闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1155話 出口へ急ぐ

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遥か空の上に無形の光が浮かび、その中心から広大な霊圧が四方八方に波打つように広がり始めた。

この時、山脈内にある強力な高級魔獣以外は全て、強い霊圧を感じ取り体を震わせていた。

熊戦は空を見上げ「この蕭炎は本当に八品に昇級したのか……信じられない」とつぶやいた。

その無形の光が徐々に熊戦の視界の中に現れ始めた時、光が消えた先には虚幻な人影が残されていた。

それが蕭炎であることに気付くと、熊戦は「これは…霊魂か?」

と低く驚きを漏らした。

現代の強者たちにとって霊魂は無形で捉えどころのない存在であり、類似した真の人間型霊魂は稀だ。

虚無な霊魂を人間の姿に凝縮し長時間維持するのは、斗尊級でも困難な技だった。

空上の「蕭炎」が地面を見やると、石室から現れた本体の肉身が空中を歩んでいた。

熊戦はその姿を見て「あれか」と目を細めた。

本体が霊魂に近づくにつれ、虚幻な「蕭炎」も動き出し、彼の前に縮小していった。

最終的に掌サイズの光になったそれを額に置くと消滅した。

霊魂が眉心に戻ると、蕭炎の身体は一瞬だけ震えた。

その後深呼吸をし手印を結び始めた。

その時広大な霊圧が彼の周囲から溢れ出し、複雑な手印の中で拳状に凝縮された。

「熊戦さん!この霊拳を受け取ってください!」

と叫んだ瞬間、光速で熊戦へ向かう。

熊戦は笑いながら「よし!」

と受け止めた。



「炎上(えんじょう)の笑い声を聞いた熊戦は、思い切り手を握りながら虚ろな目で空間を駆け抜ける無形の力を見つめた。

『ドン!』と突然、無形の霊魂の手形が熊戦の鉄のような巨拳に激突した。

その衝撃は低く響き渡り、空気中に広がった。

両者の対決では意図通りのエネルギー波紋は現れず、熊戦の一撃で顔色が変わった瞬間、彼は頭の奥から鈍い痛みと眩暈を感じた。

その一瞬の混乱でバランスを崩し、二歩後退してようやく体勢を立て直した。

「これが霊魂攻撃か……」

息を整えた熊戦は険しい表情になった。

先ほどは全力を使わなかったが、蕭炎の不思議な攻撃は物理的な力では防げないものだった。

彼が狙ったのは相手の霊魂そのものだったのだ。

この程度の威力で致命傷を出すことはできなくても、戦闘中に突然このような一撃を放てば、短時間の意識喪失で戦況は逆転するかもしれない。

「昔話では古き薬師(やくし)は強力な斗気を持つ者たちも恐れることなく、その霊魂攻撃は防ぎようがなかった。

しかし現代の薬師はその修練法を失い、戦闘時には強い斗気で勝負するしかない」

熊戦は深く考えながら頷いた。

彼は魔獣だが長年の歳月を経ており、かつてこの丹界が栄えた頃に名高い薬師宗師の元で働いていた記憶があった。

「えっ、熊戦さん大丈夫ですか?」

空から降り立った蕭炎が優しく尋ねた。

熊戦はその質問を聞いて思考を切り替え、彼を見上げると不思議に思った。

現在の蕭炎からは以前とは異なる一種の神秘的な雰囲気が漂っていた。

「これは八品薬師に昇級したことで起こった変化でしょうね」

熊戦も深く考えることなく、笑顔で答えた。

「萧炎さん、この手はなかなかやるわ。

少しでもレベルが低い相手なら、その霊魂攻撃で意識を混乱させられるかもしれないよ」

会話しながら熊戦の呼び方は自然と親しげになった。

彼は斗尊級の強者だが、蕭炎が八品薬師に昇格した今後、何かしらの協力関係も生まれるだろうと思っていた。

萧炎はその微妙な変化を感じながらも特に気にせず笑った。

「ようやく抜け出したんだね」



清脆な音が突然蕭炎の背後で響いた。

それは待ちきれない紫研だった。

萧炎は振り返り、紫研を見ながら笑みを浮かべた。

「閉関した日数は?」

「ほぼ八日間だ」

紫研は白目を剥いて答えた。

「もしあなたがさらに遅れたら丹界の閉鎖が始まる。

その場合あなたは出場資格を失うことになる」

「八日か……そうするとあと一日余裕があるな」蕭炎は頷いた。

八日の消耗は予想外ではなかった。

少し考え込んでから納戒から丹界地図を取り出し、位置を確認した。

北の方を見やると、「私の任務品は全て揃っている。

出口まで行けばいい。

あなたたちはどうする?」

紫研は肩をすくめた。

「とりあえず君の後ろについていくしかないだろう。

ただ出口には丹塔の人間が待機しているから、そこまでは君一人で先に出る必要がある。

私は自分で何とかする」

蕭炎は頷いた。

紫研の能力は知っていたし、彼女が無音でこの丹界に入ったことからも脱出方法はあるはずだ。

「そうか。

それなら早々に行動しよう。

ここから出口まではまだ距離があるから速やかに移動しないと閉鎖される」

「うん、これを持っておいてくれよ。

でも一人占めはダメだぞ」紫研が突然手を開き、翠緑色の指輪を掌に乗せた。

その指輪を見た一熊戦の顔が引きつった。

「あれは?」

蕭炎は首を傾げた。

「咳、これは石殿にある希少な薬材だ」

熊戦は頬を引きつらせながら「咳、それは石殿内の貴重な薬草です」と言い訳した。

紫研の催促する目を見ると、萧炎は苦々しく笑った。

「この姑奶奶は他人の財産を全て掠め取ろうとしているんだよ」

指輪を受け取り手首に巻いた蕭炎は、「熊戦さんも同行していいのか?」

「ああ、私はこの姑奶奶に頼るしかないし、君の護衛役を務めるのも悪くない。

もしまたあの男と会ったら君は危ないかもしれないからな」

熊戦が視線を蕭炎の指先から離すと、「ほんならお世話になります」

萧炎は笑みを浮かべて礼儀正しく頭を下げた。

「それでは早速出発しよう」

「自分で飛ぶのは面倒だぞ」

熊戦は鼻を膨らませると突然口笛を吹いた。

その音に合わせて万薬山脈から清脆な鳥の声が響き、間もなく巨大な影が遠くの山々から飛び出し、山頂上に旋回した。

「行こう。

この玄鳥獣は非常に速いし手間もかからない……」

熊戦が萧炎に手を振ると地面を蹴り上げて跳躍し、その名前の巨大な生物の広大な背中に着地した。

蕭炎と紫研もその後ろについて行った。

「キィ!」

巨体の玄鳥獣が天高く鋭い鳴き声を響かせると羽根を広げて北に向かって疾走し始めた。



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