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第1292話 太一魂訣
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その後の日々、蕭炎は星陨閣の中を離れることがなく、小医仙の帰還を待っていた。
その待機期間中、彼は斗気の修練に没頭せず、代わりに霊魂の鍛錬に集中していた。
霊魂力の強さが薬師の等級と直結するためだ。
かつて蕭炎が霊境(りょうきょう)へ昇華した後は、斗気修練に忙殺され、霊魂への配慮を怠ってきた。
現在の八品薬師という称号は中州同年代では稀少だが、薬老から聞いた話で知ったように、その実力は薬族の若手トップ五に入る程度に過ぎない。
この事実は彼にとって相当なプレッシャーだった。
「私の現時点での薬師等級は八品初段の頂点だ」
静かな部屋の中で、蕭炎は眉をひそめて考えていた。
四色丹雷(たんらい)を引き起こす薬師が八品初段の頂点とされるのは一般的だが、彼が丹会で発生させた五色丹雷の最後の一色は不純だったため、自身を八品初段の頂点に位置付けていた。
八品層の丹薬を引き起こす丹雷の色数が一つ増えるごとに天と地ほどの差異があるという事実を理解していた。
「丹塔の三位トップクラスはその能力を持つだろうし、半聖となった薬老も同様だ。
だが彼らはいずれも『天境(てんきょう)』に達しているに過ぎない。
帝境(ていけい)という最終層はこの大陸には存在しない」
八品層の丹薬を引き起こす丹雷が五色以上発生する薬師は八品中段、さらに八色以上なら八品上位と呼ばれるが、そのような人物は丹塔にも数えるほどしかいない。
「私の魂は、やはり霊境初期の段階にあるはずだ。
しかし、単に魂の力だけを論じれば、他の霊境中期と互角に近い……」
眉根を寄せた蕭炎は、最近魂の修行をしていないせいで進展が遅れていることに気づいた。
今後も斗気と魂の力を均衡させる必要があると心に決めた。
掌を開くと、古びた皮紙で巻かれた巻物が現れる。
暗黄色の色調から年数を感じさせた。
慎重に展開すると文字はなく、蕭炎は眉頭を下げずに済んだ。
眉間から魂の力が広がり、ゆっくりと巻物全体を包み込んだ。
皮紙には無形の波紋が生じ、目に見えない情報流が次々と脳裡に流れ込んでくる。
「太一魂決……」
玄奥な文字が浮かび上がり、詳細に読むと、丹会優勝賞品として得た修魂術だった。
以前から研究はしていたものの正式修練はしていなかった。
古界への旅を控え、準備不足は危険だと考えたのだ。
薬老も調べたが評価は高く、遠古の遺物ゆえ現代とは異なる独自性があると指摘した。
彼の魂術と比べても劣らないという意見だった。
目を開けた蕭炎は「太一魂決」に深く感銘していた。
以前得た簡素な口伝と比較すれば格段に優れている。
「これなら過去の曖昧さが解決する……」
思考を巡らせると、以前の迷いが晴れやかに消えた。
眉心の魂力が自然と渦巻き始め、一種の麻痺感が全身に広がった。
周囲の天地がゆらめき、一筋の魂の流れが眉心へと吸い込まれていく。
「う……」
その変化を感じて、蕭炎は驚きを隠せずに深呼吸した。
『斗破蒼穹!これほど恐ろしいものか』──完全な功法を持つようになったのか?遠古の時代に煉薬師が頂点まで上り詰めた理由も分かるし、これらの古代魂術の独自性は明らかだ。
「この完全な修練法を使えば、今後魂の修行が軌道に乗る。
運が良ければ数年で霊境中期まで到達できるかもしれない。
その頃には五色丹雷以上の薬を作ることも不可能ではない」
眉間に喜びを浮かべながら、蕭炎は太一魂決が与えた驚きに呆然としていた。
今になってようやく後悔した──なぜ早くから修練しなかったのか?魂の力が霊境中期まで到達していたかもしれないのに。
その悔しさも瞬きで消える。
得失相半ば、この間は魂の修行を怠けたものの、斗気の進歩は目覚ましい。
わずか二年足らずで斗聖から五星牛尊へ──その速度は全てを補い返すほどだった。
太一魂決の全容を頭に叩き込んだ後、満足げに笑みを浮かべた蕭炎が納戒に戻したのは束の間。
再び修練法を催促し続けた結果、数時間後に目を開いた時、彼は「予想外の効果」とつぶやいた。
掌を握ると赤い巻物が現れた。
斗聖遺跡で奪ったものだが、当時は大天造化掌と比べて価値を感じなかった。
しかし今では『地階上級の斗技・大地剛炎』という文字に興味が湧く。
「大地剛炎は特殊な振動を用いて自身の斗気を大地へ伝えることで極熱の気流を作り、相手立脚地点から噴射する。
火山帯では威力が増す」
内容を頭に入れた蕭炎は感心した。
「この『大地剛炎』は他の技とは違って静かに奇襲的な効果がある。
地形要件も異火を持つ自分なら問題ない」
「やはり斗聖の所蔵品だ。
凡庸ではない……」と褒め称え、彼は新たな課題を設定した──この技を修練する。
七日間が瞬く間に過ぎた。
その間蕭炎は太一魂決と大地剛炎に没頭し、理解も深まった。
閉目で苦修を続ける八日目に、ある気配が感知された。
「小医仙の……」
