国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0034話「電話をかける」

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羊の四分の一しか食べない部屋で、誰もが少なくとも一台の盗まれた電動自転車について語っていた。

自分自身か、あるいは身近な誰かの話だ。

年間平均に換算すれば珍しいことではないが、自転車全盛時代はそれよりも多くの自転車が失われていた。

しかし総数が多いのは変わらない。

「うちのマンションの防犯カメラには盗まれる過程を撮影しているのか?」

江遠は羊肉を食べながら少し真剣に尋ねた。

「撮影されているよ。

通報したけど犯人が見つからないんだ。

ところで君、顔認識ソフトで探してもらえるかな?」

下の洗車場経営者である江永新は若いせいかすぐに新しい技術を思い浮かべたようだ。

江遠は呆然と答えた。

「知らないわ。

警備課には見たことない」

「うちの県の設備もあまり良くないんだよ」江永新が肩を落とした。

「市だって顔認識はないわ。

国内の駅や空港では数十万人規模の人が行き交うから、いつまでたっても実現しないんじゃない?」

「でも国外はやってるのに、うちの国は歩行者検出システムを作ってるんだよ」江永新が信じられない様子で言った。

「うちの国は歩き方認識をやっているけど……それもないわ。

あるとしても電動自転車捜査には使えないわ」

警察にとって、電動自転車窃盗事件を解決するのは普通の窃盗より少し難しい。

なぜなら電動自転車は犯人が乗って逃げる移動手段であり、一般的な犯罪物証よりも取り扱いが簡単だからだ。

また実行から現場離脱までの時間も短く、十分に注意すれば捕まらないことも多い。

たとえ犯人を捕まえたとしても、証拠の固定や被告人への起訴は難しいものだった。

事実上ほとんどの普通窃盗事件では、通報後何も進展しない。

派出所の警察官自身がスマホをなくした場合も新しいのを買って使うだけだから明らかだ。

さらに言えば一般人と警察の対応にも違いがあった。

一般人は被害回復を最優先し、できれば犯人を懲らしめたいと考えるため、最初に求めるのは失物の回収で、次に犯人の発見だ。

しかし警察が事件を解決する際にはまず証拠の固定、次に犯人捜索、三つ目に起訴、そして最後に被害回収という順番になる。

重大犯罪や殺人事件なら最初の目標である証拠固定さえ達成できれば仕事として合格と見なされる。

犯人が逃亡した場合でも追跡を続けるが、逮捕できないのは仕方ない。

しかし窃盗事件の場合、最初の三つの目標(証拠固定・犯人逮捕・起訴)を同時に達成しない限りは仕事を完了したことにはならない。

被害者も警察も不満だし、たとえ一、二日で終わらせたとしても無駄な労力だったに過ぎない。

窃盗事件では警察が最初の三つの目標を同時達成しても、最低限の期待値である失物回収には届かない。



警力不足の地方都市では、窃盗事件などは常に低優先度案件として扱われる。

通常は一定期間内に類似犯行が連続して発生しない限り積極的な捜査も行われない。

特に最近殺人や重大犯罪が発生していない限りはなおさらのことだ。

現場検証を依頼する際には指紋採取の順番待ち、現地調査の人員不足、動画監視カメラの解析作業全て自ら行う必要がある。

しかもそのどれもが最下位優先度で処理されるのが常だ。

「よし、この電動車両盗難事件の指紋照合を急いでくれないか」などと要求しても無駄だろう。

指紋鑑定の専門家は殺人や強盗未遂などの重大案件に忙しく取り組んでいるのだ。

あなたが現行犯で発生した電動車両盗難事件の指紋照合を依頼するなど、優先順位を上げる理由がない。

幸いなことに江遠は自ら指紋鑑定も現場検証もできる。

電動車両盗難という犯罪そのものが、知能や忍耐力を要求しないからこそ、彼のような頭脳明晰で慎重かつ実行力のある人物が関わるはずがない。

「いずれかのタイミングで手伝ってもらうよう頼んでみよう」江遠は控えめに述べた。

しかし親戚縁者を助けること自体は喜ばしいことだ。

法医学者として若い立場ながらも、常に危険な仕事をするよりは地域貢献が良いと考えているのかもしれない。

部屋の中では皆が盛り上がっていた。

特に花さん(※原文の「花婶」を女性名で表現)はさらに賛美した。

「公務員になったからこそ役に立つんだよ。

うちの俊業は働かせないし、公務員試験も受けさせないし、結婚もさせてくれない……」

江遠が花さんの高揚した様子を見ながら注意を促す。

「おばさん、前年盗まれた電動車両を探すのは無理ですよ。

もう二年以上経過しているんですから」

「大丈夫よ、私は金に困ってないんだから」花さんは余裕そうに手を振り、「見つからないとは限らないわ。

犯罪者は一生続けられるものじゃないでしょう?少なくとも家が取り壊されたりしない限りは、手を休めることもできないはずよ」

江遠は花さんの意見に部分的に同意しつつも、その前提には問題があると感じていた。

江永新(※原文の「江永新三」を日本語読みで表記)は肋骨ステーキをあっという間に食べ終え、口を拭きながらさらに積極的に提案した。

「江遠、私が管理会社に連絡して動画を調査するよ。

あなたは人を呼んで」

彼が今年盗まれた二台の電動車両を探すためだ。

さらに自身が自動車洗車店と部品販売店を経営していることも関係していた。

これらの業種は窃盗事件や周辺治安状況に直結するからこそ、彼も不満を感じていた。

江遠が外の空を見上げながら言った。

「時間帯はいつでもいいよ。

とにかく電話で連絡する」

頭の中では魏振国(※原文の「魏振国」を日本語読みで表記)を呼び出していた。

電話も彼にかけた。

六中隊は侵奪犯罪に関する専門部署であり、江遠が所属する法医学者チームとは異なる組織だ。

数時間前に現場から離れたばかりの魏振国はまだ放火事件の未解決部分があると思いながら電話を取った。

「江法医、何か用ですか?」

江遠の顔に笑みが浮かんだ。

「魏隊長、あなたが『何か手伝いたいなら連絡して』とおっしゃっていたので……」

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