闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,423 / 1,458
1400

第1475話 薫児との再会

しおりを挟む
蕭炎は驚きの表情を浮かべながら顔を上げると、遠方に空間が激しくゆらめいているのが目に飛び込んできた。

その揺れ動く空間からゆっくりと現れたのは三人の姿だ。

先頭に立つ人物は淡い青色の衣装をまとった美しい女性で、清麗な顔立ちに優しい笑みが浮かんでいる。

長い黒髪を薄緑の帯で束ねたその髪は滝のように垂れ落ち、細くしなやかな腰を包み込むように流れていた。

微風が吹きかかると髪が揺らめき、その姿は地上に降り立った神々しさすら感じさせる。

その圧倒的な美しさは長らく会えていなかった薫(くん)え以外にはあり得ない。

薫(くん)えの隣には古青陽という名の人物がいた。

古族の中で才能と血脈で薫(くん)えに次ぐ存在だが、もう一人は白髪の老者だった。

藍色の長袍をまとったその老者は穏やかな笑みを浮かべており、和やかな印象を与えるが、その表情からは鋭い気配を感じ取れるのは眼力の高い人だけだ。

薫(くん)えたちの突然の登場は周囲の視線を集め、ささやき声が広がった。

ここにいる人物や勢力は決して平凡なものではない。

古族という表面上では控えめだが実際には巨匠級の勢力を誇る存在を知っているのだ。

「やはり古族も来たか……」薫(くん)えたちが現れた瞬間、魂殿副殿主の眉がわずかに寄り添った。

彼は低い声でそうつぶやいた。

「浄蓮妖火は尋常ではない異火だ。

我が魂族ですらそれを求めているのに古族も同じだろう」魂殿殿主は三人を見回し、特に藍袍老者の姿に視線を留めた。

その目には驚きの色が一瞬だけ浮かんだ。

「古南海とは……まさか古族が彼を派遣したのか?」

魂殿殿主は笑みを浮かべながら空虚な空間を見上げた。

そこには何らかの存在を感じさせるような気がしていた。

「蕭炎兄貴、ようやく斗聖になったんだね……」薫(くん)えが清らかな声で囁いた。

その優しい微笑みを見て古青陽と藍袍老者は小さく首を振った。

古族では薫(くん)えほどまでに笑顔を見せる機会は少なかったからだ。

薫(くん)えの前には地上に倒れた蕭炎がいた。

彼の心の奥深くで押さえつけられていた思念が潮のように押し寄せてくる。

目の前の視線を無視して、彼は薫(くん)えの細い手を取り、優しく抱きしめた。



彼の現在の姿は真に成長した。

年齢も実力も、今の蕭炎が成し遂げたことを考えれば、薰(くん)は千年に一度の神品血脈を持つ古族の者であっても、彼を完全にふさわしい存在と呼ぶに値する。

確かに現在の後者は彼と同等の実力ではあるものの、その若さゆえの二星斗聖という称号は、古族のような遠古種族ですら軽視できないものだ。

つまり、今の蕭炎が古族から提親を申し込まれたとしても、誰もが「その資格がない」と言い放つことはない。

彼女は蕭炎に強く抱きしめられていた。

薰の美しい頬には優しい微笑みが浮かび、頬を萧炎の肩に押し当てながら、久々に会った懐かしい匂いを貪るように吸い取っていた。

三年もの間、彼女は古族から離れることができなかった。

神品血脈を持つ者が斗聖に達する前まで自由に移動することは許されず、そのために最大限の安全を確保するためにも、彼女は苦悩を耐え忍びながら全力で修練し続けた。

それはただ一つの目的——自分が自由を得られる境界に到達することだった。

「炎(やま)さん……」

薰が頬をわずかに傾け、蕭炎の横顔を見つめる。

唇の端がほんの少しだけ緩むと、清雅な表情に一瞬だけ妖艶さが滲み出てきた。

囁くような声で彼の耳許に届ける。

「これからは、私は自由になるわ。

ずっとあなたと一緒にいるわ」

古族のために幼い頃から蕭炎の家で育てられ、古族のために何度も別れを余儀なくされ、短時間の再会も束の間だった。

しかしやがてその日々は終わりを迎え、彼女はようやく自分の時間を自由に支配できるようになった——古族による厳格な監視から解放されるためだ。

その言葉に蕭炎は一瞬驚きを顕わにしたが、すぐに笑みで返す。

