで変えさせるほどのものだった。

属性相克による五色炎の破壊力は完全に発揮されていたのだ。

「蛇老、このままでは斗気の消費が尋常でない。

もしかしたらその若造の秘術が限界を迎える前に耐え切れなくなるかもしれない」

鏡面を支える両手から冷気が流れ込むのにかかわらず、氷玄は激しい熱に身を震わせていた。

天蛇の顔色が複雑に混ざり合う。

彼は五色炎の破壊力を過小評価していたのだ。

「鏡が砕けた時に、お二人の体内にある氷尊勁を全てこちらへ伝えるように。

私が攻撃を仕掛けてその若造を一撃で斬り捨てる」

天蛇の冷たい声に、氷玄はためらいながらも頷いた。

この恐怖の炎海の中では、体中に氷尊勁がなければ焼身の苦しみを味わうことになる。

二人の苦々しい表情を見ても天蛇は無関心だった。

彼の視線は光結晶外の一箇所に固定されていた。

そこにはぼんやりと一人の影があった。

「ギィ」

五色炎が暴れ狂う中、鏡面から次第に水滴が増えていく。

その堅固な氷層も薄くなり始めていた。

光結晶内のこの対峙を見ていた葉城の人々は皆震え上がった。

あの若者の強さは想像を絶するものだった。

魂殿護法を倒した後、一人で氷河谷三大長老を炎海に閉じ込めるなど、その業績は語るだけで胸が熱くなるほどだった。

「バキ」

光結晶内から突然小さな音が響き渡り、人々の視線を集めると鏡面に細かい亀裂が広がり始めた。

その様子を見て葉城中で驚愕の声が飛び交った。

「この恐ろしい炎海は氷河谷三大長老をも耐え切れさせないのか」

「ドン!」



**の裂け目が次第に広がり、やがて猛然と震えた。

その瞬間、轟然と爆発し、無数の氷片が四方八方に飛び散った。

驚異的な気流が周囲を包み込み、五色の炎海を一時的に退けた。

寒気が充満する中、氷玄と氷華は烈れと叫びながら天蛇の背中に掌を押し当てた。

その掌から放出される細かい氷片が含まれる膨大な闘気は、天蛇の体内に流れ込んでいった。

二人の体幹にある氷尊勁が天蛇の体内に入ると、カランという音と共に淡い青色の氷層が皮膚から浮かび上がり、瞬時に薄い青白い甲羅を形成した。

その氷片が現れるにつれ、極度に恐ろしい青白色の寒気が天蛇の体から溢れ出した。

その冷気の下で周囲の五色炎海は十丈外まで押し戻され、炎の衝撃が濃密な白煙を生み出す。

淡い青色の氷層が現れた瞬間、天蛇は五色炎から感じる恐怖の熱量を感じ取り、凶光を宿した目で遠くにいる蕭炎を見据えた。

「この若造!ここまでだ」

その冷徹な言葉と共に天蛇の手が猛然と握りしめられた。

掌からは液体のように流れる淡い青色エネルギーが溢れ出し、細かい氷片がその中に浮かんでいた。

彼はそれを掴み、瞬時に二丈を超える巨大な青白い弓へと変形させた。

その弓が現れた途端、周囲の寒気がさらに上昇し、かつては天を覆う炎海さえも後退した。

天蛇の顔に陰気な表情が浮かび、彼は弓弦を引きながら冷酷に名付けた。

「氷神弓」

弓を引く音と共に恐怖の寒気が集まり、弓先には一丈を超える青白い矢がゆっくりと形成された。

その矢を見た蕭炎の顔色が暗くなり、五色炎海が自動的にその方向から分断されるのを見て、彼は深呼吸して手印を変化させた。

瞬間、炎海が彼の右腕に集中し、十丈を超える巨大な五色の炎の腕が形成された。

天蛇はその姿を見ると目を細め、冷酷な笑みと共に矢を放った。

「氷神矢 冰封天地」

矢が放たれた瞬間、周囲の空気が凍りつき、炎海も暗くなり始めた。

蕭炎は凶悪な表情でその青白い矢を目撃し、巨腕を振り上げて猛々しく打ち出した。

「この一撃!お前の命を取る!」

火神の腕が轟然と動き、氷矢を迎え撃った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...