道诡异仙

きりしま つかさ

文字の大きさ
229 / 809
0200

第0230話 宝禄の秘密

しおりを挟む
「中は危険だ。

お前たちには来させない。

一人で行くだけだ」李火旺が白灵淼たちに背を向けたまま言った。

すると彼はひとりで洞内へと向かった。

しかし今度は他の者たちが不満を募らせていた。

狗娃が口を開いた。

「李師兄、それでは困る。

何か問題があれば我々も手伝えるかもしれない」

李火旺はその貧弱な体格を見下ろし不機嫌に言った。

「お前には何の役にも立たないだろう。

一緒に行けば私がお前に気を遣わねばならぬのだ」

狗娃は頭を垂せて言い訳した。

「どうしてそんな風に言うのか?私は一生懸命練習しているんだよ。

それに万一師兄が暴れだしたら、縛る手伝いぐらいはできるかもしれない」

「李師兄、狗娃は役立たないが我々なら使える。

行くのは構わないが必ず一緒に行くことだ」白灵淼の表情が珍しく真剣になった。

鞭と鼓をそれぞれ片手で持っている。

彼女はいつも弱々しいように見えるが外見とは裏腹に芯がある人物だった。

高智堅も同時に前に出てきた。

無口な大男だが拳を握ったその姿勢から決意が読み取れた。

「李師兄、黒太歳が貴方の癔症を治すなら我々は喜んで手伝う。

人数が多い方が安全だ。

それに狗娃とは違うんだ」道鈴を持つ春小满が理にかなった説明をした。

彼らの真剣な表情を見た李火旺は胸中でほっとした。

「よし、気をつけよう。

何かおかしいことがあればすぐに撤退する」

そう言うと彼は一同と共に洞内へ向かったが、今度も孫宝禄がその行く手を阻んだ。

「終わらないのか?どいてくれ」李火旺の表情が険しくなった。

興奮した孫宝禄の双眸が揺らいだ。

彼はそこに立ちながら震える手でズボンのウエストを緩め始めた。

「李師兄、私は中に入ったことがあるんだ!貴方が私みたいに乱れても構わないなら!それから決して阻まらない!!」

「李師兄、あなたは以前『皆が奇妙なのにどうして私が隠す必要があるのか』と訊ねたでしょう。

それは私が皆とは違うからだ!皆は人間でも私は完全に怪物なんだ!」

上衣の角を外した瞬間、李火旺は彼の首元に拇指大の小さな凹みを見つけた。

「あれは……?どうしてお腹のボタンみたいなのかな?いや、あれは確かに肚脐だ。

しかし孫宝禄の肚脐がなぜ首の下にあるのか」

すると孫宝禄はズボンを脱ぎながらそのまま李火旺にさらし物のように見せつけた。

「バチッ」と春小满と白灵淼以外は息を吞んだ。

「老孙、お前……一体どうなっているんだ?」

狗娃が目を見開いた。

孫宝禄の衣服の中の身体を見るや、李火旺はようやくなぜ彼がトイレや風呂で隠れていたのか理解した。

孫宝禄の体は完全に乱れ放題だったのだ。

器官が勝手に生えているように見えた。



ふと、肛門が腹部の位置に移動していた。

逆に肚脐は首元へと変異し、毛髪も本来あるべき場所から逸脱して乱暴に生えている。

彼の身体は子供が捏ねた粘土で作った粗末な人形のように歪んでいた。

彼らの驚愕の表情を目にした孫宝禄(そんぼり)は、羞恥と悲しみが胸中に重なり合うのを感じていた。

自身の欠陥が他人に発見される夢を何度も見てきたため、ずっと隠し続けていたのに、結局は自ら彼らの前にさらけ出してしまうことになった。

李火旺(りかわん)が肩をすくめながら近づいてきて、彼のズボンを引き上げて着せてくれた。

その時、李火旺が耳元で囁いたように尋ねた。

「一体どうしたんだ?」

「洞穴の中で何か触れたからこうなったんだ。

暗すぎて何だったか分からないけど、大きな毛刷のような感触だった」

過去の出来事を振り返ると、孫宝禄は恐怖に顔を引きつらせ、震える手で肩を抱きしめた。

「その日もまだ七歳だった。

羊が迷い込んだから放牧させてもらったんだ。

大人たちは危険だと警告していたけど、他の四人も一緒だったので、五人中一人だけ生きて帰れた」

そう言うと、孫宝禄は再び李火旺を見つめた。

「李師兄(りしょう)さん、命を救ってくれて家に送ってもらった。

あなたには恩返しがしたいんだ。

でも私は見過ごせないよ! あなたが危険な目に遭うのを」

ここまで来ても孫宝禄は諫めるつもりだった。

李火旺がため息をついた。

彼の心配を感じ取っていた。

「知ってるか? あの洞穴には『黒太歳(こくたいさい)』がいるかもしれない。

今の私にとってそれは死ぬほどの存在なんだ」

平静な口調で自身の理由を説明し始めた。

「だから私は入らなければならない。

そうでないと、幻覚に追い詰められて狂ってしまう。

それが私の唯一の薬なんだ」

「あなたは私のためにここまでしてくれたのに、本当に感謝してるよ。

でも宝禄さん、相手が本当に助かりたいと思うなら、強制するんじゃなくて、相手自身が選べるようにしてあげるべきだ」

「それから、情報をありがとう。

とても役に立った」

李火旺が肩を叩いてから、杖をついて洞穴へと向かう。

その目には決然とした光があった。

他の人々も互いに視線を合わせてから、次々と進み始めた。

孫宝禄は彼らの姿が暗闇の中へ消えていくのを見守りながら、震える足を必死に抑えた。

「どうしても行くなら私も一緒に行く! 私は以前ここに来たことがあるから道案内できる」

数人が蛍光石を持って次々と円形の洞穴に入ると、周囲が一気に静寂に包まれた。

青丘の風や空の温かい日差しも同時に消えていった。

李火旺が息を吐くと、白い霧が彼の口から噴き出した。

「宝禄さん、ここはいつもこんな寒さなの?」

その声で精神を張り詰めていた孫宝禄は驚いて頷いた。

「そうだ。

前回も同じだった。

でも奥へ行くほど暖かくなるんだよ」

そう言いながら先頭に立つと、周囲の者たちが武器を握って固まった。

洞内は静寂で、彼らの足音以外には何も聞こえない。

溶岩洞ではなく何か別の種類の洞窟らしく、入口から下へ傾きつつあり、地表から離れるにつれ深く進んでいた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

白き魔女と黄金の林檎

みみぞう
ファンタジー
【カクヨム・エブリスタで特集していただきました。カクヨムで先行完結】 https://kakuyomu.jp/works/16816927860645480806 「”火の魔女”を一週間以内に駆逐せよ」 それが審問官見習いアルヴィンに下された、最初の使命だった。 人の世に災いをもたらす魔女と、駆逐する使命を帯びた審問官。 連続殺焼事件を解決できなきれば、破門である。 先輩審問官達が、半年かかって解決できなかった事件を、果たして駆け出しの彼が解決できるのか―― 悪しき魔女との戦いの中で、彼はやがて教会に蠢く闇と対峙する……! 不死をめぐる、ダークファンタジー! ※カクヨム・エブリスタ・なろうにも投稿しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...