闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,272 / 1,458
1300

第1318話 天墓開啓

しおりを挟む
青峰の上に、疾風のごとく駆け寄せる人影が現れた。

瞬きする間に蕭炎の前に立ちはだかり、その美しい目は心配で一杯だった。

「炎哥哥、大丈夫ですか?さっき……」

萧炎は笑みを浮かべて首を横に振り、薰(くん)の緊張した表情を見つめながら言った。

「うん、さっきあの人はお父様だよ。

古元族長さんね」

「やっぱり」薰は眉をひそめて言葉尻を震わせた。

长老たちが次々と現れた後、ついにその父親まで出てきたとは……。

「ふふ、古元族長さんは私たちのことを止めようとはしなかったみたいよ。

むしろ蕭族のことについて話していたみたい」

「ほんとに?私たちの関係は触れなかったの?」

薰は驚きを隠せない様子で目を見開いた。

萧炎は鼻をかいで突然薰の耳元に近づき、囁くように何かをささやいた。

その声が聞こえた瞬間、薰の頬は赤くなり、美しくも憤怒するような視線で蕭炎を睨んだが、その表情にはほっとした安堵が隠れていた。

古元は古族では非常に高位に位置しており、彼さえ反対すれば薰は本当に窮地に立たされるのだった。

「じゃあ帰ろうか、炎哥哥。

天墓の名簿にはもう載ってるからね。

あと二日で入れるわ」

薰が優しく蕭炎の手を引くと、彼女は笑みを浮かべて言った。

その言葉に耳を傾けた蕭炎の目元に喜色が浮かんだ。

心配していた古族の长老たちが何か理由をつけて天墓入りを阻むのではないかと思っていたが、薰の話では問題は解決済みだった。

「ありがとうね、炎哥哥」

掌で掌を優しく揉みながら、蕭炎は囁いた。

「お前の力があったんだよ。

今日古族に行ったのはきっとそのためだろ」

薰は微笑んで柔らかな腰をくねらせ、頬に赤みが残るまま萧炎の肩に寄り添った。

目を閉じて彼の温もりを深々と吸い込む。

抱きしめた美しい人形を見つめる蕭炎の胸中には安らぎが広がり、その細い腰を優しく包み込み、柔らかな黒髪に顔を埋めると、数日の疲れはどこかへ消えたようだった。

空虚な空間の上に古元の影がゆっくりと現れ、山頂で抱き合っている二人を見つめてため息をつく。

すると彼は身を翻すとまた姿を消した。

「炎哥哥……やはりお父様も手を焼いていたのか」

緑豊かな山々の中では一切の悩みが忘れ去られていた。

二日後には天墓が開くというのに、その間二人は穏やかに過ごしていた。

しかしこの静けさは長続きしなかった。

第三日の朝日に包まれた時、異様な空気が山々を包み込み、蕭炎たちもその中に取り込まれていった。

「今日は天墓が開く日だわ……」

竹藺の前に立つと、くんえりは隣にいるしょうえんに微笑んで言った。

「古聖山脈の奥深くにある天墓の場所は、古族の禁地として普段は立ち入らせない。

しかし天墓が開かれる時だけは開放される」

軽やかな風がくんえりの長い黒髪を揺らす。

彼女はしょうえんに笑みを浮かべながら説明し始めた。

「天墓の中には危険も存在する。

そこには無数の遠古の強者が埋葬されているが、彼らの魂は既に消滅している。

しかし天墓の地の不思議な力により、生前のエネルギーは彼ら以前の姿を形作っている。

これらのエネルギー体は非常に強い攻撃力を備えているだけでなく、かつての武技も知り得るため厄介だ」

「死んだ人間から生まれた生物か」しょうえんが考えるように尋ねた。

「生前の実力が非常に強く、天墓の不思議な力によりこのような現象が発生したのでしょう」

「天墓は三層に分かれています。

