闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,059 / 1,458
1000

第1093話 0001撃に耐えず!

しおりを挟む
庭園の空気はその場で凍り付いた。

微風が吹き抜けようとするも、緊張に包まれた空気がそれを許さない。

翎泉の手にある血色の玉令の下では、二人の黒衣老者さえ動けなかった。

古族の中で極めて強い威圧力を持つこの玉令は、彼らでも無視できない存在だった。

蕭炎の視線が翎泉に向けられ、その冷たい表情を凝視する。

漆黒の瞳孔には次第に寒気が籠もる。

薰儿の目が血色の玉令に一瞬留まり、頬は完全に凍り付いた。

この男が血玉令を持っていることに驚きを隠せない。

「翎泉、今すぐ私と来なさい。

私は何も起こったことなかったことにするわ」

深呼吸してから、薰儿は冷静に言った。

翎泉の唇がわずかに震え、しばらく経てゆっくり首を横に振る。

彼女ほどに優しい態度ほど、蕭炎への殺意を煽る。

「小姐、これは長老達の命令です。

私は従わねばなりません」

黄儿の表情は逆に平静になった。

静かに言う。

「分かりました……」

薰儿の穏やかな言葉を聞いた瞬間、翎泉の顔が一変した。

彼女が本気で怒っていることを悟ったのだ。

「全てこの蕭家の小無能のせいだ!今日こそは、この男に忘れられない傷を与えるために、あなた様への冒涜にもならずとも……」

翎泉の表情はさらに険しくなり、野獣のような目つきで蕭炎を睨みつける。

血玉令を持つ手が次第に握りしめられ、軋轢音を立てた。

「貴方は自分で来てくれるか、それとも私が動くか」

枯れたような低い声で翎泉が言った。

蕭炎は依然として彼を見据え、ようやく冷たい笑みを浮かべる。

この男の挑発に完全に乗せられたのだ。

「あなたはまだ昔と同じと思っているのか?」

萧炎の言葉に、翎泉は逆に笑った。

「そうね、そのように見えたわ。

つまり貴方は古族に来ないつもりなのね?」

蕭炎は笑顔で頷く。

彼もまた、この男が自分を攻撃するための口実を探していることを知っている。

「あの日のようにそのまま去るなど、あまりにも情けないからだ」

かつての因縁を捨てずにいる理由を説明するように、彼は続けた。

「貴方には、私がその資格を失ったと気付いていないようね。

あなたが古族の統率者である今なら、あの日のようにはいかないわ」

翎泉も同じく笑みを浮かべる。

その中に殺意が滲んでいるのは明らかだった。

「本统领今日貴方に知らせるべきだわ。

貴方がどれだけ跳ね回ろうと、古族の目にはただの虫に過ぎないのですよ。

貴方の家族はあの日と同じ蕭家ではなく、中州にも足を踏み入れていない貧乏者なのよ」

その言葉と共に、翎泉が一歩前に進む。

体から溢れるような圧力は火山のように爆発し、空気を切り裂いた。

「もう一歩進めたら死ぬわ」

優しい声が突然響き、白い影が蕭炎の前に現れた。

小医仙から漂う薄い灰色の気流はゆっくりと立ち上り、その体からは不思議な威圧感が滲み出していた。

翎泉の瞳孔が僅かに縮まった。

彼の能力なら、小医仙の凄まじい実力まで察知できるはずだ。

「また女を使うのか?内院の蘇千を頼んだあの時と同じく、今度も女に出面させるのか。

いつになったら自分で立ち回れるようになるんだ?もし先祖がそれを知ったら、死ぬほど穏やかでないだろう」

翎泉は冷ややかな目線で蕭炎を見据えた。

その声には嘲讽と軽蔑が滲んでいた。

「第一に、自分が指揮できる力なら全て自分のものだ。

他人頼りという馬鹿げた言葉は笑い話になるだけだ。

貴様の態度がここまで暴れるのは、古族の名を借りているからだろう。

貴様の五星斗宗の実力など、何にもならない」

蕭炎は薄く笑みながらも、その表情は凍り付いていた。

「第二に、蕭家の先祖を口にする資格はない」

「第三に、貴様一人で十分だ」

小医仙が顔を強張らせたのを見て、萧炎は彼女の方へ首を傾げて笑った。

