闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,068 / 1,458
1100

第1102話 圧力

しおりを挟む
蕭炎は重い表情で頷いた。

もし曹颖が葉重の言う通りであれば、確かに彼にとって強敵となるだろう。

「曹颖……」

口の中でその名を呟くと、漆黒の瞳に燃えるような情熱が湧き上がった。

錬薬術を修練し始めた以来、同年代でこれほどまでに強く優れた存在は初めてだった。

かつてガマ帝国で開催された錬薬師大会では、他の帝国から偽装した公会副会長の男が彼を悩ませたことはあるものの、柳翎のような同年代の強者とはまだ比較にならなかった。

しかし今回は曹颖という新たな敵が現れたのだ。

葉重の話から、蕭炎は曹颖が錬丹術に近い妖異な才能を持つことを悟った。

おそらく彼よりも優れているだろう。

頭上に連続する輝かしい実績があるのは、蕭炎にはないものだった。

「やはり大きなプレッシャーだね。

この大会は錬薬界で最も価値のあるものなんだ」

心の中でため息をついた。

丹会の凄まじさがさらに身近に感じられた。

まだ曹家の妖女だけでも苦手な存在なのに、大陸の広大さを考えれば他の異端児もいるかもしれない。

しかし蕭炎は驚くことはなかった。

大陸には天才的な若者が数多く存在するからだ。

「師匠がこの大会で優勝したのも当然だろう。

あの頃の実力があれば群雄を制圧するのは容易だったはず」

彼は笑みを浮かべた。

薬老もかつて一回の丹会チャンピオンだったはず。

もし名前を利用して丹塔に進んでいれば、その資格と家系の力でトップクラスになっていたかもしれない。

そうすれば魂殿への恐怖もなかっただろう。

しかし現在は現実問題として不可能だ。

薬老のような悠々自適な性格の人間が高位の地位を求めるのは無理というものだった。

「ふっ、でも蕭炎さんも心配しなくていいよ。

曹颖は確かに強いが、勝負は未定だ。

彼女が八品に達していなければ、必ずしも勝つとは限らない。

錬薬は状態や運次第のものさ。

失敗率というものは誰にもあるんだ」

葉重が笑顔で言った。

蕭炎が黙り込んでいると、葉重は彼が曹颖を心配していると思い込んだようだった。

萧炎は小さく頷いた。

八品と七品は全く別の次元だ。

これまでに彼が知る八品錬薬師は薬老だけだった。

中州で見かけた七品の錬薬師は数人いたが、八品となると本当に出会ったことがなかった。

そのようなレベルの錬薬師は、斗尊級の強者でも敬意を払うべき存在だ。

かつて薬老が中州で持っていた地位も、まさにその類似したものだった。

八品錬薬師が稀少なのは、その進化への困難さを表している。

七品錬薬師は中州で活躍する程度の実力でもあるが、斗尊級の強者から打撃手として扱われるほどの地位を得るには、少なくとも八品に達する必要があったのだ。



心の状態をわずかに引き締め、蕭炎は笑みを浮かべて言った。

「大丈夫だ。

この丹会も私が必ず勝ち取るつもりだ。

どんな強敵が現れようとも全力で戦うだけだ」

その言葉に応じて葉重も笑みを返し、「萧炎先生、あと一ヶ月ほどで五大家族の試験が始まります。

我々は少し早めに出発する必要がありますから、おそらく二十日ほど待たずに旅立つことになるでしょう」と続けた。

そのような急ぎ目の準備が蕭炎の眉をわずかに寄せさせたが、すぐに頷いた。

「今はとにかく全力で進めねばならない。

幸い私の鍛錬も佳境を迎えている。

七品高級丹薬はまだ成功できていないものの、低・中級の成功率は向上している。

このペースならいずれ必ず七品高級丹薬を完成させられるだろう」

「出発するときは一声でいいよ。

私は一休みしてから閉じ籠もって鍛錬に入るつもりだ」

蕭炎がそのような過酷な鍛錬に取り組むのを聞いた葉重は思わず冷や汗を流した。

「煉丹自体が非常に疲労と精神力を消耗する行為である。

常識的には七品薬師でも一日三回程度しかできないものだ」

「確かにそうだが、私は生まれつき強い霊魂を持ち、異火の助けも得ている。