その広大な気配を感じて、定力を保つのがやっとだった。
蕭炎はため息を漏らした。
「まさかここまで強くなっていたのか……」
その待機期間中、彼は斗気の修練に没頭せず、代わりに霊魂の鍛錬に集中していた。
霊魂力の強さが薬師の等級と直結するためだ。
かつて蕭炎が霊境(りょうきょう)へ昇華した後は、斗気修練に忙殺され、霊魂への配慮を怠ってきた。
現在の八品薬師という称号は中州同年代では稀少だが、薬老から聞いた話で知ったように、その実力は薬族の若手トップ五に入る程度に過ぎない。
この事実は彼にとって相当なプレッシャーだった。
「私の現時点での薬師等級は八品初段の頂点だ」
静かな部屋の中で、蕭炎は眉をひそめて考えていた。
四色丹雷(たんらい)を引き起こす薬師が八品初段の頂点とされるのは一般的だが、彼が丹会で発生させた五色丹雷の最後の一色は不純だったため、自身を八品初段の頂点に位置付けていた。
八品層の丹薬を引き起こす丹雷の色数が一つ増えるごとに天と地ほどの差異があるという事実を理解していた。
「丹塔の三位トップクラスはその能力を持つだろうし、半聖となった薬老も同様だ。
だが彼らはいずれも『天境(てんきょう)』に達しているに過ぎない。
帝境(ていけい)という最終層はこの大陸には存在しない」
八品層の丹薬を引き起こす丹雷が五色以上発生する薬師は八品中段、さらに八色以上なら八品上位と呼ばれるが、そのような人物は丹塔にも数えるほどしかいない。
「私の魂は、やはり霊境初期の段階にあるはずだ。
しかし、単に魂の力だけを論じれば、他の霊境中期と互角に近い……」
眉根を寄せた蕭炎は、最近魂の修行をしていないせいで進展が遅れていることに気づいた。
今後も斗気と魂の力を均衡させる必要があると心に決めた。
掌を開くと、古びた皮紙で巻かれた巻物が現れる。
暗黄色の色調から年数を感じさせた。
慎重に展開すると文字はなく、蕭炎は眉頭を下げずに済んだ。
眉間から魂の力が広がり、ゆっくりと巻物全体を包み込んだ。
皮紙には無形の波紋が生じ、目に見えない情報流が次々と脳裡に流れ込んでくる。
「太一魂決……」
玄奥な文字が浮かび上がり、詳細に読むと、丹会優勝賞品として得た修魂術だった。
以前から研究はしていたものの正式修練はしていなかった。
古界への旅を控え、準備不足は危険だと考えたのだ。
薬老も調べたが評価は高く、遠古の遺物ゆえ現代とは異なる独自性があると指摘した。
彼の魂術と比べても劣らないという意見だった。
目を開けた蕭炎は「太一魂決」に深く感銘していた。
以前得た簡素な口伝と比較すれば格段に優れている。
「これなら過去の曖昧さが解決する……」
思考を巡らせると、以前の迷いが晴れやかに消えた。
眉心の魂力が自然と渦巻き始め、一種の麻痺感が全身に広がった。
周囲の天地がゆらめき、一筋の魂の流れが眉心へと吸い込まれていく。
「う……」
その変化を感じて、蕭炎は驚きを隠せずに深呼吸した。
『斗破蒼穹!これほど恐ろしいものか』──完全な功法を持つようになったのか?遠古の時代に煉薬師が頂点まで上り詰めた理由も分かるし、これらの古代魂術の独自性は明らかだ。
「この完全な修練法を使えば、今後魂の修行が軌道に乗る。
運が良ければ数年で霊境中期まで到達できるかもしれない。
その頃には五色丹雷以上の薬を作ることも不可能ではない」
眉間に喜びを浮かべながら、蕭炎は太一魂決が与えた驚きに呆然としていた。
今になってようやく後悔した──なぜ早くから修練しなかったのか?魂の力が霊境中期まで到達していたかもしれないのに。
その悔しさも瞬きで消える。
得失相半ば、この間は魂の修行を怠けたものの、斗気の進歩は目覚ましい。
わずか二年足らずで斗聖から五星牛尊へ──その速度は全てを補い返すほどだった。
太一魂決の全容を頭に叩き込んだ後、満足げに笑みを浮かべた蕭炎が納戒に戻したのは束の間。
再び修練法を催促し続けた結果、数時間後に目を開いた時、彼は「予想外の効果」とつぶやいた。
掌を握ると赤い巻物が現れた。
斗聖遺跡で奪ったものだが、当時は大天造化掌と比べて価値を感じなかった。
しかし今では『地階上級の斗技・大地剛炎』という文字に興味が湧く。
「大地剛炎は特殊な振動を用いて自身の斗気を大地へ伝えることで極熱の気流を作り、相手立脚地点から噴射する。
火山帯では威力が増す」
内容を頭に入れた蕭炎は感心した。
「この『大地剛炎』は他の技とは違って静かに奇襲的な効果がある。
地形要件も異火を持つ自分なら問題ない」
「やはり斗聖の所蔵品だ。
凡庸ではない……」と褒め称え、彼は新たな課題を設定した──この技を修練する。
七日間が瞬く間に過ぎた。
その間蕭炎は太一魂決と大地剛炎に没頭し、理解も深まった。
閉目で苦修を続ける八日目に、ある気配が感知された。
「小医仙の……」
その広大な気配を感じて、定力を保つのがやっとだった。
蕭炎はため息を漏らした。
「まさかここまで強くなっていたのか……」
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