「この程度の連中、私が倒せないと思うか?」

小医仙はため息をつくように首を横に振った。

この翎泉という男もまた、我慢ならない存在だった。

「蕭炎兄、動けば全て私の責任で構わます」

薰が淡々と告げた。

彼女の冷たい性格からすればこんなことを口にするのは異例のことで、今日の翎泉は本当に激怒させたようだ。

一側の黒衣の男たちは顔を見合わせて苦笑した。

この男が血玉令を手にしていることに気づいていないのかと、内心で舌打ちしていた。

彼らはいずれも古族の下位勢力だが、この男の未来が暗澹だと確信していた。

「葉重長老、些細な私事なので、葉家には関わらないようにしていただけますか」

蕭炎は笑みを浮かべながら周囲を見回した。

葉重は慌てて笑顔で応じた。

空にいる四翼の一角獣が彼らの視線を集めているからだ。

この男と関わりがある人物など、葉家が手を出すわけがない。

「葉重長老は冗談を言っているようだが、ここは些細な問題です」

葉重は慌てて笑顔で応じた。

空にいる四翼の一角獣が彼らの視線を集めているからだ。

この男と関わりがある人物など、葉家が手を出すわけがない。

「翎泉統領、一人かそれとも一斉に?」

その言葉と共に、彼は周囲の十数人の集団を見やった。

彼らの実力は高くても最上位は斗皇級だが、蕭炎にとっては無視できる程度だった。

「貴様が私の前に喧嘩を売るとは何事か!私が貴様一人で倒すだけだ!」



りんせんがにやっと笑った、掌を強く握ると雷光が走り、銀色の槍へと変身した。

足音で空高く飛び上がり、槍を遠くに向けながら冷笑道「今朝はこの蕭家の廃人めい、こんなにも堂々と暴れる資格があるのか見せてやろうか」

炎は笑みを浮かべた、漆黒の瞳孔が殺意を湛え、瞬時に空へ移動。

掌で重尺を取り出すと「チィ」という音と共に雷電槍が迫る。

「バキッ!」

炎が現れた瞬間りんせんは寒気が走った。

槍を振ると電光が渦巻き、巨龍のような形態に変化した。

空高く向かうその姿勢を見つめながら炎は静かに重尺の上に緑色の炎を纏わせた。

「ドン!」

重尺と雷龍が衝突し火花が四方八方に散る。

両者の身体が揺らぐ中、りんせんの顔に初めて驚きが浮かんだ。

槍から伝わる力で掌が痺れるほどだった。

「この小僧は蛮力があるな」

りんせんが笑いながら残像を残し炎の近くへと移動した。

銀色の槍が蛇のように蠢く中、炎の身体は虚ろに消え、僅かな動きで致命的な攻撃を回避する。

「この身法は危険だ」

りんせんの目が冷たくなった。

掌で槍を叩き、空間すら引き裂くほどの勢いで突進させる。

しかし炎の手が突然槍を掴み、その力を受け止めながら握ると槍は断片となって消えた。

「華麗な槍術だが効果なし」

炎が冷ややかに笑った。

りんせんの槍術は速いが、炎の霊魂で完全に無力化されていた。

槍が破壊されるとりんせんの顔色が一変した。

手印を結び帝印決を発動させようとした瞬間、炎が冷ややかに「天火三玄変 第一形!」

炎の気魄は急激に増しりんせんと同等の領域に達した。

銀色の光でりんせんの前に現れると炎の瞳孔が凍り付く。

「開山印!」



炎の速度は鈴泉の心を震わせ、手印が瞬く間に完成した。

その直後、掌を叩きつけるように打ち出した。

「お前は山を開けろ!」

鈴泉の掌がまだ動いていないと同時に、炎の拳がその下から鋭く突き込まれた。

緑色の炎が爆発し、空気を切り裂いた。

開山印の構造を熟知する炎は、その手印の弱点に正確に拳を当てた。

鈴泉の腕には細かな音が響き、額からは冷や汗が滲み出していた。

しかし鈴泉も負けじと、慌てて新たな手印を結び始めた。

まだ完成していないその手印を、炎の掌が突然掴み取った。

「槍法は華麗だが、印結びは緩慢だ。

気力の浮遊具合も私の予想外。

お前は四字評語」

炎は鈴泉の手を強く握り、怜悧な目線で白くなった顔を見つめた。

「脆いものだ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...