「……そうだね」

「おふたりさん、他人の存在を無視してないでしょうね?」

一側の古青陽(こせいよう)がため息混じりに口を開いた。

その言葉に薰は頬を染め、すぐさま平静を取り戻し、蕭炎の背後に立つ薬老(やくろう)へと敬礼の姿勢を見せた。

「この方こそが薬塵(やくちん)様でしょう」

「ふふ、小娘も我々は以前から知り合いだったんだよ。

ただ一度も正面から会ったことはなかったな」薬老は笑みを浮かべる。

薰は昔から蕭炎に潜伏していたことに気づいていたが、当時は彼の目的が分からないため警告を発したことがある。

しかし正式に顔を合わせるのはこれが初めてだった。

「薬塵様、過去のことなど気にしないでください」

その言葉に黄(おう)は申し訳なさそうに頷く。

当初は薬老が蕭炎に危害を加えるのではないかと疑っていたため、あまり礼儀正しくもなかったが、後に彼の助けがあったからこそ萧炎の道がより容易になったことを知ったのだ。



「ふーん、些細なことだよ。

私は蕭炎の師匠だし、この徒弟の嫁が少し胸襟を広げられないなんて、それこそおかしな話だわ」薬老は胡髭を撫でながら大笑いし、薰えもと頬に染まった羞恥の色を見つめると、その心臓部が軽く弾んだ。

彼は当然、薰えが古族の中でどのような立場にあるか知っている。

そんな地位を持つ徒弟の嫁を持ち得るなど、言ってみれば誇らしいことこの上なし。

蕭炎が笑いを含めて紫研を紹介すると、彼女と薰えは非常に早くから知り合っていた。

かつてカナン学院で会った頃には、一方がまだ学院生だった少女で、もう一方は遊び専門の小娘だったが、薰えが去った後は様々な事情で再会する機会も少なく、今やそれぞれ大陸最頂点級の実力を持つまでに成長していた。

「炎哥哥、この方は古族の古南海長老です。

今回は浄蓮妖火を探しに出てきたんです」薰えが藍袍の老人を指して微笑みながら説明した。

「古族も浄蓮妖火に関心があるのか?」

蕭炎はその藍袍老人を見つめ、内心警戒の色を浮かべた。

この人物からは魂殿主華ほどではないものの紫研より遥かに強大な存在感が伝わってくる。

やはり遠古種族には底知れぬ深みがあった。

「関心があるわけじゃない。

その火は天下でも数人しか制御できないものだ。

それが魂族の手に落ちなければそれでいいんだよ」藍袍老人は笑いながら、特に年上ぶるような態度を取らず、同年代の人間と話しているように平易な口調で続けた。

「浄蓮妖火も過去に出世したことはあるが、結局制御されることはなかった。

この空間封印は浄蓮妖聖が設けたもので非常に巧妙だ。

浄蓮妖火が一時的に破壊しても、その間隙を狙って天地のエネルギーを取り込んで自動修復し続けるからね」薰えが笑みながら説明した。

「魂族も浄蓮妖火に虎視眈々と狙っているんだよ。

彼らはいつも準備万端だ。

今回はどうするつもりだろうか」

「彼らは動かないのか?」

蕭炎が魂殿の三人を見やり、尋ねた。

「待機しているんだろう。

浄蓮妖火が封印を破壊しエネルギーを消耗させるのを待っているんだよ」薰えが黒い瞳を持つ男に目をやり眉根を寄せながら囁いた。

「炎哥哥はその人には気をつけないと。

この男は魂風と名乗る。

魂族では狂人呼ばれている。

彼の天賦は驚異的で、魂族の神品血脈も持っている。

以前見たあの魂玉とは比べ物にならないほど強いらしい。

我々の情報によれば、特に大きな意外がなければ次代の魂族族長になるはずだ……」

「それから、越級戦闘に長けているんだよ。

彼は修行を始めた以来、自分のレベルより低い相手と戦うことはほとんどない。

そしてその手は冷酷無情で、同門内の試合でも必ず死傷者が出る。

時間の経過と共に同輩からは避けるようになり、今や魂族の長老たちも相当警戒しているんだよ。

彼と戦ったら特に注意が必要だ」

蕭炎が眉をひそめながらその男を見やり、ゆっくり頷いた。

「次代の魂族族長という名前は恐ろしいものだが、もし実際に戦うことになったら勝算はどれくらいだろうか?」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...