第一層には主に三星以下の斗尊級のエネルギー体が存在し、意識もなくさまよい歩いているため対処は容易です。

第二層では三星以上八星未満のエネルギー体がいて非常に厄介で、第三層には斗尊の頂点や生前斗聖級の強者も含まれています。

そのため第三層に進むのは危険すぎるので、十分な自信がない限り誰も挑まない」

「私の先祖しょうげんの墓は第三層にあるのでしょうか」しょうえんが尋ねた。

「そのようですね。

しかし古族の中でも第三層最深部に入る者はほとんどいないと聞きます」

「こんなに大変なのか……」しょうえんが眉をひそめた。

「第三層最深部だなんて、やはり苦労の多い作業です。

しかし困難であろうとも試さないわけにはいかない」

「山は峠を超えれば必ず道がある。

まずは天墓に入りましょう」

その考えが頭を駆け巡ると、しょうえんの心も安らぎを覚えた。

彼女とくんえりは天墓に関する情報をさらに尋ね始めた。

二人の会話が続く間、白い一角馬は山脈の奥深くへと進んでいった。

途中で他の六族や古族の強者たちと出会うこともあったが、彼らは互いに挨拶もせずに通り過ぎた。

しかし古族の人々はくんえりを見つけると遠くから礼を述べて去って行った。

約十分間の飛行後、一角馬は険しい山脈の群れで停止した。

ここには既に多くの人々が集まっていた。

しょうえんが目をやると、知っている顔もいくつか見えた。



視線が周囲の山々を巡り、蕭炎の瞳孔が突然収縮した。

その先端に三体の黒衣人物が虚空中に浮かんでいる。

彼らから漂う冷たい気配はゆっくりと広がり始める。

「魂崖……」

その三人を見た瞬間、蕭炎の目尻がわずかに引きつった。

袖の中の拳が徐々に握りしめられる。

「萧炎哥哥、注意してあの先頭の魂族の人を。

彼は魂崖という名前で、若い世代ではかなりの実力者らしいわ。

この度天墓に入ったのは間違いなく彼よ。

もし会ったら警戒が必要ね」

薰香が耳元で囁くように言った。

「うん、既に顔合わせ済みだ……」

蕭炎は小さく頷いた。

魂崖の強さを知っているからこそ、古妖のような伝承種族の天才たちと同レベルであることを確信していた。

「東方には雷族の人々がいるわ。

彼らのリーダーは邙天尺老先生だけど、彼は天墓に入らないみたいよ。

若い世代が多いのは、ここが良い修練場だからね」

薰香の指差す先に、額に薬葫の紋様を刻んだ人々が浮かんでいる。

「お?」

蕭炎の心臓が一瞬跳ねた。

その先頭人物は何かを感じ取ったように首を傾げ、視線を蕭炎に向ける。

その表情には明らかに敵意があった。

「東方の雷族の人々を見ると……」

萧炎も目尻を引きつらせた。

薬族の人々が自分に対して不満を持っているようだ。

「西側は石族の人たちよ。

彼らの血脈は極めて強力で、魔獣界の頂点種と匹敵するほどらしいわ」

蕭炎が視線を西に向けた先には灰色の肌を持つ人々がいる。

額には巨岩のような紋様があった。

「これらが天墓に入った人々よ。

古族以外は二名までね」

薰香が笑みながら説明した。

「了解」萧炎が頷くと、突然大地が激しく震えた。

古い力の息吹が虚空中から滲み出てきた。

その圧迫感に場内の全員が無意識に頭を垂れる。

「天墓が始まるわ」

薰香が静かに言った瞬間、天空に千丈規模の空間断層が開いた。

中央には銀色の光が広がり、百丈もの巨大な門が現れた。

その古びた雰囲気は圧倒的だった。

「これが天墓の門なのか……」

蕭炎が独り言のようにつぶやくと、薰香の声が響いた。

「轟!」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

処理中です...