闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,209 / 1,458
1200

第1253話 完璧な肉体

しおりを挟む
翌日の朝、星陨峰の裏山にある石塔の中。

「老師、軀体の鍛錬がすぐ始まります。

準備はいいですか?」

蕭炎は風尊者から受け取った四星斗尊の骨骸を石台にそっと置き、一歩横目に薬老を見やった。

「うむ」

薬老は重々しく頷いた。

その瞬間、彼の心が揺らぐほどの波動が周囲に広がり、空間自体を震わせた。

「風尊者様、この軀体の鍛錬と融合プロセスには時間がかかるかもしれません。

この期間中、誰も石塔内に入れないようにしてください」

蕭炎は視線を風尊者たちに向け、厳かに告げた。

「心配いりません。

開始後は星陨閣が警戒態勢に入るでしょう。

外の強者が呼び戻されるはずです。

薬老様が頂点に戻れば、我々も魂殿への報復に対抗できるでしょうから」

風尊者は真剣な表情で頷き、「絶対に失敗は許されません」と付け足した。

蕭炎は小さくうなずき、呼吸を整えた。

指先が軽く弾かれた瞬間、生骨融血丹の入った玉瓶が薬老へとゆっくりと移動し始めた。

薬老は慣れた手つきで受け取り、一瞬でその内容物を取り出した。

「老師、まずは私が軀体を鍛錬します。

成功したらすぐに貴方が融合していただきます」

蕭炎の低く響く声が石塔内に響き渡る。

彼の掌から現れた玉瓶には、青と赤の血液が緩やかに渦巻いていた。

そのエネルギーは空間を震わせ、周囲の空気自体を歪ませていた。

「行け!」

指先で一振りすると、瓶内の液体は勢いよく飛び出し、灰白の骨骸へと降り注いだ。

瞬間、白煙が立ち上り、異様な音が連続して響き始めた。

「滋滋……」

青赤の色が骨に広がるにつれ、その輝きは鮮やかさを増し、エネルギーの波動が明らかに強まっていた。

蕭炎は手を上げると、変化した青赤の骨骸が浮かび上がり、紫褐色の炎で包まれた。

「妖凰血精は融合が難しいからな。

異火を使わないと……」

彼の視線は骨の奥深くまで行き届くように、炎を燃え立たせていた。



灼熱の炎が烈しく燻る中、その青紅の骨格から微細な青紅の光罩が現れた。

しかし高温は依然として骨格表面に小さな気泡を生み出し、時折爆発する際に濃厚なエネルギーが溢れ出す。

この鍛錬と焼き入れという長期的な過程は一昼夜にも及んだが、ようやく蕭炎の微かに閉じた目がゆっくりと開いた。

現在その骨格の青紅色は明らかに暗くなり、以前のような鮮やかさを失っていた。

しかし蕭炎はそれを理解していた——これらのエネルギーは高温の中で骨格の奥深くへと浸透し始めているのだ。

「ふぅ……」

長い息を吐きながら、蕭炎が薬老を見やると、後者は微笑んで頷いた。

現在の蕭炎の制火術はかつてとは比べものにならず、むしろ彼の方が相手に及ばないかもしれない——これは薬老にとって大きな安堵だった。

確かに弟子の実力も重視するが、やはり薬師としての煉金術レベルこそ最優先なのだ。

薬老の満足そうな表情を見た蕭炎は笑みを浮かべ、火を消そうとしたが、何か思いついたように一瞬ためらった。

石台へと近づき、薬老の困惑した視線の中で骨格の右腕を強引に折り落とした。

「え?」

その行動に驚いた薬老は眉をひそめた。

「これ試してみようか、炎は微笑んだ」そう言いながら、遠古遺跡で得た『斗聖右腕』を取り出し、骨格の肩に接続した。

サイズが合わない部分も炎で調整すると、瞬く間に完璧に一体化した。

「玉白い骨腕?」

薬老の鋭い目は一瞬でその異様な色を捉え、驚きの表情になった。

「遠古遺跡から得たものさ。

炎は笑って頷いた」この物質の硬度が斗聖級であることは蕭炎も実証済みだった。

自身に使うには腕を切断する必要があり、そのリスクを考えると躊躇われたが——薬老にとっては新たな身体との融合問題など存在しなかった。

この右腕はいずれ彼の一部となるのだ。

「うむ」薬老は小さく頷いた。

煉金術で聖級装備を取り込むのは初めての試みだが、斗聖級の遺物である以上、何か重要な契機になるかもしれない——

炎が右腕をさらに鍛錬し続けた後、完全に骨格と一体化したことを確認すると、ようやく満足げに頷いた。



長年の鍛錬を経て、灰白の骨格は大きく変貌していた。

全身が緑と赤の二色に変わっていたものの、右腕だけは依然として玉のような白さを保ち続けていた。

その先端にはわずかに緑と赤の斑点が滲み出ており、三千蓮心火の熱気の中で完全に一体化されていた。

「先生!」

その光景を見た瞬間、蕭炎の表情は険しくなり、重々しい声で叫んだ。

「うむ。



薬老は頷き、その鋭い目力で最も適切なタイミングと判断した。

速やかに玉瓶から生骨融合血丹を取り出し、口に含んで体を虚ろにし、光の粒子となって骨格の中に消えた。

「バチッ!」

薬老の魂が骨格に入ったその刹那、骨格は激しく震え、空洞だった目窩に次第に輝きが集まり始めた。

同時に、骨格から恐るべき異質なエネルギーが溢れ出し、そこには驚くべき現象が発生した——白骨が血肉と結合し始めるのである。

これはまさに生骨融合血丹の効果によるものだった。

「先生!耐え抜いてください!」

蕭炎は迅速に紫褐色の炎を包み込むように燃やし始めた。

その炎の熱さで生成された血肉組織は灰燼となり、消えた直後には再び異質なエネルギーが広がり、再生速度もさらに加速した。

最終的には肉芽だけが激しく蠕動し、人間らしい輪郭を形作るまでになった。

この炎と再生の繰り返しが十時間近く続いた時、ようやく皮膚組織が完全に形成された。

同時に石台にある骨格は完全な人間の姿となった。

今や薬老とその身体が融合し終えると、かつて大陸を驚かせた薬尊者の復活が近づいてくる。

一方、中州西野の深い山々では、巨大な黒殿が遠古の凶獣のように横たわり、寒気を帯びたエネルギーが周囲に渦巻いている。

突然、その巨殿から無数の黒霧が湧き出し、凝縮して空中に立つ影たちとなった。

「九天尊様!」

彼らは次々と跪き、畏敬の声を響かせた。

空間が歪んだ瞬間、青い人影が現れ、淡々とした口調で問うた。

「今回の任務は覚えておるか?」

「星滅闕閣を滅ぼし、蕭炎と薬塵を捕縛する!」

百近くの声が一斉に響き渡った。

青い人影は頷くと、足元を踏みながらゆっくりと消えていった。

その瞬間、黒衣の先頭にいた老者は北の空を見やった。

摘星鬼だった彼の顔には険しい表情が浮かんだ。

「蕭炎よ、この度は誰も助けてくれないだろう」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

処理中です...