そのため他の七品薬師が一日三回しかできない作業を六回、十回、それ以上行うことも可能なのだ」

つまり彼が閉じ籠もる一昼夜で他人数日分の成果を得られるというわけだ。

そのような過酷な鍛錬は確かに苦しいものだが、この男がこれまでどれほど辛い目に遭ってきたか考えれば驚くべきことではない。

彼の性格はこれらの試練を通じてますます頑丈になっている

冷や汗を拭った葉重は深く頷いた。

「分かりました。

蕭炎先生は安心して鍛錬に専念してください。

薬材が足りない場合はすぐに知らせれば、我が家の全てのコレクションを差し出すと約束します」

蕭炎が小さく頷き、葉重と丹会に関する詳細を話し合った後、小医仙たちと共に各自の部屋に戻って行った。

曹家との問題を解決した翌日、蕭炎は再び煉丹室に入り閉じ籠もる宣言をした。

するとすぐに葉家の倉庫から貴重な薬材が次々と運び込まれ、全てが煉丹室に積み上げられた

その結果、蕭炎の存在により葉家は曹家の妨害から解放された。

さらに小医仙や天火尊者がたまに姿を見せることで、葉家を狙う勢力も尻込みするようになった。

二人の斗尊級強者という圧倒的な陣容は、決して無視できるものではなかった

外界からの問題がなくなったことで葉家は静かになった。

そして時間は指先の砂のように、穏やかに過ぎていった

近づく丹会のため、丹域全体が異常に賑やかになってきた。

その土地のどこにでも以前よりも多くの人々が集まり、注意深い者なら分かるだろう、この地と音色が異なる薬師たちが次々と現れるようになった。

明らかに彼らは丹会のために来ているのだ。

丹会は薬師界の大イベントであり、中州の一大盛事でもある。

開催時には丹域が中州乃至大陸全体の焦点となる。

人々や勢力は肉の匂いを嗅ぎつけた狼のように殺到するだろう。

大陸で最も尊貴な職業である薬師。

その能力とエネルギーは他者から羨望を集める。

戦闘力では強くなかったとしても、小さな丹薬一枚で强者に命を取らせることもできるのだ。

そのため大陸の誰もが知っているように、特に高級薬師は触れない方が良い存在だ。

彼らは馬蜂の巣のように一撃すれば無数の問題が発生する。

高級薬師は勢力にとって最も欲しいもので、多くの勢力は誘惑的な条件を提示し、時にはその奪い合いが血みどろになることもあった。

薬師の尊貴さが丹会に重みを持たせている。

誰もが知っているように、大陸各地から優れた薬師が集まり、その中で目立つ者は勢力にとって実力を急激に増幅させる存在だ。

これら全てが丹域の人出を急激に増やした要因であり、時間と共にこの広大な土地はさらに多くの人々で埋め尽くされるだろう。

五大家族の試験日が近づくにつれ、人出の増加も進んでいた。

葉家の奥深き薬室の外には全員が敬意を持って並んでいる。

先頭に立っているのは葉重と欣藍、そして何名かの葉家老臣だ。

今日は聖丹城への旅立ちの最終日であり、蕭炎が閉じ籠もっていた薬室から出る時刻だった。

二十数日の間、蕭炎は一度も薬室を出ていなかった。

内部の灼熱環境に耐えられないため、薬材を運びに来る葉家の人々さえも短時間しか滞在できず、静かに去っていった。

この期間中、葉家の裏庭上空には時折雲が集まり、雷がその中に形成されることがあった。

しかし降りかかる寸前で突然消えていくのだった。

このような天候変化は葉重たちの注意を引いた。

彼らは確実に感じていた、丹雷が落ちる直前に薬室から凄まじいエネルギー波動が発生し、それは七品高級丹薬完成時のものと酷似していた。

彼らはなぜそのエネルギーが突然消えるのか分からないが、蕭炎の意図によるものだと悟っていた。

葉重たちが考えを巡らせている間、閉ざされた石の扉がゆっくりと開き始めた。

内部から暖かい空気が溢れ出し、薬師の気配が漂ってくる。

彼らは彼が以前と比べて少し変わったように感じていた。

しかしその変化は外見ではなく内面にあり、目には見えないものだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...